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終章 天の運命
大和死す
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激しい砲撃と魚雷の集中攻撃を受け、満身創痍となった大和は
すでにその傾斜を40度まで深めていた。伊藤長官と有賀艦長が
艦と運命を共にすることを選んだ中、参謀長の森下信衛は
最後の命令である総員退艦を指揮していた。
甲板上に脱出した約1,600名の乗組員たちは、一刻も早く
迫りくる死の渦から逃れるべく、必死に海へと飛び込んでいたのだ。
大和の甲板は、すでに傾斜が40度に達し
もはや垂直に立つことすら困難な状況だった。重力に逆らうように
乗組員たちは手すりや甲板上の突起物にしがみつきながら
あるいは滑り落ちそうになりながらも、必死に艦の右舷側へと向かっていた。
彼らの顔には、恐怖と絶望、そして生き残ろうとする本能が入り混じっていたのである。
海面からは、先に飛び込んだ者たちの必死な叫び声が響き渡っていた。
「急げ! 急げ!」「艦から離れよ! 渦に巻き込まれるな!」
彼らは、大和のような大型艦が沈没する際に発生する
半径200メートルにも及ぶ巨大な渦の恐ろしさを知っていたのだ。
この渦にひとたび飲み込まれてしまえば、いかに泳ぎの達者な者であっても
生きて浮上できる可能性はゼロに等しい。
それは、ただ沈むだけではない、もう一つの死の罠であった。
次々と、救命胴衣を身につけた乗組員たちが
傾斜した甲板から、あるいは舷側を滑り落ちるようにして
次々と海面へと飛び込んでいく。その飛び込む音は
もはや艦内から聞こえる轟音や鋼鉄の軋み音にかき消され
ただ波の音と、人々の必死な叫びだけが響き渡っていた。
油の匂いが空中に立ち込め、絶望的な状況をさらに色濃くしていたのである。
そして、甲板上にいた約1,600名の乗組員のうち
最後の1人が海へと飛び降りた時、大和はさらに
その傾斜を深め始めたのだ。
それは、まるで、艦に留まっていた全ての重りが解放されたかのように
艦体は重々しい軋みを上げて、ゆっくりと
しかし確実に、左舷へと傾いていったのである。
艦橋からは、わずかに残された将兵たちが、この光景を静かに見守っていた。
海面に飛び込んだ乗組員たちは
必死に大和から遠ざかろうと、手足を動かし続けていた。
彼らは、後ろを振り返ることなく、ただひたすらに
あの巨大な渦から逃れることだけを考えていたのだ。
生存への渇望が、彼らの体を突き動かしていたのである。
そして、彼らの努力が報われたかのように
大和は、乗員たちが200メートル以上離れたことを確認したかのように
一瞬、傾斜を止めた。それは、まるで最後の乗組員が
無事に離れるのを待っていたかのような、巨艦の最後の慈悲とも言える
不可解な静止であった。このわずかな間に、多くの命が救われたのである。
この奇妙な一瞬の静寂は、生き残った者たちの記憶に深く刻まれることとなる。
しかし、その静止は、ほんの一瞬のことだった。
大和の宿命が、再び動き出したのだ。
次の瞬間、大和は、それまでの傾斜をさらに深め
ゆっくりと、しかし圧倒的な質量をもって、左舷へと転覆していった。
巨大な艦底が、轟音と共に空へと向き始め、その姿を水面にさらす。
それは、まるで、かつての輝かしい姿を
最後に一度だけ見せつけようとするかのようであった。
転覆の際、艦体から無数の破片や装備品が剥がれ落ち
轟音と共に海中へと消えていった。甲板に固定されていた対空砲や探照灯
各種アンテナなどが、次々と引き剥がされ、飛散していく壮絶な光景だった。
そして、大和が完全に転覆し
その巨大な艦体がゆっくりと海中に沈み始めた、まさにその瞬間だった。
艦の中央部、二番砲塔直下から凄まじい閃光が走った
それは、まるで夜明けの空に稲妻が落ちたかのような、まばゆい光であった。
その閃光は、周囲の海面を真っ白に染め上げ
遠く離れた米艦隊の将兵たちの目にも、はっきりと捉えられたのである。
この閃光は、転覆した艦の弾薬庫棚から、主砲弾や発射薬が落下し
誘爆を起こしたことによるものだった。
主砲での砲撃戦で弾数を減らしていたとはいえ
約300発もの砲弾と、それに付随する膨大な量の発射薬が残っていたのである。
それらが一挙に誘爆を起こしたのだ。
次の瞬間、閃光に続くのは、文字通り、世界を揺るがすような大爆発だった。
轟音が天地を揺るがし、海面には巨大な火柱と黒煙が舞い上がった。
それは、まるで巨大な火山が噴火したかのような
想像を絶する光景であった。大和の艦体は、爆発の衝撃によって引き裂かれ
鋼鉄の破片がまるで雨のように空へと舞い上がり、四散した。
この爆沈は、単なる艦の喪失以上の意味を持っていた。
それは、日本の誇り、そして大日本帝国海軍の象徴が
自らの手でその最期を迎えたことを意味していたのである。
まさに大和の爆沈は、日本の侍が自らの潔い死を選ぶ「切腹」にも似た
壮絶な光景であった。 炎は散り際の日本の姿を映し出したかのようだった。
この壮絶な爆沈は、生き残った者たちの脳裏に
そして歴史の教科書に、永遠に刻み込まれることとなる。
