幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第1章

第9話

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 私と藤宮は、他の作品についてもいくつか話した。

 ガールズラブや百合小説、漫画の読書は私の隠れた趣味であるため、誰とも語り合うことはない。
 そのことについて特に気にしたことはなかったが、趣味の話をすることがこんなにも楽しいことだとは思わなかった。
 藤宮が意外とオタクだということは――長い付き合いだが、初めて知った。
 昔は喧嘩ばかりだったのだから、知る由もなかっただけなのかもしれない。

 スマホの着信音が鳴る。

 私は慌てて確認した。
 思った通り――深雪からの連絡だ。

 彼女が体調を崩すことはよくあること。
 だから、別に心配なんてしていない。
 絶対、大丈夫だって――そんなこと、分かりきっていることだ。

『お医者さんに見て貰いましたが、全然だいじょーぶいだよ』

 スタンプも送られてきた。
 変な熊がVサインをしている。

『でも、今日は大人しく寝ることにするね!』

 深雪のメッセージを確認し終えた後、何故か急に体の力が抜け――ベンチに寄りかかった。

「……水瀬から?」

 先程まで、珍しくご機嫌だったのに――いつのまにか不機嫌な顔に戻っていた。

 水瀬――それは、深雪の名字。

「まあ、そうなんだけどさ。よく分かったね」
「月城がやりとりをする相手なんて決まっているし――そんな、馬鹿みたいな顔になる相手なんて、水瀬ぐらいでしょ?」

 失礼な。馬鹿みたいな顔ってどんなんだよ。
 因みに、月城とは――私の名字である。

 藤宮は鼻を鳴らした後、読書に戻った。

 私は、すっかり忘れていたお弁当の包を広げる。

「もしかしてさー、藤宮って――深雪のこと、嫌い?」

 蓋を開け、箸を手に持つ。

「……何で、そんな話になるのよ」
「だって、深雪の話になると大抵、不機嫌になるからね」

 無言。

 私は適当にお米から口にする。

「別に――そんなことないから」
「あ、そうなの? なら、良かったけど」
「何で関係のないあなたが――良かったなんて、そんな言葉がでてくるのよ」

 吐き捨てるように言われた。

 別に深い意味なんてない。だから、何でかと言われても正直困る。

 本気でご機嫌斜めなご様子。

 これ以上、この話は止めたほうが良さそうだ。

 私は卵焼きを食べる。

 どうでもいい話だが、卵焼きは砂糖を入れて甘くした方が私は好きだ。

 今回、中々に上手くできたと思う。
 
「藤宮は、昼は食べないの? 卵焼きあげようか? ここ最近での私の最高傑作だからね」
「いらない」

 そっけないが、返事をしてくれただけまだマシだ。

 私はしばらく、一人で食事を続けた。

「……本当に、水瀬のことは嫌いな訳じゃないから」

 私の方を見ずに、藤宮は呟く。

「だから、勘違いしないで」
「あー、うん」

 それ以上、特に言うこともない。

 私は食事を続けた。

「正直、あなたなんかより――水瀬のほうがまだましだから」
「は?」

 その言葉は予想外だったため、箸の動きが止まった。

 藤宮の視線は本に向かったまま。

「もしかして、深雪のことが好きとか?」

 聞き捨てならなかったのか、本を閉じて私を見る。

「なんでそうなるのよ」
「だって私なんかより、深雪のことが好きだって言うからね」
「月城の耳は腐ってるのかしら? 私は好きだなんて一言も言っていないわよ。マシだって、言っただけだから」

 藤宮はかなり、カリカリとしている。
 
「でもさー、藤宮って私のこと好きじゃん? それ以上というのなら、もうそれは愛だね」

 別に本気で藤宮が私のことを好きだと思っているわけではない。
 自分でもよく分からないが、藤宮の先程の言葉は何故か私を腹立たせた。
 だから、少し大げさに言って嫌がらせをしているだけ。とはいえ、予想以上に反応が大きい気はするが。

「ば、馬鹿なんじゃないの!?」

 藤宮は顔を真っ赤にして、聞いたこともないぐらいの怒鳴り声を私の耳元近くで叫びやがった!

 耳を押さえる私をひと睨みした後、ベンチから立ち上がり――どこかへ向かった。

 あの野郎――と思うが、どうやら嫌いになれそうもない。
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