異聞坊ノ岬沖海戦      此れは特攻作戦に非ず

みにみ

文字の大きさ
26 / 35
沖縄沖の鎮魂歌

大和被弾

しおりを挟む
制空権を確保した日本の陸海軍航空隊は
勝利の歓声に包まれながら、デヨ艦隊へと雪崩れ込んだ。

「かかれ!」
「突撃せよ 海軍の名に傷をつけるな!」

各隊の指揮官の咆哮が無線に響き渡っていた。
それは、この戦いにかける彼らの最後の決意の表れだった。
一式戦三型隼、四式戦疾風、そして陸軍の決死の二式戦鍾馗
九九式襲撃機、さらには海軍の零戦、彗星、銀河といった多種多様な航空機が
残された米艦隊へと一斉に猛攻を仕掛けたのだ。
彼らは、昨日までの激戦で失われた多くの戦友たちの
無念を晴らすかのように、敵艦隊に突進していった。

しかし、米艦隊の対空砲火は、依然としてその猛威を振るっていた。
デヨ少将を失い、司令部が混乱に陥っていたにもかかわらず
個々の艦艇が持つ対空火器は、途切れることなく火を噴いていたのだ。
特に、近接防御に特化したボフォース40mm機関砲やエリコン20mm機関砲が
文字通りの弾幕を形成し、日本の航空機を迎え撃っていた。
夜空に無数の曳光弾が飛び交い、それはまるで光の網のようだった。

「左翼被弾!」「機体制御不能!」

無線の向こうから、次々と悲痛な叫びが聞こえてきた。
対空砲火を潜り抜けた機体も、その後の攻撃で被弾し
爆発炎上する姿がいくつも確認された。未熟な技量の
パイロットが操縦する多数の機体が、この猛烈な対空砲火によって撃墜され
あるいは墜落していったのだ。 それは
制空権を確保した後の攻撃とは思えないほどの、一方的な消耗戦だった。

日本の航空隊は、確かに数で優位に立っていた。
しかし、熟練したパイロットの多くは、これまでの激戦で失われていたのだ。
残されたのは、短期間の訓練で前線に送られた
いわば「未熟な」パイロットが大多数だった。彼らは
その決死の覚悟だけを胸に、敵艦に突進していったが
精緻な攻撃を行うには、あまりにも技量が不足していた。

結果として、敵艦に有効な被害を与えられたのは、
極めて少数のベテランパイロットばかりだったのだ。 
彼らは、わずかに残された技量と経験を活かし
対空砲火の弾幕の隙間を縫って敵艦に肉薄した。

そのわずかな戦果は、米巡洋艦へと向けられた。
米巡洋艦2隻に、合計3機の特攻機が突入し、火災を発生させるのみだった。 
これまでの航空攻撃に比べれば、その被害は極めて限定的だった。
爆弾が炸裂し、甲板から黒煙が上がる様子は確認されたものの
決定的なダメージを与えるには至らなかったのだ。
それは、日本の航空隊が、自らの命を顧みない「特攻」という手段を用いながらも
その攻撃がもはや限界に達していることを如実に物語っていた。
空は、日本機の残骸と、燃え盛る火炎の光で満たされていた。


その間も、海上では主砲戦が激しく続いていた。
日本の航空隊が奮戦し、デヨ艦隊に限定的ながらも
損害を与えている最中も、海上の砲撃戦は一時たりとも中断することはなかったのだ。

デヨ少将を失い、艦隊司令部が壊滅したことで
米第54任務部隊は確かに混乱に陥っていた。
艦同士の衝突事故まで発生し、その指揮系統は麻痺状態にあった。
しかし、アイダホ、ニューメキシコ、テネシー
ウェストバージニア、メリーランド、コロラドといった米戦艦群は
歴戦の経験と、各艦の艦長や砲術士官の練度をもって
その砲撃を続ける執念を見せていたのだ。

ドォォォォン! ドォォォォン! ドォォォォン!

米戦艦の巨大な主砲が一斉に火を噴く轟音が
夜明け前の沖縄の海に響き渡った。それは、まるで地獄の底から
響いてくる咆哮のようだった。彼らは、日本の巨艦大和に対し
その全ての砲力を集中し、猛烈な統制射撃を浴びせ続けていたのだ。
無数の砲弾が、夜空に描かれた放物線を描きながら、大和へと殺到していく。

「至近弾多数! 命中弾、複数確認!」

大和の艦橋に、観測員の悲痛な叫びが響き渡った。
それは、米戦艦群の執拗な砲撃が、ついにその牙を大和に
突き立てたことを意味していた。命中弾の衝撃が
大和の巨体を揺るがし、艦橋の将兵たちを激しく揺さぶった。
火薬の匂いと、焼け焦げた鉄の匂いが艦内に充満し始めていたのだ。

「後部電探室、大破火災発生!」
「旗甲板、大破火災! 消防班、急げ!」

通信士官の報告は、さらに状況の悪化を告げていた。
大和の艦尾部分で、激しい爆発と火災が発生していたのだ。
煙が濛々と立ち上り、艦の機能に影響が出始めていた。
後部電探室の破壊は、レーダー機能の喪失を意味し
夜戦における索敵能力に大きな打撃を与えた。旗甲板の火災は
信号旗による通信を困難にし、艦隊全体の指揮連携に支障を来す可能性があったのだ。

しかし、大和は、その巨体と、世界最高峰の分厚い装甲をもって
さらなる致命傷を免れていた。米戦艦の砲弾は
大和の舷側装甲を貫通することはできず、甲板や上部構造物に命中しても
決定的なダメージを与えるまでには至っていなかったのだ。
それは、大和が「不沈」を誇った理由でもあった。

夜明け前の闇の中、大和は、無数の火災と爆発の光に包まれながらも
その巨体を毅然と保っていた。しかし、その損傷は確実に蓄積されており
この壮絶な砲撃戦が、大和の限界をどこまでも押し広げていることは明白だった。
艦隊決戦は、依然として激しさを増す一方だったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

九九式双発艦上攻撃機

ypaaaaaaa
歴史・時代
欧米列強に比べて生産量に劣る日本にとって、爆撃機と雷撃機の統合は至上命題であった。だが、これを実現するためにはエンジンの馬力が足らない。そこで海軍航空技術廠は”双発の”艦上攻撃機の開発を開始。これをものにしして、日本海軍は太平洋に荒波を疾走していく。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる …はずだった。 まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか? 敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。 文治系藩主は頼りなし? 暴れん坊藩主がまさかの活躍? 参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。 更新は週5~6予定です。 ※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

処理中です...