炎の魔獣召喚士

平岡春太

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第三章 氷の国

 第十六話 襲来

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 城下町を周りの臭いを嗅ぎながら進むドゥーブの後ろを、フラムとシャルロアが歩いて行く。

「少し兵士が多くなって来たわね」

 町に入った時はさほど気にならなかった兵士の数が次第に目立つようになって来た。逆に町人達の姿は一人もない。

「お兄様が厳戒令を出したんでしょう。部屋を出る前にそうおっしゃっていましたから」
「その時にあなたに部屋を出るなって言わなかった?」

 シャルロアは息を呑んで押し黙った。

「図星ね。兄貴のくせに、妹の性分も分からない訳か」
「すみません」
「まあ、私も押し切られた訳だから、文句は言えないけど。だけど厳戒令のおかげで、あの変態オヤジはまだ町からは出ていないはずよ」
「はい、城門も直ぐに閉じられたはずですから」
「上空に逃げれば、城壁に居る弓矢隊に蜂の巣にされるでしょうしね」

 少ししてドゥーブが足を止め、鼻を激しく鳴らし始めた。

「どうやら近いようね。ん?」

 最後はドゥーブの鼻に頼らずとも、聞こえて来た複数の悲鳴がアルドの居場所を教えてくれた。
 悲鳴を追って建物の陰から飛び出すと、アルドの姿があった。腕輪から飛び出した三つの触手が兵士を捕らえ、既に骨と皮にしていた。
 周りを複数の剣を構えた兵士が取り囲んでいるが、恐怖に彩られた顔で足が前に出そうにない。

「これじゃあ相手の餌になるだけね。パル、シャルロアを頼むわよ」

 パルが肩から飛び立つと同時に走り出したフラムは、剣を抜き放ち、

「退いて!」

 前に立っていた兵士達の間を抜けて前に出ると、剣を振るいつつアルドの横を駆け抜けた。

「硬い。何よ、これ……?」

 人を切った感覚と言うより、岩でも斬ったような痺れを感じて後ろを振り返ると、アルドの足元の地面から巨大な氷の腕の様なものが突き出ていてアルドの前をガードしていた。
 軽い地響きを起こし、地面を割るようにして一匹の氷に覆われた魔獣が姿を現した。

「グラキアス! 既に魔獣を召喚してたのね」

 更にシャルロアの近くの石畳に亀裂が走ったのも束の間、地面の下からもう一体のグラキアスが姿を現すとともに、近くに立つシャルロアを捕らえて抱え上げる。
 シャルロアは驚きの余りに気を失ってしまった。

「しまったでヤンス!」

 パルが慌ててグラキアスの顔に向かって炎を吐き出すも、グラキアスが大きな掌を広げて盾にし、簡単に防がれてしまった。

「何やってんのよ!」
「ゴメンでヤンス」
「一匹だけだと思うのが甘いのだ。これで逃げる為のいい人質が出来たと言うものだ」

 アルドがニンマリと鼻につく笑みを見せたその時、城壁の上方からけたたましい鐘の音が聞こえて来た。

「何事?」

 全ての視線が向けられた城壁の上方には、数匹のフィールが飛び交う姿があった。
 城壁の上に居る兵士達が撃ち落とそうと矢を番えて次々と放ち、魔獣召喚士が召喚したサウロンが応戦している。

「アルドの援軍?」

 フラムが視線をアルドに向けると、アルドも眉をひそめて戦いの行方を見ている様子だった。

「違う? だったら他の国が━━いえ、それにしては数が少な過ぎるわ」

 矢とサウロンを掻い潜った数匹のフィールが町に降りて来て、家々に火を放って廻る。更にその内の一匹がフラム達の方に飛んで来た。
 フィールには女が一人で乗っていたが、アルドの近くに飛び降りるなり、手にしているむちの様なものを振るって、アルドの体に巻き付けて身動きを拘束した。

「何をする!?」

 アルドは触手をだそうとするも、腕輪にも巻き付いていて出す事が出来ない。

「放せ!」
「お前には私と来て貰うぞ」
「何を勝手な事を言ってんの。あんた一体何者よ!」

 振り返った女の顔を見たフラムの顔が驚愕のものに一変し、少し青ざめる。

「ク、クリスタ!? いえ、そんなはず。クリスタはあの時に死んだはずだもの……」
「あら、死人でも見た顔ね」

 女の顔は徐々に怒りに満ちて行く。

「そうか。クリスタの名を知っている事と言い、その口振りだとお前もその場に居たのだな」

 女が腰に携えた剣を抜こうとしたその時、周りから次々とアルファンドの兵士が走り寄って来る。その中心に居るのはエドアールだ。

「ようやく見つけたぞ」
「どうやらゆっくりはしていられないようだな」

 女が指笛を吹くと、近くに飛んでいるフィール達が寄って来て、兵士達に襲い掛かる。

「そこの女、私の名はブレアだ。覚えておけ。今度会った時は必ず殺してやる」

 啖呵たんかを切ってからブレアが一匹のフィールに飛び乗ろうとした時、突然氷が粉々に弾ける音が聞こえて来た。
 周りの視線が集まるその先には、シャルロアを抱えていたグラキアスが立っていたが、その腕は粉々に砕け散り、その顔は苦悶に歪んでいる。
 その前に目を覚ましたシャルロアが、錫杖を手に地面に降り立っていた。

「シャルロア?」

 錫杖を構えるその姿は、少しオドオドとしたドジな感じは微塵もなく、寧ろ凛とした気品を感じさせた。

 
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