If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

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邀撃 比島方面迎撃戦

西村艦隊の必死

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1945年2月14日午前3時10分。
スリガオ海峡の闇は、米軍駆逐艦の魚雷発射音を吸い込むように重く沈黙していた。
丁字戦法の巨大な罠の最前線に展開していた米駆逐艦の第一波が
西村部隊の単縦陣へ向けて、冷徹な魚雷攻撃を開始した。

西村艦隊の先頭を行くのは、戦艦「扶桑」。その巨大で無防備な艦体に対し
米駆逐艦から放たれた数十本の魚雷が、白い航跡を夜の海に刻みながら、目標へと突進した。

「右舷魚雷!避けられません!」

「扶扶桑」の艦橋から、悲痛な叫びが発せられた。
艦長が全速右舵を命じるも時既に遅く、魚雷の群れが艦首と中央部に連続して命中した。

ドォン!ドォォン!

巨大な衝撃波が艦体を突き上げる。旧式戦艦の分厚い装甲も無意味であった。直後、「扶桑」は電気系統がやられたかのように、艦内の灯火が一瞬で消えた。
対空砲の轟音も、主砲の重々しい存在感も消滅し
「扶桑」は海峡の闇に沈黙した。航行不能。
戦闘能力を失ったその巨体は、ただ、漂流を始めた。

米軍にとっての第一のターゲットは、一瞬で無力化された。


「扶桑」の悲劇は、沈黙では終わらなかった。

最初の被雷から数分後、艦体中央部で凄まじい爆発が発生した。
魚雷の衝撃が三番砲塔の弾薬庫を誘爆させたのだ。

ドゴォオオオン!!

轟音は海峡全体に響き渡り、火柱は夜空を赤く染め上げた。
「扶桑」の船体は、巨大な鉄の塊でありながら、その力に耐えきれず
中央から真っ二つにへし折られた。艦首と艦尾が分断され、炎上しながら海面を漂い始める。

後続していた重巡洋艦「最上」は、眼前の光景に戦慄しながらも
辛うじて爆発を避けた

西村中将は、艦隊の先頭に巨大な旗艦である戦艦が一隻
突如として消滅したという事実を知らぬまま、なおも、海峡の闇を見つめていた。
作戦開始前から抱え続けた、日本艦隊の指揮系統の混乱と情報不徹底は
この海峡で最初の犠牲者を生み出し、致命的な局面へと事態を悪化させていた。

「扶桑」の沈黙と炎上が、西村部隊に回避行動を促した。

3時13分。西村中将から指揮を受け取った最上艦長は第二波の雷撃を察知し、艦隊に右回頭を命じる。
「最上」は、その巨体を懸命に動かし、魚雷の航跡を辛うじて避けた。

しかし、米軍駆逐艦は獲物を逃がさない。
3時20分、駆逐艦の第三波が側面から猛烈な雷撃を仕掛けた。

駆逐艦の「山雲」「満潮」「朝雲」がこの集中攻撃を受けることとなった。

「山雲」は、複数の魚雷を艦橋付近と中央部に被雷。
魚雷の衝撃と弾薬の誘爆により、船体は瞬時に吹き飛び
艦橋の乗員は悲鳴を上げる間もなく轟沈した。「山雲」の総員は戦死。
海峡に黒い煙だけを残して、一隻の駆逐艦が消滅した。

続く「満潮」も魚雷を被雷し、船体を大破。機関を停止させ、航行不能に陥った。
乗員たちは必死に消火と応急処置を試みるも浸水は止まらず、程なくして海峡の闇へと沈没していった。

「朝雲」もまた被雷し大破したが、乗員たちの奮闘により
機関の一部が微速ながら稼働可能となった。艦長は死地からの脱出を決意し
損傷した艦体を引きずりながら、敵へと背を向け、後退を開始した。


駆逐艦隊の玉砕的な犠牲は、本隊へと及んだ。

雷撃第三波は、駆逐艦だけでなく
西村艦隊の視界は依然として、煙と火災の光により遮られていた。
彼は艦隊の壊滅的な損害を正確に把握できないまま、
戦力が「最上」「時雨」の三隻に激減したという事実を知る。
最上副長は撤退するべきと伝えたが艦長の決意は硬かった。

