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第三章 氷の国
第十七話 もう一人のシャルロア
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「あの女、何かまずい」
何かを感じたのか、ブレアは慌てた様子でフィールの背に飛び乗り、鞭を引き上げて嫌がるアルドをフィールの背に引き上げた。
「待ちなさい!」
フラムが透かさずその場にしゃがんで右手を地に下ろしたのと同時に、シャルロアが錫杖を石畳に突き立てると、錫杖を中心に半径一メートル程の石畳が凍り付いた。
凍り付いた石畳から勢い良く幾つもの氷の柱が飛び出し、上空を飛び交う数匹のフィールまで伸び上がると、躱す間を与えずにそれに触れた刹那にフィールを氷の中に閉じ込めてしまった。
上空に飛び去ろうとしていたブレアが乗るフィールにも一本の氷の柱が届き、後方に乗るアルドが一瞬にして凍ってしまった。
ブレアが素早く剣を抜いて氷の柱を打ち壊して全体が凍るのは事なきを得たが、フィールの体も後ろの一部が凍ってしまっている。
それでも、フラフラしながらそのまま飛び去って行く。
「一匹逃してしまいましたか」
シャルロアが錫杖を引き抜いて足元の凍った辺りを軽く錫杖で叩くと、下の方から氷に徐々に亀裂が走り、凍り付いてしまったフィールごと粉々に弾け飛んでしまった。
「凄い……」
ただただ呆気に取られて立ち上がったフラムが振り返ると、シャルロアは目を閉じてその場に倒れ込んでしまった。
「シャルロア?」
「大丈夫でヤンスか?」
飛んでいたパルがシャルロアの傍に舞い降りる。遅れてエドアールも駆け寄って来た。
「大丈夫ですよ。気を失っただけですから」
「母上」
「アインベルク様、どうしてここに?」
建物の陰からアインベルクが従者を引き連れて姿を見せた。
「少し気がかりがあって参ったのですが、予想より酷いですね」
「それにしてもさっきのシャルロアは何なんですか?」
「もう一人のシャルロアです」
「もう一人のシャルロア?」
「母上、私も知りませんよ」
エドアールも眉を顰める。
「当然です。もう一人のシャルロアは危機に瀕した時にしか出て来ませんからね。それに、今のように直ぐに気を失ってしまいますから、知らないはずです」
「二重人格って事ですか?」
「詳しくは分かりません。ですが、もう一人のシャルロアは、私に近い力を発揮する事が出来るようです。もしかしたら優しい性格が災いして、強い力を使うのを嫌っていましたから、抑え込んでいた力が別人格を生んだのかもしれませんね」
「じゃあ、サルセッテでボロンゴの群れを凍らせたのはシャルロアだったんだ……あ! こうしてる場合じゃないわ。フィールを追わないと」
ブレアが乗るフィールはもう城壁を超えたのか、その姿はなかった。
「アルドをどう使うか知らないけど、あのブレアって名乗った女、いいように使う感じではなかったから」
「今アルドと言いましたか? そうですか、アガレスタの王子が惚れ薬の調合を知るはずがないと思ったのですが、あの悪名高き科学者が絡んでいたのですか」
しゃがもうとするフラムを、アインベルクが錫杖の飾りを振り鳴らして止める。
「あなたにはまだ聞く事があります。フィールを追うならエドアールに任せなさい」
「私がですか? ですが、町の火を消すのが先かと」
先程のフィールの群れが放った炎によって、数軒の家がまだ燃えている。
「そうそう、忘れていましたね」
アインベルクが錫杖を石畳に突き立てると、そこを中心に石畳を幾筋もの氷の筋が走り、燃えている全ての家が一瞬にして氷に包まれた。更に、先程のシャルロアが見せたように、引き抜いた錫杖の先で足元の凍った辺りを軽く叩くと、氷全てに亀裂が走ったのも束の間、氷が弾け飛んだ。
先程のフィールとは違い、家はそのまま残っており、燃え上がっていた炎だけが完全に消えていた。
