幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第3章

第56話

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 私の家に着いた。

 庭へ入る門の前で、藤宮は足を止める。

「じゃあ、ここで待ってるから」
「は? 中に入りなよ。流石に、ここで待たせられないって」

 私が頼んだことではない――とはいえ、わざわざ遠回りしてここへ寄ったのだから、お茶も出さずに帰らせたら、天国にいる祖母から回し蹴りでもされそうだ。

「いや、でも……それは流石に、早いのではないかしら?」

 何故か、藤宮はもじもじしている。そして、わけのわからないことを言ってきた。

「大丈夫だって、誰もいないから」

 そんなこと、藤宮なら知っていると思うのだが?

「そ、それって、大丈夫――なのかしら?」
「は? そっちのほうが都合いいでしょ?」
「都合がいい!?」

 私は藤宮の反応に首を傾げる。

「いいから、行くよ」

 そう言って、私は藤宮の手を引っ張る。

「ご、強引よ」

 文句をいいながらも、特に手を振り払われる気配はない。

 玄関の中に入ると、彼女の手を離して、靴を脱いだ。

「じゃあ、私の部屋へ行こうか」
「いきなり!?」

 ん? 何がいきなりなんだ?

「ほら、早く靴ぬいでよ」
「え、ええ」

 藤宮は、おそるおそる靴を脱いだ。

 もしかして、人の家に入るのは初めてで緊張でもしてるのか?

「し、失礼します」

 私しかいないのに、藤宮は礼儀正しく声を出し、綺麗に靴を並べた。しかも、脱ぎ散らかした私の靴まで。

 トイレの場所を教えたあと、縁側の廊下を歩き、一番奥にある障子戸を開けた。

「適当に座っていてよ」

 そう言って、私は自分の部屋の中に手を向けた。

「え、ええ」

 藤宮は、かくかくとした動きで中に入り、真ん中にあるテーブルの横に座ろうとした。

「奥に置いてある座布団、好きに使ってくれていいから」
「あ、ありがとう」
「藤宮は、何が飲みたい?」

 とは言え、そんなに種類があるわけではない。静姉が意外と色んな飲み物を買ってくるので、他のご家庭よりは種類があると思う。

「お、お茶を」
「紅茶じゃなくて?」
「普通のでかまわないわ」
「了解」

 そう言って、私は台所に向かった。
 静姉が自分用に隠してある少し高めなお菓子箱を適当に取り出す。何箱かあるし、まぁ、ばれないだろう。

 お盆に、氷たっぷりいれた緑茶と、小皿に羊羹を乗せて部屋の中へ入った。

 藤宮は、正座で背筋をピンッと張っている。

 そんなんで、よく疲れないなぁーと感心してしまう。

 私はお盆からコップと小皿を二人分テーブルの上へ置いた。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
「い、意外と綺麗にしているのね」

 意外か? その発言は結構失礼だと思う。
 
「単純に物が少ないからね。だから、散らかりようがない」

 私は奥にある学習机の上にあるスマホを取って、藤宮の向かい側に座った。座布団はここに置いてなかったはずだ。おそらく藤宮が置いてくれたのだろう。

「じゃあ先に連絡先、交換する?」

 お茶にはまだ手を出していなかったため、私はスマホを藤宮の前に出した。

「え、ええ」

 藤宮もスマホを取り出す。

「あー、でも、どーやるんだっけ?」

 私はアプリ内を弄りながら、悩む。なんせ、登録している人間などほんの数人だけだ。自分で調べて登録したのは深雪のときだけで、後はお任せで登録してもらったので正直、あまり覚えていない。

「……分からないの?」

 藤宮が上目遣いで見て来る。
 
「まぁ、ちょっと時間かかるかも」

 私の言葉に、何故か藤宮は嬉しそうな顔をした。

「そ、そう。なら、私が教えてあげるわ」
「分かるの?」
「当然よ」

 藤宮は、どこか自慢げな顔を私に向けてきた。

「じゃあ、お願い」
 
 少しもたつきながらも、藤宮は丁寧に説明して無事に連絡先を交換できた。

「ありがとう。流石だね」

 連絡先の交換ぐらいで流石もなにもないだろうとは思ったが、藤宮は珍しく照れたご様子だ。こんなことで褒められて嬉しいのか?