「撤退は許さん!我々の任務はレイテ湾への突入だ!前進!」

西村部隊は、旗艦が被雷し、護衛の駆逐艦を
ほとんど失ったという絶望的な状況にも関わらず
なおも、海峡の奥に待ち構える、オルテンドルフ艦隊の丁字の罠へと北上を続行した。
艦隊の頭の中には、「扶桑」が既に海の藻屑となったという情報は無かった。
彼の視界には、ただ、「レイテ湾突入」という絶対的な使命のみが映っていた。

彼らの進撃は、もはや、戦術的な判断ではなく
個々の将兵の意地と使命感に支えられた、悲壮な突撃と化していた。

「扶桑」の直後を航行していた重巡洋艦「最上」も
米戦艦群の集中砲火を浴びていた。

03時50分頃に被弾し、3番砲塔と中央部で火災が発生。
さらに、04時02分、致命的な直撃弾が艦橋を襲った。
艦長を含む、艦橋にいた幹部の多くが戦死。「最上」は一瞬にして指揮官を失った。

指揮不能の危機的状況で、奇跡的に生き残ったのは
射撃指揮所にいた砲術長と、艦橋で倒れていた信号員の数名であった。

信号員が咄嗟に、操舵輪を取り、艦の針路を変更。
砲術長が臨時の指揮を執り、「山城」の最期を見届けることなく
全速力で南への避退を開始した。「最上」は炎上し大破しながらも、戦場を離脱した。


西村艦隊で、戦闘能力を維持していたのは、駆逐艦「時雨」の一隻だけであった。

「時雨」は、米艦隊の砲撃の閃光と、海面に連続して立つ
巨大な水柱の合間に翻弄され、敵の正確な位置すら知ることができなかった。
四方八方から飛来する砲弾の嵐を受け
「時雨」にも一発の砲弾が命中したが、幸運にもそれは不発であった。

単独での戦闘継続が不可能と判断した「時雨」の艦長は
やむなく、南への後退を開始した。

西村部隊の生き残りである「最上」と「時雨」が退避できたのは
偶然の幸運によるものであった。

米艦隊は、西村部隊の殲滅に集中するあまり
自軍の駆逐艦が誤射を受け大破するという事故を起こした。
オルテンドルフ艦隊は砲撃を一時中断。この僅かな時間が
「最上」と「時雨」が死の海峡から脱出する唯一の機会を与えたのである。


「山城」が炎上し沈没した直後、海峡の南側から
志摩清英中将の第二遊撃部隊が戦闘海域へと到着した。

午前4時過ぎ。海峡の入口付近で、軽巡「阿武隈」が
米魚雷艇の奇襲攻撃を受け被雷。
速度を落とした「阿武隈」を残し
、「那智」を旗艦とする志摩艦隊は進撃を続ける。

彼らが戦場で目撃したのは、二つに折れて炎上する「扶桑」の残骸と
遠方で閃光を放つ米艦隊の大砲撃、そして煙と炎であった。

志摩長官は電探による索敵を命じ
魚雷を発射したが、これは島影を誤認したもので成果はなかった。

そして4時30分。決定的な事故が発生した。

第二遊撃部隊旗艦「那智」と、南下して避退中の重巡「最上」が衝突したのだ。
「那智」側が、微速で撤退中の「最上」を停止と
誤認したことによるものであった。「那智」は艦首を中破し速力も低下。

この混乱と悲惨な状況を把握した志摩長官は、これ以上の突入は無意味と判断。
4時49分付で、全隊に対し、「第2戦隊全滅 最上大破炎上」という
衝撃的な通報を発令し、戦場離脱を決意した。

西村部隊の玉砕と、志摩部隊の撤退により、スリガオ海峡の戦いは終結した。
丁字戦法という完璧な罠、そして情報の壁が、日本海軍艦隊を壊滅させたのである。
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