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第3章
第54話
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校内は静かだ。
人はまばらに点在しているだけ。
殆どの人間はさっさと帰ったのだろう。正しい選択だと思う。しかし、深雪はそんな選択をするはずがない。だってまだ、ここに私がいるのだから。
正面玄関までやってきた。
私はすぐに確認する。
何度も開けしめして確認した。
深雪の靴がないかを。
そして、私は理解した。
深雪の靴がないことを。
しばらく、ショックのあまり身動きが取れなくなった。
深雪はいつだって私の後ろについて回って、私から離れようとしなかった――だけどそれはもう、過去の話なのかもしれない。
だって今、彼女の隣にはちび助がいるのだから。
「何をぼーっとしているのよ」
後ろから、冷たい声がした。
驚き振り返ると、藤宮が腕を組んで突っ立っている。かなり、不機嫌そうな顔で。
あ、やべ。
すっかり忘れてた。
私は慌てて表情を引き締める。
「別に何も」
「今さら取り繕っても、もう遅いから。先程までの情けない顔、写真でも撮っておけば良かったわ」
鼻でも鳴らす勢いで、藤宮は言葉を紡ぐ。
「何? 私のアンニュイな顔に見惚れたわけ?」
「違うわよ、馬鹿」
まぁ、分かってますけど。
「水瀬が先に帰ってたから、ショックを受けているってことなのかしら?」
「……別に、そう言うわけじゃないけど」
「では、どういうこと?」
「どうもこうもないよ」
そう言って、私は鞄を取りに教室へ向かった。
「じゃあね、本当に今日はありがと」
藤宮の教室前で、私は感謝の言葉を残してから自分の教室へ戻ることにした。
当然の話だが、教室に深雪はいない。
特に話したことないクラスメイトたちが私を見るが、特に何も言ってこない。
そう言えば、九条とその手下たちもいない。試合が終われば私なんてどうでもいいのだろう。まぁ、その方が後腐れなくて楽でいい。
私は鞄を持って教室をでた。
階段の踊り場に足を踏み入れる前に、名前を呼ばれ振り返った。
藤宮はまだ不機嫌そうな顔で私を見る。まぁ、いつものことか。
「どうした?」
間。
「……あなたも、あの一言で終わりとか――随分と冷たいものね」
「え? 何が?」
藤宮はため息を吐く。
「まぁ、いいわ。あなたに期待するだけ無駄だって――そんなこと、とっくに知ってるから」
なんだ? この私に期待するものなどなにひとつないと思うが?
「明日の件だけど――」
「明日?」
睨まれる。
「病院の件よ。まさか、忘れていたとか言わないわよね」
「まさか、そんなことないから」
嘘。完全に忘れていた。っていうか、本気なのか?
「だから――その、分かるでしょ、連絡が通じないと不便だから、連絡先……教えなさいよ」
藤宮はスマホを取り出すと、何故かそっぽ向いた。
「あぁ、ごめん。私、スマホ忘れたから」
藤宮は私を見て、一瞬だけだがものすごい表情をした。
「……嫌だって言うの?」
「いやいや違うから。連絡先交換したくないために嘘ついているわけじゃないから」
「……電話番号ぐらい、覚えてるでしょ?」
あぁ、確かに。アプリでしか連絡しないから、その概念を忘れていた。
「私、電話は苦手だから、ショートメールにしてくれると助かる」
「普段は何で連絡を取り合ってるの?」
私がアプリの名前を口にすると、藤宮は納得したように頷いた。
「じゃあ、月城の家まで行くから」
「え? 何で?」
「だって、そのアプリの方がいいんでしょ?」
「いや、とりあえずショートメールで連絡できればそれでいいんじゃないの? アプリの方は明日でもいいわけだし」
「嫌なの?」
藤宮は、どこかむくれたような顔をする。
「違うから。だって、遠回りになるじゃん」
