炎の魔獣召喚士

平岡春太

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第五章 交差する過去

 第十八話 炎とともに

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「どうやら間に合った様ね。いえ、あの時から考えると、かなり遅かったのかも」

 フィールに乗ってブレアを包む炎に飛び込んだのは、イグニアだった。

「イグニア、あんた何を━━」

 炎の中にいるイグニアに手を伸ばそうとしたフラムを、いつの間にかその背後に立つビエントがフラムの服を掴んで止める。

「イグニア、お前は何と言う事を……」
「先生、ゴメンなさい。これは私がしなきゃいけない事なんです。フラムを連れて下がって下さい」
「だが……」

 首を横に振るイグニアに応える様に、ビエントはフラムを引っ張って下がり始めた。

「先生、放して! イグニアが!」
「あの炎に触れたものは、もう助からん」
「そんな薄情な! イグニアが━━」

 ふっと見たビエントの顔は涙に濡れていた。
 二人が下がったのを見届けたイグニアは、もはや真っ黒に変わってしまっているブレアに歩み寄り、倒れそうになっているその体を優しく抱き締めた。

「随分と遅くなってしまったわね。私がこうして生きていられたのも、全てクリスタがあの時命を懸けて助けてくれたからよ。だから、恨みがあるなら私の命はどうなっても構わない。でも、他の人を巻き込まないで。そんな事したら、クリスタが悲しむだけよ」

 耳元で話しかけても尚、ブレアに反応はない。

「何してんのよ。早くそこから出なさい! 私との勝負はどうすんのよ!」

 アインベルク達の元まで連れ戻されたフラムが、声を投げ掛ける。怒鳴ってはいるものの、その目からは涙が流れている。

「いい加減にしなさいよ、そこのバカ女! いつもいつも勝負を申し込んだ時は逃げ出すくせに、都合のいい時だけ人に指図してんじゃないわよ!」

 イグニアの目からも涙が流れていたかもしれない。でも、余りの熱に、流れ落ちる前に蒸発しているだろう。

「元々はあんたがヴァルカン様の弟子だから、羨ましくて勝負を挑んでたけど、クリスタが死んでからは、あの時の事を忘れたくて勝負を挑んでたのよ」
「そんなの……そんなの分かってたわよ、。私だって……だから逃げてたのに。勝負がついたら、そこで終わるから。それに……」
「そう、何をしたって忘れる事なんか出来るはずない。だからこうして、全てを終わらせる為に来たの」
「でもそれじゃあ、クリスタの死が無駄に……」
「ええ、だから先に行ってクリスタに謝って来るわ。だからブレア、私以外の人を巻き込むのは止めて。お願い」

 もはや炭化してしまっているブレアにやはり反応はなかった。しかし、二人を包む炎の勢いがあからさまに小さくなった。

「これは……あれならば何とかなるかもしれません。シャルロア、先程言った通りに準備なさい」
「でも、フラムさんのお友達が」
「ビエントが言っていた通り、あの炎に触れた者はもう助かりません。あの娘の意思を無駄にしてはいけません。あの炎の中、意識を保つだけでも大変だと言うのに、気丈に苦しみもせず、立っているだけでも大変なはずです」

 同じ時に炎に飛び込んだフィールは既に真っ黒になり、地面に横たわったまま動く様子はない。
 ただ、真っ黒にはなっていないながらも、イグニアの露出した肌も、既にあちらこちらが炭化し始め、黒く変色している。

「ビエント、貴方も泣いていないで自分がする事をなさい」

 氷の女王と呼ばれる所以か、アインベルクの言葉に揺るぎはない。
 ビエントも涙を拭う。

「分かっている」

 ビエントが槍を構え、アインベルクとシャルロアも錫杖を構える。
 それを見届けてか、イグニアはブレアの耳元に口を寄せる。

「クリスタにはあの時言えなかった礼を言わなきゃね。助けてくれてありがとうって。それと最後に、あなたにもちゃんと謝らないとね。大事な妹を死なせてしまって、ゴメンなさい……本当にゴメンなさい…………」

 目を閉じたイグニアの目から光るものが零れ落ちる。
 今まで反応を見せなかったブレアの目にも光るものが見えた。
 それは涙なのか、蒸発する事なく零れ落ち、それが地面に触れた刹那、ブレアの体全体がひび割れ、そこから炎が噴き出した。

「イグニア!!」
「シャルロア、今です!」

 フラムの悲痛な声の中で、アインベルクの掛け声の下、シャルロアが錫杖を地面に突き刺すとそこから地面に氷の道が勢い良く走り、それがイグニアとブレアの元に達すると空中に四散し、二人を覆い隠す氷のドームを形成した。
 後を追ってアインベルクが地面に突き刺した錫杖からも氷の道が走り、同じ様に上空に四散し、先にできた氷のドームを更に覆う氷のドームを形成した。
 次の瞬間、轟音と共に氷のドームは爆発するように弾け飛び、水蒸気を纏った煙が一気に周りに噴出した。
 透かさずビエントが目の前で廻転させた槍が、風の壁を生み出したが、水蒸気を纏った煙は一気に全てを飲み込み、辺り一面の真っ白な世界に変えてしまった。
 次第に白いものは何かに吸い込まれる様に一ヵ所に流れて行き、辺りの景色を少しずつ映し出して行く。
 吸い込まれて行く先は、廻し続けるビエントの槍にであった。
 見通しが良くなり、ビエントはようやく槍を止める。

「皆、無事であるか?」

 声を掛けるビエント、アインベルク、シャルロア、フリード、フラム、そして地面にひっくり返っているパル共に、さしたる怪我一つなく無事であった。
 ただ━━。

「この分だと他も被害は出ていなさそうですね。それも全て、あの娘の御蔭です」

 アインベルクが見詰める先には、クレーター状の大きな窪みが出来ていた。その中心には放射状に焦げ跡が地面に残っているだけで、他に何も残っていなかった。

「何たる事だ。また目の前で教え子が死に行く様を何も出来ずに見ているしかなかった。しかも今度は屍すら残っておらぬとは、ご両親には何と伝えればよいのか……フラム?」

 フラフラと歩み出したフラムは、窪みの淵で歩みを止め、崩れる様に崩れる様に膝を地に落とした。

「イグ……ニ…………」

 伸ばした震える手は、虚しくも空を掴むしかなかった。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
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