炎の魔獣召喚士

平岡春太

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第四章 動き出す歯車

 最終話 傲(ごう)深き縁

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 雲の上を浮遊しながら移動するブリュンデル城、その中心部に位置する場所に、謁見えっけんの間があった。
 大広間という言葉では足りないぐらい広い一室の奥には玉座があり、そこに一人の男が座っている。五賢人の一人にして、雷の魔獣召喚士を冠していたケイハルトであった。
 右肘を肘掛けに突いて頬杖をし、着ている服の左袖はだらりと垂れ下がっている。更に、服から覗く肌は、火傷やけどの跡か、ただれている。

「戻ったか」

 ケイハルトの前方に黒い魔獣召喚陣が現れ、そこからフラムが追っていたローブの男とデリオン王子に意思を宿したアルドが姿を現した。
 アルドはロープに括られている。

「アルド博士を連れて只今戻りました」
「ご苦労」
「誰だ、貴様は?」

 敵意剥き出しでアルドが訊く。

「私か? 私はケイハルトだ。その名を聞いたことぐらいはあるだろう」

 アルドの顔が驚きに満ちる。
 
「待て待て。ケイハルトだと? まさかあの五賢人の? 馬鹿な。ケイハルトは死んだと聞いたぞ」
「それは私が生きていては困る連中が流した風聞であろう。現にこうして私は生きている。まあ、偽物と言われればそれまでだがな。信じて貰うしかない。ただ、あなたとて死して尚、そうして生きる道を選んだではないか」
「なら、お前が本当のケイハルトだとして、この私に何の用だ?」
「なぁに、難しい事ではない。あなたが今までして来た研究を少しだけ私に役立てて頂ければいいだけの話だ。その代わり、あなたにはここで存分に研究をして貰っても結構。ここなら誰の邪魔も入らない。つまり、これは謂わば交渉と言った所だ。いい条件だと思うのだがね」
「交渉? 人を縛っておいて交渉も何もないと思うのだがな」
「これは失敬。そうでもしないとここに来て貰えないようでしたので。シュレーゲン、縄を」

 ローブの男━━シュレーゲンがアルドを縛る縄を解いた刹那、指にしている指輪から無数の触手が伸び、ケイハルトに襲い掛かる。
 一瞬見せたアルドの笑みは、直ぐに驚きに変わった。
 触手は全てケイハルトに届く前にずたずたに切り裂かれ、いつ入って来たのか、ケイハルトの右にラファールが三叉戟を持って立ち、左に柄の長い巨大な両刃を持つ斧━━アックスを担いだ大柄な男が立っている。
 更に、アルドの両隣にブレアともう一人女が、抜いた剣の刃をアルドの首元に向けて立っていた。

「うちの連中は血の気の多い奴が多いのでね。下手に動かない方が賢明ですよ、アルド博士」

 ケイハルトが目配せすると、ブレアともう一人の女は剣を鞘に収めた。

「あなたには専用の研究所を用意してある。きっと気に入って貰えると思うが、返事はそれからでも結構です。アローラ、博士を研究所に案内してあげてくれ」
「分かりました」

 アルドの隣に立つアローラが、あちらにと手で進めると、まだ納得していない表情のアルドはアローラに連れられて部屋から出て行った。
 残ったブレアとラファール、そしてアックスを担ぐ大柄の男は、ケイハルトに少し離れた所に並び、片膝を床に落として頭を下げる。
 シュレーゲンはケイハルトの傍に場所を移して立ち止まり、口を開く。

「アルドは応じるでしょうか?」
「さあな。応じなければ応じないで、力尽くでも例の物を作らせるまでだ。それよりも、あいつは戻ったのか?」
「はい、ようやく。足音が聞こえて来たかと」

 ゆっくりとした足取りの足音が近付いて来る。
 徐々に大きく、はっきりとした足音と共に一人の男が謁見の間に入って来た。
 余り表情を変えないその男は、ライオであった。
 そのまま前に進み、ブレア達が並ぶ列の端で立ち止まり、同じ様に片膝を床に落として頭を下げる。

「只今戻りました」

 ブレアとラファールは余り反応を見せないが、大柄の男はライオを横目で睨んでいるようにも見える。
 頬杖を突いたままのケイハルトは笑みで迎えた。

「随分と遅い帰りだな。我が息子、ライオよ」

         《第五章へ続く》
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