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必守防衛圏
前方を塞ぐ者は汝なりや
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1945年8月14日の午前中、
米海軍第38任務部隊の将兵たちが目撃した光景は
戦いというよりは一方的な屠殺に近いものだった。
雲間から姿を現した日本の最新鋭機、烈風や流星の編隊は
かつての零戦のような軽快な舞いを見せる間もなく
空を埋め尽くす黒い爆煙の中に次々と消えていった。
旗艦エセックスの対空砲座に就いていたジョン・ミラー二等水兵は
自らの操る40ミリ機関砲が吐き出す火光の先に、驚異的な科学の力を見ていた。
米軍が実戦投入したVT信管、すなわち電波近接信管は
もはや敵機に直撃させる必要すらなく
機体の付近を通過するだけで自動的に炸裂し、鋼鉄の破片を撒き散らす。
「まるでハエ叩きだな」
ミラーは呟いた。日本のパイロットたちがどんなに決死の覚悟で突っ込んできても
米海軍の重層的な防空システムはそれを冷徹に排除していく。
レーダーが敵を捉え、火器管制装置が最適な迎撃コースを算出し
そしてVT信管がとどめを刺す。
精神力という不確かなものではなく、科学という確かな力が海を支配していた。
この日本の総力攻撃による米艦隊の被害は
軽巡洋艦ヴィンセンスが至近弾でわずかに損傷したのみであった。
ハルゼー大将の司令部には「敵航空隊、壊滅。我が方の損害、軽微」という
誇らしげな報告が次々と舞い込んでいた。
しかし、この航空戦の勝利の裏で、一つの巨大な影が確実に米軍へと迫っていた。
水上部隊による突入。「イトー艦隊」と呼ばれる日本の第二艦隊が
航空援護を失いながらも時速24ノットという猛スピードで
沖縄を目指しているという情報が、偵察機によってもたらされた。
母艦部隊はすでに反転し撤収を始めているという
第54任務部隊の指揮官、モートン・デヨ少将は
自らの旗艦である戦艦テネシーの艦橋でその報告を受け取った。
デヨの周囲を固める幕僚たちの間には
奇妙な高揚感と、わずかな緊張が混ざり合っていた。
「戦艦大和、ですか」
一人の幕僚がその名を口にした。世界最大の46センチ砲を持つ戦艦大和。
それは米海軍の伝統的な戦艦乗りたちにとって
畏怖の対象であると同時に、いつかは直接砲火を
交えて打ち砕かなければならない宿命のライバルでもあった。
「大和の射程に入れば、我が方の旧式戦艦の装甲など紙同然でしょう」
という懸念の声も上がった。テネシーやカリフォルニアといった
蘇った戦艦たちは、火力こそ強力だが、射程と速力では大和に及ばない。
しかし、デヨ少将は冷静だった。
「大和は確かに強力だが、今は孤独な巨獣に過ぎない。
航空援護もなく、数においても我々が圧倒している。
旧式だろうと何だろうと、十隻の戦艦で包囲し
十字砲火を浴びせれば、大和とて耐えられるはずがない」
デヨは時計を見た。午後1時。彼はテネシーの士官室に幕僚たちを集め
緊急の作戦会議を開いた。 現在、第54任務部隊には
戦艦10隻、重巡洋艦9隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦25隻
そして護衛駆逐艦8隻という
それだけで一つの海軍を構成できるほどの戦力が揃っていた。
会議は白熱した。デヨは全戦力を伊藤艦隊にぶつけるのではなく
一部を上陸部隊の援護に残す必要性を説いた。沖縄の海岸線では
今なお熾烈な地上戦が続いており、武蔵要塞の砲撃を警戒しつつ
歩兵たちの頭上を守らねばならないからだ。
最終的に、デヨは精鋭を選び出した。戦艦6隻、巡洋艦7隻、駆逐艦21隻。
これを「大和迎撃部隊」とし、残余の艦艇は引き続き上陸支援に充てる。
選ばれた戦艦は
テネシー、カリフォルニア、ニューメキシコ、コロラド、メリーランド、アイダホ。
