異聞坊ノ岬沖海戦      此れは特攻作戦に非ず

みにみ

文字の大きさ
16 / 35
沖縄沖の鎮魂歌

最大戦速一杯

しおりを挟む
激戦の火蓋が切られた沖縄上空での海軍
そして陸軍航空隊による総攻撃は、米海軍第58任務部隊に壊滅的な打撃を与えた。
空母5隻が航行不能または大破炎上という
予想をはるかに超える戦果を挙げた航空部隊は
それぞれの使命を終え、あるいは限界を超えた損害を負いながら
九州の基地へと撤退を開始した。


まず、陸軍航空隊の隼、疾風、そして飛龍隊が
沖縄上空から本土への帰路についた。
彼らは、自らが成し遂げた戦果を胸に、燃え盛る米艦隊の残骸を後目に
帰途につく。その撤退の際、彼らは日本艦隊の上空を通過した。

陸軍機は、海軍の艦隊上空を通過する際、バンクをしながら
敬意を表すかのように翼を振った。それは
海軍航空隊が血を流して切り開いた突破口があったからこそ
自分たちがこれほどの戦果を挙げることができたという
無言の感謝と連帯の表明だった。海軍の将兵たちも
燃え盛る空母の惨状から目を離し、頭上を通過する陸軍機を見上げた。
彼らの目には、疲労と安堵、そして、失われた多くの命への鎮魂の念が混じり合っていた。


その直後、大和の艦橋に、待望の入電が届いた。

「伊藤長官! 飛龍隊長・斎藤少佐機より入電です。
 『敵空母五隻撃破確実也。貴艦ラノ幸運ヲ祈ル。』と!」

通信員の声が、興奮と疲労でかすれていた。艦橋にいた誰もが
その言葉に息を呑んだ。米空母5隻撃破。
それは、これまでの戦局を完全に覆す、想像を絶する大戦果だった。

伊藤整一長官は、その報に深く頷いた。
彼の表情には、これまでになかった確かな手応えと、静かな決意が宿っていた。

「よくやってくれた。その数なら、まだ我々にも勝機はある」

彼の言葉は、艦橋にいた全ての将兵の心に、希望の光を灯した。
航空戦力で圧倒的な劣勢にあった日本が
まさかこれほどの戦果を挙げるとは、誰もが予想していなかった。
この勝利は、艦隊決戦へと向かう彼らの背中を、力強く押すものとなった。

「各艦の状況は?」

伊藤長官は、冷静に状況報告を求めた。
戦果は大きいが、その代償もまた、決して小さくなかった。

大和艦長・有賀幸作大佐が、重い口を開いた。
「艦載機部隊はほぼ壊滅です。艦隊までついてきた彗星
 天山も全て基地に帰らせました。
 今、艦隊に残っているのは、零戦五二型丙が28機のみです」

艦載機部隊の損害は、予想以上に深刻だった。
事実上、艦隊から航空戦力は失われたに等しい。
残る零戦も、護衛戦闘機として細々と運用できる程度で
攻撃には全く寄与できないだろう。

伊藤長官は、静かにその報告を聞いた。
「空母は攻撃には役に立たんか……天城の状況は?」

彼は、先ほどの攻撃で弾火薬庫に誘爆し
大破炎上した天城の状況を尋ねた。

森下参謀が、沈痛な面持ちで報告した。
「現在、艦隊にどうにかついてきていますが、遅れ気味です」

天城は、航行能力こそ維持しているものの
損傷は深刻で、艦隊の速力についていくのがやっとだった。
このままでは、来るべき艦隊決戦において、足手まといとなる可能性が高い。

伊藤長官は、即座に決断を下した。
「丁型駆逐艦をつけて撤退させろ。まだ帰るだけの燃料はあるはずだ」

この命令は、天城と、その乗組員の命を救うための
最後の配慮だった。無傷の駆逐艦を護衛につけて
天城を後方に撤退させることで、艦隊決戦における負担を軽減し
同時に、わずかながらも「生きて帰る」可能性を確保する。


こうして、午後12時34分、天城は、丁型駆逐艦の
楡、蔦、菫、萩の4隻を護衛につけて、戦場からの撤退を開始した。
炎上し、黒煙を上げながら後方へと去っていく天城の姿は
日本艦隊の、そして何よりも、航空戦力の終焉を象徴しているかのようだった。
しかし、彼らの撤退は、残る艦隊が
迷いなく最後の決戦へと突き進むための、不可欠な手順でもあった。


天城が艦隊を離れ、残る艦隊は、航空兵力のほとんどを失い
甚大な被害を被った米艦隊に向けて、迷いなく躍進を開始した。

米艦隊は、その巨大な空母戦力を事実上喪失していた。
最早、彼らは、航空攻撃による優位性を保つことはできない。
そして、日本艦隊もまた、航空兵力をほとんど失っていた。

互いに航空戦力のない状態――残されたのは、文字通りの艦隊決戦のみだった。

広大な太平洋の海上で、日本の最後の艦隊と
米海軍第58任務部隊の残存艦艇が、互いにその巨体を向け合った。
空母を失った米艦隊は、その主力である戦艦や巡洋艦、駆逐艦で
日本の艦隊を迎え撃つ覚悟だった。

日本艦隊の先頭を進むのは、世界最大の戦艦、大和だ。
その巨体は、戦果を挙げた興奮と
これから始まる死闘への覚悟を乗せ、力強く波を切り裂いていく。

「大和の世界最大最強の46cm主砲が、その牙を沖縄に向ける」

その時、大和の巨砲は、静かにしかし威圧的に、敵艦隊の方向へと旋回を開始した。
その砲口は、沖縄の海に、そして日本の未来に
最後の希望を灯すかのように、重々しく、そして力強く、敵を見据えていた。
それは、航空機の時代にあって、なお艦砲射撃による決着を求められた
最後の艦隊決戦の幕開けだった。将兵たちの心臓は、高鳴っていた。
彼らは、自らの命を賭して、この国の運命を決める、最終決戦へと挑もうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

九九式双発艦上攻撃機

ypaaaaaaa
歴史・時代
欧米列強に比べて生産量に劣る日本にとって、爆撃機と雷撃機の統合は至上命題であった。だが、これを実現するためにはエンジンの馬力が足らない。そこで海軍航空技術廠は”双発の”艦上攻撃機の開発を開始。これをものにしして、日本海軍は太平洋に荒波を疾走していく。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる …はずだった。 まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか? 敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。 文治系藩主は頼りなし? 暴れん坊藩主がまさかの活躍? 参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。 更新は週5~6予定です。 ※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

処理中です...