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第一章
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「きゃあ!」
あまりに大きな音がして扉が開いたので、何人かの貴婦人が恐怖のあまり悲鳴を上げた。
しかしジゼルたちがいる場所から扉までは、たくさんの人が立っているため、誰が入ってきたのか見えなかった。
他の人たちも同じなのか、一体誰が来たのか見ようと一斉に扉の方を振り向いた。
「待て、そこから一歩も動くな、お前たち取り押さえろ!」
「うるさい!」
「うわぁ!」
「きゃあああ」
警備の者達だろう声がして、それに逆らう声もする。それから何かがぶつかる音もした。その近くから悲鳴や叫び声も聞こえる。
「な、なにが…」
何が起こったのかとジゼルが父に尋ねようとそちらを見ると、父は見るからに青ざめてガタガタと震えている。
「あなた」
王妃もそんな国王に寄り添って唇を震わせている。
「そこをどいてもらおうか」
広い広間に響き渡る程の大きな声に、入り口からジゼルたちのいる壇上までさっと人の波が割れた。
「待て、そこから動くな!」
「離せ!」
騎士服を着た警備の者達がその人物を取り押さえようと、寄ってたかって襲いかかっているが、あっけなく振り払われて飛ばされているのが見えた。
「まったく、羽虫みたいに湧いてきてうっとおしいやつらだ」
彼らを振り払いながら男性は一歩一歩と近づいてくる。
「あ、あなた」
「だ、大丈夫だ。ジュリアン、ジゼル、お、お前たちは後ろに下がっていなさい」
震えながらも、国王はジゼルたちを後ろに下がらせようとする。
「お、お父様」
「父上」
「ジゼル、ジュリアン、こちらへいらっしゃい」
そう言ってジゼルの腕を掴む母の手は、とても冷たかった。
「父上、あれは誰ですか?」
「話せば長くなる。だが、今はその暇がない。とにかくお前たちは下がっていなさい」
「で、でも…」
そうやっているうちに乱入者はどんどん迫ってくる。
(足が速いわ。それに足が長いからか、一歩が大きい)
父親と母親がジュリアンとジゼルの体を隠すように立ち、その隙間からジゼルは迫ってくる人物の姿を見つめた。
(あれは何の動物のかしら)
左肩に斜めに羽織った黒い艷やかな毛皮が、まず目を引いた。
それから髪の色はグレーだろうか。僅かに緑が入っているようにも見える。顔はまだよくわからない。
追いかけてくる騎士たちを大きな腕を振り回し、意外に俊敏な動きでかわしながら、その歩みは少しも衰えることなく、真っ直ぐこちらを目指して歩いてくる。
国王と王妃は彼が何者か知っているのは明らかだ。
濃い茶色のズボンと真っ黒な膝までのブーツ、そして太もも丈の生成りのチュニックという簡素な出で立ちだった。
王宮内では、警備の者達以外の帯剣は許されていないのに、男はここまでそれらを振り払ってきたのだろう。背中に巨大な剣を背負っている。
「お前たち、何をしている! 早くその者を捕らえろ!」
宰相が叫び、振り払われた騎士たちが立ち上がり、男に纏めて襲いかかるが、男がさっと身を翻してそれらを払いのける。
「情けない! 何たるていたらくだ。それで国が誇る近衛騎士団を名乗れるな」
あまりに歯が立たないので、宰相が怒りも顕に叱咤する。
「も、申し訳ございません。しかし、」
「レディントン、もうよい」
「し、しかし陛下…」
「近衛には荷が重過ぎる。あやつに敵う者は、ここにはいないだろう」
少し前まで怯えていた国王は、さっと手を上げて騎士たちに命令する。
「お前たち、下がれ」
カツン
国王の言葉とともに、ブーツの踵を打ち鳴らす音がした。
「ようやくお会い出来ましたね、コルネリス殿」
男は国王に対しいきなり名前で呼んだ。
「ぶ、無礼な。陛下に向かってその言い方は無礼であろう」
当然ながら宰相は、その態度に抗議した。
「無礼? そちらこそ、何様だ」
「わ、私はこの国の宰相だ」
「ところで、私がここに来た理由はおわかりですよね。ツケを回収に来ました」
宰相の言葉を無視して、国王に話しかける。無視された宰相は、怒りに顔を真っ赤に染めた。
他の者は皆、固唾を飲んでことの成り行きを見守っている。
「母上…あれは誰ですか」
「しっ静かに」
問いかける息子に、しかし王妃は唇に人差し指を当てて、黙るように諭した。
そんな弟を安心させようと、ジゼルはそっと手を伸ばしてその手を握る。ジュリアンはジゼルを見返し、こくりと頷いた。
「す、すぐには無理だ。暫く待ってほしいと…」
「約束が違う! 今すぐ約束を果たすべきだ。そうしなければ、困るのはそちらだと言うことはわかっているだろう?」
