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第十章
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「安心していい。その申し出は断った」
ユリウスはジゼルにそう言った。
「ボルトレフとエレトリカは契約で繋がった関係だが、俺はエレトリカの国王、つまり君のお父上の気性や志を気に入っている。それに、君の国を裏切ることはしない」
「ご、ごめんなさい…あなたを疑ったわけではないの。その…そんなことが起こっていたなんて…思いもよらなくて…恥ずかしいわ」
ボルトレフの戦力をほしいと思う国は、他にもあるだろう。
そのような誘いがあるとは思っていたが、実際聞くと焦ってしまう。でもそれは、ジゼルに取ってエレトリカの戦力を失うというよりは、ユリウスと袂を分かつという意味になる。
「それに、たとえ破格の条件を提示されても、今となっては、別の意味でエレトリカと敵対する道は選ばない。それは君と敵同士になると言うことだからだ。それは俺の望むものではない」
熱の籠もったユリウスの視線が、ジゼルを捉える。その赤い瞳に宿る男の欲望の炎に、ジゼルの体は火照り始めた。
彼と過ごしたあの時の熱さが蘇る。
「でも、あなたはボルトレフの…総領でしょ? 一族の利益が…」
妙に声が掠れる。ドミニコとの褥はあれほど苦痛だったのに、人が変わるとこれほど受け止め方が変わるものなのか。
「利益は大事だが、俺たちの価値は俺たちが決める。カルエテーレの王は、俺たちを使い捨ての便利な駒としか思っていない。それが透けて見えたから、その申し出を断ったんだ」
自分のことを考えてくれたことは嬉しいが、ユリウスに取って不利益となる選択をさせたのではないとわかり、ほっとする。
「まあ、それはそれとして、オリビアのこともカルエテーレが関与していたらしい」
「そんな…」
「リアを排除し、彼女がその後釜に入る。そしてカルエテーレが彼女を通じてボルトレフとの繋がりを作る。そういう筋書きだったらしい」
「自分の欲のために実の…お姉様にそんなことが、出来るものなのですか?」
自分とジュリアンとの関係に置き換え、ジゼルは信じられないと呟いた。肉親同士、必ずしも仲が良い者ばかりでないことはわかるが、それでもオリビアが取った行動に、ジゼルは納得がいかなかった。
「人によっては己の欲望のまま、他人がどうなろうと構わないと言う者も世の中にはいる。平気で他人を踏みにじり、何ら罪悪感を感じない」
「リロイも、あの子にも…ですよね?」
「そうだ。彼女が持っていた薬は、人の思考能力を鈍らせる。そうやって通常なら耳を貸さないような戯れ言も、まるで本当であるかのように信じさせ、猜疑心や恐怖心を募らせる」
「治るの…ですよね?」
既に亡くなってしまった者はどうすることも出来ないが、リロイはまだ生きている。あんな幼子がこの先ずっと苦しみ続けるかと思うと、ジゼルは胸が張り裂けそうだった。
亡き彼の母親も、きっと浮かばれないだろう。
「もちろんだ。カルエテーレからオリビアに渡った薬には解毒剤がある。それも押収した。ファーガスが今頃それをリロイに与えているだろう」
「良かった…」
ジゼルは安堵の吐息を漏らした。
「俺の子を、それほど案じてくれてありがとう」
「まだ出会って日も浅いですが、あの二人のことは大好きです」
それから少し躊躇って、ジゼルは小声で付け加えた。
「その…あの子達の父親のことも…好き…です」
もちろん、ユリウスの耳にその言葉は確実に届いた。
「……まいった…今のは、胸にぐっと来た…」
瞳と同じようにユリウスの顔が赤く染まる。
戦場の鬼神、血塗れ元帥、戦闘狂、傭兵王などいくつも呼び名がある戦争の達人が、ジゼルのそのひと言で、そのような顔をするとは、誰が想像しただろう。