重厚な門構えを誇るこれら鋼鉄の城が、日本の誇りである大和
そして金剛型の生き残りである霧島、榛名と対峙することになる。
午後1時30分。今度は場所を水陸両用部隊の旗艦へと移し
さらに大規模な会議が開かれた。指揮を執るのは、米海軍きっての猛将
リッチモンド・K・ターナー中将である。彼はアナポリス海軍兵学校の1908年組であり
その妥協を許さない性格から「テリブル・ターナー」の異名を持っていた。
「諸君、これは世界で最後になるかもしれない
純粋な戦艦同士の殴り合いになるだろう」
ターナーは集まった各艦の艦長たちを見渡し、吠えるように言った。
「ハルゼーの航空隊が敵を仕留めきれなかったのは幸運だと思え。
我々戦艦乗りが、自らの手でこの戦争を終わらせるチャンスが巡ってきたのだ。
目標は唯一つ、イトーの艦隊を沖縄の海に沈め
武蔵要塞という悪夢を終わらせることだ」
会議の後、第54任務部隊の全艦に対し、迎撃部隊への参加艦名が発表された。
テネシーのスピーカーから、迎撃部隊に選ばれた
艦の名が読み上げられると、その甲板は歓喜の嵐に包まれた。
「やったぞ!大和と戦える!」 「今までの借りを、今こそ返してやる!」
選ばれた艦の乗組員たちは、まるで祭りの日のように踊り狂い
互いの肩を叩き合った。彼らにとって、戦艦同士の決戦は海軍軍人としての
最高の名誉であり、これまで航空機の陰に隠れがちだった
戦艦の存在価値を証明する絶好の舞台だったのである。
一方で、選から漏れ、上陸支援に残留することになった艦の雰囲気は最悪だった。
「あんな旧式な日本艦隊に、なぜ俺たちが呼ばれないんだ!」
「また泥臭い支援射撃か。退屈で死にそうだ」
水兵たちは不平不満をぶちまけ、悔しそうに甲板を蹴った。
午後3時。迎撃部隊に選ばれた各艦は、突発的な艦隊決戦に備え、
主砲の旋回訓練や、ダメージコントロールの再確認など
緊急の猛訓練を行っていた。熱帯の強い日差しが鋼鉄を焼き、甲板は熱風に包まれていた。
その時、テネシーの無線室に激震が走った。
空母機動部隊の偵察機からの緊急入電である。
「Enemy fleet sighting: 5 battleships, 9 cruisers, 10 destroyers,
30km northeast of Okinawa, heading southwest at 24 knots」
敵艦隊、発見。 距離はわずか30キロ。肉眼で見えるまであとわずかという地点まで
日本の第二艦隊は肉薄していたのである。
彼らは米軍の予想を上回る執念で、炎上する海を切り裂いて突き進んでいた。
デヨ少将が戦闘準備を下そうとしたその時
テネシーのすぐ横に一機の連絡機が着水した
機体から降りてきたのは、第5艦隊司令長官
レイモンド・スプルーアンス大将その人だった。
周囲の将兵が驚き、敬礼する中
スプルーアンスは静かな足取りでデヨの元へと歩み寄った。
「長官、なぜここに?」
デヨの問いに、スプルーアンスは遠く水平線の彼方
まだ見ぬ大和のいる方向を見つめて答えた。
「デヨ、私はこの戦いを指揮所に座って見ているわけにはいかなくなった。
伊藤とは、戦前にワシントンで交友を結んだ仲だ。
彼は寡黙で誠実な、真の海軍人だった。その彼が
これほどの無茶な作戦を、部下を守るために引き受けたのだ。
彼の最後の戦いくらいは、司令官である私が前に出て、迎え撃たねばなるまい」
スプルーアンスの言葉には、敵対する者への憎しみではなく
同じ海を生きる軍人としての深い敬意が込められていた。
「伊藤整一。彼が何を考えてこの海に来たのか、私はそれを肌で感じたいのだ。
デヨ、艦隊の指揮は君に任せる。私は一人の提督として
このテネシーの艦橋から彼らの最期を見届ける」
スプルーアンスの参戦により、第54任務部隊の士気は頂点に達した。
アメリカ海軍が誇る16インチ、あるいは14インチの巨砲群。
