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邀撃 比島方面迎撃戦
サンベルナルジノ海峡突破
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1945年2月14日、午前0時30分。
サマール島とルソン島を隔てるサンベルナルジノ海峡は
栗田健男中将率いる第一遊撃部隊(栗田艦隊)の重々しい艦影を
静かに、しかし確実に吐き出しつつあった。
前日、シブヤン海での米空母艦載機による激しい空襲と
栗田長官の一時的な反転命令という混乱を経て、艦隊は海峡を西へ引き返し
再度、東へと針路を取った。栗田長官の胸中には
「突入命令」の絶対的な重みと、戦局を左右する「大いなる賭け」への覚悟があった。
戦艦「大和」を旗艦とする世界最大の水上打撃部隊は
闇と潮流の中、海峡の狭い水道を見事に通過し、広大なフィリピン東海上
太平洋へと姿を現した。艦隊は戦艦「大和」「長門」「霧島」「榛名」
重巡洋艦「鳥海」「摩耶」「鈴谷」「熊野」「筑摩」「利根」
そして、水雷戦隊という、度重なる空襲で傷つきながらもなお、強大な戦力を維持していた。
海峡を抜けた安堵も束の間、艦隊はすぐさま、戦闘態勢の再構築に取り掛かった。
夜間の警戒態勢は**「対潜警戒序列」であったが、夜明けを控え
彼らが最も恐れるのは米空母からの攻撃である。
重巡や駆逐艦を外周に配置する「対空輪形陣」へと隊列を組み直す必要があった。
「総員、対空戦闘序列へ移行開始!」
「大和」の艦橋から号令が飛び交う。艦隊は夜闇の中、重い艦体を軋ませながら
相互に位置を調整し、日中の決戦に備える。
全ては夜明けに来るであろう米機動部隊との遭遇を想定した、ギリギリの準備であった。
栗田艦隊が海峡を抜けたその直後
事態は太平洋側の米海軍にとって「信じられない」形で展開していた。
遥か上空を哨戒していた米空母「インディペンデンス」所属の夜間索敵機が
海峡の周辺を飛行していた。パイロットは以前からこの海域を監視しており
通常は消灯しているはずのサンベルナルジノ海峡の灯台が、微かに点灯していることを発見した。
灯台の光は、栗田艦隊が海峡を通過する際に
航行の助けとして短時間だけ点けられたものだった可能性が高い。
この「点灯」は、栗田艦隊の通過を示唆する、非常に重要な手がかりであった。
索敵機は即座にハルゼー大将の第三艦隊へとこの情報を通報した。
しかし、ハルゼー大将は、この「小さな光」を、全く問題視しなかった。
彼の頭の中は、北のルソン島沖へ誘い出した
日本の囮空母部隊(小沢艦隊)を叩くという「大漁」の確信で満たされていた。
ハルゼーは、前日の栗田艦隊の一時的な「反転」行動を根拠に
栗田艦隊は既に作戦を放棄し、サンベルナルジノ海峡を
再び「西へ反転」して、退却したものと確信していた。
「灯台が点いた?それは、逃げを打った栗田が海峡を出た後
退却のために点けたか、あるいは、日本軍の後衛艦が通過した際に
点灯させたのだろう。栗田の主力は既に西へ去った」
ハルゼーの過信と誤解は、米海軍の歴史に残る「大失態」の引き金となった。
世界で最も強力な機動部隊を擁するハルゼー艦隊は
わずかな灯台の光を見逃し、栗田艦隊が迫る戦場から遠く、北へと離れていくこととなる。
この「情報の見落とし」こそが、この後のサマール沖海戦の展開を決定づけた。
栗田艦隊が東海上を進むにつれ、空は重いスコールに覆われた。
熱帯の激しい雨が海面を叩きつけ、視界は極端に悪化した。
艦隊はスコールの中を進みながら、対空輪形陣への隊列の調整を急いだ。
艦隊の乗組員たちの間には、疲労と激しい緊張が漂っていた。
前夜、スリガオ海峡で西村祥治中将の第二戦隊が玉砕したという事実は
断片的ながら栗田艦隊の一部にも伝わっていた。「山城」「扶桑」という巨艦が
米軍の丁字戦法の餌食となったという報は、将兵たちの背筋に冷たいものを走らせた。
「大和」の艦橋。栗田長官は双眼鏡で闇の先を見つめていた。
彼の周囲には、作戦の重圧からくる、重い沈黙があった。