「私の力を見縊って貰っては困りますね」
「さすがは氷の魔獣召喚士」
「でヤンス」
パルが飛んで来て、フラムの肩に戻る。
「さあ、これで追えるでしょう。相手は魔獣召喚士のようですし、こちらも数人の魔獣召喚士を連れて行くと良いでしょう」
「ですが、手掛かりもなく探し出すのはとても……」
「とても私の息子とは思えない弱気な発言ですね。ですが、それも一理あります。フィールがあの状態ではそれほど遠くない場所で降りているはずでしょうから、どちらかの臭いがあればドゥーブで追えるのですが」
「それなら大丈夫です。ドゥーブ!」
何処かに隠れていたのか、フラムのドゥーブが走り寄って来た。
「このドゥーブはアルドの臭いを覚えてます」
「それはそれは、良き判断ですよ。さあエドアール、お行きなさい。ただ、一つだけ言っておきますが、必ず連れて戻りなさい。もし逃がしたとあっては、二度と城門を潜らせないと考えておきなさい」
「え!?」
血相を変えたエドアールは、軽い会釈だけ済ませて、ドゥーブを連れて駆け去って行った。
「恐ろしい人でヤンス」
「誰が恐ろしいですって?」
「聞こえてたでヤンス」
直ぐに擦り寄って来たアインベルクが、笑顔のまま錫杖の頭でパルの頭を木魚のように叩き出した。
「痛い、痛い、痛いでヤンス」
「ふあ~、皆さん。おはようございます」
ようやくシャルロアが目を覚まし、ゆっくりと立ち上がる。
その御蔭でパルの頭を錫杖の頭で叩いていたアインベルクの手も止まる。
「助かったでヤンス」
「あれ、お母様、どうしてこちらに? あれ、そんな事よりも私一体何をして……」
「シャルロアも目覚めた事ですし、それではお城に参りましょうか」
「別荘に戻られなくてもよろしいのですか?」
まだ頭がボーっとしているシャルロアが訊く。
「こう言う事態を招いた以上、あの頑固オヤジもそうそう結婚の話を持ち出せなくなるでしょう。それなら、別荘に戻る意味もありませんからね。さあさあ、話はお城に戻ってからです。参りましょう」
何かを感じたのか、ブレアは慌てた様子でフィールの背に飛び乗り、鞭を引き上げて嫌がるアルドをフィールの背に引き上げた。
「待ちなさい!」
フラムが透かさずその場にしゃがんで右手を地に下ろしたのと同時に、シャルロアが錫杖を石畳に突き立てると、錫杖を中心に半径一メートル程の石畳が凍り付いた。
凍り付いた石畳から勢い良く幾つもの氷の柱が飛び出し、上空を飛び交う数匹のフィールまで伸び上がると、躱す間を与えずにそれに触れた刹那にフィールを氷の中に閉じ込めてしまった。
上空に飛び去ろうとしていたブレアが乗るフィールにも一本の氷の柱が届き、後方に乗るアルドが一瞬にして凍ってしまった。
ブレアが素早く剣を抜いて氷の柱を打ち壊して全体が凍るのは事なきを得たが、フィールの体も後ろの一部が凍ってしまっている。
それでも、フラフラしながらそのまま飛び去って行く。
「一匹逃してしまいましたか」
シャルロアが錫杖を引き抜いて足元の凍った辺りを軽く錫杖で叩くと、下の方から氷に徐々に亀裂が走り、凍り付いてしまったフィールごと粉々に弾け飛んでしまった。
「凄い……」
ただただ呆気に取られて立ち上がったフラムが振り返ると、シャルロアは目を閉じてその場に倒れ込んでしまった。
「シャルロア?」
「大丈夫でヤンスか?」
飛んでいたパルがシャルロアの傍に舞い降りる。遅れてエドアールも駆け寄って来た。
「大丈夫ですよ。気を失っただけですから」
「母上」
「アインベルク様、どうしてここに?」
建物の陰からアインベルクが従者を引き連れて姿を見せた。
「少し気がかりがあって参ったのですが、予想より酷いですね」
「それにしてもさっきのシャルロアは何なんですか?」
「もう一人のシャルロアです」
「もう一人のシャルロア?」
「母上、私も知りませんよ」
エドアールも眉を顰める。
