異聞坊ノ岬沖海戦      此れは特攻作戦に非ず

みにみ

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混成攻撃隊

桜散る

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放たれた桜花は、3本のロケット全てを一気に点火した。
 轟音と共に、機体は白い噴煙を上げながら、加速していく。
それは、一瞬で時速900kmに達し、海面に向けて緩やかに降下しながら
米艦隊の輪形陣へと突っ込んでいった。海面高度スレスレまで降下した桜花は
まるで海面を滑るかのように、左右に回避運動を繰り返しながら、目標を定める。

「敵のロケットが突入してきます!」

米艦隊の各艦から、悲鳴のような報告が上がった。
レーダーには、信じられないほどの速度で迫る光点が映し出されている。

「何! 直ちに叩き落とせ!」

米艦隊司令官からの怒号が響くが、時既に遅し。

「ダメです! 早すぎます!」

米軍の対空砲火が、一斉に火を噴く。
無数の機銃の曳光弾や両用砲弾が、花火のように桜花の機体を掠める。
しかし、時速900kmで突進する桜花にとって
それは一瞬で通り過ぎる、目障りな光に過ぎなかった。

高橋少尉は、桜花の狭いコクピットの中で、揺れる機体を必死に操縦していた。
彼の視界には、米艦隊の巨大な艦影が迫っていた。
彼の胸には、山岡少佐の最後の言葉が深く刻まれていた。
「皆の分まで」。自らが、己の、いや、皆の命を乗せた花火に乗っているのだ。
そんな火花など、気になるものか。

「決めた。あの母艦だ」

高橋少尉は、ターゲットを定めた。狙われたのは
米海軍の主力空母の一隻、USSイントレピッドだった。
巨大な飛行甲板、その下に広がる格納庫。彼の頭の中には
基地で叩き込まれた攻撃目標の優先順位が明確にあった。

「目標まで……3km……2km……」

カウントダウンが、彼の脳裏で響く。
全身が、猛烈な加速Gに押し付けられる。

「今までありがとう。いつか、また会えたなr…」

そこまで呟く時間も、桜花は高橋少尉に与えなかった。
彼の言葉は、最期の瞬間に吸い込まれていった。
桜花は、その機体を翻し、イントレピッドの格納庫に対して
丁度90度の角度で、見事なまでに命中した。

1200kgの徹甲爆弾は、格納庫横の比較的薄い装甲を、容易く撃ち抜いた。
米軍の第一次攻撃隊の帰還機を整備していた格納庫内で
凄まじい大爆発を起こした。 艦の腹を抉られるような轟音が響き渡り
イントレピッドの巨体が大きく揺れた。格納庫内では
燃料と弾薬が連鎖的に誘爆し、凄まじい炎が艦内を焼き尽くす。
真っ黒な煙が、イントレピッドの飛行甲板から空高く噴き上がり
艦は急速に傾斜を深め始めた。


燃え盛りながら高度を落としていく山岡少佐の陸攻から
その全てが見えた。眼下では、イントレピッドが黒煙を上げ
明らかに致命的な打撃を受けている。

「はっはっは、行った行った!」

山岡少佐は、力なく笑った。彼の目には
高橋少尉が果たした「功労」が、はっきりと映っていた。

「敵空母一隻撃破……まぁ悪くはないか」

彼の言葉には、勝利の喜びと、しかし同時に
多くの部下を失ったことへの、深い悲しみが混じっていた。
自らの使命を全うした高橋少尉の姿に、彼は自らの終わりの時を悟る。

その時、山岡少佐の陸攻の上を、無数の黒い影が、まるで嵐のように舞い始めた。

「お、陸軍様のお出ましじゃないか」

それは、陸軍航空隊の編隊だった。海軍の消耗戦の後に
彼らが今まさに、海軍航空隊に続いて米任務部隊に痛撃を仕掛けようとしていたのだ。
飛行第一戦隊の疾風と隼、飛行第三戦隊の九九式双発軽爆撃機(特攻部隊)
そして飛行第十四戦隊の四式重爆飛龍(イ号誘導弾搭載)が、次々と米艦隊へと突入していく。

「あとは頼みましたぜ、神兵さんよ」

山岡少佐はそう呟くと、胸元から拳銃を取り出した。
彼は、自分が言った通り、「若い者だけを死なせることはない」と
自らの信念を貫いた。部下たちを死地に導いたことへの後悔
そして最後の作戦を全うしたというわずかな満足感に包まれながら
彼は、燃え盛る機内で、自らの頭部を撃ち抜き、静かに散った。

これによって指揮官を失った海軍航空隊は、事実上壊滅した。

帰還した機体は、その極めて少なかった。
零戦:艦載機14機、基地航空隊18機(合計32機)
天山:艦載機2機
彗星一二型:0機
彗星三三型:基地航空隊3機
一式陸攻:0機
銀河:0機

という、ほぼ全滅に近い壊滅的な被害を受けた。
多くの熟練パイロットと、貴重な航空機が失われた。
それは、日本海軍航空隊の、文字通りの終焉を意味した。

だが、その代償として、米空母イントレピッド一隻を撃破した。 
黒煙を上げ傾斜を深めるイントレピッドは、米軍にとっても大きな痛手だった。

海軍が切り開いたこの突破口に続けと、陸軍航空隊が
その使命を果たすべく、米艦隊へと猛然と突入していった。
彼らは、海軍の犠牲を無駄にすることなく、この総攻撃を完遂する覚悟だった。
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