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第八章
4 ある男のジレンマ
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エレトリカ生粋の軍隊は、特別強くも弱くもない。特に突出した者がいるわけでもなく、そこそこ強い。
だが、エレトリカにはボルトレフという、軍事に長けた集団が付いている。
エレトリカの軍事力において、ボルトレフの存在を無視できない。
一度戦が始まれば、件の集団は王のひと声で駆けつけ、その力を奮う。
元は山賊とも、どこかの軍隊出身の脱走兵とも噂されるが、とにかくボルトレフある限り、エレトリカは負けなしだ。
ボルトレフとエレトリカが契約を結んで以来、その関係を壊そうと各国はあの手この手でボルトレフに接触を図ってきた。
しかし、ボルトレフは揺るがなかった。
どの国がどんな好条件を出しても、未だエレトリカとボルトレフの仲を切り裂くことに成功した国はいない。
それは初代ボルトレフ総領の強い遺言があるからだとも噂されるが、総領以外に真実を知る者はいない。
カルエテーレはその歴史はエレトリカより古く、かつては今の倍の領土を支配していた。しかし、跡目争いが続きそのうちに他国から侵略を受け、今に至る。
今のカルエテーレの王は、血気盛んで、かつての領地を取り戻すことに躍起になっている。
そしてボルトレフと反対側にある領地を手に入れ、次はボルトレフ領を狙っている。
しかし、ボルトレフをただ潰すのではなく、取り込みその力を手に入れようと考えている。
ボルトレフの領地と力を手に入れれば、エレトリカなど簡単に手に入る。
しかし、ことはそう簡単にはいかなかった。
ボルトレフに付け入る隙がないからだ。
地縁でも血縁で繫がっているわけでもなく、望めばどんな人間でも受け入れてきて、悪く言えば寄せ集めの一族のボルトレフだが、そのせいか団結力が強い。
そして今の総領であるユリウス・ボルトレフは、その腕前もさることながら、人々からの求心力が強い。
そんなボルトレフに付け入る隙があるのか。
カルエテーレの王から密命を受け、探っていた密偵は、しかしイチかバチかで声をかけた人物に、その活路を見出した。
オリビア・ビアマン
ボルトレフの中では古参の家系の娘。
ユリウス・ボルトレフの妻の妹。
時折街に来て、買い物三昧にふけっている。
最初はこちらを怪しんでいたが、彼女に同調するように話を聞くと、不平不満をタラタラ流すようになった。
ユリウスは自分にこそ相応しい。
自分こそ、ボルトレフの総領の妻になるべきだ。
あんな姉などではなく。
なのに、ただ姉というだけで、すべてを自分から奪っていく。
それならば、その姉を排除すればいいのだと、囁いた。
最初は驚いていたが、あるものを与えてやると、彼女はそれを上手く使って、終には本当に姉を排除した。
与えたのはカルエテーレの後宮で昔から使われてきた毒薬。
ひと思いに死に至らしめるものではなく、じわじわと心を蝕み、やがて幻覚や幻聴を来す。
常習性があり、二度三度と飲むうちに、それなくして居たたまれなくなるものだった。
「お忘れなきよう。我々とあなたは一蓮托生。あなたがボルトレフの総領の妻となったあかつきには、エレトリカとの関係を考え直すよう、総領を説得していただきたい」
姉が死んだことで、彼女は一瞬弱気になった。
しかし、そう告げると彼女は慄きながらも、よう後戻り出来ないことを悟ったようだった。
だが、事態はこちらが思うようにはいかなかった。
先妻の死後、四年経ってもユリウス・ボルトレフはオリビアどころか誰も後妻に迎えようとしなかった。
これはもう、オリビア・ビアマンからは手を引くべき頃合いだ。
そんなとき、トリカディールとエレトリカの間で戦が起こり、結果、トリカディールの大敗となった。
ここでもボルトレフの活躍は目覚ましかった。
トリカディールの若き王は、そのことを理解していなかった。
戦において敵を知ることは、自国の戦力を上げること以上に重要だ。
所詮は烏合の集まり。
侮りが敗北を招いた。
そう思っているのは、戦場で彼らの戦いぶりを見たことがない、呑気で愚かな貴族どもだ。
ボルトレフが命を張って守り抜いた平和を享受し、それを当たり前だと思いブクブク太った豚ども。
ボルトレフがいるからこそ、軍の力がそこそこでも勝てているのに、それを彼らはわかっていない。
周辺諸国はエレトリカとボルトレフとの結託の強さと、ボルトレフの強さを改めて知ることになった。
しかし、ここで両者の契約に暗雲が立ちこめた。
オリビアから、エレトリカからの報酬が滞り、ユリウス・ボルトレフがその回収に向かったという。
両者が契約を結んでから初めてのことらしい。
これはボルトレフからの契約破棄も、あり得るのではないだろうか。
幸い他の国はまだ知らない。
この亀裂に楔を打ち込み、両者の仲を引き裂くチャンスだと思った。
好機が舞い降りた。
この数年の努力がようやく実る。機は熟した。
