離反艦隊 奮戦す

みにみ

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米軍への痛撃

初戦

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1944年4月下旬。時刻は午前一時三十分。
場所は、エニウェトク環礁西方海域。
月は隠れ、海はインクを流したような漆黒の闇に沈んでいた。
乙演習作戦の目標、米軍の補給船団がこの海域を通過する予測時刻が迫っていた。

独立遊撃艦隊の旗艦、戦艦アラバマの艦橋は、
完全に遮光され、計器の微かな光だけが浮かび上がっていた。
パターソン提督は、静かに中央の海図台に立っていた。
彼の隣には、ライアン中佐が双眼鏡を構えている。

「提督、米軍の哨戒機は確認できません」ライアンが囁いた。
「彼らは夜間の航空偵察を軽視しています。まさに提督の予測通りです」

「彼らの脳裏にはこの海域では味方への誤射があり得て
 夜間は目視に頼るしかないという固定観念がある、ジャック」
パターソンは答えた。
「我々は、その固定観念を、これから爆薬と鋼鉄で叩き壊す」

その時、先鋒を務める重巡洋艦ボルチモアから、静かな無線が入った。
通信は、パターソン提督が特別に設定した、超指向性の低出力周波数を通じて行われていた。

「こちらボルチモア、識別番号『アルファ・シックス』。
 目標反応を捕捉。距離3万1,000メートル。大型目標が複数、高密度に集中。
 護衛艦艇と思われる艦影四つを確認。針路、予測ルートと一致」

ボルチモアの高性能レーダーが、闇の彼方にいる敵を、昼間のように正確に捉えていた。
米軍の巡洋艦隊は、自分たちが既に
透明な敵の射程内に入っていることに、微塵も気づいていなかった。

パターソンは、冷静にアラバマの艦長に命じた。
「艦隊を戦闘態勢。速度を上げず、レーダー波形を絞れ。
 アラバマ、サウスダコタ、火器管制システムにボルチモアからの
 データをフィードせよ。オールバニは、北西の警戒に当たれ」

黒田少将が乗る軽巡洋艦 鬼怒の艦橋では
黒田がパターソンの指揮の冷徹さに戦慄していた。

「距離3万メートルで、既に射撃準備か…」
黒田は、鬼怒の艦長に囁いた。
「我々の旧式艦なら、せいぜい2万メートルまで接近しなければ
 これほどの精度は出せない。しかも、敵はまだ我々のレーダーを捉えていないだろう」

黒田少将は、アラバマの「目」である高性能レーダーの
圧倒的な優位性を肌で感じ、深くため息をついた。


パターソン提督は、交戦距離を2万4,000メートルに設定した。
これは、米軍艦艇の主砲が効果的な反撃を行うには遠すぎる距離であり
パターソンの艦隊が持つレーダー射撃管制にとっては「必殺の距離」だった。

アラバマの射撃管制室は、静寂に包まれていた。
元米軍の士官たちは、ヘッドセット越しに流れるパターソンの指示に
機械的な精度で従っていた。彼らの手元にある照準器は、
もはや目視のためのものではなく、レーダーが提供する数値と、
コンピューターが計算した予測弾道を確認するためのものだった。

「目標巡洋艦、距離2万4,000、方位075。
 風速、艦の動揺を計算に含めよ。標的艦の速力変化なし」
パターソンの声は、感情を完全に排除した、計算機のような声だった。

米軍の護衛艦隊の旗艦は、重巡インディアナポリスだった。
インディアナポリスの艦長は
夜間の哨戒に退屈しており、敵襲の可能性など微塵も考えていなかった。

パターソンは、ライアン中佐に命じた。
「駆逐艦は、巡洋艦の側面に回り、魚雷発射準備。
 ただし、斉射許可が出るまで待て。補給船団の乗組員が巻き込まれるのを
 最小限に抑えるため、護衛艦艇にのみ集中する」