それらが、日本の46センチ砲と
そして彼らの「大和魂」と正面から激突しようとしていた。
デヨ少将は、テネシーの全艦内放送のスイッチを入れた。
「全艦へ告ぐ。これより我が艦隊は、戦艦大和を中核とする日本第二艦隊と交戦する。
これは我々の勝利を確実なものとするための最後の戦いだ。
一人一人がその職責を全うせよ。自由のために
そして我々の誇りのために。神の加護があらんことを。戦闘、開始!」
テネシーの艦橋では、方位盤がゆっくりと旋回し、南西の空へと向けられた。
その視界の先、水平線の上に、細い煙が見え始めた。
それは一筋ではなく、巨大な艦隊が上げる猛々しい黒煙の帯だった。
日本海軍とアメリカ海軍。 巨艦大砲主義という時代が生み出した二つの怪物が
その最期の輝きを放つために、今ここに集結した。
数の利を持つのは、圧倒的な物量と科学力を誇るアメリカ。
しかし、背水の陣で全てを捨て
ただ一撃に命を懸ける日本艦隊の覚悟もまた、計り知れない重みを持っていた。
勝つのはどちらか。 歴史という審判はまだ、どちらにも微笑んではいなかった。
大和の艦橋では伊藤中将が、テネシーの艦橋ではスプルーアンス大将が。
かつて酒を酌み交わしたかもしれない二人の指揮官が
今、鋼鉄の巨艦を介して、言葉なき対話を始めようとしていた。
海面は夕暮れ前の黄金色に輝き、その光を反射して
両艦隊の主砲塔がギラリと光った。 空に飛ぶ航空機のエンジン音すら遠ざかり
ただ、重厚な波の音だけが響く。 この海域の全てが
これから始まる歴史的瞬間に向けて、息を殺して見守っているかのようだった。
次の瞬間、静寂は打ち破られる。 世界が震えるほどの咆哮とともに
鋼鉄の弾丸が空を埋め尽くす。
人類の海軍史における最後の大規模な艦隊決戦、
その火蓋が、今まさに切られようとしていた。
戦いという名の芸術、あるいは残酷な現実。
それらが一つに溶け合う沖縄の海で、男たちは己の全てを賭けて、引き金を引く。
その結末は、神のみぞ知る領域へと、今まさに踏み出されたのである。
米海軍第38任務部隊の将兵たちが目撃した光景は
戦いというよりは一方的な屠殺に近いものだった。
雲間から姿を現した日本の最新鋭機、烈風や流星の編隊は
かつての零戦のような軽快な舞いを見せる間もなく
空を埋め尽くす黒い爆煙の中に次々と消えていった。
旗艦エセックスの対空砲座に就いていたジョン・ミラー二等水兵は
自らの操る40ミリ機関砲が吐き出す火光の先に、驚異的な科学の力を見ていた。
米軍が実戦投入したVT信管、すなわち電波近接信管は
もはや敵機に直撃させる必要すらなく
機体の付近を通過するだけで自動的に炸裂し、鋼鉄の破片を撒き散らす。
「まるでハエ叩きだな」
ミラーは呟いた。日本のパイロットたちがどんなに決死の覚悟で突っ込んできても
米海軍の重層的な防空システムはそれを冷徹に排除していく。
レーダーが敵を捉え、火器管制装置が最適な迎撃コースを算出し
そしてVT信管がとどめを刺す。
精神力という不確かなものではなく、科学という確かな力が海を支配していた。
この日本の総力攻撃による米艦隊の被害は
軽巡洋艦ヴィンセンスが至近弾でわずかに損傷したのみであった。
ハルゼー大将の司令部には「敵航空隊、壊滅。我が方の損害、軽微」という
誇らしげな報告が次々と舞い込んでいた。
しかし、この航空戦の勝利の裏で、一つの巨大な影が確実に米軍へと迫っていた。
水上部隊による突入。「イトー艦隊」と呼ばれる日本の第二艦隊が
航空援護を失いながらも時速24ノットという猛スピードで
沖縄を目指しているという情報が、偵察機によってもたらされた。
母艦部隊はすでに反転し撤収を始めているという
第54任務部隊の指揮官、モートン・デヨ少将は
自らの旗艦である戦艦テネシーの艦橋でその報告を受け取った。
デヨの周囲を固める幕僚たちの間には
奇妙な高揚感と、わずかな緊張が混ざり合っていた。
