幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第3章

第53話

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 目を瞑ったままでは、時間の流れが分からない。

 かなり時間が立った。そんな気がする。

 しかし、まだ球技大会は終わっていないのだろう。終わっているのなら、静姉が呼びに来るはずだ。

 なんだろ?

 なんだか圧を感じる。

 何となく気になって目を開けた。

 すると、目の前に藤宮の顔があってかなり驚いた。しかも、かなり近い。

 藤宮は目を大きく見開くと、逃げるように身を引き椅子へ座りなおした。

 なんだ?

 一体、なんなんだ?

 なんか、いたずらでも考えてたのか?

「なんか――あった?」

 私は藤宮の方は見ず、天井を眺める。

「別に……ただ、無事か、確認してただけよ」

 まぁ、そりゃーそうだわなぁー。

 沈黙。

 時間が流れる。

 いつの間にか、グラウンドからの声が聞こえなくなっている。もう、決勝は終わり、みんな体育館に集まっているのかもしれない。

 おそらく、小倉のチームが勝ったのだろう。そしたら、彼女は再び――藤宮に告白するのだろうか?

 そう考えると、なんだか気が気じゃない。

「――藤宮」
「な、なによ」
「球技大会で優勝したら、小倉が再び藤宮に告白するって言ってたけど、どうするつもり?」
「……あなたは、どうして欲しいの?」

 なんだ? 私が決めていいのか?

「まぁ――できれば、断って欲しいけど」
「……何故?」
「え?」
「何故……断って欲しいの?」

 何で……。

 私は、少しだけ考える。

「まぁ、何となく?」

 本当、何でだろ?

 藤宮を家族のようにでも思っているのだろうか? 静姉みたいな奴でも、やっぱり家族だから――へんな奴を連れてきたら、やっぱり嫌な気分になるものだと思う。
 では、小倉は変な奴か?
 認めたくはないが、いい物件だと思う。それなのに、私は彼女を認めたくはないと考えている。それは小倉が、男じゃなくて――女だからか?

「何よ、それは。訳がわからないのだけれど」
「で、どうなの?」
「正直な話――拒否反応があるわね。失礼な話だけれど、受け入れるつもりはないわ」
「それは……小倉が女だから?」
「……そんなの、関係ないわ。小倉が男だろうと、それは変わらない」
「ふーん」

 私は寝返りを打つと、藤宮とは反対方向に身体を向ける。

「じゃあ私と小倉、どっちが好き?」
「意味が分からないのだけれど」
「いいから、どっち?」
「……あなたの方がましだとは思うけれど」
「へー、そうなんだ」
「分かってる? ましだと言っただけよ」
「分かってるって。じゃあさ、私が藤宮に告白したらどうする?」

 沈黙。

「……あなたが、本気で告白してきたなら――そのときに、ちゃんと答えてあげる」
「そっか――」

 私はそれ以上、口を開かなかった。それは、藤宮も一緒。

 静か過ぎて、自分の呼吸する音すら気になってしまう。

 ため息を吐きたくなる。だけどそんなこと、できるはずがない。そして、扉の開く音と、足音がした。

 私は何故か、胸を撫で下ろしたい気分になった。

 足音が止まる。

「入っても大丈夫かしら?」

 静姉の声。

「大丈夫に決まってるんだけど」

 そう言って、私は上体を起こす。

 カーテンが開き、ニヤケ面が現れる。
 
「シーツは変えなくても大丈夫かしら?」
「ふざけんな」

 私は近くにあった枕を投げつける。静姉はそれをキャッチすると、私の方へ投げ返してきた。そのため、再び枕は私の手へ戻ることとなる。

「とりあえず、もう全て終わったから殆どの生徒は帰ったわよ」

 ちょっと、意外だ。

「全ての決勝が終わったら呼ばれると思ってたんだけど」
「あら、そのほうが良かった?」
「まさか」
「でしょ?」

 静姉のドヤ顔に少しだけ、腹が立つ。

「一応、奈々のクラス担任は私だし、藤宮さんのクラス担任にも許可は貰っているからね。2人共、途中で戻っても嫌でしょ? 無駄に注目を集めることになりそうだし」
「そうですね、ありがとうございます」

 藤宮は素直に感謝し、頭を下げた。

「静姉でも、そんな風に人へ配慮ができるとは知らなかったよ」
「奈々は本当に駄目ねぇー。素直に人へ感謝ができないんだから。藤宮さんと違って、本当にお子様だこと」

 確かにその通りなのかもしれないが、静姉には言われたくない。

「取り敢えず、もう帰ればいいってこと?」
「そうね、問題ないわよ」
「じゃあ、そうさせて貰うから」
「あぁ、そうそう。深雪を待たせる訳にもいかないと思ったから、先に帰りなさいって言っちゃったから」
 
 スマホを家に忘れてきている。だから、深雪と連絡をとる手段がない。スマホがないことは深雪も知っているから、私と連絡が通じないことは知っている。
 とは言え、深雪の性格上、私に何の連絡もなく帰るとは思えない。――と言うか、帰るはずがない。
 
「深雪、何か言ってなかった?」
「特に何も。分かりましたーって、言われただけね」
「因みに、深雪は静姉より先に教室を出たの?」
「そうね、結構前だからもう学校にはいないと思うわよ」

 まさか、そんな訳が無い。私は鼻で笑いたくなる。

「静姉が保健室の鍵をかけたから、深雪が入れなかったかもしれないんだけど」

 私は静姉を睨みつける。すると、彼女は笑い出した。

「ちょっと待って、本気にしてた? 本気で私が鍵を閉めると思ってたの? 冗談だったんだけど」

 静姉の馬鹿にしたような笑いにイラッとしたが、深雪が保健室に寄っていないことに――私はかなりのショックを受けてしまった。そのため、怒る余裕がない。

 正直な話、信じたくない。静姉ごときに帰ればいいと言われたぐらいで――深雪が私に一言もなく帰ったことを。

 いやいや、そんなわけがない。

 きっと正面玄関で待っているはずだ。

 私はいても立ってもいられず、一言もなく保健室の扉を開けた。

「あ、こらちょっと、まっすぐ帰りなさいよ! ちゃんとゆっくりとね! あと、今日は私がなんかお惣菜買って帰るから!」

 私は静姉の言葉を無視して、保健室を出た。
 
 かなり、早足気味に。
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