図星なのか、男の言葉に国王はうぬぬと唸った。
あまりに大きな音がして扉が開いたので、何人かの貴婦人が恐怖のあまり悲鳴を上げた。
しかしジゼルたちがいる場所から扉までは、たくさんの人が立っているため、誰が入ってきたのか見えなかった。
他の人たちも同じなのか、一体誰が来たのか見ようと一斉に扉の方を振り向いた。
「待て、そこから一歩も動くな、お前たち取り押さえろ!」
「うるさい!」
「うわぁ!」
「きゃあああ」
警備の者達だろう声がして、それに逆らう声もする。それから何かがぶつかる音もした。その近くから悲鳴や叫び声も聞こえる。
「な、なにが…」
何が起こったのかとジゼルが父に尋ねようとそちらを見ると、父は見るからに青ざめてガタガタと震えている。
「あなた」
王妃もそんな国王に寄り添って唇を震わせている。
「そこをどいてもらおうか」
広い広間に響き渡る程の大きな声に、入り口からジゼルたちのいる壇上までさっと人の波が割れた。
「待て、そこから動くな!」
「離せ!」
騎士服を着た警備の者達がその人物を取り押さえようと、寄ってたかって襲いかかっているが、あっけなく振り払われて飛ばされているのが見えた。
「まったく、羽虫みたいに湧いてきてうっとおしいやつらだ」
彼らを振り払いながら男性は一歩一歩と近づいてくる。
「あ、あなた」
「だ、大丈夫だ。ジュリアン、ジゼル、お、お前たちは後ろに下がっていなさい」
震えながらも、国王はジゼルたちを後ろに下がらせようとする。
「お、お父様」
「父上」
「ジゼル、ジュリアン、こちらへいらっしゃい」
そう言ってジゼルの腕を掴む母の手は、とても冷たかった。
「父上、あれは誰ですか?」
「話せば長くなる。だが、今はその暇がない。とにかくお前たちは下がっていなさい」
「で、でも…」
そうやっているうちに乱入者はどんどん迫ってくる。
(足が速いわ。それに足が長いからか、一歩が大きい)
父親と母親がジュリアンとジゼルの体を隠すように立ち、その隙間からジゼルは迫ってくる人物の姿を見つめた。
(あれは何の動物のかしら)
左肩に斜めに羽織った黒い艷やかな毛皮が、まず目を引いた。
それから髪の色はグレーだろうか。僅かに緑が入っているようにも見える。顔はまだよくわからない。
追いかけてくる騎士たちを大きな腕を振り回し、意外に俊敏な動きでかわしながら、その歩みは少しも衰えることなく、真っ直ぐこちらを目指して歩いてくる。
国王と王妃は彼が何者か知っているのは明らかだ。
濃い茶色のズボンと真っ黒な膝までのブーツ、そして太もも丈の生成りのチュニックという簡素な出で立ちだった。
王宮内では、警備の者達以外の帯剣は許されていないのに、男はここまでそれらを振り払ってきたのだろう。背中に巨大な剣を背負っている。
「お前たち、何をしている! 早くその者を捕らえろ!」
宰相が叫び、振り払われた騎士たちが立ち上がり、男に纏めて襲いかかるが、男がさっと身を翻してそれらを払いのける。
「情けない! 何たるていたらくだ。それで国が誇る近衛騎士団を名乗れるな」
あまりに歯が立たないので、宰相が怒りも顕に叱咤する。
「も、申し訳ございません。しかし、」
「レディントン、もうよい」
「し、しかし陛下…」
「近衛には荷が重過ぎる。あやつに敵う者は、ここにはいないだろう」
少し前まで怯えていた国王は、さっと手を上げて騎士たちに命令する。
「お前たち、下がれ」
カツン
国王の言葉とともに、ブーツの踵を打ち鳴らす音がした。
「ようやくお会い出来ましたね、コルネリス殿」
男は国王に対しいきなり名前で呼んだ。
「ぶ、無礼な。陛下に向かってその言い方は無礼であろう」
当然ながら宰相は、その態度に抗議した。
「無礼? そちらこそ、何様だ」
「わ、私はこの国の宰相だ」
「ところで、私がここに来た理由はおわかりですよね。ツケを回収に来ました」
宰相の言葉を無視して、国王に話しかける。無視された宰相は、怒りに顔を真っ赤に染めた。
他の者は皆、固唾を飲んでことの成り行きを見守っている。
「母上…あれは誰ですか」
「しっ静かに」
問いかける息子に、しかし王妃は唇に人差し指を当てて、黙るように諭した。
そんな弟を安心させようと、ジゼルはそっと手を伸ばしてその手を握る。ジュリアンはジゼルを見返し、こくりと頷いた。
「す、すぐには無理だ。暫く待ってほしいと…」
「約束が違う! 今すぐ約束を果たすべきだ。そうしなければ、困るのはそちらだと言うことはわかっているだろう?」
図星なのか、男の言葉に国王はうぬぬと唸った。
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