「戦艦大和、ですか」
一人の幕僚がその名を口にした。世界最大の46センチ砲を持つ戦艦大和。
それは米海軍の伝統的な戦艦乗りたちにとって
畏怖の対象であると同時に、いつかは直接砲火を
交えて打ち砕かなければならない宿命のライバルでもあった。
「大和の射程に入れば、我が方の旧式戦艦の装甲など紙同然でしょう」
という懸念の声も上がった。テネシーやカリフォルニアといった
蘇った戦艦たちは、火力こそ強力だが、射程と速力では大和に及ばない。
しかし、デヨ少将は冷静だった。
「大和は確かに強力だが、今は孤独な巨獣に過ぎない。
航空援護もなく、数においても我々が圧倒している。
旧式だろうと何だろうと、十隻の戦艦で包囲し
十字砲火を浴びせれば、大和とて耐えられるはずがない」
デヨは時計を見た。午後1時。彼はテネシーの士官室に幕僚たちを集め
緊急の作戦会議を開いた。 現在、第54任務部隊には
戦艦10隻、重巡洋艦9隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦25隻
そして護衛駆逐艦8隻という
それだけで一つの海軍を構成できるほどの戦力が揃っていた。
会議は白熱した。デヨは全戦力を伊藤艦隊にぶつけるのではなく
一部を上陸部隊の援護に残す必要性を説いた。沖縄の海岸線では
今なお熾烈な地上戦が続いており、武蔵要塞の砲撃を警戒しつつ
歩兵たちの頭上を守らねばならないからだ。
最終的に、デヨは精鋭を選び出した。戦艦6隻、巡洋艦7隻、駆逐艦21隻。
これを「大和迎撃部隊」とし、残余の艦艇は引き続き上陸支援に充てる。
選ばれた戦艦は
テネシー、カリフォルニア、ニューメキシコ、コロラド、メリーランド、アイダホ。
重厚な門構えを誇るこれら鋼鉄の城が、日本の誇りである大和
そして金剛型の生き残りである霧島、榛名と対峙することになる。
午後1時30分。今度は場所を水陸両用部隊の旗艦へと移し
さらに大規模な会議が開かれた。指揮を執るのは、米海軍きっての猛将
リッチモンド・K・ターナー中将である。彼はアナポリス海軍兵学校の1908年組であり
その妥協を許さない性格から「テリブル・ターナー」の異名を持っていた。
「諸君、これは世界で最後になるかもしれない
純粋な戦艦同士の殴り合いになるだろう」
ターナーは集まった各艦の艦長たちを見渡し、吠えるように言った。
「ハルゼーの航空隊が敵を仕留めきれなかったのは幸運だと思え。
我々戦艦乗りが、自らの手でこの戦争を終わらせるチャンスが巡ってきたのだ。
目標は唯一つ、イトーの艦隊を沖縄の海に沈め
武蔵要塞という悪夢を終わらせることだ」
会議の後、第54任務部隊の全艦に対し、迎撃部隊への参加艦名が発表された。
テネシーのスピーカーから、迎撃部隊に選ばれた
艦の名が読み上げられると、その甲板は歓喜の嵐に包まれた。
「やったぞ!大和と戦える!」 「今までの借りを、今こそ返してやる!」
選ばれた艦の乗組員たちは、まるで祭りの日のように踊り狂い
互いの肩を叩き合った。彼らにとって、戦艦同士の決戦は海軍軍人としての
最高の名誉であり、これまで航空機の陰に隠れがちだった
戦艦の存在価値を証明する絶好の舞台だったのである。
一方で、選から漏れ、上陸支援に残留することになった艦の雰囲気は最悪だった。
「あんな旧式な日本艦隊に、なぜ俺たちが呼ばれないんだ!」
「また泥臭い支援射撃か。退屈で死にそうだ」
水兵たちは不平不満をぶちまけ、悔しそうに甲板を蹴った。
午後3時。迎撃部隊に選ばれた各艦は、突発的な艦隊決戦に備え、
主砲の旋回訓練や、ダメージコントロールの再確認など
緊急の猛訓練を行っていた。熱帯の強い日差しが鋼鉄を焼き、甲板は熱風に包まれていた。
その時、テネシーの無線室に激震が走った。
空母機動部隊の偵察機からの緊急入電である。
