幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第3章

第36話

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 深雪たちの姿が見えなくなった場所で、小倉は足を止めた。しばらく歩いたが、それでも学校からは離れている。そのため、周りに人の姿は見えない。あるのは、木々だけ。

「で、一体なんなん?」

 小倉は私の方に振り向く。

「藤宮さんに告白したんだ。付き合って欲しいとね」

 何でもないことのように、小倉は口にした。

「……躊躇いとかないわけ?」
「ふふふ、僕だって人間だよ? 勿論、躊躇いはある。僕が例えどれだけ美しい人間であろうとも、僕のこの感情を受け止められない女性はいることだろう。普段、僕に対して、黄色い声援を送ってくれる彼女たちの中にもね」
「それだけ理解しながら、よく私にそんなこと言えたもんだね。私が誰かに言いふらすとか――考えないわけ?」
「君がそのようなことをする人間ではないことぐらい、僕は理解しているつもりだよ」

 ――そう言われて、悪い気はしない。つくづく、自分は単純な人間だと思い知らされる。

「……何で告白したの?」
「おかしなことを言うね。そんなの、好きになったからに決まっているよ」
「いや、まぁ……それはそうなんだけど。小倉が藤宮を好きとか、ちょっと意外だからさ。何か、関わりあったっけ?」
「そうだね、まったくないよ。いわゆる、一目惚れってやつだね」
「それはいつから?」
「いつ? それは、この学校に入学してすぐにだよ。だって彼女は、何もしていないのに、目立ってしまうからね」

 ――思っていたより、長いなぁ。

「僕は彼女を気にしていたけど、ずっと声をかけられなかった。そんな自分に、ずいぶん戸惑ったものだよ」

 そう言って、小倉は自嘲気味に笑う。

 何か――意外だ。

「時々、君と藤宮さんが話しているのを――見ていたんだ。正直、羨ましかったし、妬いたりもしたよ」

 小倉は爽やかな笑みを浮かべる。とてもじゃないが、嫉妬する人間の顔には見えない。

 それにしても、まさか見られていたとは。

「だけど何で急に告白しようと思ったわけ?」

 その理由が想像できない。

「……それは、彼女が告白されたと聞いて――いても立ってもいられなくなったからだね」

 あぁ――なるほど。

「そして、告白して振られたわけだよ」
「それで、何であんな大騒ぎになってんの?」

 小倉は笑う。

「正直、自分でも驚きだったよ。彼女を追いかけ、ベンチに一人で座る彼女を見て、僕は衝動的に告白してしまったんだ」
「……」
「振られたことを、僕は納得できなかった。だから、縋り付いてしまったんだ。まったく、情けない話だよ」

 そう言って、小倉は落ち込んだ顔をした。そんな表情、初めて見た。

 気持ちは――まぁ、分からなくもない。分からなくもないけど、彼女に同情する気持ち以上に――私は安堵し、心が喜んでいる。藤宮が、小倉を選ばなかったことを――私は何故か、喜んでしまった。

「そこで、小春に止められたってわけね」
「小春?」
「ちび助のことよ」
「ああ、あの仔犬くんのことか。そうだよ、その通りだね」

 私は少しだけ、ちび助を見直した。

「私が藤宮さんの肩を掴み、自分の今までの気持ちをぶつけていたら、仔犬くんがどこからかやって来て、僕を突き飛ばしたってわけだよ」

 ちび助、やるじゃないか。私はますます、彼女を見直した。

「そしたら、仔犬くんに言われたよ。君と藤宮さんは相思相愛の関係だとね」

 ほんの一瞬だが、うまく話を理解できなかった。

「……藤宮は、何か言ってた?」
「私は仔犬君の言葉を信じたくなくて、縋るように彼女を見たんだ。しかし、彼女は頷いてしまった」

 な、なるほど。つまり、私を利用してうまく逃げようとしたな。

 それで、ちび助は私に後は任せた、と言ったんだな。

 私は短い時間で、彼女たちの狙いを理解した。

「……その時の藤宮さんの顔を見た時、認めたくはないが、認めてしまった。今まで君と藤宮さんが話しているのを、何度だって見てきた。その時から、本当は分かっていたんだ。彼女の気持ちを」

 何か知らんが、勝手に勘違いしてくれたみたいだ。

「ま、まぁ、そういうことだから、藤宮のことは諦めてよ。あんたなら、他にいくらでもいるじゃん。例えば、九条とか」
「九条? 彼女はただの幼馴染だよ」
「そ、そう」

 まぁ、別に九条が小倉のことを好きだと思っていたわけではないが。

「君には申し訳ないが、それでも私は自分の気持ちを止めることが出来なかったんだ」

 何だ? 嫌な予感がするんだが。

「今度の球技大会で、私が優勝したら付き合ってくれと、そう伝えてしまった」

 何故そうなる!?
 
 だから、何でみんなはたかが球技大会にそこまで重い感情をぶつけるんだ? 私の認識の方がおかしいのか? そうなのか?

「それで、藤宮は何て言ったの?」
「死ねと言われたよ」

 それは……かなり辛辣だな。

「あとは君の知っての通りだよ。申し訳ないが、僕はまだ諦めていない。球技大会で優勝し、もう一度彼女に告白し、君から彼女を奪ってみせるよ」

 何でたかが球技大会の優勝ぐらいで、ワンチャン期待できるのだ?

「当然、僕はバスケを選択するつもりだ。君もそうなのだろう?」
「何でそう思うわけ?」
「仔犬君がそう言っていたからね」

 あいつは何故、そんな余計なことを言うのか。

 先程、見直した自分が馬鹿みたいだ。

「楽しみにしているよ」

 そう言って、小倉は私に背を向け、どこかへ向かった。
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