自分で言ってジゼルも赤くなり、部屋の温度が一気に上がったように感じた。
ユリウスはジゼルにそう言った。
「ボルトレフとエレトリカは契約で繋がった関係だが、俺はエレトリカの国王、つまり君のお父上の気性や志を気に入っている。それに、君の国を裏切ることはしない」
「ご、ごめんなさい…あなたを疑ったわけではないの。その…そんなことが起こっていたなんて…思いもよらなくて…恥ずかしいわ」
ボルトレフの戦力をほしいと思う国は、他にもあるだろう。
そのような誘いがあるとは思っていたが、実際聞くと焦ってしまう。でもそれは、ジゼルに取ってエレトリカの戦力を失うというよりは、ユリウスと袂を分かつという意味になる。
「それに、たとえ破格の条件を提示されても、今となっては、別の意味でエレトリカと敵対する道は選ばない。それは君と敵同士になると言うことだからだ。それは俺の望むものではない」
熱の籠もったユリウスの視線が、ジゼルを捉える。その赤い瞳に宿る男の欲望の炎に、ジゼルの体は火照り始めた。
彼と過ごしたあの時の熱さが蘇る。
「でも、あなたはボルトレフの…総領でしょ? 一族の利益が…」
妙に声が掠れる。ドミニコとの褥はあれほど苦痛だったのに、人が変わるとこれほど受け止め方が変わるものなのか。
「利益は大事だが、俺たちの価値は俺たちが決める。カルエテーレの王は、俺たちを使い捨ての便利な駒としか思っていない。それが透けて見えたから、その申し出を断ったんだ」
自分のことを考えてくれたことは嬉しいが、ユリウスに取って不利益となる選択をさせたのではないとわかり、ほっとする。
「まあ、それはそれとして、オリビアのこともカルエテーレが関与していたらしい」
「そんな…」
「リアを排除し、彼女がその後釜に入る。そしてカルエテーレが彼女を通じてボルトレフとの繋がりを作る。そういう筋書きだったらしい」
「自分の欲のために実の…お姉様にそんなことが、出来るものなのですか?」
自分とジュリアンとの関係に置き換え、ジゼルは信じられないと呟いた。肉親同士、必ずしも仲が良い者ばかりでないことはわかるが、それでもオリビアが取った行動に、ジゼルは納得がいかなかった。
「人によっては己の欲望のまま、他人がどうなろうと構わないと言う者も世の中にはいる。平気で他人を踏みにじり、何ら罪悪感を感じない」
「リロイも、あの子にも…ですよね?」
「そうだ。彼女が持っていた薬は、人の思考能力を鈍らせる。そうやって通常なら耳を貸さないような戯れ言も、まるで本当であるかのように信じさせ、猜疑心や恐怖心を募らせる」
「治るの…ですよね?」
既に亡くなってしまった者はどうすることも出来ないが、リロイはまだ生きている。あんな幼子がこの先ずっと苦しみ続けるかと思うと、ジゼルは胸が張り裂けそうだった。
亡き彼の母親も、きっと浮かばれないだろう。
「もちろんだ。カルエテーレからオリビアに渡った薬には解毒剤がある。それも押収した。ファーガスが今頃それをリロイに与えているだろう」
「良かった…」
ジゼルは安堵の吐息を漏らした。
「俺の子を、それほど案じてくれてありがとう」
「まだ出会って日も浅いですが、あの二人のことは大好きです」
それから少し躊躇って、ジゼルは小声で付け加えた。
「その…あの子達の父親のことも…好き…です」
もちろん、ユリウスの耳にその言葉は確実に届いた。
「……まいった…今のは、胸にぐっと来た…」
瞳と同じようにユリウスの顔が赤く染まる。
戦場の鬼神、血塗れ元帥、戦闘狂、傭兵王などいくつも呼び名がある戦争の達人が、ジゼルのそのひと言で、そのような顔をするとは、誰が想像しただろう。
自分で言ってジゼルも赤くなり、部屋の温度が一気に上がったように感じた。
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