If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ

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必守防衛圏

硫黄島の陥落

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1945年8月上旬。硫黄島の戦いは
開始から三週間という血塗られた歳月を経て、ついに終結した。
この小さな火山島は、栗林忠道中将の巧妙な指揮と
地下に張り巡らされた要塞網、そして日本軍将兵の壮絶な玉砕と引き換えに
米軍の戦史に未曾有の傷痕を刻み込んだ。

硫黄島の陥落は、太平洋戦線において米軍が初めて
敵よりも大きな損害を出した戦いとして記録された。



海兵隊は、硫黄島へと投じた総兵力の三割に近い、約二万七千名の死傷者を出した。
特に、地下壕や隠蔽された砲台からの日本軍の狙いすまされた反撃は
上陸直後の米軍を無情な砂浜で釘付けにした。

「これは単なる島の占領ではない。魂の対価である」
米本国の新聞は、硫黄島から帰還した兵士たちの疲弊した表情と
膨大な数の戦死者名簿を並べ、戦争への懐疑的な論調を強めた。

硫黄島の教訓は、日本本土への侵攻が
いかに恐ろしい人的損失を伴うかを、米軍首脳陣に強烈に示唆した。

特に、現地で総指揮を執った第五水陸両用部隊の指揮官
ホーランド・スミス中将は、攻撃の遅延と不必要な損害を出した責任を問われた。
硫黄島攻略の直前には、彼は上官であるジョーゼフ・ホール中将との間で
激しい対立を抱えていたが、この失敗的な勝利は彼を擁護するものではなかった。

スミス中将の失脚は、単に一人の将軍の運命で終わらなかった。
これは、太平洋戦線の戦略が、「物量と速度」から
「人的損失の抑制」へと、重大な転換期を迎えたことを示していた。


ワシントンDC。最高統帥部は、硫黄島の報告に激しく揺れていた。
欧州ではドイツ軍が、相次ぐ攻勢を受けながらも
ロンメル元帥の戦略に基づく堅固な防衛圏をドイツ本土境界に定め
未だに攻勢を完全に挫いていない。この独軍の粘りは
日本軍が本土防衛で同様かそれ以上の激しい抵抗を示すことを、米軍に予感させた。


硫黄島の人的損失は、海軍と陸軍、そして海兵隊の間での
責任のなすり付け合いを生み出した。スミス中将の強引な作戦指揮は
日頃からの対立を深めていた陸軍首脳部に格好の標的を与えた。

「あのような無駄な流血は、戦略的な失策以外の何物でもない。
 日本本土侵攻を考えるならば、直ちに戦術を改める必要がある」

陸軍参謀総長ジョージ・マーシャル将軍は、この事態を重く見た。
彼は大統領に対し太平洋戦線の混乱を収束させ
合理的な人的損失抑制戦略を推し進めるため、強力な総指揮官を再度登板させるよう具申した。

そこで浮上したのが、南西太平洋戦域での輝かしい実績を残し
一時的に本国で休暇を取っていたダグラス・マッカーサー元帥であった。

マーシャルは、マッカーサーが持つ
「不必要な犠牲を排除する」という戦術理念と
海軍に対しても引けを取らない強大な政治的影響力に期待した。



休暇を終えたマッカーサーは、大統領の特命によって
太平洋戦線全体の総指揮官として再度登板することになった。
彼の復帰は、失敗の影を引きずる米軍の士気を一気に高めると同時に
今後の日本攻略戦略が根本から変わることを意味した。

「もはや、無謀な突撃で人の命を浪費する時期ではない。
 硫黄島の教訓は、日本軍がそれぞれの島を「墓標」として
 防衛する覚悟があることを示した。我々は、知恵を使い
 効率的に、そして最後の一線を見据えて戦わねばならない」

