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第2章
第17話
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✿小春視点
目指すは、二年B組のクラス。
目指す標的は、藤宮千歳。
この時間まで、小春は彼女の情報を集め、ある程度は人となりを把握したつもりでいる。
向かう途中で、標的の後ろ姿を見つけた。
小春は少し考えたあと、尾行を開始する。
雑木林の中を歩き、奥にあるひとつのベンチに――藤宮は座る。
食事を開始することなく、本を開いた。
少し様子見をしたあと、小春は標的に向かって歩き出す。
藤宮は顔を上げ、小春の顔を見て驚いた表情になる。しかし、それはほんの一瞬だけ。すぐに元の無表情に戻った。
「初めまして、藤宮先輩。私は桜井小春って言います。実は今朝、一度対面しているんですけど、分かります?」
「月城と一緒にいた子でしょ。それぐらいしか、記憶にないのだけれど」
「その認識で、問題ないですよ。それと、安心してください。私は奈々先輩ではなく、深雪先輩が好きなので」
その言葉に、藤宮は眉根を寄せた。
「……どういう意味?」
小春は、生徒手帳を取り出す。
「今朝、これを落としましたよ」
藤宮は慌ててスカートのポケットの中を調べ、顔色が青くなった。
「もしかして、中――見たの?」
「え? それはそーですよー。だって、中を見ないことには誰のか分からないじゃないですかー」
小春は笑顔で言った。
「か、勘違いよ」
「何がです?」
「それは……」
「巷で、生徒手帳に好きな人と自分の写真を入れると両思いになる――そんなおまじないが話題になってるんですけど、それ――知ってました?」
「し、知らないわよ、そんなこと」
藤宮は頬を真っ赤にさせ、顔をそらす。
その仕草に、その横顔に、その美しさに――小春はぞくぞくとした。それは――未知の快感。
「へーそれなのに、奈々先輩と自分の写真を重ねて入れてたんですねー。本当に、知らなかったんです?」
「そ、それはたまたま月城と私の写真があって、それで――たまたま入れていただけ。そんなの、直ぐに捨てるつもりだったわよ」
「そんなたまたまありますかねー。それにしても、隠し撮りっぽい写真ですよねー、これ」
小春は生徒手帳から奈々の写真を引き抜いた。
「あ――あなたの勘違いよ」
「しかも、写真の重ね方、切り取りの仕方など、偶然だとは思わないんですけどー」
「……」
小春は写真をぺらぺらと揺らす。
「これ、奈々先輩の写真――本人に見せてもいいです? 今の状況を説明してどう思いますかね? 多分、私と同じ見解になるかと思いますけどー」
「な、何が目的なのよ!」
ちょっと泣きそうになってる。話に聞いてたのと少し違う。意外とメンタルが弱そうだと、小春は思った。
先程までの快感が、急に罪悪感で塗りつぶされる。
「あ、安心してください! 別に言いふらすつもりなんてありませんから!」
慌てて写真を元に戻し、手帳を藤宮に近づけると、ものすごい勢いで奪われた。
深雪を悲しませたことへの復讐も兼ねていたが、思った以上にやり過ぎてしまったようだ。
「じゃあ……一体、何なのよぉ」
本当に、泣きそうだ。視線が地面に落ち、小春の方を見ようともしない。
「わ、私はただ――藤宮先輩の恋を応援したいだけです」
「……どうしてよ」
「私は近い将来、深雪先輩と付き合います」
何の迷いなく、小春は口にした。
予想外の言葉だったのか、藤宮は顔を上げ、目をまんまるくさせた。
「そして、十年後には結婚しています」
藤宮の口元が引き攣る。
「あ、その顔は信じてませんね?」
藤宮は視線をそらす。
「まあ、いいです。――だから、藤宮先輩には奈々先輩を任せたいんですよ。私は、奈々先輩にも幸せになって欲しいですから」
「なんで……私なのよ」
「だって、脈がありそうですから」
小春の言葉で、藤宮は視線を戻した。
「そんなわけが無いわ。だって、月城は水瀬のことを――」
「でも、外見は藤宮先輩のことがタイプらしいですよ」
その言葉を聞き、藤宮は苦笑する。
「もしかして、藤宮先輩はピュアな人です? 外見だけでは満足できません? 性欲を否定し、心のみの繋がりこそが愛ですか?」