大和の沈没は、太平洋戦争の最終局面における日本の抵抗の終焉を告げる
象徴的な出来事だったのだ。
すでにその傾斜を40度まで深めていた。伊藤長官と有賀艦長が
艦と運命を共にすることを選んだ中、参謀長の森下信衛は
最後の命令である総員退艦を指揮していた。
甲板上に脱出した約1,600名の乗組員たちは、一刻も早く
迫りくる死の渦から逃れるべく、必死に海へと飛び込んでいたのだ。
大和の甲板は、すでに傾斜が40度に達し
もはや垂直に立つことすら困難な状況だった。重力に逆らうように
乗組員たちは手すりや甲板上の突起物にしがみつきながら
あるいは滑り落ちそうになりながらも、必死に艦の右舷側へと向かっていた。
彼らの顔には、恐怖と絶望、そして生き残ろうとする本能が入り混じっていたのである。
海面からは、先に飛び込んだ者たちの必死な叫び声が響き渡っていた。
「急げ! 急げ!」「艦から離れよ! 渦に巻き込まれるな!」
彼らは、大和のような大型艦が沈没する際に発生する
半径200メートルにも及ぶ巨大な渦の恐ろしさを知っていたのだ。
この渦にひとたび飲み込まれてしまえば、いかに泳ぎの達者な者であっても
生きて浮上できる可能性はゼロに等しい。
それは、ただ沈むだけではない、もう一つの死の罠であった。
次々と、救命胴衣を身につけた乗組員たちが
傾斜した甲板から、あるいは舷側を滑り落ちるようにして
次々と海面へと飛び込んでいく。その飛び込む音は
もはや艦内から聞こえる轟音や鋼鉄の軋み音にかき消され
ただ波の音と、人々の必死な叫びだけが響き渡っていた。
油の匂いが空中に立ち込め、絶望的な状況をさらに色濃くしていたのである。
そして、甲板上にいた約1,600名の乗組員のうち
最後の1人が海へと飛び降りた時、大和はさらに
その傾斜を深め始めたのだ。
それは、まるで、艦に留まっていた全ての重りが解放されたかのように
艦体は重々しい軋みを上げて、ゆっくりと
しかし確実に、左舷へと傾いていったのである。
艦橋からは、わずかに残された将兵たちが、この光景を静かに見守っていた。
海面に飛び込んだ乗組員たちは
必死に大和から遠ざかろうと、手足を動かし続けていた。
彼らは、後ろを振り返ることなく、ただひたすらに
あの巨大な渦から逃れることだけを考えていたのだ。
生存への渇望が、彼らの体を突き動かしていたのである。
そして、彼らの努力が報われたかのように
大和は、乗員たちが200メートル以上離れたことを確認したかのように
一瞬、傾斜を止めた。それは、まるで最後の乗組員が
無事に離れるのを待っていたかのような、巨艦の最後の慈悲とも言える
不可解な静止であった。このわずかな間に、多くの命が救われたのである。
この奇妙な一瞬の静寂は、生き残った者たちの記憶に深く刻まれることとなる。
しかし、その静止は、ほんの一瞬のことだった。
大和の宿命が、再び動き出したのだ。
次の瞬間、大和は、それまでの傾斜をさらに深め
ゆっくりと、しかし圧倒的な質量をもって、左舷へと転覆していった。
巨大な艦底が、轟音と共に空へと向き始め、その姿を水面にさらす。
それは、まるで、かつての輝かしい姿を
最後に一度だけ見せつけようとするかのようであった。
転覆の際、艦体から無数の破片や装備品が剥がれ落ち
轟音と共に海中へと消えていった。甲板に固定されていた対空砲や探照灯
各種アンテナなどが、次々と引き剥がされ、飛散していく壮絶な光景だった。
そして、大和が完全に転覆し
その巨大な艦体がゆっくりと海中に沈み始めた、まさにその瞬間だった。
艦の中央部、二番砲塔直下から凄まじい閃光が走った
それは、まるで夜明けの空に稲妻が落ちたかのような、まばゆい光であった。
その閃光は、周囲の海面を真っ白に染め上げ
遠く離れた米艦隊の将兵たちの目にも、はっきりと捉えられたのである。
この閃光は、転覆した艦の弾薬庫棚から、主砲弾や発射薬が落下し
誘爆を起こしたことによるものだった。
主砲での砲撃戦で弾数を減らしていたとはいえ
約300発もの砲弾と、それに付随する膨大な量の発射薬が残っていたのである。
それらが一挙に誘爆を起こしたのだ。
次の瞬間、閃光に続くのは、文字通り、世界を揺るがすような大爆発だった。
轟音が天地を揺るがし、海面には巨大な火柱と黒煙が舞い上がった。
それは、まるで巨大な火山が噴火したかのような
想像を絶する光景であった。大和の艦体は、爆発の衝撃によって引き裂かれ
鋼鉄の破片がまるで雨のように空へと舞い上がり、四散した。
この爆沈は、単なる艦の喪失以上の意味を持っていた。
それは、日本の誇り、そして大日本帝国海軍の象徴が
自らの手でその最期を迎えたことを意味していたのである。
まさに大和の爆沈は、日本の侍が自らの潔い死を選ぶ「切腹」にも似た
壮絶な光景であった。 炎は散り際の日本の姿を映し出したかのようだった。
この壮絶な爆沈は、生き残った者たちの脳裏に
そして歴史の教科書に、永遠に刻み込まれることとなる。
大和の沈没は、太平洋戦争の最終局面における日本の抵抗の終焉を告げる
象徴的な出来事だったのだ。
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