出戻り王女の恋愛事情 人質ライフは意外と楽しい

七夜かなた

文字の大きさ
48 / 102
第五章

9

しおりを挟む
 ジゼルの経験など、たかが知れている。
 比較対象がドミニコとの経験しかない彼女にとって、ユリウスとのことは、何もかも新鮮で、そして刺激的だった。

 考えてみれば、初めて彼を見たときから、彼から目が離せなかった。
 
 上に立つ者の貫禄と、己の力を信じている強さ。そして自分の大切なものを守り抜こうとする意思の強さ。
 
 魂の輝きとでも言おうか。人を惹きつける魅力を持っているのは間違いない。
 元は貴族でも何でもないボルトレフ侯爵を、成り上がりだと軽視する者がいたしても、彼は痛くも痒くもないと鼻で笑うことだろう。

 そんな揺るぎない強さが、彼から滲み出ていて、ジゼルは惹きつけられた。

「ん…んん」

 喉をまるで猫のように鳴らし、ジゼルはユリウスから与えられる甘美な刺激に打ち震えた。

 ジゼルが拒まないことを悟ったユリウスが、唇を割って舌を滑り込ませてきた。
 それをジゼルは戸惑いながらも受け入れた。
 口腔内に侵入してきたユリウスの舌は、歯列をなぞりジゼルの舌を捉え絡ませてきた。

「ん…はぁ」

 うっすらと目を開けたジゼルの瞳に、赤く煮え滾った炎を宿したユリウスの瞳が映った。
 後頭部に大きな手を添えて、更にジゼルを引き寄せる。
 ユリウスの硬い胸板に置いた手が、ぎゅっと彼の衣服を握りしめた。
 ジゼルが握りしめた手の下には、熱い血潮が流れているのを感じる。
 触れ合う唇も、握り合う手も、服の下に感じる体も、すべてが熱くて、ジゼルの体もいつ発火してもおかしくないくらいに、体温が上がっていく。
 時折そんな二人の熱を冷まそうとするかのように風が吹くが、二人の体温の上昇が早くてまるで追いついていない。

 溢れる唾液を吸い込んでごくりと飲んだユリウスが、僅かに唇を離した。 

「その顔…そんな顔をされたら、どんな男も我慢出来なくなる」
「顔…?」

 顔がどうしたのだろうか。そう思ったジゼルの太腿に、何か硬いものが当たった。
 
「そんな風に刺激しないでくれ」

 当たり具合を変えようと、足を少し動かそうとしたジゼルに、苦しそうにユリウスが言う。

「どこか、痛くしましたか?」
「そうではない。その…これは男の自然な反応だ」
「え?」

 自分の太腿に一体何が当たっているのかと、ジゼルは下を見た。

「あ…」

 経験が少なくても、そこに何があって、どういう事態になっているかはわかる。
 生地を押し上げるように膨らんでいるのは、ユリウスの男の象徴である。
 それがジゼルの太腿にぶつかっているのだ。

「あなたとの接触でこうなっているんだ」
「そ、それは…」

 はっきり言われると、どう反応して言葉を切り返すのが正しいのか、ジゼルは頭が真っ白になった。

『お前では勃たない』
 
 そうドミニコに罵られていた。
 なのにユリウスは、勃っている。

「どうした?」
「あの…ほ、本当に…私と…」
「そうだ。あなたの匂いに、あなたの声に、あなたと触れ合いあなたと口づけを交わして、俺のここはこんなに張り詰めている」
「本当に…本当…ですか?」

 信じられなくてジゼルは何度も尋ねた。

「そうだ。あなたを求めて痛いくらいになっている。俺を疑うのか?」
「いえ、いいえ。そうではなくて…私ではだめだと…萎えると…」

 信じられないのはユリウスのことではなく、自分の女としての素質だった。

「もしかして、大公が言ったのか?」

 殆ど単語だけだったが、ユリウスはそれですべてを察したらしく、かっと目を見開いた。

「あなたが大公との関係に反応出来なかったことを、彼はあなたのせいにして責めたのか?」
  
 ピリピリとした殺気がユリウスから放たれる。
 ジゼルはその視線の先にいるだろう、ドミニコの姿を思い出した。
 きっとユリウスが目の前に立っただけで、ドミニコは腰を抜かしてしまうだろう。

「あなたが大公で満足できなかったのも、相性が悪かったか、こんなことは言いたくないが、彼が下手だったからだ。大方独りよがりに自分のしたいことだけ済ませて、後にも先にもあなたのことを気にかけもしなかったのだろう」
「な、なぜそれを?」

 まるでその場で見てきたかのように言い当てられ、ジゼルは驚く。

「わかる。男女が体を重ね合わせ、交渉する意味もわからず、ただ己の欲をぶつけるだけの行為しか出来ない奴だ。しかも人のせいにしか出来ない浅はかな男だ。きっと母親に頭が上がらない男で、自分で大きな決断すら出来ないんだろう」

 彼とドミニコは面識がないのは確かだ。しかし彼はドミニコの悪口をズケズケと口にする。
 それが的確なだけに、ジゼルは七年も側にいたのに、離縁を言い渡されるまで気づかなかった。

(いいえ、違うわ)

 気づかなかったのではなく、気づいていて気にしないように目を逸らしていたのだと悟った。

「あなたは十分に魅力的だ。それは間違いない。だから唯一人の人間に言われたことで、自分の魅力を疑う必要はない」

 その言葉に、ジゼルは己を縛り付けていた呪縛が解かれる気がした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...