「当然です。もう一人のシャルロアは危機に瀕した時にしか出て来ませんからね。それに、今のように直ぐに気を失ってしまいますから、知らないはずです」
「二重人格って事ですか?」
「詳しくは分かりません。ですが、もう一人のシャルロアは、私に近い力を発揮する事が出来るようです。もしかしたら優しい性格が災いして、強い力を使うのを嫌っていましたから、抑え込んでいた力が別人格を生んだのかもしれませんね」
「じゃあ、サルセッテでボロンゴの群れを凍らせたのはシャルロアだったんだ……あ! こうしてる場合じゃないわ。フィールを追わないと」
ブレアが乗るフィールはもう城壁を超えたのか、その姿はなかった。
「アルドをどう使うか知らないけど、あのブレアって名乗った女、いいように使う感じではなかったから」
「今アルドと言いましたか? そうですか、アガレスタの王子が惚れ薬の調合を知るはずがないと思ったのですが、あの悪名高き科学者が絡んでいたのですか」
しゃがもうとするフラムを、アインベルクが錫杖の飾りを振り鳴らして止める。
「あなたにはまだ聞く事があります。フィールを追うならエドアールに任せなさい」
「私がですか? ですが、町の火を消すのが先かと」
先程のフィールの群れが放った炎によって、数軒の家がまだ燃えている。
「そうそう、忘れていましたね」
アインベルクが錫杖を石畳に突き立てると、そこを中心に石畳を幾筋もの氷の筋が走り、燃えている全ての家が一瞬にして氷に包まれた。更に、先程のシャルロアが見せたように、引き抜いた錫杖の先で足元の凍った辺りを軽く叩くと、氷全てに亀裂が走ったのも束の間、氷が弾け飛んだ。
先程のフィールとは違い、家はそのまま残っており、燃え上がっていた炎だけが完全に消えていた。
「私の力を見縊って貰っては困りますね」
「さすがは氷の魔獣召喚士」
「でヤンス」
パルが飛んで来て、フラムの肩に戻る。
「さあ、これで追えるでしょう。相手は魔獣召喚士のようですし、こちらも数人の魔獣召喚士を連れて行くと良いでしょう」
「ですが、手掛かりもなく探し出すのはとても……」
「とても私の息子とは思えない弱気な発言ですね。ですが、それも一理あります。フィールがあの状態ではそれほど遠くない場所で降りているはずでしょうから、どちらかの臭いがあればドゥーブで追えるのですが」
「それなら大丈夫です。ドゥーブ!」
何処かに隠れていたのか、フラムのドゥーブが走り寄って来た。
「このドゥーブはアルドの臭いを覚えてます」
「それはそれは、良き判断ですよ。さあエドアール、お行きなさい。ただ、一つだけ言っておきますが、必ず連れて戻りなさい。もし逃がしたとあっては、二度と城門を潜らせないと考えておきなさい」
「え!?」
血相を変えたエドアールは、軽い会釈だけ済ませて、ドゥーブを連れて駆け去って行った。
「恐ろしい人でヤンス」
「誰が恐ろしいですって?」
「聞こえてたでヤンス」
直ぐに擦り寄って来たアインベルクが、笑顔のまま錫杖の頭でパルの頭を木魚のように叩き出した。
「痛い、痛い、痛いでヤンス」
「ふあ~、皆さん。おはようございます」
ようやくシャルロアが目を覚まし、ゆっくりと立ち上がる。
その御蔭でパルの頭を錫杖の頭で叩いていたアインベルクの手も止まる。
「助かったでヤンス」
「あれ、お母様、どうしてこちらに? あれ、そんな事よりも私一体何をして……」
「シャルロアも目覚めた事ですし、それではお城に参りましょうか」
「別荘に戻られなくてもよろしいのですか?」
まだ頭がボーっとしているシャルロアが訊く。
「こう言う事態を招いた以上、あの頑固オヤジもそうそう結婚の話を持ち出せなくなるでしょう。それなら、別荘に戻る意味もありませんからね。さあさあ、話はお城に戻ってからです。参りましょう」
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