マッカーサーの最初のブリーフィングでの言葉は、彼の決意を如実に表していた。
彼の眼差しは、既に次なる最大の目標、沖縄へと向けられていた。


太平洋戦線の次の攻勢目標は、南西諸島の重要拠点、沖縄であることが決定した。

沖縄は、日本本土への最終攻撃
(作戦名「オペレーション・コロネット」と「オペレーション・オリンピック」)
のためには絶対不可欠な、前線基地としての戦略的価値を持っていた。
この島を制することは、日本本土への空襲を飛躍的に増加させ
海上封鎖を完全なものにすることを意味した。

しかし、米軍の懸念は、沖縄の堅固な防衛体制だけではなかった。
それは、最高機密情報として扱われる、日本が持つ「超兵器」
すなわち核兵器の開発に関する情報であった。



米軍情報部(OSS)は、欧州戦線で得られた情報から
ドイツが原子力研究の最先端技術を、潜水艦や特殊輸送機を用いて
日本へと移転させている可能性を指摘していた。

特に、ドイツのUボートが日本へ運んだ高純度ウランや関連技術者の存在が
その懸念を裏付けていた。日本が、独国の援助を受けて
戦局を一挙に覆す可能性のある核兵器を、実戦で使用できる段階に
達しているのではないかという恐怖が、ワシントンの中枢を覆い尽くしていた。



マッカーサー元帥は、総指揮官に復帰した際
大統領から二つの重大な密命を受けていた。

日本本土侵攻の前に、沖縄戦での人的損失を硫黄島の二分の一以下に抑えること。

日本が核兵器を使用する前に、出来る限り早く戦局を終結させるための戦略を立てること。

マッカーサーは、彼自身が管轄する最高機密研究(マンハッタン計画の別働き)から
米軍が同様に核兵器を完成させようとしていることを知っていたが
日本側に先を越される恐れ、あるいは両国が核を使用することで
世界が破滅的な混乱に陥ることを、最も恐れていた。

硫黄島の泥沼化がもたらした時間の浪費は
日本に対抗手段を整える期間を与えてしまったのだ。

第四部:人的損失最小化への新戦略

マッカーサーは、沖縄攻略に向けて、従来の太平洋戦線の
「正面突破」戦術を、根本から覆す戦略を立てた。
それは、彼がフィリピンで実践した「ホップ・スコッチ」(飛び石)戦略の応用であり
敵の最大防衛力を避け、兵の損失を最小限に抑えることを最優先としたものである。



大規模欺瞞戦術の実施:沖縄本島への上陸に先立ち
別の離島への陽動上陸や偽装艦隊の展開によって日本軍の注意を分散させる。

砲爆撃の最大化:上陸前の艦砲射撃と空襲の期間と量を
硫黄島の比ではないほどに増強する。日本軍が地下に潜んでいる間に
地上の防衛施設を完全に破壊する。これは、兵士が上陸した際の
直接交戦のリスクを極限まで下げるためである。

地上戦の迂回戦術:日本軍の主要な要塞地域を迂回し
主要な戦略拠点や補給路を、空挺部隊などを使用して一気に分断する。
「兵は勝利した後に戦う」という彼の信念に基づいた戦術である。

これらの新戦略は、マッカーサーが太平洋の戦いを単なる
「消耗戦」から「知的な機動戦」へと変えようとしていることを示していた。



人的損失を減らし、日本の核兵器使用の可能性を未然に防ぐためには
軍事的勝利だけでなく、政治的な解決が不可欠であることをマッカーサーは理解していた。

彼は、攻撃の準備を進める一方で、密かに日本側への接触ルートを探り始めた。
戦争を終結させるための「威嚇と譲歩」を組み合わせた外交的なアプローチの必要性を
彼は最高統帥部に強く進言した。

硫黄島で払った血の代償は、米軍の戦略を変えただけでなく
世界を核の炎から救うための最後の知恵を絞り出させる原動力となった。

沖縄への船団が集結する中、マッカーサーの肩には
兵士の命運と世界の平和という、二つの重大な責務が伸しかかっていた。
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