「そんなの構わないわ。それに――途中で倒れられても困るから」
マジでそんなのありえないから。
人はまばらに点在しているだけ。
殆どの人間はさっさと帰ったのだろう。正しい選択だと思う。しかし、深雪はそんな選択をするはずがない。だってまだ、ここに私がいるのだから。
正面玄関までやってきた。
私はすぐに確認する。
何度も開けしめして確認した。
深雪の靴がないかを。
そして、私は理解した。
深雪の靴がないことを。
しばらく、ショックのあまり身動きが取れなくなった。
深雪はいつだって私の後ろについて回って、私から離れようとしなかった――だけどそれはもう、過去の話なのかもしれない。
だって今、彼女の隣にはちび助がいるのだから。
「何をぼーっとしているのよ」
後ろから、冷たい声がした。
驚き振り返ると、藤宮が腕を組んで突っ立っている。かなり、不機嫌そうな顔で。
あ、やべ。
すっかり忘れてた。
私は慌てて表情を引き締める。
「別に何も」
「今さら取り繕っても、もう遅いから。先程までの情けない顔、写真でも撮っておけば良かったわ」
鼻でも鳴らす勢いで、藤宮は言葉を紡ぐ。
「何? 私のアンニュイな顔に見惚れたわけ?」
「違うわよ、馬鹿」
まぁ、分かってますけど。
「水瀬が先に帰ってたから、ショックを受けているってことなのかしら?」
「……別に、そう言うわけじゃないけど」
「では、どういうこと?」
「どうもこうもないよ」
そう言って、私は鞄を取りに教室へ向かった。
「じゃあね、本当に今日はありがと」
藤宮の教室前で、私は感謝の言葉を残してから自分の教室へ戻ることにした。
当然の話だが、教室に深雪はいない。
特に話したことないクラスメイトたちが私を見るが、特に何も言ってこない。
そう言えば、九条とその手下たちもいない。試合が終われば私なんてどうでもいいのだろう。まぁ、その方が後腐れなくて楽でいい。
私は鞄を持って教室をでた。
階段の踊り場に足を踏み入れる前に、名前を呼ばれ振り返った。
藤宮はまだ不機嫌そうな顔で私を見る。まぁ、いつものことか。
「どうした?」
間。
「……あなたも、あの一言で終わりとか――随分と冷たいものね」
「え? 何が?」
藤宮はため息を吐く。
「まぁ、いいわ。あなたに期待するだけ無駄だって――そんなこと、とっくに知ってるから」
なんだ? この私に期待するものなどなにひとつないと思うが?
「明日の件だけど――」
「明日?」
睨まれる。
「病院の件よ。まさか、忘れていたとか言わないわよね」
「まさか、そんなことないから」
嘘。完全に忘れていた。っていうか、本気なのか?
「だから――その、分かるでしょ、連絡が通じないと不便だから、連絡先……教えなさいよ」
藤宮はスマホを取り出すと、何故かそっぽ向いた。
「あぁ、ごめん。私、スマホ忘れたから」
藤宮は私を見て、一瞬だけだがものすごい表情をした。
「……嫌だって言うの?」
「いやいや違うから。連絡先交換したくないために嘘ついているわけじゃないから」
「……電話番号ぐらい、覚えてるでしょ?」
あぁ、確かに。アプリでしか連絡しないから、その概念を忘れていた。
「私、電話は苦手だから、ショートメールにしてくれると助かる」
「普段は何で連絡を取り合ってるの?」
私がアプリの名前を口にすると、藤宮は納得したように頷いた。
「じゃあ、月城の家まで行くから」
「え? 何で?」
「だって、そのアプリの方がいいんでしょ?」
「いや、とりあえずショートメールで連絡できればそれでいいんじゃないの? アプリの方は明日でもいいわけだし」
「嫌なの?」
藤宮は、どこかむくれたような顔をする。
「違うから。だって、遠回りになるじゃん」
「そんなの構わないわ。それに――途中で倒れられても困るから」
マジでそんなのありえないから。
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