幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第1章

第12話

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 分かれ道で足を止めた。

 深雪の家は通り道にあるわけではない。だから、彼女の家に向かうのは、ついでだから――という言い訳など通用しない。

「どうするんです? 足を止めたってことは、まーだ悩んでるんですか? どーせ、深雪先輩へのお見舞い品――買ってるんですよね?」

 別に、わざわざ深雪のために買った訳じゃない。偶然、御見舞の品になるようなものが袋の中に入っているだけだ。

「本当に、奈々先輩は情けないですねー」

 腹が立つが、正直――何も言い返せない。

「私の前で、あれだけ深雪先輩への愛を叫んだじゃないですかぁ。今さら、何を恥ずかしがることがあります?」

 そんなこと――叫んだつもりなどないのだが。

「ほらほら、早く行きますよー」

 ちび助は私の背中を突っついてくる。

「はぁ、仕方ないからついてってあげる」

 私はため息を吐く。予想以上にわざとらしくなってしまった気がする。

「あ、卑怯ですよ。行く理由を私のせいにしようとしてますね!」
「ほら、さっさと行くんでしょ」

 後ろでブーブー文句を言う後輩を置いて、私は歩き出した。



 家の前で立ち止まる。

「言っとくけど、深雪が寝てるようなら――品物だけを弘子さんに渡してさっさと帰るわよ」
「私のこと何だと思ってるんですか? そんなの当たり前じゃないですかぁ」

 ぷりぷりと怒るちび助を無視して、私はチャイムを鳴らした。

 しばらくして、扉が開き、弘子さんが顔を出した。

「あら、もしかして二人共、わざわざ深雪のお見舞いに来てくれたの?」
「弘子さん、そんなの当然ですよ!」
「あ、深雪――寝てますよね? 無理して起こさなくても大丈夫なんで」

 前のめりになる後輩の服の裾を引っ張る。

「気にしなくても大丈夫よ。だって直ぐに落ち着いたんだから。あなた達が来たと分かったら――きっと、あの子も喜んでくれるはずよ」

 そう言って、笑顔で迎え入れられた。

 深雪なら喜んでくれる――そんなことは分かっている。しかし、あまり無理はさせたくない。

 私達は二階へ上がっていく。

 部屋の扉を叩いた。

 深雪が返事をする声。

 私は部屋の扉を開いた。

 相変わらず、ぬいぐるみだらけの部屋。

 ベットの上で上体を起こし、本を読んでいる。顔を上げた深雪と視線が合う。彼女は驚いたのか、目を大きく見開いた。

「深雪先輩!」

 ちび助は声を上げる。深雪のもとに駆け寄り、膝をついた。

「大丈夫ですか? 辛くないですか?」

 辛いと言ったらどうするのだろう? 一体、何ができる? 何もできやしない。苦しみを共有できない他人など――煩わしいだけだ。

「全然、大丈夫だよ。小春ちゃんのおかげで、元気になれたから」

 そう言って、深雪はちび助の頭をなでた。

 ここからでは横顔しか見えないが、デレッデレになった馬鹿な顔であることがよーく分かる。

「私、深雪先輩のために色々買ってきたんですよぉ」

 ちび助は得意げに袋の中から取り出した物を、ベットの隣りにある棚の上に置いた。

「これは――」

 深雪はその中から、ひとつのヨーグルトカップを手に取った。

「これ、もしかして――奈々ちゃんが薦めてくれたの?」
「あーそれは――」

 私は自分の、頭を掻く。

 ちび助は私と深雪を交互に見比べたあと、慌てて口にした。

「ち、違いますよ! 私が選んだんですよ! 奈々先輩なんて何にも関係ありませんから!」
「そうだったけ?」
「ちょ、なんですかそれは! 私がそれを選んだんです! そしたら、奈々先輩が声を上げたから、なんですか? って聞いただけですから!」
「まぁ、そう言うことにしてあげてもいいんだけどさー」

 私は腕を組み、やれやれ――といった感じで、首を横に振った。

 ちび助は、うがぁーと叫んだかと思うと、両手をわなわなと動かし始めた。
 その――あまりにも悔しそうな姿に、私は笑いを堪えきれなくなりそうだ。

「もしかして、二人とも凄く仲良しになったのかな?」

 私とちび助は同時に否定したあと、お互いを睨みつけた。

 そんな私達を見て、深雪はくすくすと笑った。

「深雪先輩! 本当に私が見つけて、私が選んだんですからね!」
「大丈夫、ちゃんと分かってるよ」
「本当ですか?」
「うん。本当」

 子供をあやすような声音。

「因みにですが、この品物は正解だったんですかね?」
「うん?」

 深雪は首を傾げる。
 
「ああ、すみません。最近、ギャルゲーばかりやっていたので、少しおかしな感覚になっていたかもしれません」
「う、うん……」
「これで、好感度が上がったと思っていいですかね?」
「え? あ、うん。凄く嬉しかったよ」
「本当ですか!? 良かった!」

 ちび助の無邪気? な笑顔を見て、深雪は照れたように笑う。

 何も知らなければ、天使のような笑顔に見えることだろう。しかし、私にはもう――エロ魔神の下卑た笑いにしか見えない。

「ところで、そのヨーグルトは昔から好きなんですか?」
「これ?」
「はい」

 深雪はカップを見て、微笑んだ。

「そうだね、昔から好きだったよ。それを知っているのはもう、奈々ちゃんだけ。――だから、私が熱を出して学校を休むたび、奈々ちゃんが持ってきてくれてたんだよ。たまたま家にあったからって、そんなことを言ってね」
「え? そんな訳ないですよね?」
「だよね、私もそう思ってたよ。しかも、お見舞いに来てくれてありがとうって言っても、奈々ちゃんはそんなんじゃないって――いつも、言い張ってたんだよ」

 そう言って、深雪は笑う。
 そして、私の顔を見た。

「それももう、何年も前の話なんだよね。久々に、奈々ちゃんがお見舞いに来てくれて嬉しいよ」

 何故か――言葉が出なかった。

「奈々ちゃん、ありがとう」

 私は耐えきれなくなって、彼女から背を向けた。
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