If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ

文字の大きさ
155 / 217
邀撃 比島方面迎撃戦

台風かジープか

しおりを挟む
午前6時53分。戦艦「大和」から発せられた
「敵空母ラシキ『マスト』七本見ユ」という電報は
遥か後方の連合艦隊司令部に着くや否や、狂喜乱舞の渦を巻き起こした。

司令部の中核を占める参謀たちは、互いに肩を叩き合い、興奮を隠せなかった。

「やったぞ!栗田がハルゼーを捉えた!これで武蔵の仇が討てる!」 
「レイテの戦局は逆転だ!我々の犠牲が報われる!」

司令部のある艦の艦橋は、熱気で満たされたが、その熱狂の中心で
連合艦隊司令長官である高倉は、厳然とした表情で海図を見つめていた。
彼は参謀たちの歓喜に加わることなく、深いため息をついた。

「静粛にせよ」

長官の一言で、艦橋の熱気が一瞬で冷めた。

「栗田が敵母艦群を捉えたことは喜ばしい。
 しかし、私が理解できない点が一つある」

高倉は海図上の北方を指し示した。

「小沢艦隊からの報では、敵の機動部隊は確実に彼らの囮に吊り上げられ
 北上しているはずだ。ハルゼーの主力である第三八任務部隊が
 なぜ今、栗田の眼前に七隻もの空母を残しているのか?」

参謀たちは顔を見合わせた。誰もがハルゼーの主力と信じ込んでいた敵が、
別の部隊である可能性を指摘されたのだ。

「長官、ハルゼーが囮に気づき、急遽、一部を反転させたのでは?」

「その可能性は低い。急な反転では、これほどの数の空母が揃うことはない。
 栗田が交戦しているのは、第三八任務部隊の一部ではなく
 レイテ湾の輸送を護衛している、別の護衛空母部隊ではないのか」

高倉の疑念は、単なる推測ではなく、戦術的な状況の違和感から来る
冷静な洞察であった。彼は直ちに、この疑念を確認するための電文を打つよう命じた。


高倉の緊急の質問は、すぐに小沢艦隊と栗田艦隊の双方に送られた。

北方の小沢からは、期待通りの報が届いた。

「敵機動部隊、依然として我を追尾し、猛攻を継続中。吊り上げ成功と認む」

小沢の報は、高倉の疑念を裏付けるものであった
ハルゼーの主力は確実に北にいる。では、栗田の前の空母は何者か?

「大和」の艦橋では、栗田長官が自らの命令で始まったばかりの砲撃戦の轟音と
高倉からの疑念に満ちた電文の挟撃に遭っていた。

(ハルゼーではない、別の空母だと?…馬鹿な!)

栗田は自らの眼を疑いたかったが、砲撃戦の中での憶測は許されない。
彼は砲撃を継続しつつ、状況の確定を急いだ。

「零式水上偵察機を発艦させよ!
 現在、追尾中の敵艦隊の種類を確認し、直ちに報告せよ!」

「大和」の後部から、一機の零式水上偵察機が、轟音を上げる艦隊の間を縫うように発進した。
偵察機は砲弾の着弾で湧き上がる水柱を避けながら、敵艦隊へと向かって行った。


零式水上偵察機が飛び立ってから約20分後、激しい砲撃の音が鳴り響く中
「大和」の通信室に緊迫した声が響いた。

「入電!零式水上偵察機より!」

電文の内容は、栗田長官が期待し、そして恐れていた、全てを覆すものだった。

「現在追尾中の敵艦隊は、正規空母に非ず
 護衛空母群と認む。船体構造、搭載機数より判断」

敵はハルゼー艦隊ではない。レイテ湾の輸送を護衛していた
脚の遅い、戦時急造の「ジープ空母」と呼ばれる護衛空母の集団だったのだ。

艦橋で電文を受け取った栗田長官の顔は、激しい衝撃で青ざめた。

(我々は、空母と呼ぶにはあまりにも取るに足らない
 取るに足らない艦隊に全戦力を集中していたのか!)

武蔵の仇と信じて浴びせた「大和」の46センチ砲の轟音が
一転して空虚な響きとなって栗田の耳に届いた。作戦の最重要目標はレイテ湾の輸送船団であり
ハルゼーを討つことではない。
そして、最悪なことに、ハルゼーの主力は今もどこかの海域に潜んでいる。


栗田長官は**、迅速に思考を切り替えた。
敵が護衛空母群であると分かった今、彼らを徹底的に撃滅する時間はない。
最優先はレイテ湾への突入だ。

「全艦、砲撃を継続しつつ、直ちに戦場から離脱せよ!集結し、針路をレイテ湾へ!」

栗田長官は即座に全艦隊に「招集命令」を発した。艦隊は攻撃を中断し
レイテ湾への突入を目指し、隊列を整え直す必要があった。

しかし、攻撃を仕掛けられた米護衛空母部隊
「タフィ3」(指揮官:クリフトン・スプレイグ少将)がこのまま
巨大な日本艦隊を向かわせるわけがなかった。

「タフィ3」は、目の前で大和の46センチ砲の砲弾を受けているにも関わらず、
絶望的な状況下で驚異的な反撃を開始した。

護衛空母と駆逐艦が、艦隊を覆うように大量の煙幕を焚き始めた。
黒と白の煙が海面に広がり、栗田艦隊の正確な射撃を妨害する。

そして何よりも、彼らは時間稼ぎのために、全ての航空機を発艦させた。
脚の遅い護衛空母から繰り出された航空機は、母艦に戻らず
レイテ島の飛行場へと向かい、往復を繰り返すという
異例の戦術で、栗田艦隊への攻撃を開始した。

敵が護衛空母であると判明した今、栗田艦隊はレイテ湾への道を急がねばならない。
しかし、その道は、護衛空母が必死の抵抗と特攻を仕掛けてくる米駆逐艦の群れによって
血と炎で塞がれていた。

栗田艦隊は**、「ハルゼー艦隊」という誤認から
「護衛空母」という取るに足らない敵に向かって、最悪の時間を浪費することとなった。
そしてその代償は、予想以上に大きなものとなるのである。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

劉禅が勝つ三国志

みらいつりびと
歴史・時代
中国の三国時代、炎興元年(263年)、蜀の第二代皇帝、劉禅は魏の大軍に首府成都を攻められ、降伏する。 蜀は滅亡し、劉禅は幽州の安楽県で安楽公に封じられる。 私は道を誤ったのだろうか、と後悔しながら、泰始七年(271年)、劉禅は六十五歳で生涯を終える。 ところが、劉禅は前世の記憶を持ったまま、再び劉禅として誕生する。 ときは建安十二年(207年)。 蜀による三国統一をめざし、劉禅のやり直し三国志が始まる。 第1部は劉禅が魏滅の戦略を立てるまでです。全8回。 第2部は劉禅が成都を落とすまでです。全12回。 第3部は劉禅が夏候淵軍に勝つまでです。全11回。 第4部は劉禅が曹操を倒し、新秩序を打ち立てるまで。全8回。第39話が全4部の最終回です。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

大和型重装甲空母

ypaaaaaaa
歴史・時代
1937年10月にアメリカ海軍は日本海軍が”60000トンを超す巨大戦艦”を”4隻”建造しているという情報を掴んだ。海軍はすぐに対抗策を講じてサウスダコタ級戦艦に続いてアイオワ級戦艦を4隻建造することとした。そして1941年12月。日米は戦端を開いたが戦列に加わっていたのは巨大戦艦ではなく、”巨大空母”であった。

処理中です...