 ちょっと意外だったため、驚いてしまった。

「やることも終わったし、それじゃーくつろいでいってよ。それとも、早く帰らないと駄目とか?」
「だ、大丈夫だから。気にしないで」
「そう、ならいいけど」
「あ、でもそろそろ暗くなるかもね。送っていこうか?」
「……それでは、意味がないでしょ。その後、私が再びあなたを送るはめになるわ」

 なぜそうなる?

「でもさ、藤宮ってなんか誘拐されそうなんだよね。だから、なんか不安になってきた」
「どうしてそうなるのよ」
「だって、なんか変態どもから熱烈に愛されそうな雰囲気を感じるから」
「……怖いこといわないでよ」
「確かに」
「心配しなくても、迎えに来てもらうよう連絡するつもりよ。だから――気にしなくても構わないわ」
「そう?」
「そうよ」

 そのあと――特に会話もなく、お茶とお菓子を食べる。

 あ、意外と羊羹おいしい。昔、コンビニで食べたのとぜんぜん違う。思っていたより、高いものだった?

「藤宮は羊羹とか好き? あ、コーヒーのほうがよかったら、持ってくるけど」

 聞いたあとで。食べる前に聞いとくべきだったと反省する。静姉の場合、甘いものがあるときはコーヒーじゃないと文句を言ってくるからね。

「羊羹は好きだし、コーヒーよりもお茶のほうが好きだから、このままで大丈夫よ」
「そっか、ならよかった。にしても、羊羹って美味しいんだね。知らなかったよ。羊羹なんてコンビニのやつしか食べたことなかったから、ちゃんとしたやつがこんなに美味しいとは思わなかったね」
「そ、そう。私、美味しい甘味処に連れていけると思うわ。だから――今度、一緒に行かないかしら?」

 藤宮が上目遣いで見てくる。

 なんだ? なんか……どきどきするんだが? これはあれか、もしかして怪我の後遺症か?

「……それって、デートのお誘い?」

 言ってから、馬鹿だなーと思った。女同士でデートもなにもないだろ。いや、そうでもないのか?

「そ、そんなこと言うのなら、もういいわよ」

 そう言って、藤宮は顔を真赤にさせると、羊羹をフォークで無駄に突っつき出した。

「ごめんって、冗談だから」
「冗談?」

 顔をあげた藤宮から睨まれてしまった。

「冗談じゃないから、今度連れてってよ」
「……何でよ」
「何でって……そりゃー、藤宮と甘味処に行きたいから」
「そう、それなら――今度、連れてってあげる」

 そう言って、藤宮は再び羊羹に視線を落とした。


 
 この後、帰ってきた静姉のしつこいお誘いにより、藤宮は私の家で晩御飯を食べることとなった。
 静姉の買ってきたおかずはほとんど酒のおつまみにしかならないものばかり。
 
 こんなものを、藤宮家のお嬢様に食べさせるのか?

 私はさすがに引いたが、静姉は気にせずビールを飲み始めた。しかも、普段着の赤いジャージを着ながら。

 不安をよそに、藤宮は興味ありげに酒のつまみを見ている。そして、特に不満なく食べるのであった。

 
 
 迎えの車が家の前に着いたというので、私は門の外まで見送ろうと思ったが、玄関まででいいと言われた。

 静姉は居間でいびきをかいて寝ている。へそを出しながら。

「じゃあね、藤宮。また明日」
「ええ、また明日」

 私たちは明日の約束をし――手を振って、お別れをした。
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