「Enemy fleet sighting: 5 battleships, 9 cruisers, 10 destroyers,
30km northeast of Okinawa, heading southwest at 24 knots」
敵艦隊、発見。 距離はわずか30キロ。肉眼で見えるまであとわずかという地点まで
日本の第二艦隊は肉薄していたのである。
彼らは米軍の予想を上回る執念で、炎上する海を切り裂いて突き進んでいた。
デヨ少将が戦闘準備を下そうとしたその時
テネシーのすぐ横に一機の連絡機が着水した
機体から降りてきたのは、第5艦隊司令長官
レイモンド・スプルーアンス大将その人だった。
周囲の将兵が驚き、敬礼する中
スプルーアンスは静かな足取りでデヨの元へと歩み寄った。
「長官、なぜここに?」
デヨの問いに、スプルーアンスは遠く水平線の彼方
まだ見ぬ大和のいる方向を見つめて答えた。
「デヨ、私はこの戦いを指揮所に座って見ているわけにはいかなくなった。
伊藤とは、戦前にワシントンで交友を結んだ仲だ。
彼は寡黙で誠実な、真の海軍人だった。その彼が
これほどの無茶な作戦を、部下を守るために引き受けたのだ。
彼の最後の戦いくらいは、司令官である私が前に出て、迎え撃たねばなるまい」
スプルーアンスの言葉には、敵対する者への憎しみではなく
同じ海を生きる軍人としての深い敬意が込められていた。
「伊藤整一。彼が何を考えてこの海に来たのか、私はそれを肌で感じたいのだ。
デヨ、艦隊の指揮は君に任せる。私は一人の提督として
このテネシーの艦橋から彼らの最期を見届ける」
スプルーアンスの参戦により、第54任務部隊の士気は頂点に達した。
アメリカ海軍が誇る16インチ、あるいは14インチの巨砲群。
それらが、日本の46センチ砲と
そして彼らの「大和魂」と正面から激突しようとしていた。
デヨ少将は、テネシーの全艦内放送のスイッチを入れた。
「全艦へ告ぐ。これより我が艦隊は、戦艦大和を中核とする日本第二艦隊と交戦する。
これは我々の勝利を確実なものとするための最後の戦いだ。
一人一人がその職責を全うせよ。自由のために
そして我々の誇りのために。神の加護があらんことを。戦闘、開始!」
テネシーの艦橋では、方位盤がゆっくりと旋回し、南西の空へと向けられた。
その視界の先、水平線の上に、細い煙が見え始めた。
それは一筋ではなく、巨大な艦隊が上げる猛々しい黒煙の帯だった。
日本海軍とアメリカ海軍。 巨艦大砲主義という時代が生み出した二つの怪物が
その最期の輝きを放つために、今ここに集結した。
数の利を持つのは、圧倒的な物量と科学力を誇るアメリカ。
しかし、背水の陣で全てを捨て
ただ一撃に命を懸ける日本艦隊の覚悟もまた、計り知れない重みを持っていた。
勝つのはどちらか。 歴史という審判はまだ、どちらにも微笑んではいなかった。
大和の艦橋では伊藤中将が、テネシーの艦橋ではスプルーアンス大将が。
かつて酒を酌み交わしたかもしれない二人の指揮官が
今、鋼鉄の巨艦を介して、言葉なき対話を始めようとしていた。
海面は夕暮れ前の黄金色に輝き、その光を反射して
両艦隊の主砲塔がギラリと光った。 空に飛ぶ航空機のエンジン音すら遠ざかり
ただ、重厚な波の音だけが響く。 この海域の全てが
これから始まる歴史的瞬間に向けて、息を殺して見守っているかのようだった。
次の瞬間、静寂は打ち破られる。 世界が震えるほどの咆哮とともに
鋼鉄の弾丸が空を埋め尽くす。
人類の海軍史における最後の大規模な艦隊決戦、
その火蓋が、今まさに切られようとしていた。
戦いという名の芸術、あるいは残酷な現実。
それらが一つに溶け合う沖縄の海で、男たちは己の全てを賭けて、引き金を引く。
その結末は、神のみぞ知る領域へと、今まさに踏み出されたのである。
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