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第2章
第16話
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基本的に、深雪はとても不器用である。本人は決して認めようとはしないが。
本日の午前中、さっそくやらかした。
体育の時間、相手がパスで渡したボールを顔面で受け止める。鼻血が思いのほか流れ、床に垂れた。悲鳴が上がる。すぐにティッシュを深雪の鼻に押し当て、床に垂れた血を拭く。
「先生、保健室へ行きますので」
了承を確認してから、私は深雪の体を支えて保健室へ向かった。
正直、体育館の隅で大人しくしていてもいいのだが、深雪は気にするだろう。
保健室へ入るが、誰もいない。
まぁ、よくあること。
ここの保険医は正直不真面目だ。
きっと、煙草でも吸いに行っているのだろう。元ヤンキーだったと言われても納得の顔だ。態度だけでなく、風貌もそんな感じ。
しかし、砕けた口調のせいか人に緊張は与えない人物で、ここの卒業生だ。そして、私の保護者ということになっている。
年齢は、今年28の歳である。
名前は月城静香。
静姉と呼んでいる。その呼び方は本人たっての希望だ。
とりあえず、深雪を椅子に座らせ、顎を引かせ少し下向きにさせた。
ハンカチを少しずらして確認する。ほとんど止まっていた。
近くの棚から長めのガーゼと小さな袋を取り出し、直ぐに戻る。
ティッシュを袋の中に入れ、ガーゼを深雪の鼻に押しあてると、隣の椅子に座った。
「ごめんね、迷惑をかけて」
「別に、授業さぼれて私は嬉しいから」
その言葉で、深雪は何故か笑った。
「奈々ちゃんは、本当に素直じゃないよね」
「……そんなことないから」
授業がサボれて嬉しいのは、別に嘘ではない。
「奈々ちゃん、本当にいつもありがとう」
私は窓の外へ視線を外した。
別のクラスの生徒達が、グラウンドを走っている。
「でも本当――深雪は不器用で、鈍臭いわよね」
「そ、そんなことないよ。中村さんのパスはもうプロ級に進化してたんだから。あんなの、奈々ちゃんだって絶対にとれないんだからね」
中村は、深雪と同じく運動オンチだ。あんな緩いボールを取れないのは深雪ぐらいなもの。だから、玉を投げた彼女の方が、完全に被害者だと思う。
しかし、深雪がぶつけられた瞬間――つい頭に血が上り、中村を睨みつけたことは大変申し訳なく思う。わざわざ謝るつもりはないけど、彼女の大変申し訳無い――という顔を思い出せば、罪悪感を感じる。だけど、すぐに忘れられる。私はただ、それを待ち続けるだけ。
――扉が、開く音。
「何よあんたたち、また来たの? 本当に私のこと、好きよねー」
そう言って、静姉は中に入ってくる。
左手は長い白衣のポケットの中。右手は頭を掻きむしり、ボリュームのある――茶髪のウェーブヘアーを揺らした。
「深雪はまーた鼻血なのね。本当に鈍臭いわねー」
私以外の人間にも同じことを言われ、深雪はしょんぼりとした。
因みに、前回は二ヶ月前。何も無い場所で転び、盛大に鼻を打ち付けた。彼女曰く、何かがあったと言い張っている。
「――で、何があったの?」
そういって、急に真面目な顔になった。
「体育の授業でバスケをしていて、それでボールが鼻に当たっただけ。それで、取り敢えずティッシュを鼻につめてここまできたってわけ。さっき確認したところ、落ち着いたと判断したから、ティッシュをガーゼに変えて終わらしたんだけど、何か文句ある?」
保険医は深雪の鼻の確認をする。
「確かに。もう、大丈夫そうね」
「へー、ちゃんと仕事はするんだ。いつ見ても意外だわ」
「当たり前よ。美少女の顔をこんな間近で、しかも無料で触れるんだから」
そう言って、静姉は深雪の頬を指でつっつく。
私は反射的に椅子から立ち上がると、奴は笑って後退った。
「怖いこわーい。素敵なナイト様ね。その目つきの悪さはいただけないけど」
「ナイトでもないし、目つきが悪くもないんだけど」
そう言って、私は再び椅子に座り直した。
「いい加減、目つきの悪さくらいは自覚したほうがいいと思うけどね。君はさー、怖がれてるんじゃないの?」
「別に、そんなことないから」
何故か、深雪が首を横にふる。
「でもまあ、深雪をさっそうと助けたんだろうから、周りの反応はよかったんじゃない? 好感度――上がったかもね」
「別に助けてなんかない。ただ、授業をサボりたかっただけだから」
「本当に、君は素直じゃないわねー」
静姉は呆れたように言葉を吐いた。
深雪はにやにやしながら、こちらを見て指さしてくる。
少し苛ついたため、彼女の頭を軽く小突いた。
保険医は窓まで近づき、外の生徒を眺める。
「奈々」
私の名前を口にした。
「君を見てると、本当――昔の私を思い出すわね」
とても、嫌なことを言われた。
