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第十一章
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ユリウスはどうなったのか。
あの後、王宮の奥にある自分の部屋に戻らされてから、何の知らせもないままだった。
ユリウスに酷いことはしないだろうと、父のことは信じていたが、もしかしたらこのまま彼とのことを認めてもらえず、ここに幽閉されて彼とは二度と会えなくなるということはないだろうか。
やきもきしながらも夕食の時間になり、ジゼルは家族用の晩餐室に向かった。
既に母とジュリアンが席についていたが、父はまだ来ていなかった。
「こちらにどうぞ」
王と王妃が並び、ジュリアンがその対角線に座る。
ジゼルの席はジュリアンの隣だが、その向かい側にも二つ席か用意されている。
「まさか…」
ユリウスかと思ったが、二つあるのはどういうことだろうと思っていると、「待たせたな」と言って国王が入ってきた。
そのすぐ後ろには、宰相のレディントンがいる。
彼は彼女がここに戻ってきた時に、一度出迎えに来てくれていたので、数時間ぶりの再会である。
「国王陛下のご好意で、私も同席させていただきます」
「よろしくてよ」
王妃も彼の同席を承諾する。彼は正式な客を招いての晩餐以外にも、これまでも内々の食事の場で同席したことはあったので、それは特別でもない。
「レディントン一人か?」
国王が着席し、そのすぐ左隣の席にレディントンが立つ。
ジュリアンがレディントンの後ろを覗き込むが、他には誰もいない。
「ああ、もちろんもう一人いるが、支度に時間がかかっている、お、来たようだ」
侍従が部屋の入口に立ち、その後ろから侍従の背より頭ひとつ抜けた人物が現れた。
「ユ、ユリウス!!」
ガタンと、ジゼルが驚いて立ち上がった。
「え、あれが…ユリウス・ボルトレフ?」
ジュリアンも立ち上がって、良く見ようと背伸びする。
「あなたたち、はしたないですよ」
王妃が注意するが、ジゼルもジュリアンもポカンと口を開けて、現れたユリウスに魅入っている。
現れたユリウスは、襟足の長いオリーブグレーの髪を後ろに撫でつけ、綺麗に整えている。
真っ白いシャツと薄いグレーのクラヴァット、瞳より濃い色のえんじ色のフロックコートを羽織り、ぴったりと足に張り付く黒のパンツを履いている。
ジュリアンが驚くのも無理はない。彼は自分の誕生パーティーに現れた、獣の毛皮を羽織ったユリウスしか知らない。
しかし今の彼の姿は、少々荒削りではあるが宮廷に出入りする他の貴族達と遜色はない。
ジゼルでさえ、ここまで正装した彼を見たのは初めてだった。
いつもの気楽な服装も彼らしいが、着飾った彼も雰囲気があっていい。
「王宮の晩餐に相応しい装いをさせたまでだ。どうだ?」
「息が詰まりそうです」
クラヴァットに指を差し込みながら、ユリウスは文句を言った。
「素敵だわ、ユリウス」
ジゼルは素直に感想を述べた。
「惚れ直したか?」
「ええ」
「そ、そうか」
彼女の言葉を聞いて、ユリウスは少々照れる。
「しかし、宮廷衣装というのは、ゴテゴテしていて窮屈ですね」
「慣れてもらわねばな。王族の姫を娶ろうとする者が、宮廷の作法も知らないとなれば、侮られる。それ相応の品格が必要だ」
その言葉に、ジゼルははっとして父を見た。
「お父さま。今のは…許していただけるというのことでしょうか」
「トリカディールとの戦争が終わり、我が国には甚大な被害が無かったとは言え、今は国政に目を向けるべき時だ。カルエテーレがまたボルトレフを取り込もうと画策しないように、これまでの契約だけではなく、新たな契約を我がエレトリカ王国とボルトレフで結ぶ必要がある」
「仰るとおりです」
至極生真面目な表情で言う国王の言葉に、宰相が同意するように頷いた。
「なんだか、わざとらしいな」
妙に芝居がかった言い方だと思ったが、ジュリアンもそう思ったらしい。
「ふふ、目を瞑ってあげなさい。あなたとボルトレフ卿とのことを国王として認めるには、それ相応の大義名分が必要なのです」
「さようです。国力を回復させるための婚姻である。そう周りに思わせるのが狙いです」
王妃と宰相が国王の言葉の補足をする。
「お父様、ありがとうございます」
ジゼルは嬉しさに胸が震えた。
「ありがとうございます。陛下。必ずや彼女を幸せにいたします」
ユリウスが深々と頭を下げ、礼を言う。いつもの堂々のした総領ぶりもいいが、礼服を来てきっちりした彼も、なかなか様になっている。
「ゴホン、ジゼル、ボルトレフ卿に見惚れ過ぎだ」
父親に注意され、ユリウスをじっと見つめ過ぎていたことに気付く。
顔を上げたユリウスと視線が合い、彼もふっと顔を綻ばせる。
「し、失礼…致しました」
全員がこちらに視線を向けていて、気恥ずかしくなった。
「そんなに見つめたら、穴が空きますわよ」
「もう、母上まで…」
「姉上、真っ赤ですよ」
「ジュリアン、いちいち言わないで」
手で顔を仰ぎ、反対の手でジュリアンの肩を軽く突く。
「まあ…そなたがボルトレフに嫁ぎ、エレトリカの護りはさらに強固なものとなる。ジュリアンと共にエレトリカを良い方向に導いてくれ」
「はい、父上」