「提督、間もなく夜明けです
スコールが明け次第、対空戦闘用意に移行します」
栗田長官は頷きながら、心の中で反芻していた。自らが負った
「レイテ湾突入」という使命。この使命のために、西村部隊は命を投げ出した。
艦隊の中心は巨大な戦艦と重巡洋艦で構成された水上打撃部隊であり
彼らの本来の任務は砲撃による敵艦隊の撃滅である。
「ハルゼーは、我々の存在を見失っているはずだ。夜明けとともに
我々はレイテ湾へと突入する途上で
必ずや敵の上陸支援にあたる空母、あるいは、輸送船団を発見するだろう」
栗田長官は、夜明けの先に巨大な米機動部隊が待ち構えている可能性を覚悟しつつも
それを打ち破ってでもレイテ湾に突入し
作戦を完遂させるという、使命感に突き動かされていた。
スコールの音だけが響く。夜明けまであとわずか。
艦隊は夜間の警戒から日中の戦闘へと、その全てを研ぎ澄ましていた。
彼らが遭遇する運命にある敵が、ハルゼーの主力空母ではなく
「タフィ3」と呼ばれる護衛空母であることを、この時点で知る者は誰もいなかった。
対空輪形陣への移行は、夜間の闇とスコールの影響で困難を極めた。
巨大な戦艦と重巡が速度と位置を調整し、護衛の駆逐艦が外側を固める。
重巡洋艦「利根」の艦橋では、将兵が双眼鏡を覗きながら周囲の艦影を確認していた。
「戦艦は全て、所定の位置につきました。
しかし、長官は我々に何を求めているのか
…昨日の反転は、兵の士気に響いています」
「何を求めているかだと?長官の胸中など、我々に知る由はない。
ただ、レイテ湾への突入が全軍の
命運を握ることは確かだ。西村の仇も取らねばならん」
「西村」の名が出た瞬間、艦橋に重い空気が流れた。スリガオの惨劇は
艦隊に**「もはや後がない」という覚悟を強いていた。栗田艦隊は
日本海軍の最後の切り札として、その重責を全て背負っていた。
「大和」の主砲、46センチの巨砲が、重々しく、東の空を向いていた。
夜明けとともに、その巨砲が火を吹く時が来る。この作戦の最終段階が迫っていた。
スコールが徐々に弱まり、東の水平線が僅かに白み始めている。
この夜明けが、彼らの運命を決定づける
血塗られた一日の始まりとなることを、彼らはまだ知る由もなかった。
サマール島とルソン島を隔てるサンベルナルジノ海峡は
栗田健男中将率いる第一遊撃部隊(栗田艦隊)の重々しい艦影を
静かに、しかし確実に吐き出しつつあった。
前日、シブヤン海での米空母艦載機による激しい空襲と
栗田長官の一時的な反転命令という混乱を経て、艦隊は海峡を西へ引き返し
再度、東へと針路を取った。栗田長官の胸中には
「突入命令」の絶対的な重みと、戦局を左右する「大いなる賭け」への覚悟があった。
戦艦「大和」を旗艦とする世界最大の水上打撃部隊は
闇と潮流の中、海峡の狭い水道を見事に通過し、広大なフィリピン東海上
太平洋へと姿を現した。艦隊は戦艦「大和」「長門」「霧島」「榛名」
重巡洋艦「鳥海」「摩耶」「鈴谷」「熊野」「筑摩」「利根」
そして、水雷戦隊という、度重なる空襲で傷つきながらもなお、強大な戦力を維持していた。
海峡を抜けた安堵も束の間、艦隊はすぐさま、戦闘態勢の再構築に取り掛かった。
夜間の警戒態勢は**「対潜警戒序列」であったが、夜明けを控え
彼らが最も恐れるのは米空母からの攻撃である。
重巡や駆逐艦を外周に配置する「対空輪形陣」へと隊列を組み直す必要があった。
「総員、対空戦闘序列へ移行開始!」
「大和」の艦橋から号令が飛び交う。艦隊は夜闇の中、重い艦体を軋ませながら
相互に位置を調整し、日中の決戦に備える。
全ては夜明けに来るであろう米機動部隊との遭遇を想定した、ギリギリの準備であった。
栗田艦隊が海峡を抜けたその直後
事態は太平洋側の米海軍にとって「信じられない」形で展開していた。
遥か上空を哨戒していた米空母「インディペンデンス」所属の夜間索敵機が
海峡の周辺を飛行していた。パイロットは以前からこの海域を監視しており
通常は消灯しているはずのサンベルナルジノ海峡の灯台が、微かに点灯していることを発見した。
灯台の光は、栗田艦隊が海峡を通過する際に
