親友のお願いを聞いたら異世界から来た騎士様に求婚されました

藤吉めぐみ

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 平日ど真ん中の夕方のカフェは割と客が多い。多分、店の周りにオフィスが多いからだろう。このカフェの定休日が日曜日なのも、そんな理由からだ。
「白浜さん入ってくれるとめっちゃ楽ですね。さすが、金曜日の夕方捌いてるだけあります」
 カウンターの奥で備品を揃えていると、バイト仲間で大学の後輩の女の子・湯楽ゆらが笑顔で近づいてきた。彼女とは土曜の昼のシフトが被っているのでよく話をする仲だ。
「水曜もなかなかだね。でも湯楽ちゃんと一緒だと安心する」
「えー、私全然戦力じゃないですよ。まだラテアート出来ないし」
「積極的に接客してくれるだけで有り難いよ」
 一人だとどんな仕事もやるけれど、人数が揃うと楽がしたくて裏方に徹してしまう人もいる。そんな中で『私レジ入ります』と面倒な注文業務に入ってくれる人はとても貴重だ。
 心都が素直に伝えると、湯楽の頬が赤くなり、ありがとうございます、と呟いて目を伏せた。
「と、ところで、どうして水曜入ってるんですか? 確かに水曜一人辞めちゃって大変だけど、前に白浜さん、店長からの打診断ってた記憶があって」
 湯楽は、手伝います、と備品の袋を開け、棚に紙カップをしまいながら聞いた。
「水曜は用事があって断ってたんだけど、状況聞いたらね。でも新しい人が入るまでだよ」
 本当は用事なんてなくて、ただこの曜日に入りたくないだけだったのだが、その理由は人には言えなくて心都は『用事』と曖昧な理由を付けて、水曜のシフトを断っていた。 
「心都、水曜出勤珍しいね。教えてくれたら、オレも同じ時間に入ったのに」
 心都の姿を見つけ、こちらに速足で近づいてきたのは、バイト仲間の嶺崎みねさきだ。年齢は一緒だが大学は別で、半年前までは同じ火曜日のシフトに入って一緒に働いていた。
「あー、うん。まあね」
 素っ気ない心都の返答に付け足すように湯楽が、応援だそうです、と笑って言葉を足した。
「そうなんだ。だったら、今日夕飯行こうよ。奢るから」
「いや、今日は閉店前に上がるし、悠隆と会う約束してるんだ」
 本当は今日はもう会う予定はないのだが、そう言わないと断り切れない気がして心都が話すと、嶺崎の表情が怪訝に変わった。少しつり上がった眉を見て、心都が視線を逸らす。嶺崎を見ていると指先から体温が消えていく感覚がする。
「悠隆って、いつも心都といたヤツだよな? 行方不明になったって」
「戻ってきたって、大学でも話題になってました! よかったですよね」
「死んでなくて良かったとは思うけど、オレはあまりあいつ好きじゃないな」
「えー、小日向さん明るくていい方ですよ」
 ねえ、と湯楽がこちらに同意を求めるように視線を向ける。心都は、そうだね、と湯楽に微笑んだ。
「そうか? 普段ニコニコしてる奴ほど怖いだろ」
「あ、嶺崎さん、小日向さんがイケメンだから嫉妬ですか?」
 湯楽がにやにやと笑いながら嶺崎を見やる。怖いものなしの湯楽は時々こんなふうに人の核心をつくようなことを言うが、それが大体合っているので大抵ぐうの音も出ない。
「そ、そんなわけないだろ。ていうか、仕事しろ、お前ら」
 この時の嶺崎も返す言葉がなくて、話題を変えることで逃げた。二人のやり取りを見ていた心都が小さく笑ってから、悠隆も僕も大丈夫だから、と口を開いた。
「嶺崎も構わなくていいから」
「アイツはどうでもいいけど、心都のことは『友達』として助けたいと思ってるよ。こうして近くに居るわけだし、なんでも気軽に相談してよ」
 嶺崎が心都に手を伸ばし、髪を撫でる。心都は全身に鳥肌がたったのを感じながら、ありがとう、と微笑んで、フロア見てくるね、とその場を逃げるように離れた。
 心都は嶺崎が苦手だ。半年前までは、嶺崎の言う通りバイトを通して知り合った友達だったのだが、バイトの後に酒も含めて食事をした帰り、嶺崎の部屋に連れ込まれて襲われたのだ。とにかく必死で抵抗したので行為について言うなら未遂なのだが、未だに肌を舌が辿る感覚や後ろに指が入り込む音も覚えていて、それと同時にあの時の恐怖もよみがえってきてしまう。
 そんなことをしたくせに嶺崎は『酔ってたから覚えてないな』で済ませ、未だに心都に絡んでくるのだから、こちらから距離を取るべきだと思ってシフトの曜日を変えた。嶺崎が追ってくることもなかったのでほっとしていたのだが、まだ機会があれば心都とあの日の続きをしようと思っているのかもしれない。
 そう考えると、やっぱり少し怖い。本当はバイト自体を変えるべきなのかもしれないが、バイト先なんてなかなか変えられるものでもない。
 とにかく気を付けて過ごそう、と改めて思う心都だった。
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