「もちろんてす。父上。必ずやエレトリカを今よりも良い国にします」
二人で顔を合わせ、固く誓った。
あの後、王宮の奥にある自分の部屋に戻らされてから、何の知らせもないままだった。
ユリウスに酷いことはしないだろうと、父のことは信じていたが、もしかしたらこのまま彼とのことを認めてもらえず、ここに幽閉されて彼とは二度と会えなくなるということはないだろうか。
やきもきしながらも夕食の時間になり、ジゼルは家族用の晩餐室に向かった。
既に母とジュリアンが席についていたが、父はまだ来ていなかった。
「こちらにどうぞ」
王と王妃が並び、ジュリアンがその対角線に座る。
ジゼルの席はジュリアンの隣だが、その向かい側にも二つ席か用意されている。
「まさか…」
ユリウスかと思ったが、二つあるのはどういうことだろうと思っていると、「待たせたな」と言って国王が入ってきた。
そのすぐ後ろには、宰相のレディントンがいる。
彼は彼女がここに戻ってきた時に、一度出迎えに来てくれていたので、数時間ぶりの再会である。
「国王陛下のご好意で、私も同席させていただきます」
「よろしくてよ」
王妃も彼の同席を承諾する。彼は正式な客を招いての晩餐以外にも、これまでも内々の食事の場で同席したことはあったので、それは特別でもない。
「レディントン一人か?」
国王が着席し、そのすぐ左隣の席にレディントンが立つ。
ジュリアンがレディントンの後ろを覗き込むが、他には誰もいない。
「ああ、もちろんもう一人いるが、支度に時間がかかっている、お、来たようだ」
侍従が部屋の入口に立ち、その後ろから侍従の背より頭ひとつ抜けた人物が現れた。
「ユ、ユリウス!!」
ガタンと、ジゼルが驚いて立ち上がった。
「え、あれが…ユリウス・ボルトレフ?」
ジュリアンも立ち上がって、良く見ようと背伸びする。
「あなたたち、はしたないですよ」
王妃が注意するが、ジゼルもジュリアンもポカンと口を開けて、現れたユリウスに魅入っている。
現れたユリウスは、襟足の長いオリーブグレーの髪を後ろに撫でつけ、綺麗に整えている。
真っ白いシャツと薄いグレーのクラヴァット、瞳より濃い色のえんじ色のフロックコートを羽織り、ぴったりと足に張り付く黒のパンツを履いている。
ジュリアンが驚くのも無理はない。彼は自分の誕生パーティーに現れた、獣の毛皮を羽織ったユリウスしか知らない。
しかし今の彼の姿は、少々荒削りではあるが宮廷に出入りする他の貴族達と遜色はない。
ジゼルでさえ、ここまで正装した彼を見たのは初めてだった。
いつもの気楽な服装も彼らしいが、着飾った彼も雰囲気があっていい。
「王宮の晩餐に相応しい装いをさせたまでだ。どうだ?」
「息が詰まりそうです」
クラヴァットに指を差し込みながら、ユリウスは文句を言った。
「素敵だわ、ユリウス」
ジゼルは素直に感想を述べた。
「惚れ直したか?」
「ええ」
「そ、そうか」
彼女の言葉を聞いて、ユリウスは少々照れる。
「しかし、宮廷衣装というのは、ゴテゴテしていて窮屈ですね」
「慣れてもらわねばな。王族の姫を娶ろうとする者が、宮廷の作法も知らないとなれば、侮られる。それ相応の品格が必要だ」
その言葉に、ジゼルははっとして父を見た。
「お父さま。今のは…許していただけるというのことでしょうか」
「トリカディールとの戦争が終わり、我が国には甚大な被害が無かったとは言え、今は国政に目を向けるべき時だ。カルエテーレがまたボルトレフを取り込もうと画策しないように、これまでの契約だけではなく、新たな契約を我がエレトリカ王国とボルトレフで結ぶ必要がある」
「仰るとおりです」
至極生真面目な表情で言う国王の言葉に、宰相が同意するように頷いた。
「なんだか、わざとらしいな」
妙に芝居がかった言い方だと思ったが、ジュリアンもそう思ったらしい。
「ふふ、目を瞑ってあげなさい。あなたとボルトレフ卿とのことを国王として認めるには、それ相応の大義名分が必要なのです」
「さようです。国力を回復させるための婚姻である。そう周りに思わせるのが狙いです」
王妃と宰相が国王の言葉の補足をする。
「お父様、ありがとうございます」
ジゼルは嬉しさに胸が震えた。
「ありがとうございます。陛下。必ずや彼女を幸せにいたします」
ユリウスが深々と頭を下げ、礼を言う。いつもの堂々のした総領ぶりもいいが、礼服を来てきっちりした彼も、なかなか様になっている。
「ゴホン、ジゼル、ボルトレフ卿に見惚れ過ぎだ」
父親に注意され、ユリウスをじっと見つめ過ぎていたことに気付く。
顔を上げたユリウスと視線が合い、彼もふっと顔を綻ばせる。
「し、失礼…致しました」
全員がこちらに視線を向けていて、気恥ずかしくなった。
「そんなに見つめたら、穴が空きますわよ」
「もう、母上まで…」
「姉上、真っ赤ですよ」
「ジュリアン、いちいち言わないで」
手で顔を仰ぎ、反対の手でジュリアンの肩を軽く突く。
「まあ…そなたがボルトレフに嫁ぎ、エレトリカの護りはさらに強固なものとなる。ジュリアンと共にエレトリカを良い方向に導いてくれ」
「はい、父上」
「もちろんてす。父上。必ずやエレトリカを今よりも良い国にします」
二人で顔を合わせ、固く誓った。
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