If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ

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成都攻略戦

B-29

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1943年後半、日本の情報機関は、ある不吉な情報を掴み始めていた。
欧米の情報源からもたらされる断片的な報告、そして何よりも
日本軍の熟練した通信傍受班が傍受した連合軍の無線交信の中に
不穏なキーワードが頻繁に登場し始めていたのだ。

「B-17爆撃機を超える重爆撃機」

その言葉が、情報将校たちの間に緊張をもたらした。
当時の連合軍の主力爆撃機であるB-17は、日本本土への
本格的な空襲には航続距離が不足しており、日本軍にとって
直接的な脅威とはなっていなかった。しかし、「B-17を超える」という表現は
それが日本本土を直接攻撃できるだけの能力を持つ可能性を示唆していた。

陸軍のスパイ網は、欧米の兵器開発に関する情報を精力的に収集していた。
彼らからもたらされた報告は、その脅威が
現実のものであることを裏付けるものだった。
極秘裏に進められている新型爆撃機の開発。
そのコードネームは「スーパーフォートレス」日本語で言えば超空の要塞

「高々度性能に優れ、航続距離もB-17を
 遥かに凌駕する新型爆撃機が、米国で完成しつつある模様」

この報告を受けた統合軍司令部は、にわかに緊張に包まれた。
高倉が主導して設立されたばかりのこの司令部は
陸海軍の垣根を越え、日本の防衛戦略を一体的に立案する役割を担っていた。
高倉の顔には、疲労の色が濃く刻まれていたが、その瞳は鋭い光を放っていた。

「B-29か……。もしそれが本当なら、日本の防衛は新たな局面に立たされる」

高倉は、机に広げられた世界地図を凝視した。
日本の脆弱性は、これまで海からの攻撃に集中していた。
しかし、もし本土が空から直接攻撃されるとなれば
その防衛体制は根本から見直さなければならない。

情報部の報告はさらに続く。

「通信傍受の結果、その航続距離がフィリピンからでも
 帝都を攻撃しうる距離に達しているとの分析が出ております」

この情報は、統合軍司令部に衝撃を与えた。 
B-29が完成し、配備されれば、日本の主要都市や工業地帯は
いつでも爆撃の脅威に晒されることになる。
それは、今までの局地戦とは全く異なる、国家存亡に関わる危機だった。
本土防衛は喫緊の課題となった。


B-29の脅威を認識した統合軍司令部は
直ちに敵がこの新型爆撃機をどこから運用するのか
その**「攻略線」を徹底的に洗い出す作業に取り掛かった。
考えられる主な攻撃拠点は、以下の二つだった。

① ソビエトの極東基地からの攻撃説

一つ目の可能性として浮上したのは
ソビエト連邦の極東地域に位置する基地からの攻撃だった。

「ソビエトの極東にB-29を配備し、シベリア方面から日本本土を攻撃する可能性は?」

ある参謀が口火を切った。地図上のソビエト極東地域は
日本列島と目と鼻の先に位置している。もしそこにB-29が配備されれば
短時間で日本本土に到達し、大規模な空襲を行うことが可能になる。

しかし、この説はすぐに議論の中で可能性が低いとされた。

「ソビエトは現在、日本との間に日ソ中立条約を結んでおります。
 形式的には中立国であり、連合軍側であるとはいえ
 米国がソビエト領内から日本を攻撃することは
 条約違反となり、ソビエトがこれを許すとは考えにくい」

「スターリンは、ドイツとの激戦を抱えており
 極東で日本を刺激して新たな戦線を開くことは避けたがるでしょう。
 少なくとも、B-29の基地として自国領を提供するメリットは薄い」

陸軍の対ソ情報部の分析も、ソビエトが現在
ドイツとの戦いに全力を注いでおり、対日関係をこれ以上悪化させる
意図はないという点で一致していた。確かにソビエトは連合軍側ではあるが
その行動はあくまで自国の利益に基盤を置いており
日ソ中立条約という外交的制約を無視してまで米国に協力するとは考えられなかった。

加えて、ソビエト極東の航空基地のインフラが
B-29のような大型機を多数運用できるほど
整備されているかどうかも疑問視された。滑走路の長さ
燃料備蓄、整備施設など、B-29の運用には大規模な基地が必要となるからだ。
そのため、ソビエトの極東基地からの攻撃説は、可能性は低いと判断された。

② 中国の基地からの攻撃説

二つ目の、そして最も有力な可能性として浮上したのは
中国大陸に位置する基地からの攻撃だった。

「残るは中国大陸だ。援蒋ルートを通じて
 米軍が航空基地を建設しているとの情報もある」

高倉が地図上の中国大陸に視線を落とすと、参謀たちは一斉に頷いた。
中国は、長らく日本との戦争を続けており、連合軍の一員として
米国の支援を受けている。そして、その広大な国土には
航空基地を建設できる余地がいくらでもあった。

