異聞第二次世界大戦     大東亜の華と散れ

みにみ

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戦火の拡大と新世代の戦争

バトルオブブリテン開幕

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フランスの電撃的陥落は
イギリスを深い絶望の淵に突き落とした。
ドーバー海峡を隔ててわずか数十キロメートル。
対岸は、今やドイツの占領下にあった。
1940年、奇跡的に阻止されたはずの「アシカ作戦」が
1947年の冬、現実の脅威として再び迫り来ていた。
しかし、今回、ドイツ軍が準備しているのは、
かつてのそれとは比べ物にならない、新時代の戦争だった。


フランス全土を掌握したドイツ軍は
休む間もなくイギリス本土侵攻作戦、通称「アシカ作戦」の準備を開始した。
フランス北部の飛行場は、瞬く間にドイツ空軍の新しい基地へと変貌し
ジェット機の発着訓練の轟音が響き渡っていた。

1947年1月初旬。まず、ドイツ空軍は
Ju 287ジェット爆撃機と、既にフランス侵攻で猛威を振るった
Ar 234「ブリッツ」ジェット爆撃機による大規模な戦略爆撃を開始した。
彼らの目標は、イギリスの主要な工業地帯、港湾施設、そして飛行場だった。

「ブリッツ」の編隊が、ロンドンの上空を通過する。
その速度は、イギリス空軍のどの迎撃機をも凌駕していた。
爆弾は、テムズ川沿いの工場地帯に正確に着弾し、
巨大な爆炎が立ち上った。機械工場、兵器工場、
そして航空機工場は、次々と破壊され、生産ラインは停止を余儀なくされた。

「クソッ、速すぎる!追いつけない!」
イギリス空軍の管制官が、苛立ちを露わに叫んだ。
レーダーは敵機を捉えるものの、そのあまりの速度に、
迎撃機の発進命令は常に後手に回った。
ようやく発進したイギリス空軍のグロスター ミーティア F.4が、
ドイツのジェット爆撃機を追跡するも、その距離は開くばかりだった。

Ju 287は、さらに大規模な爆撃能力を持っていた。
複数のジェットエンジンを搭載したその巨体は、
大量の爆弾を積載し、イギリス中部のバーミンガムや
マンチェスターの工業地帯を襲った。これらの都市は、
イギリスの産業の心臓部であり、爆撃によって生産能力は
壊滅的な打撃を受けた。煙突からは煙が上がらず、
工場のサイレンは鳴り響くことなく、生産は完全に停止した。
イギリスの戦争遂行能力は、開戦からわずか数週間で、根底から揺さぶりをかけられていた。


ドイツ軍の戦略爆撃が続く中、イギリス空軍は必死の抵抗を試みた。
彼らの主力ジェット戦闘機は、グロスター ミーティア F.4だった。
ミーティアは、イギリスが独自に開発したジェット機であり、
その登場は、イギリスの航空技術力の高さを物語っていた。
しかし、彼らが直面したのは、ドイツ軍が持つさらに進んだ技術と
それを操る熟練のパイロットたちだった。

そして、ドイツ空軍は、さらに強力な
新型ジェット戦闘機の試作機を投入してきた。
それは、フーケ・ヴルフTa 183「フッケバイン」と呼ばれる
驚くべき性能を持つ機体だった。Ta 183は、Me 262「シュワルツ」よりも
さらに洗練された空力設計と、強力なエンジンを搭載し、
その高速性と旋回性能は、当時のどのジェット戦闘機をも凌駕すると言われていた。

「フッケバイン」とミーティアF.4の間の空中戦は、
まさに新時代の航空戦の幕開けを告げるものだった。
ドーバー海峡上空、そしてイギリス南部の空は、
金属音とジェットエンジンの轟音、そして激しい機銃の閃光で満たされた。

「敵機接近!フッケバインだ!」
イギリス空軍のミーティアF.4のパイロット
ジョン・スミス少尉は、ヘッドセット越しに管制官の叫びを聞いた。
彼は、フランスでのドイツ軍の圧倒的な制空権の掌握を見て
ジェット機同士の戦闘がいかに苛烈なものになるかを予想していた。

