離反艦隊 奮戦す

みにみ

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大義のために

邂逅

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裏切りの発動から数日後の深夜。
ジョージ・O・パターソン提督率いる元STG-4艦隊
(空母ヘラクレス、戦艦アラバマ、サウスダコタ他)は
米軍の哨戒網を巧みに避け、パラオ近海に設定された極秘の合流地点に到達した

漆黒の海に、巨大なヘラクレスのシルエットが浮かび上がる。
艦橋で双眼鏡を覗くパターソン提督の隣には、ライアン中佐が立っていた。
艦隊全体が、張り詰めた沈黙を保っていた。
この合流が成功すれば、「裏切り者」としての逃亡劇は終わり
「大義」を貫くための新たな戦いが始まる。
失敗すれば、米軍か日本軍のどちらかに捕捉され、確実に滅亡だ。

午前二時。レーダーに反応があった。
パターソンの艦隊を遥かに凌駕する、旧式ながらも威圧的な艦影が四つ。

「提督、目標を確認。日本艦艇群です。軽巡一隻、駆逐艦三隻」
ライアン中佐が報告した。
「事前の情報と一致します。黒田少将の第21戦隊です」

パターソンは双眼鏡を下ろした。彼らの技術は最新鋭だが
日本側の艦艇は、彼らがかつて撃沈してきた旧式艦そのものだ。
しかし、この瞬間、彼らは敵ではなく、同志である。

「通信手、合言葉を送れ。識別信号は『合理(ゴウリ)』
 応答を確認次第、全ての射撃管制システムを休止。友好信号を送る」

厳重な手順を経て、黒田少将率いる軽巡洋艦 鬼怒(キヌ)
そして駆逐艦浦波(ウラナミ)、敷波(シキナミ)、天霧(アマギリ)が
ヘラクレスを中心とする元米艦隊に接近した。

パターソンは、ライアン中佐と少数の護衛のみを連れ
内火艇でヘラクレスから降り、軽巡洋艦 鬼怒へと向かった。

日本艦艇の艦上は、厳重な警戒態勢が敷かれていた。
乗組員たちは、最新鋭の敵空母から降りてくる
元敵国の提督を、複雑な感情で見つめていた。敵意、好奇心、そして微かな期待。


軽巡洋艦 鬼怒の甲板で、パターソンは黒田宗治郎少将と再会した。
黒田は、軍服を着用しており、冷静沈着な立ち居振る舞いは変わらないが
その目には、歴史的な一歩を踏み出すことへの緊張感が滲んでいた。

二人は、周囲の乗組員が見守る中で、無言で向き合った。

黒田が先に口を開いた。
「パターソン中将。貴方は、本当に実行された。
 貴方の大義のために、祖国と栄誉を捨て、我々のもとに来た」

パターソンは、簡潔に答えた。
「約束は果たした。私は、艦隊の命と引き換えに
 米国の最新技術と戦略ノウハウを、貴方の大義に託す。
 これが、腐敗したシステムに対する、我々の最初の打撃だ」

パターソンは、防水ケースに入った一通の書類を黒田に手渡した。
中には、VT信管の設計図と製造工程、そして高性能レーダーの運用マニュアル
及び統合射撃管制システムの詳細なデータが収められていた。

「この技術は、戦局を一変させる力を持っています。
 しかし、最も重要なのは、『運用思想』です。この技術は
 無駄な英雄的な犠牲を避けるためにある。
 艦を失うことなく、敵を排除し、人命を救うためにある」

黒田は書類を受け取り、その重みを両手に感じた。
それは、日本海軍が喉から手が出るほど欲していたものだった。

「承知している、パターソン提督」黒田の目つきが鋭くなった。
「私の大義もまた、非合理的な消耗を止めることです。
 私は、この技術と艦隊を、精神主義ではなく
 科学と合理性に基づいて運用することを、この海で誓約します」

この瞬間、二人の「合理主義者の同盟」は、単なる口約束ではなく
血を伴わない、しかし最も強固な軍事同盟として成立した。

黒田は、ヘラクレスの艦影を見上げ、誇らしげに言った。

「貴方の艦隊は、今日から私の『独立遊撃艦隊』の中核となる。
 そして、空母ヘラクレスは、無線運用上、『龍鶴(リュウカク)』という仮称を用いる。
 龍と鶴、日米の技術の融合の象徴として」