ライアン中佐は、その合理的な人道主義に、改めてパターソンの大義を感じた。
彼は、オブライエンに静かに指令を送った。

距離が2万4,000メートルに達した。

パターソンは、マイクを握り、アラバマとサウスダコタに、最も短い、冷徹な命令を下した。

「全門、斉射(ファイア)」


午前一時四十五分。漆黒の闇夜に、戦艦アラバマとサウスダコタの巨砲が火を噴いた。
轟音が響き渡ると同時に、合計18門の40.6cm砲弾が
完璧な弾道を計算され、闇の彼方へと吸い込まれていった。

発射から約45秒後。米軍護衛艦隊の真上、遥か遠方で、閃光が迸った。

インディアナポリスの艦橋。艦長はコーヒーを飲んでいた。

「艦長!右舷方向に閃光!照明弾か!?」
見張りが叫んだ直後、巨大な爆発が艦体を揺るがした。

「馬鹿な!命中弾!?どこからだ!」

アラバマの射撃管制がもたらした砲弾は、まさに科学による暗殺だった。
最初の斉射の複数の砲弾が、インディアナポリスの艦橋と機関部に直撃。
艦は瞬時に火災と傾斜に見舞われ、通信が途絶した。

「第二巡洋艦、マイアミにも命中!駆逐艦二隻、沈黙!」
ボルチモアのレーダー室が、戦果を報告した。二回目の斉射の準備は、既に完了している。

米軍艦隊は、完全にパニックに陥っていた。

「敵影なし!レーダーに反応なし!どこだ!どこから撃たれた!?」

彼らは、レーダーが捕捉できないほど遠距離から
夜闇そのものに撃たれたような感覚に襲われた。
彼らの目に映るのは、突如として降り注ぐ爆炎と破片だけだった。
彼らにとって、独立遊撃艦隊は、まさに「透明な敵」だった。

パターソンは、冷静にアラバマの射撃管制に修正指示を送った。
「残存駆逐艦二隻に集中。目標、動力部。彼らに反撃の機会を与えるな」

彼の指令通り、アラバマとサウスダコタの主砲は
さらに二度、三度と火を噴き、残った米軍護衛艦艇を
反撃の意思さえ持たせることなく、海の藻屑とした。

僅か八分間の交戦だった。米軍護衛艦艇は、一方的な破壊により
重巡二隻、駆逐艦四隻が機能停止あるいは沈没。
独立遊撃艦隊は、一発の反撃も受けることなく、無傷だった。


軽巡洋艦 鬼怒の艦橋で、黒田少将は、終始、言葉を失っていた。
彼は、日本の夜戦技術に絶対的な自信を持っていた。
しかし、今夜、彼が見たものは、戦争のパラダイムそのものの転換だった。

彼は、静かに、そして震えるような声で呟いた。

「俺たちはこんな化け物と戦ってたのか…そりゃ勝てるはずもない」

彼は、パターソン提督がもたらした技術の優位性が
日米間の国力の差を凌駕するほど恐ろしいものであることを、この目で見て理解した。
日本の駆逐艦の決死の魚雷突撃や、九三式酸素魚雷の威力など
アラバマの主砲が放つ、理性に基づく破壊の前では
あまりにも原始的で、あまりにも非合理的な消耗戦術に過ぎなかった。

黒田は、パターソンへの尊敬と
自国の非合理な指導者たちへの憤りが入り混じった複雑な感情を抱いた。
彼は、鬼怒の通信長に命じた。
「直ちにアラバマへ状況を報告。損害なし。護衛艦艇全て沈黙。補給船団の動きは?」

パターソンからの応答は、彼の大義を再確認させるものだった。

「補給船団本体への砲撃は最小限に留めた。非戦闘員に不必要な犠牲は求めない。
 乙演習作戦は、護衛艦艇の殲滅という点で、完璧に成功した」

パターソン提督は、米軍の物量優位を打ち破り
戦線を混乱させ、そして何よりも、人道的な原則を貫くという
彼自身の「大義」の最初の証明を成し遂げたのだ。

黒田は、アラバマの艦影を見つめながら、自嘲気味に笑った。
パターソンは、裏切り者であると同時に、彼が見てきた誰よりも高潔で
合理的な軍人だった。そして、彼は今、その合理性の化身と、共闘している。

交戦の炎が消え、再び闇が海を支配した。
独立遊撃艦隊は、その夜、太平洋の戦局を
誰も気づかないうちに、根本から変えてしまったのだった。
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