王からの勅使を貰い、ボルトレフへと手紙を送った。
交渉の場に持ち込めば、後は出来るだけ向こうの意向を聞き入れ、果実が落ちてくるのを受け止めるだけだ。
だが、エレトリカにはボルトレフという、軍事に長けた集団が付いている。
エレトリカの軍事力において、ボルトレフの存在を無視できない。
一度戦が始まれば、件の集団は王のひと声で駆けつけ、その力を奮う。
元は山賊とも、どこかの軍隊出身の脱走兵とも噂されるが、とにかくボルトレフある限り、エレトリカは負けなしだ。
ボルトレフとエレトリカが契約を結んで以来、その関係を壊そうと各国はあの手この手でボルトレフに接触を図ってきた。
しかし、ボルトレフは揺るがなかった。
どの国がどんな好条件を出しても、未だエレトリカとボルトレフの仲を切り裂くことに成功した国はいない。
それは初代ボルトレフ総領の強い遺言があるからだとも噂されるが、総領以外に真実を知る者はいない。
カルエテーレはその歴史はエレトリカより古く、かつては今の倍の領土を支配していた。しかし、跡目争いが続きそのうちに他国から侵略を受け、今に至る。
今のカルエテーレの王は、血気盛んで、かつての領地を取り戻すことに躍起になっている。
そしてボルトレフと反対側にある領地を手に入れ、次はボルトレフ領を狙っている。
しかし、ボルトレフをただ潰すのではなく、取り込みその力を手に入れようと考えている。
ボルトレフの領地と力を手に入れれば、エレトリカなど簡単に手に入る。
しかし、ことはそう簡単にはいかなかった。
ボルトレフに付け入る隙がないからだ。
地縁でも血縁で繫がっているわけでもなく、望めばどんな人間でも受け入れてきて、悪く言えば寄せ集めの一族のボルトレフだが、そのせいか団結力が強い。
そして今の総領であるユリウス・ボルトレフは、その腕前もさることながら、人々からの求心力が強い。
そんなボルトレフに付け入る隙があるのか。
カルエテーレの王から密命を受け、探っていた密偵は、しかしイチかバチかで声をかけた人物に、その活路を見出した。
オリビア・ビアマン
ボルトレフの中では古参の家系の娘。
ユリウス・ボルトレフの妻の妹。
時折街に来て、買い物三昧にふけっている。
最初はこちらを怪しんでいたが、彼女に同調するように話を聞くと、不平不満をタラタラ流すようになった。
ユリウスは自分にこそ相応しい。
自分こそ、ボルトレフの総領の妻になるべきだ。
あんな姉などではなく。
なのに、ただ姉というだけで、すべてを自分から奪っていく。
それならば、その姉を排除すればいいのだと、囁いた。
最初は驚いていたが、あるものを与えてやると、彼女はそれを上手く使って、終には本当に姉を排除した。
与えたのはカルエテーレの後宮で昔から使われてきた毒薬。
ひと思いに死に至らしめるものではなく、じわじわと心を蝕み、やがて幻覚や幻聴を来す。
常習性があり、二度三度と飲むうちに、それなくして居たたまれなくなるものだった。
「お忘れなきよう。我々とあなたは一蓮托生。あなたがボルトレフの総領の妻となったあかつきには、エレトリカとの関係を考え直すよう、総領を説得していただきたい」
姉が死んだことで、彼女は一瞬弱気になった。
しかし、そう告げると彼女は慄きながらも、よう後戻り出来ないことを悟ったようだった。
だが、事態はこちらが思うようにはいかなかった。
先妻の死後、四年経ってもユリウス・ボルトレフはオリビアどころか誰も後妻に迎えようとしなかった。
これはもう、オリビア・ビアマンからは手を引くべき頃合いだ。
そんなとき、トリカディールとエレトリカの間で戦が起こり、結果、トリカディールの大敗となった。
ここでもボルトレフの活躍は目覚ましかった。
トリカディールの若き王は、そのことを理解していなかった。
戦において敵を知ることは、自国の戦力を上げること以上に重要だ。
所詮は烏合の集まり。
侮りが敗北を招いた。
そう思っているのは、戦場で彼らの戦いぶりを見たことがない、呑気で愚かな貴族どもだ。
ボルトレフが命を張って守り抜いた平和を享受し、それを当たり前だと思いブクブク太った豚ども。
ボルトレフがいるからこそ、軍の力がそこそこでも勝てているのに、それを彼らはわかっていない。
周辺諸国はエレトリカとボルトレフとの結託の強さと、ボルトレフの強さを改めて知ることになった。
しかし、ここで両者の契約に暗雲が立ちこめた。
オリビアから、エレトリカからの報酬が滞り、ユリウス・ボルトレフがその回収に向かったという。
両者が契約を結んでから初めてのことらしい。
これはボルトレフからの契約破棄も、あり得るのではないだろうか。
幸い他の国はまだ知らない。
この亀裂に楔を打ち込み、両者の仲を引き裂くチャンスだと思った。
好機が舞い降りた。
この数年の努力がようやく実る。機は熟した。
王からの勅使を貰い、ボルトレフへと手紙を送った。
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