「……外見だけでは、いずれ飽きられるわ。心がなければ、そのうち捨てられるだけ」
「奈々先輩ってそんな簡単に人を捨てられるような人です? それに、奈々先輩の話を聞いた感じですと、藤宮先輩への心が全くないとも思いませんけど?」
「何故、そう思うの?」
「だって、私が藤宮先輩に手を出そうとしていると勘違いしたとき、本気で切れかかってましたもん」
「……」
「藤宮先輩は、奈々先輩からの好意を感じるときはないんですか?」
「……好きにも色々あるわ」
「でも、奈々先輩が藤宮先輩に向ける感情はきっといやらしいものです。間違いありません。だから、可能性大だと思いますけど? 何せ、恋は性欲から始まるといっても過言じゃありません」
「そんな――露骨な感情を向けられているとはとても思わないのだけれど」
「大丈夫です、私に考えがあります。今日の放課後で奈々先輩の好みを把握し、明日の放課後で私がその情報を教えます。そこで作戦会議をしますので、時間を空けておいてください。そして、次の日の土曜日に奈々先輩たちと遊ぶ約束をしていますので、その日にダブルデートをしましょう」
「デ、デート――」
藤宮は口をもごもごとさせている。多分、嬉しいのだろうと、小春は推測した。
――この人、奈々先輩と同じくかなり不器用な人なのかもしれない。
「因みに、今週の土曜日は空いてます?」
「だ、大丈夫よ」
「連絡先、教えて貰っていいですかね?」
「え、ええ」
スマホで連絡先を交換する。
あまり慣れていないのか、もたもたしているところが、少し可愛いと――小春は思ってしまった。
「それでは、詳しくはまたあとで連絡します」
藤宮は素直に頷いた。
周りからつけられた呼び名は――氷のお姫様。
確かに会うまでは、そんなイメージを持っていたが、今ではとてもそんな風には見えない。
素直になれない――そんな不器用なだけのお姫様。
「別に深い意味はないんですが、一応、今までの会話は録音させてもらっていますし、生徒手帳の中に入っていた写真2枚はスマホの中に保存してあります。勘違いしないでくださいね、別にそれで何かをしようとしているわけではないので」
そう言って、小春は安心させるように笑みを浮かべる。
しかし、藤宮は顔を引きつらせ、顔が若干青くなった。
目指すは、二年B組のクラス。
目指す標的は、藤宮千歳。
この時間まで、小春は彼女の情報を集め、ある程度は人となりを把握したつもりでいる。
向かう途中で、標的の後ろ姿を見つけた。
小春は少し考えたあと、尾行を開始する。
雑木林の中を歩き、奥にあるひとつのベンチに――藤宮は座る。
食事を開始することなく、本を開いた。
少し様子見をしたあと、小春は標的に向かって歩き出す。
藤宮は顔を上げ、小春の顔を見て驚いた表情になる。しかし、それはほんの一瞬だけ。すぐに元の無表情に戻った。
「初めまして、藤宮先輩。私は桜井小春って言います。実は今朝、一度対面しているんですけど、分かります?」
「月城と一緒にいた子でしょ。それぐらいしか、記憶にないのだけれど」
「その認識で、問題ないですよ。それと、安心してください。私は奈々先輩ではなく、深雪先輩が好きなので」
その言葉に、藤宮は眉根を寄せた。
「……どういう意味?」
小春は、生徒手帳を取り出す。
「今朝、これを落としましたよ」
藤宮は慌ててスカートのポケットの中を調べ、顔色が青くなった。
「もしかして、中――見たの?」
「え? それはそーですよー。だって、中を見ないことには誰のか分からないじゃないですかー」
小春は笑顔で言った。
「か、勘違いよ」
「何がです?」
「それは……」
「巷で、生徒手帳に好きな人と自分の写真を入れると両思いになる――そんなおまじないが話題になってるんですけど、それ――知ってました?」
「し、知らないわよ、そんなこと」
藤宮は頬を真っ赤にさせ、顔をそらす。
その仕草に、その横顔に、その美しさに――小春はぞくぞくとした。それは――未知の快感。
「へーそれなのに、奈々先輩と自分の写真を重ねて入れてたんですねー。本当に、知らなかったんです?」
「そ、それはたまたま月城と私の写真があって、それで――たまたま入れていただけ。そんなの、直ぐに捨てるつもりだったわよ」
