炎の魔獣召喚士

平岡春太

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第五章 交差する過去

 第十話 五賢人VS五賢人

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「ケイハルト……」
「誰だ? いや、その顔、ヴァルカンか。少し老けたか。どれぐらい月日が流れた? いやいや、それはどうでもいい。それなりの月日が流れたと言う事は、もうこの世に父上はいないと言う事だ。違うか、ヴァルカンよ?」

 大きな火傷を負っても尚、ケイハルトは笑みを見せる。
 片やヴァルカンは渋い顔で辺りを見渡す。

「まさか溶岩であの氷が溶けるとは」
「天は私に味方していると言う事だ」
「天がだと? 弟を殺したお前に、それは絶対にあり得ん」
「どうとでも言え。こんな姿になっても、私はこうして生きているのだからな」
「まだ大賢人の座に固執しているのか?」
「大賢人の座?」

 ケイハルトの高笑いが洞窟内に響き渡る。

「何が可笑しい?」
「確かに以前は固執していたのかもしれないな。だが、父上が居なくなった今、その名前に何の意味もない」
「だったらお前は、何をなそうとしている?」
「知りたいか? いいだろう。教えてやる。私に従う者だけを集め、それ以外の者をこのダルメキアから一掃してやるのさ」
「なっ!?」
「このダルメキアを私を中心とした世界に変えてやる。そうなれば、私はその世界での王  いや、神にも匹敵する。大賢人の座など意味がなかろう」
「何を馬鹿な。そんな事、させるはずがなかろう」
「ほう、私を止める気か? 父上には邪魔をされたが、老いたお前にそれが出来るか?」

 ケイハルトは地面に刺さっている自らの剣を引き抜き、軽く素振りをして感覚を確かめ、その切っ先をヴァルカンに向ける。

「私は幸か不幸か、父上に凍らされた御蔭で肉体の老化が進んではいないようだがな」
「たかだか十数年過ぎただけで老いたと言わないで貰おうか」

 ヴァルカンが構える剣の刃が炎に包まれる。

「魔獣は呼ばなくてもいいのか? 待ってやってもいいんだぞ」
「お前の事だ。そう言いつつも斬り掛かって来るだろう。それに、そこそこの竜魔獣を召喚しても、お前には無意味であろう。さすがにこの場所で炎帝は召喚出来ないだろうからな。ただ、それはお前も同じこと。雷帝は召喚出来まい」
「お前相手に雷帝を? 笑止。まあ、好きにすればいいさ。何をした所で、結果は変わらんだろうからな」

 ケイハルトが構えた剣の刃も、スパークを始める。
 じりじりと迫る溶岩を避ける為か、奥から吹き付ける熱風に押されてか、二人は剣を構えたまま溶岩から離れる様に並走する。
 先に仕掛けたのはヴァルカンだった。
 走る向きをケイハルトに変え、刃を包む炎を振りまきながらケイハルトに斬り掛かる。
 甲高い金属音が何度となく洞窟内に響き渡り、炎と雷撃が四方八方に飛び散る。

「甘い! 甘いぞ! ヴァルカンよ!」

 感覚が徐々に戻って来たのか、ケイハルトの剣技はその速さを増して行く。
 片やヴァルカンは、その顔に汗が滲み、その剣技の速さを維持するのがやっとに見える。

「終わりだ!」

 ケイハルトの剣が、ヴァルカンの腹部を刺し貫いた。
 ヴァルカンの口元から一筋の血が流れる。

「どうしてこちらに場所を移した? あの暑さでは体力を奪われるからであろう。やはり老いたか。残念だったな」

 笑みを見せるケイハルトに、ヴァルカンも笑みを見せて返す。

「そうでもないぞ。これでお前はこの先二度と魔獣を召喚する事が出来なくなったのだからな」
「何ぃ?」
「左腕をよく見てみろ」

 先程まであったケイハルトの左腕は、その肩口から先の部分が足元の地面に落ちていた。
 ヴァルカンの切り口が素晴らしかったのか、刃を包む炎が傷口を焼いたからなのか、痛みが直ぐには感じられなかった。
 傷口から血が流れ出すと共に襲って来た激痛に、ケイハルトはヴァルカンの腹部から剣を引き抜くと同時に絶叫する。
 それでも痛みを堪え、ヴァルカンに止めの剣を振り下ろす。
 ヴァルカンは剣を振り上げる力もなく、立ち尽くす。しかし、ケイハルトの剣は振り下ろされなかった。

「師匠!」

 ヴァルカンの目の前で、フラムが自らの剣でケイハルトの剣を受け止めていた。更に剣を振り払い、ケイハルトを飛び退らせる。

「フラムか……」
「師匠!」

 後ろに倒れそうになったヴァルカンの後ろに慌てて廻り込んで受け止めるも、その重さにその場のしゃがみ込む。

「あいつは一体?」
「ケイハルトだ……」
「ケイハルトって、あの五賢人の? 死んだはずじゃあ……」

 ケイハルトは尚も剣を構える。

「弟子がいたのか。まとめて殺してやる」
「パル、お願い!」
「任せるでヤンス!」

 フラムの肩から飛び立ったパルが、ケイハルトに向かって炎を吐く。しかし、その炎は忽然と現れた漆黒の魔獣召喚陣に吸い込まれるようにして消えてしまった。
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