異聞坊ノ岬沖海戦      此れは特攻作戦に非ず

みにみ

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沖縄沖の鎮魂歌

絶望的不利

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夜明け前の沖縄沖で始まった日米艦隊の激しい砲撃戦は
太陽が水平線から顔を出し始めるにつれて
日本の艦隊にとってさらに絶望的な状況へと変化していった。
デヨ艦隊の執拗な砲撃が大和を襲い、水雷戦隊の決死の
雷撃も空振りに終わる中、戦況は急速に日本側に傾いていった。


午前6時15分、東の空がゆっくりと茜色に染まり始め
やがて水平線から眩しい太陽が顔を出した。
夜間の激戦で火と煙に包まれた沖縄沖は、その光によって
より一層その凄惨な姿を露呈したのだ。しかし、この夜明けは
日本艦隊にとって新たな、そして決定的な不利をもたらした。

「艦橋! 艦橋直下に被弾! 衝撃で15m測距儀、完全に破損しました!」

観測員からの悲痛な叫びが、大和の艦橋に響き渡った。
夜間の砲撃戦を支えてきた、大和自慢の15m測距儀が
敵艦からの被弾の衝撃によって遂に破壊されてしまったのだ。
艦橋の将兵たちの顔に、絶望の色が浮かんだ。
それは、大和が持つ世界最大最強の主砲を、その真価を発揮して運用するための
「目」を失ったことを意味していた。

測距儀が破損した現在、大和の主砲の照準は
それぞれの主砲塔に備え付けられた各個照準に頼るしかなかった。
艦隊全体の集中砲火を統制する中央射撃指揮装置と連動しない各個照準では
遠距離の敵艦に対する命中精度は、劇的に低下してしまう。

「くそっ! これでは、まるで目隠しされたようなものだ!」

有賀艦長が、悔しそうに歯を食いしばった。
夜間であれば、敵艦の発砲炎や水柱を目視で確認し、
照準を修正することが可能だった。しかし、明るくなった昼間では
敵艦が煙幕を焚いたり、巧妙な回避運動を行ったりすることで、正確な照準は極めて困難になる。

大和は、自慢の精密射撃能力を失い、はるかに不利な状況に立たされてしまったのだ。


一方、水上では、矢矧を失い、多くの艦艇が被弾
あるいは撃沈されながらも、残る日本の水雷戦隊が
最後の力を振り絞って雷撃を敢行していた。
彼らは、自らの犠牲を顧みず、米艦隊に致命的な一撃を与えるべく、魚雷発射の機会を窺っていた。

「右魚雷戦用意! 残る全魚雷、敵戦艦に向けて投射!」

残存する駆逐艦の艦長たちが、無線で号令をかける。
彼らは、煙幕を巧みに利用し、あるいは被弾を覚悟で敵艦隊へと肉薄していく。
魚雷発射管から、白い航跡を残さない九三式魚雷が
次々と沖縄の海へと放たれていった。
それは、彼らの最後の、そして最大の抵抗だった。

しかし、夜が明け、視界が確保されたことで
米艦隊は日本の駆逐艦の動きを捉えやすくなっていた。
デヨ少将は失われたものの、各艦の指揮官は
日本の魚雷の脅威を十分に理解しており、対魚雷戦の訓練も徹底されていた。

「魚雷接近! 全艦、緊急回避!」

米艦隊の各艦は、魚雷の航跡を発見するやいなや
素早く回避運動に移った。巨大な戦艦や巡洋艦が
信じられないほどの機動を見せ、日本の魚雷を巧みにかわしていく。

「弾着……なし!」
「全魚雷、回避されました! 被害はありません!」

米艦隊の無線に、安堵と勝利を告げる声が響き渡る。
日本の水雷戦隊が放った、渾身の雷撃は、米艦隊に被害を与えることなく
全て空振りに終わってしまったのだ。

日本の駆逐艦の乗組員たちは、その結果に絶望の色を隠せないでいた。
彼らは、自らの命を賭して、そして多くの犠牲を払いながら
この一撃を放ったにもかかわらず、それが無駄に終わってしまったのだ。


太陽が完全に昇りきり、明るくなった海上では
日本の艦隊にとって、事態はさらに不利になっていった。

まず、視界の確保だ。 夜間の混乱に乗じた日本の奇襲は
夜明けとともにその優位性を失った。米艦隊は
その優れたレーダーと、日中の視界を利用して
日本の艦艇の位置を正確に把握し、より精度の
高い砲撃を浴びせることが可能になったのだ。
大和の測距儀が破損した今、その精度差は決定的なものだった。

次に、日本の航空部隊の疲弊が顕著だった。 
夜明け前に制空権を確保した日本の航空部隊は
デヨ艦隊への攻撃を敢行したものの、その多くはベテランパイロットの不足と
米艦隊の執拗な対空砲火によって撃墜されてしまっていた。
わずかな命中弾はあったものの、その決定打には程遠かった。
制空権は確保したものの、それを有効活用できるだけの
航空戦力は、もはや残されていなかったのだ。

さらに、日本の艦艇の損害は深刻だった。 
大和は、電探室と旗甲板に被害を受け、左舷に魚雷3本と爆弾5発を被弾し
傾斜を復旧させたとはいえ、その戦闘能力は著しく低下していた。
水雷戦隊も、矢矧を失い、多くの駆逐艦が撃沈
あるいは大破しており、残存艦艇の数は限られていた。

対照的に、米艦隊は、確かにデヨ少将を失い
司令部が混乱に陥っていたものの、戦艦群の砲戦能力は依然として健在だった。 
そして、巡洋艦の一部に魚雷命中による被害はあったものの
その数は限定的であり、艦隊全体の戦闘能力は依然として高かった。

このまま戦いを続ければ、日本の艦隊が一方的に消耗し
壊滅させられることは明白だった。太陽が昇り、明るくなった沖縄の海は
日本の敗北を告げるかのように、残酷なまでにその真の姿を現していたのだ。
将兵たちの心には、疲労と、迫りくる絶望感が影を落とし始めていた。
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