「そんなたまたまありますかねー。それにしても、隠し撮りっぽい写真ですよねー、これ」
小春は生徒手帳から奈々の写真を引き抜いた。
「あ――あなたの勘違いよ」
「しかも、写真の重ね方、切り取りの仕方など、偶然だとは思わないんですけどー」
「……」
小春は写真をぺらぺらと揺らす。
「これ、奈々先輩の写真――本人に見せてもいいです? 今の状況を説明してどう思いますかね? 多分、私と同じ見解になるかと思いますけどー」
「な、何が目的なのよ!」
ちょっと泣きそうになってる。話に聞いてたのと少し違う。意外とメンタルが弱そうだと、小春は思った。
先程までの快感が、急に罪悪感で塗りつぶされる。
「あ、安心してください! 別に言いふらすつもりなんてありませんから!」
慌てて写真を元に戻し、手帳を藤宮に近づけると、ものすごい勢いで奪われた。
深雪を悲しませたことへの復讐も兼ねていたが、思った以上にやり過ぎてしまったようだ。
「じゃあ……一体、何なのよぉ」
本当に、泣きそうだ。視線が地面に落ち、小春の方を見ようともしない。
「わ、私はただ――藤宮先輩の恋を応援したいだけです」
「……どうしてよ」
「私は近い将来、深雪先輩と付き合います」
何の迷いなく、小春は口にした。
予想外の言葉だったのか、藤宮は顔を上げ、目をまんまるくさせた。
「そして、十年後には結婚しています」
藤宮の口元が引き攣る。
「あ、その顔は信じてませんね?」
藤宮は視線をそらす。
「まあ、いいです。――だから、藤宮先輩には奈々先輩を任せたいんですよ。私は、奈々先輩にも幸せになって欲しいですから」
「なんで……私なのよ」
「だって、脈がありそうですから」
小春の言葉で、藤宮は視線を戻した。
「そんなわけが無いわ。だって、月城は水瀬のことを――」
「でも、外見は藤宮先輩のことがタイプらしいですよ」
その言葉を聞き、藤宮は苦笑する。
「もしかして、藤宮先輩はピュアな人です? 外見だけでは満足できません? 性欲を否定し、心のみの繋がりこそが愛ですか?」
「……外見だけでは、いずれ飽きられるわ。心がなければ、そのうち捨てられるだけ」
「奈々先輩ってそんな簡単に人を捨てられるような人です? それに、奈々先輩の話を聞いた感じですと、藤宮先輩への心が全くないとも思いませんけど?」
「何故、そう思うの?」
「だって、私が藤宮先輩に手を出そうとしていると勘違いしたとき、本気で切れかかってましたもん」
「……」
「藤宮先輩は、奈々先輩からの好意を感じるときはないんですか?」
「……好きにも色々あるわ」
「でも、奈々先輩が藤宮先輩に向ける感情はきっといやらしいものです。間違いありません。だから、可能性大だと思いますけど? 何せ、恋は性欲から始まるといっても過言じゃありません」
「そんな――露骨な感情を向けられているとはとても思わないのだけれど」
「大丈夫です、私に考えがあります。今日の放課後で奈々先輩の好みを把握し、明日の放課後で私がその情報を教えます。そこで作戦会議をしますので、時間を空けておいてください。そして、次の日の土曜日に奈々先輩たちと遊ぶ約束をしていますので、その日にダブルデートをしましょう」
「デ、デート――」
藤宮は口をもごもごとさせている。多分、嬉しいのだろうと、小春は推測した。
――この人、奈々先輩と同じくかなり不器用な人なのかもしれない。
「因みに、今週の土曜日は空いてます?」
「だ、大丈夫よ」
「連絡先、教えて貰っていいですかね?」
「え、ええ」
スマホで連絡先を交換する。
あまり慣れていないのか、もたもたしているところが、少し可愛いと――小春は思ってしまった。
「それでは、詳しくはまたあとで連絡します」
藤宮は素直に頷いた。
周りからつけられた呼び名は――氷のお姫様。
確かに会うまでは、そんなイメージを持っていたが、今ではとてもそんな風には見えない。
素直になれない――そんな不器用なだけのお姫様。
「別に深い意味はないんですが、一応、今までの会話は録音させてもらっていますし、生徒手帳の中に入っていた写真2枚はスマホの中に保存してあります。勘違いしないでくださいね、別にそれで何かをしようとしているわけではないので」
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