航行の助けとして短時間だけ点けられたものだった可能性が高い。
この「点灯」は、栗田艦隊の通過を示唆する、非常に重要な手がかりであった。
索敵機は即座にハルゼー大将の第三艦隊へとこの情報を通報した。
しかし、ハルゼー大将は、この「小さな光」を、全く問題視しなかった。
彼の頭の中は、北のルソン島沖へ誘い出した
日本の囮空母部隊(小沢艦隊)を叩くという「大漁」の確信で満たされていた。
ハルゼーは、前日の栗田艦隊の一時的な「反転」行動を根拠に
栗田艦隊は既に作戦を放棄し、サンベルナルジノ海峡を
再び「西へ反転」して、退却したものと確信していた。
「灯台が点いた?それは、逃げを打った栗田が海峡を出た後
退却のために点けたか、あるいは、日本軍の後衛艦が通過した際に
点灯させたのだろう。栗田の主力は既に西へ去った」
ハルゼーの過信と誤解は、米海軍の歴史に残る「大失態」の引き金となった。
世界で最も強力な機動部隊を擁するハルゼー艦隊は
わずかな灯台の光を見逃し、栗田艦隊が迫る戦場から遠く、北へと離れていくこととなる。
この「情報の見落とし」こそが、この後のサマール沖海戦の展開を決定づけた。
栗田艦隊が東海上を進むにつれ、空は重いスコールに覆われた。
熱帯の激しい雨が海面を叩きつけ、視界は極端に悪化した。
艦隊はスコールの中を進みながら、対空輪形陣への隊列の調整を急いだ。
艦隊の乗組員たちの間には、疲労と激しい緊張が漂っていた。
前夜、スリガオ海峡で西村祥治中将の第二戦隊が玉砕したという事実は
断片的ながら栗田艦隊の一部にも伝わっていた。「山城」「扶桑」という巨艦が
米軍の丁字戦法の餌食となったという報は、将兵たちの背筋に冷たいものを走らせた。
「大和」の艦橋。栗田長官は双眼鏡で闇の先を見つめていた。
彼の周囲には、作戦の重圧からくる、重い沈黙があった。
「提督、間もなく夜明けです
スコールが明け次第、対空戦闘用意に移行します」
栗田長官は頷きながら、心の中で反芻していた。自らが負った
「レイテ湾突入」という使命。この使命のために、西村部隊は命を投げ出した。
艦隊の中心は巨大な戦艦と重巡洋艦で構成された水上打撃部隊であり
彼らの本来の任務は砲撃による敵艦隊の撃滅である。
「ハルゼーは、我々の存在を見失っているはずだ。夜明けとともに
我々はレイテ湾へと突入する途上で
必ずや敵の上陸支援にあたる空母、あるいは、輸送船団を発見するだろう」
栗田長官は、夜明けの先に巨大な米機動部隊が待ち構えている可能性を覚悟しつつも
それを打ち破ってでもレイテ湾に突入し
作戦を完遂させるという、使命感に突き動かされていた。
スコールの音だけが響く。夜明けまであとわずか。
艦隊は夜間の警戒から日中の戦闘へと、その全てを研ぎ澄ましていた。
彼らが遭遇する運命にある敵が、ハルゼーの主力空母ではなく
「タフィ3」と呼ばれる護衛空母であることを、この時点で知る者は誰もいなかった。
対空輪形陣への移行は、夜間の闇とスコールの影響で困難を極めた。
巨大な戦艦と重巡が速度と位置を調整し、護衛の駆逐艦が外側を固める。
重巡洋艦「利根」の艦橋では、将兵が双眼鏡を覗きながら周囲の艦影を確認していた。
「戦艦は全て、所定の位置につきました。
しかし、長官は我々に何を求めているのか
…昨日の反転は、兵の士気に響いています」
「何を求めているかだと?長官の胸中など、我々に知る由はない。
ただ、レイテ湾への突入が全軍の
命運を握ることは確かだ。西村の仇も取らねばならん」
「西村」の名が出た瞬間、艦橋に重い空気が流れた。スリガオの惨劇は
艦隊に**「もはや後がない」という覚悟を強いていた。栗田艦隊は
日本海軍の最後の切り札として、その重責を全て背負っていた。
「大和」の主砲、46センチの巨砲が、重々しく、東の空を向いていた。
夜明けとともに、その巨砲が火を吹く時が来る。この作戦の最終段階が迫っていた。
スコールが徐々に弱まり、東の水平線が僅かに白み始めている。
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