炎の魔獣召喚士

平岡春太

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最終章 戦いの果てに

 第十七話 最後の約束

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「いてて……」
「痛いじゃないわよ! 何やってんのよ、それも公衆の面前で!」
「いや、これはだな。お前が暴走━━」
「暴走って誰が━━あれ? 私今まで何を……」

 ようやく少しの間記憶が飛んでいる事に気付き、更に全身の肌がひりついているのを感じ始めた。
 恥ずかしさに少し紅潮している分もあるが、フラムの覗いている肌は火傷で赤くなっていた。

「私が暴走? あれ、そう言えばあんたは何でここに居るの? 高所恐怖症じゃなかったっけ」
「呑気だな、お前は。だから大変だった━━」

 急に血相を変えたフリードがフラムを突き飛ばして来た。

「ちょっと何なのよ、急に。何も突き飛ば……さなく…………」

 少し怒り気味に振り返ったフラムは声を失った。
 剣の柄に手をかけて背を向けているフリードの背中から、剣の切っ鋒が突き出していた。
 そのフリードの向こう側には、向かい合うように立つケイハルトが、渋い顔で舌打ちをしている。

「その小娘を殺せば炎帝も消える  はずであったが、属性魔力の暴走を止めるばかりか、何処までも邪魔をするか。迅速のフリードよ」
「お前だけは!」
「何処までも姑息なのですね、あなたは!」

 少し遅れて来たビエントとアインベルクが、槍と錫杖でケイハルトに襲い掛かるが、ケイハルトもフリードの体から剣を引き抜いて応戦しながら下がりつつ、炎帝の頭上から飛び降りた。
 それを雷帝が攫って行く。
 ビエントも炎帝から飛び降りて後を追う。
 アインベルクは飛び降りる寸前、フラムとフリードの方にはかなげな目を向ける。

「遅れてすみません」

 謝意だけを残し、飛び降りて行った。
 風帝と氷帝が雷帝の後を追うのを見送った直後、吐血したフリードが膝から崩れ落ちる。

「フリード!!」

 前のめりに倒れそうになるのを、フラムが後ろから上半身を支えて寝かせる。

「初めて俺の名前を呼んでくれたな」

 口の周りは血塗れながら、笑みを見せる。

「そんな事……」
「いや、初めてだ」

 記憶を辿ると、確かに呼んだ記憶はない。

「今はそんな事どうでもいいじゃないのよ!」
「俺にとっては大事な事なんだけどな」
「早く医者に見せないと!」

 立ち上がろうとするフラムの手をフリードが掴んで止め、真剣な顔で首を横に振る。

「その前に、俺に約束しろ」
「約束? こんな時に一体何なのよ」
「恨みを忘れろ。怒りに飲まれるな」
「こんな状況でそんな事出来るはず……」
「だったらこう考えろ。このダルメキアの為に、ここに住む人々の為に、これ以上大事なものを失わない為にってな」
「そんな簡単に言わないでよ」

 気付かぬ内に、フラムの顔は涙に濡れている。

「でなけりゃあ、また暴走しちまうぞ。それこそケイハルトの思う壺だ。あいつを喜ばせたくないだろう。それに、今度はもう止められないだろうからな」

 時折フリードが咳き込む度に、その口が更に血に染まって行く。

「もういいから喋らないで」
「約束が守れるか?」
「分かったわよ。だから━━」

 身を起こしたフリードがいきなりフラムに抱き付いた。

「何なのよ一体?」
「またキスしたら殴られるだろう。痛いのは刺された傷で十分だからな。これぐらいは許してくれ」

 すっと離れると、フラムの服がフリードの血で汚れていた。

「汚しちまったな」
「こんなの洗えば落ちるわよ」
「血はそう簡単には落ちないさ。まあ、そのシミを見て、俺を思い出してくれればいいか」
「ちょっと、何よそれ? 何かもう会えないようなこと言ってない?」

 フリードは答えることなく、痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がる。

「さっき言ったこと、約束だからな。ちゃんと守れよ」
「何をするつもり? 寝てないと」

 立ち上がったフラムに、フリードは静かに首を振る。

「こんな所で横になってたら、俺を見る度にお前の怒りや恨みが湧いちまうだろう」

 そう言うと、突然駆け出した。

「待って!」

 フラムが後を追うが、痛みがあれど迅速と呼ばれるフリードの足は速い。
 フリードはそのまま炎帝の頭上から飛び出した。
 直後にフラムが手を伸ばすが、その手は空を掴み、フリードの背は遠ざかって行く。
 直ぐに炎帝で後を追おうとするが、フリードが振り返り、笑顔を見せて首を横に振るのを見て、躊躇してしまった。
 フリードが振り返ったのは、下を見ていれば怖いと言うのもあるが、最後にフラムの顔を目に焼けつけたかったのかもしれない。
 最後に頑張れとでも言いたかったのか、突き出した右手の親指を立てて見せる優しい笑みが、地上に大きく口を開けている裂け目に広がる闇の中に、吸い込まれるように消えて行ってしまった。

「そんな…………」

 フラムは膝から崩れ落ち、炎帝の頭上に突いた自分の腕に顔をうずめた。
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