「もうちょっと素直にならないと――いつか後悔するかもよ」
そんな――不吉なことを口にした。
本日の午前中、さっそくやらかした。
体育の時間、相手がパスで渡したボールを顔面で受け止める。鼻血が思いのほか流れ、床に垂れた。悲鳴が上がる。すぐにティッシュを深雪の鼻に押し当て、床に垂れた血を拭く。
「先生、保健室へ行きますので」
了承を確認してから、私は深雪の体を支えて保健室へ向かった。
正直、体育館の隅で大人しくしていてもいいのだが、深雪は気にするだろう。
保健室へ入るが、誰もいない。
まぁ、よくあること。
ここの保険医は正直不真面目だ。
きっと、煙草でも吸いに行っているのだろう。元ヤンキーだったと言われても納得の顔だ。態度だけでなく、風貌もそんな感じ。
しかし、砕けた口調のせいか人に緊張は与えない人物で、ここの卒業生だ。そして、私の保護者ということになっている。
年齢は、今年28の歳である。
名前は月城静香。
静姉と呼んでいる。その呼び方は本人たっての希望だ。
とりあえず、深雪を椅子に座らせ、顎を引かせ少し下向きにさせた。
ハンカチを少しずらして確認する。ほとんど止まっていた。
近くの棚から長めのガーゼと小さな袋を取り出し、直ぐに戻る。
ティッシュを袋の中に入れ、ガーゼを深雪の鼻に押しあてると、隣の椅子に座った。
「ごめんね、迷惑をかけて」
「別に、授業さぼれて私は嬉しいから」
その言葉で、深雪は何故か笑った。
「奈々ちゃんは、本当に素直じゃないよね」
「……そんなことないから」
授業がサボれて嬉しいのは、別に嘘ではない。
「奈々ちゃん、本当にいつもありがとう」
私は窓の外へ視線を外した。
別のクラスの生徒達が、グラウンドを走っている。
「でも本当――深雪は不器用で、鈍臭いわよね」
「そ、そんなことないよ。中村さんのパスはもうプロ級に進化してたんだから。あんなの、奈々ちゃんだって絶対にとれないんだからね」
中村は、深雪と同じく運動オンチだ。あんな緩いボールを取れないのは深雪ぐらいなもの。だから、玉を投げた彼女の方が、完全に被害者だと思う。
しかし、深雪がぶつけられた瞬間――つい頭に血が上り、中村を睨みつけたことは大変申し訳なく思う。わざわざ謝るつもりはないけど、彼女の大変申し訳無い――という顔を思い出せば、罪悪感を感じる。だけど、すぐに忘れられる。私はただ、それを待ち続けるだけ。
――扉が、開く音。
「何よあんたたち、また来たの? 本当に私のこと、好きよねー」
そう言って、静姉は中に入ってくる。
左手は長い白衣のポケットの中。右手は頭を掻きむしり、ボリュームのある――茶髪のウェーブヘアーを揺らした。
「深雪はまーた鼻血なのね。本当に鈍臭いわねー」
私以外の人間にも同じことを言われ、深雪はしょんぼりとした。
因みに、前回は二ヶ月前。何も無い場所で転び、盛大に鼻を打ち付けた。彼女曰く、何かがあったと言い張っている。
「――で、何があったの?」
そういって、急に真面目な顔になった。
「体育の授業でバスケをしていて、それでボールが鼻に当たっただけ。それで、取り敢えずティッシュを鼻につめてここまできたってわけ。さっき確認したところ、落ち着いたと判断したから、ティッシュをガーゼに変えて終わらしたんだけど、何か文句ある?」
保険医は深雪の鼻の確認をする。
「確かに。もう、大丈夫そうね」
「へー、ちゃんと仕事はするんだ。いつ見ても意外だわ」
「当たり前よ。美少女の顔をこんな間近で、しかも無料で触れるんだから」
そう言って、静姉は深雪の頬を指でつっつく。
私は反射的に椅子から立ち上がると、奴は笑って後退った。
「怖いこわーい。素敵なナイト様ね。その目つきの悪さはいただけないけど」
「ナイトでもないし、目つきが悪くもないんだけど」
そう言って、私は再び椅子に座り直した。
「いい加減、目つきの悪さくらいは自覚したほうがいいと思うけどね。君はさー、怖がれてるんじゃないの?」
「別に、そんなことないから」
何故か、深雪が首を横にふる。
「でもまあ、深雪をさっそうと助けたんだろうから、周りの反応はよかったんじゃない? 好感度――上がったかもね」
「別に助けてなんかない。ただ、授業をサボりたかっただけだから」
「本当に、君は素直じゃないわねー」
静姉は呆れたように言葉を吐いた。
深雪はにやにやしながら、こちらを見て指さしてくる。
少し苛ついたため、彼女の頭を軽く小突いた。
保険医は窓まで近づき、外の生徒を眺める。
「奈々」
私の名前を口にした。
「君を見てると、本当――昔の私を思い出すわね」
とても、嫌なことを言われた。
「もうちょっと素直にならないと――いつか後悔するかもよ」
そんな――不吉なことを口にした。
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