彼のミーティアは、全速力で加速する。
しかし、背後から迫る「フッケバイン」の速度は、それを上回っていた。
「くそっ、追いつかれる!」
スミスは、必死に操縦桿を引き、機体を急旋回させる。
ミーティアの操縦感覚は、レシプロ機とは全く異なっていた。
急激な加速と、高い速度域での旋回は
パイロットにG(重力加速度)を強烈に感じさせる。

しかし、「フッケバイン」は、ミーティアの旋回半径をさらに上回る
驚異的な旋回性能を発揮した。スミスのミーティアの背後を取った
「フッケバイン」は、その機首をミーティアに向け、20mm機関砲を火を噴いた。
「被弾!機体制御不能!」
スミスの機体は、火花を散らしながら、真っ逆さまに海へと落ちていった。

イギリスのパイロットたちは、レシプロ機とは
異なるジェット機の操縦感覚と戦術に戸惑いつつも、
適応を迫られていた。彼らは
これまでの空戦の常識が通用しないことを痛感していた。
レシプロ機時代の、緩やかな旋回戦や一撃離脱戦法は
ジェット機同士の高速戦闘では通用しない。瞬時の判断力
そして何よりも、機体の性能を極限まで引き出す操縦技術が求められた。

イギリス空軍司令部では、司令官が報告書に目を落としていた。
「ミーティアの損失率が…高すぎる。フッケバインの性能は
 我々のミーティアを完全に凌駕している。
 彼らは、我々が開発したミーティアを
 さらに上回るジェット機を、すでに投入しているのだ。」

司令官は、深いため息をついた。
彼らは、ドイツの技術開発のスピードを過小評価しすぎていたことを
今改めて思い知らされていた。


ドイツ空軍のジェット機は
イギリス本土上空を縦横無尽に駆け巡り、制空権を確立しようとした。
イギリス空軍は、本土防衛という背水の陣で応戦したが
その損失は甚大だった。しかし、イギリスのパイロットたちは
決して諦めなかった。彼らは、家族と祖国を守るため
そして自由のために、圧倒的な性能差を前にしても、勇敢に戦い続けた。

夜間には、ドイツのジェット爆撃機が
ロンドンや主要都市への夜間爆撃を行った。
イギリスの防空網は、電子妨害によって混乱し、サーチライトも
高速で飛行するジェット機を捉えきれない。
爆弾が降り注ぐ中、市民たちは防空壕へと避難し、恐怖に震える夜を過ごした。

このブリテン島上空の死闘は、まさに新時代の航空戦の幕開けだった。
それは、ジェット機が空の主役となり、
その速度と技術力が、戦局を大きく左右することを
まざまざと見せつけるものだった。イギリスは、
空中戦で苦戦を強いられ、ドイツ軍の爆撃によって甚大な被害を受けながらも、
その誇り高き抵抗を続けていた。しかし、
その抵抗は、いつまで持ちこたえられるのか、誰も確信を持つことができなかった。

イギリス政府は、この空の戦況に危機感を抱いていた。
ドイツ軍が制空権を完全に掌握すれば、
本格的な本土上陸作戦が開始されるのは時間の問題だった。
チャーチル首相は、国民に向けて、さらなる苦難を覚悟するよう訴えた。
しかし、その声には、以前のような揺るぎない自信が感じられなくなっていた。

「我々は、空で苦戦している。これまでの戦術では、
 彼らのジェット機には対抗できない。
 我々は、新たな技術、新たな戦術を、早急に開発しなければならない。」
イギリス空軍の将官が、焦燥感を滲ませた声で言った。
彼らは、来るべき本土上陸作戦に備え、限られた資源の中で
対航空機、対戦車兵器の開発を急ぐことを決意した。

ブリテン島上空の死闘は、新時代の戦争が、
もはや旧時代の戦術や兵器では対抗できない次元に突入したことを、
世界に強く印象付けた。それは、イギリスの苦難の始まりであり、
連合国が、その存亡をかけた新たな挑戦に直面していることを示すものだった。
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