合流後、最も重要なのは、元米軍将兵たちの士気を統一し
日本軍の艦隊の一員としてのアイデンティティを与えることだった。

ヘラクレス(龍鶴)の格納庫で、パターソンとライアン
そして黒田少将は、各艦から集められた元米軍の乗組員たちに向けて訓示を行った。

黒田少将は、まず流暢な英語で彼らに語りかけた。

「諸君。私は黒田宗治郎だ。諸君は、裏切り者として
 祖国から永遠に追われることになるだろう。しかし、私は断言する。
 諸君は、腐敗と非合理に抗した、最も高潔な軍人たちだ」

「我々の共通の敵は、戦術を理解せず、将兵の命を功名心のために浪費する、
 日米双方の上層部だ。諸君の提督、パターソン中将がもたらした技術と
 合理的な運用思想があれば、我々は彼らに、真の戦争のやり方を教えることができる」

そして、パターソン提督が、壇上に進み出た。
彼の後ろには、彼を支えるライアン中佐と、共に闘うことを決意した黒田少将がいた。

「諸君、我々が選択したのは、安易な道ではない。
 だが、我々は、無意味に死ぬ運命から、自らの手で逃れた。
 我々の任務は、この技術を最大限に活用し、戦闘の効率を極限まで高めることだ」

パターソンは、アラバマとサウスダコタの乗組員に向かって言った。

「アラバマ、サウスダコタの諸君!貴官たちの高性能レーダー誘導射撃は
 夜の戦場を我々のものにする!ボルチモア、オールバニの諸君!
 貴官たちのVT信管対空砲火は、彼らの航空機を無力化する!
 我々は、決して無駄な突撃はしない。常に勝利と生存を合理的に追求する!」

彼の言葉は、将兵たちの胸に、「裏切り」という重荷ではなく
「合理的な生存」という新しい希望の火を灯した。
彼らは、自らの命が、ようやく価値あるものとして扱われることを知ったのだ。


軽巡洋艦 鬼怒の通信室では、パターソンの指導の下、
技術の移植作業が急ピッチで進められていた。
特にアラバマとサウスダコタの射撃管制システムは
日本側の技術者にとってまさに「神の道具」だった。

黒田少将は、独立遊撃艦隊の編制を完了させた。

空母 ヘラクレス(龍鶴) 独立遊撃艦隊 旗艦 パターソン提督の技術力の象徴。
戦艦 アラバマ 主力砲戦艦 レーダー夜戦の核。
戦艦 サウスダコタ 主力砲戦艦 対空・対水上能力で艦隊を支える。
重巡 ボルチモア 索敵・防空 VT信管による対空弾幕の要。
重巡 オールバニ 索敵・防空 レーダー誘導で敵艦隊を翻弄。
軽巡 鬼怒 第21戦隊 旗艦 黒田少将の乗艦。日本側との連携。
駆逐艦 オブライエン 他6隻 護衛・突撃 ライアン中佐が指揮。忠誠心は最も厚い。
駆逐艦 浦波、敷波、天霧 護衛 黒田少将配下。日本側との橋渡し。
黒田少将は、パターソン提督と共に、ヘラクレスの艦橋に戻った。
彼らは、日本本土、呉を目指して針路を北へ取る準備をしていた。

黒田はパターソンに尋ねた。
「パターソン提督。米艦隊が貴方方を追跡してくる可能性があります。
 本土への航路は危険ですが、よろしいか?」

パターソンは、故郷から遠ざかる海の向こうを見つめた。

「追跡者は必ず来る。特に、ジェームズ・ハリソン提督が指揮官になれば
 なおさらだ。だが、この艦隊の真価を発揮するには、燃料、整備、そして何よりも
 黒田少将の指導力が必要だ。私は、この『大義』を達成するためなら、どんな危険も冒す」

「分かりました」黒田は頷き、艦隊全体に命令を下した。
「全艦、針路、北北西!速力二十節!我々は、合理主義者の旗の下、新たな戦場へと向かう!」

ヘラクレス(龍鶴)の巨大な船体は、静かに波を蹴り、日本本土へと針路を取った。
彼らの航跡は、単なる裏切り者の逃走ルートではなく、世界を救うための
合理主義者の壮大な賭けの始まりを告げるものだった。
彼らがもたらす技術の炎は、間もなく太平洋の夜戦を
そして歴史の流れを焼き尽くすことになるだろう
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