幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第4章

第58話

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 夏休みに入ってすぐ、深雪は体調を崩した。

 インフルエンザでもなく、ただの風邪だという。

 なのに、数日立っても熱が下がらない。このまま下がらないようなら、入院するかもしれないと聞いた。

 状態はちび助から逐一スマホに届いている。

 伝染ると言われても、彼女は深雪を看病し続けた。

 深雪の症状を不安に思う以上に――彼女の心がちび助に向かうのが怖い。そう思ってしまう自分は、本当に最低だと思う。

 私は、深雪の家の前まで何度も足を運ぶが――結局、顔を出せないままでいる。それは何故か? 私の気持ちがバレてしまうから? それもきっとある。でも、それ以上に私は――苦しむ彼女の顔が見たくない。だって、きっと――雪乃と重ねてしまう。

 私はベットの上で――何もすることなく、スマホを持ち続けたまま、ぼーっとしている。ほとんど寝ることができず、何か食べたいとも思わず、頭がおかしくなりそうだ。

 ちび助から連絡が届く。

『解熱剤飲んでも熱が全然さがらなかったんですけど、ようやく落ち着いてきました! そして、私の作ったおかゆ、食べていただけましたよ!』

 私はほっとした。ほっとしたからなのか、疲れと眠気に襲われ、布団に身体が沈む。このときばかりは、安堵の方が大きく、ちび助への嫉妬は沸かなかった。

 時刻はもうすぐ、日付が変わる頃。おそらく、ちび助は今日も泊まっていくのだろう――。



 朝が来た。
 
 鳥の鳴き声。
 
 ぼーっとした頭のまま、天井を眺める。

 スマホが鳴った。

 私は慌てて確認する。

 深雪からだ。

『もう、大丈夫だから』

 まだ、朝の6時になる前。

 私はいてもたってもいられず、着の身着のままで外へ出た。

 私は走る。

 足と――身体が重く感じた。

 息もたえだえで――本当、自分が情けなくなる。

 

 深雪の家の前についてから、私は気づく。流石に、こんな時間に訪問するなんてありえない。私は息を整えながら、深雪の家を眺める。
 おそらくまだ、みんな寝ているだろう。深雪は起きているのかもしれないが、私のために身体を動かして欲しくない。

 つくづく、自分は馬鹿だなぁと思う。

 踵を返そうとしたとき、家の扉が開いた。

 弘子さんが顔を出し、驚いた顔をする。おそらく私も、似たような顔をしていたことだろう。

「どうしたの? 深雪のお見舞い?」
「あ、はい。さっき、深雪から連絡がありまして、それで――」

 弘子さんは家からでてくると、私の髪を手で櫛のようにといた。

「すごい髪しているわよ。あわてて来てくれたのね、ありがとう」
「別に――そういうわけじゃないですけど……」
「そうなの? それより、入ってく? 深雪から連絡合ったんでしょ?」
「でも――」
 
 弘子さんは庭にある郵便ポストから、新聞を取り出した。

「私がこれを取りにこなかったら、あのまま帰ってたんでしょ? それなら、この偶然は――きっと偶然じゃないと思うわ」
 
 私は悩んだが、少しだけ――深雪の部屋を覗いていくことにした。



 私は静かに階段を上り、音を立てずに部屋の扉を開けた。

 深雪は上体を起こし、ベットの端に寄りかかり寝ているちび助の頭を、右手で優しく撫でていた。

 私は――胸の奥底から湧き出てくる感情を無理矢理飲み込んだ。

 彼女は左手の薬指を口元に置いた。その仕草、その目つきで――私は、彼女が雪乃だと分かった。その瞬間、私は――ちび助に対して、殺意に近い感情を抱いた。

 彼女は笑っている。妖艶な笑みで、全てを見透かした目で、こちらを見る。私は誘われるように、彼女に近づいた。そして、雪乃は私の頬に触れ、目を覗き込んだ。その時間は、いつもより長く――珍しく視線を逸らされた。

「おそらく、そろそろかもしれないわね」

 そんな――独り言を呟いた。
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