「中国軍は、以前から米国の航空支援を求めていました。
 米軍がB-29を運用する拠点として、中国大陸を選ぶ可能性は極めて高い」

海軍の情報将校が分析結果を報告した。中国大陸からであれば
B-29は日本本土の主要都市のほとんどを爆撃範囲に収めることができる。

特に、中国南部から中部にかけての地域は
日本の勢力圏から比較的離れており、大規模な航空基地を建設するのに適している。
米軍は、中国への物資輸送路である「援蒋ルート」を通じて
すでに中国軍への支援を行っており、その過程で
航空基地の建設を進めている可能性は十分に考えられた。

統合軍司令部内での議論の結果、中国の基地からの攻撃説が
圧倒的に濃厚であると判断された。この結論は
陸海軍の情報部が独自に収集した情報と分析結果が
ほぼ完全に一致したことからも裏付けられた。


中国からのB-29の脅威が現実味を帯びる中、統合軍司令部は
その具体的な基地の位置を特定することを喫緊の課題とした。
 B-29のような大型爆撃機を運用できる飛行場は
通常の航空基地よりも大規模な滑走路や整備施設を必要とする。
そのような飛行場は、隠し通すことが極めて困難だからだ。

しかし、広大な中国大陸で、そのような大規模な飛行場を探し出すのは
並大抵のことではなかった。当時の航空偵察は、目視によるものか
あるいは限られた範囲での写真偵察に限られていた。

そこで、陸軍は、その高い性能と長大な航続距離を誇る
「百式司令部偵察機」(百式司偵)を投入することを決定した。
百式司偵は、日本の航空機技術の粋を集めた双発偵察機であり
その最高速度と上昇力、そして航続距離は、当時の日本軍機の中でも群を抜いていた。
敵戦闘機に捕捉されにくい高々度を高速で飛行し
長時間の偵察飛行を可能にする、まさにB-29基地捜索のためにあるような機体だった。

百式司偵の偵察パイロットたちは、極秘裏に召集され
この重大な任務を言い渡された。彼らは、敵地に深く侵入し
偵察飛行を行うという、極めて危険な任務に就くことになった。

「任務は、中国大陸に潜む新型爆撃機の基地を発見することだ。
 我々の未来は、諸君らの双眼鏡とカメラにかかっている」

彼らの出発前、高倉は自ら彼らに向けての
直筆の手紙を1人1人に書き激励したという。
彼の言葉には、この任務がいかに重要であるかという重みが込められていた。


百式司偵は、中国大陸の広大な空へと飛び立っていった。
彼らは、広範囲にわたる偵察飛行を敢行し、怪しい地形や
人工構造物を綿密にチェックした。日中は敵の航空機や
対空砲火を避けながら高々度を飛行し、夜は隠密行動で燃料補給を行う。
危険と隣り合わせの任務だった。

偵察パイロットたちは、過去の航空写真や
現地のスパイから得られた断片的な情報を基に
可能性のある地域を虱潰しに捜索していった。
重慶、昆明、桂林……。中国の主要都市や
これまで連合軍の支援を受けていた地域を重点的に探った。
そして、6日間の捜索ののち、ついにその情報はもたらされた。

それは、内陸部の成都郊外から発信された、興奮に満ちた無線交信だった。

「司令部!成都上空にて、未確認大型機体、確認しました!
 飛行場、二つあり!大型機、複数駐機中!」

偵察パイロットの報告は、興奮でわずかに震えていた。
彼らは、撮影した航空写真を持って帰投すると
その場で司令部の将校たちが食い入るように写真を見つめた。

写真には、それまで日本軍が目にしたことのない、巨大な飛行場が二つ
広大な平原に広がっている様子が写っていた。
そして、その滑走路の端には、間違いなく、B-29と思われる大型機が複数機
駐機しているのが確認されたのだ。その巨大な機体は
従来のB-17とは一線を画しており、その存在感は圧倒的だった。

「間違いない……B-29だ!」

高倉は、写真に写るB-29の姿を凝視した。
それは、紛れもない現実の脅威だった。
日本本土への本格的な空襲が、今、まさに始まろうとしている。


成都にB-29の基地が設営されていたことは
統合軍司令部にとって衝撃であると同時に、明確な標的を与えた。
成都は、重慶から比較的近く、中国の奥地に位置するため
これまで日本軍の直接的な攻撃が及ばない安全地帯と考えられていた。
米軍は、その安全性を利用して、大規模な爆撃基地を建設していたのだ。

高倉は、すぐに地図を取り出し、成都の位置を確認した。
成都から日本本土までの距離、そしてその間の防衛網を検討する。

「ここからであれば、日本本土の
 ほとんどの地域が爆撃範囲に入る。早急に対策を講じねばならない」

統合軍司令部は、直ちに成都のB-29基地を無力化するための
作戦立案に取り掛かることになった。それは、ニューギニアからの撤退作戦に続く
日本の存亡をかけた新たな戦いの始まりだった。
高倉の指揮のもと、陸海軍は、今度こそ連携を密にし
この新たなる脅威に立ち向かわなければならない。
日本の命運は、再び彼らの双肩に委ねられることになったのだ。
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