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04.追い打ち
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(あの新婚旅行のときに、思い切って別れてしまえばよかった。そうしていれば、今こんな屈辱を味わうこともなかったのに)
フローラの妊娠に打ちのめされたアイリスは、自室に籠ったまま、結局一睡もできずに翌朝を迎えた。ロイが部屋を訪れたのは、陽がだいぶ高くなってからのこと。
「仕方がないだろう?」
憔悴した妻を前に、ロイが口にしたのは自分自身の行いを正当化する言葉だった。そしてその後、アイリスは絶句することになる。
「フローラの両親に頼まれたんだよ!あの子は身体が弱いから、人並みの結婚生活は望めない。だからせめて、子供を持たせてやりたい、って」
……!?
そんな理不尽があるだろうか?子の父親に、妻帯者であるロイを選ぶなんて。そしてロイも、それを受け入れるなんて…。
「どうせ任せるなら気心知れた男がいいと思うのが、親の情ってものだろ?!」
アイリスに一言も発せさせず、自分の主張だけ押し切って、ロイは部屋を出て行った。謝罪も労りの言葉もなく、いったい何しにきたのだろう。妻を何だと思っているのだろう。
この5年の間にアイリスを苦しめ傷つけてきたものたちが、頭の中をぐるぐる回り始めて止まらなくなった。自分を蔑ろにし続けたロイ、“後継も産めない役立たず”と罵り続けた義父母…。
このままではいけない。私を苦しめて喜ぶような、卑劣な人たちに負けたくない。
アイリスは無理やり体を起こし、邸内の湖まで散歩に出ることにした。王都で一、二を争う豪商の屋敷だけあって、敷地内に湖と林があり、アイリスにとってはこの家で唯一の癒しの場所なのだ。
湖まで歩いてきたアイリスだったが、自分の選択を悔いることになる。そこには、ロイとフローラの姿があった。
「……っ、アイリス…散歩かい?」
ロイは気まずそうだった。しかしフローラは得意の鈍感さを発揮して(意識してのことだろうが)、何事もなかったかのようにアイリスに話しかける。
「あら、もうお外に出て大丈夫なの?寝ていたほうがいいんじゃない?」
誰のせいで伏せっていたかわかっているくせに、よく言えたものだ。ロイの隣は自分が埋めるから、と言いたいのだろう。
「……心配してくださってありがとう。大丈夫よ」
「そうなの、よかったわ。あたしは悪阻がひどくなりそうなの。だからロイが心配して、いい空気を吸ったほうがいいって、お散歩に誘ってくれたのよ」
来てよかったわ、と言いながら一歩踏み出した時、小石につまづいてよろけるフローラ。ロイが慌てて支える。
「フローラ、ダメじゃないか!身体を大事にしてくれよ」
「やだもう、ロイったら大袈裟なんだから。アイリス様が呆れて見てるわよ?」
そう言いながらロイの腕を掴み、アイリスに挑戦的な視線を向ける。
その時、アイリスは気付いた。フローラは、ロイの子の母親になるだけでは満足していない。ロイの妻に、アバンドール商会長夫人になりたいのだ、と。
不愉快だった。妻の座に執着などないけれど、これまで受けてきた屈辱の数々を忘れることなど、簡単にはできない。
お先に失礼するわ、とアイリスが言いかけた時、ロイが使用人に呼ばれて離れて行った。無闇に動くなよ、僕が来るまでじっとしてるんだぞ、と、フローラにだけ声をかけて。
「まったく、ロイったら過保護すぎるわ」
呆れたようなふりをして、フローラの声には優越感が滲み出ている。
「それに、毎日プレゼント攻撃なのはいいけど、たまにセンス悪い時あって困っちゃうの」
見てよこれ、と言いながら、首元からペンダントを取り出す。人から贈られたものに文句を言うなんて、と苦々しく思いながらそれを見たアイリスだったが…。
「……っ?!」
言葉を失った。なぜならばそれは、アイリスが亡くなった祖母からもらった、大切な思い出の品だったのだから。
フローラの妊娠に打ちのめされたアイリスは、自室に籠ったまま、結局一睡もできずに翌朝を迎えた。ロイが部屋を訪れたのは、陽がだいぶ高くなってからのこと。
「仕方がないだろう?」
憔悴した妻を前に、ロイが口にしたのは自分自身の行いを正当化する言葉だった。そしてその後、アイリスは絶句することになる。
「フローラの両親に頼まれたんだよ!あの子は身体が弱いから、人並みの結婚生活は望めない。だからせめて、子供を持たせてやりたい、って」
……!?
そんな理不尽があるだろうか?子の父親に、妻帯者であるロイを選ぶなんて。そしてロイも、それを受け入れるなんて…。
「どうせ任せるなら気心知れた男がいいと思うのが、親の情ってものだろ?!」
アイリスに一言も発せさせず、自分の主張だけ押し切って、ロイは部屋を出て行った。謝罪も労りの言葉もなく、いったい何しにきたのだろう。妻を何だと思っているのだろう。
この5年の間にアイリスを苦しめ傷つけてきたものたちが、頭の中をぐるぐる回り始めて止まらなくなった。自分を蔑ろにし続けたロイ、“後継も産めない役立たず”と罵り続けた義父母…。
このままではいけない。私を苦しめて喜ぶような、卑劣な人たちに負けたくない。
アイリスは無理やり体を起こし、邸内の湖まで散歩に出ることにした。王都で一、二を争う豪商の屋敷だけあって、敷地内に湖と林があり、アイリスにとってはこの家で唯一の癒しの場所なのだ。
湖まで歩いてきたアイリスだったが、自分の選択を悔いることになる。そこには、ロイとフローラの姿があった。
「……っ、アイリス…散歩かい?」
ロイは気まずそうだった。しかしフローラは得意の鈍感さを発揮して(意識してのことだろうが)、何事もなかったかのようにアイリスに話しかける。
「あら、もうお外に出て大丈夫なの?寝ていたほうがいいんじゃない?」
誰のせいで伏せっていたかわかっているくせに、よく言えたものだ。ロイの隣は自分が埋めるから、と言いたいのだろう。
「……心配してくださってありがとう。大丈夫よ」
「そうなの、よかったわ。あたしは悪阻がひどくなりそうなの。だからロイが心配して、いい空気を吸ったほうがいいって、お散歩に誘ってくれたのよ」
来てよかったわ、と言いながら一歩踏み出した時、小石につまづいてよろけるフローラ。ロイが慌てて支える。
「フローラ、ダメじゃないか!身体を大事にしてくれよ」
「やだもう、ロイったら大袈裟なんだから。アイリス様が呆れて見てるわよ?」
そう言いながらロイの腕を掴み、アイリスに挑戦的な視線を向ける。
その時、アイリスは気付いた。フローラは、ロイの子の母親になるだけでは満足していない。ロイの妻に、アバンドール商会長夫人になりたいのだ、と。
不愉快だった。妻の座に執着などないけれど、これまで受けてきた屈辱の数々を忘れることなど、簡単にはできない。
お先に失礼するわ、とアイリスが言いかけた時、ロイが使用人に呼ばれて離れて行った。無闇に動くなよ、僕が来るまでじっとしてるんだぞ、と、フローラにだけ声をかけて。
「まったく、ロイったら過保護すぎるわ」
呆れたようなふりをして、フローラの声には優越感が滲み出ている。
「それに、毎日プレゼント攻撃なのはいいけど、たまにセンス悪い時あって困っちゃうの」
見てよこれ、と言いながら、首元からペンダントを取り出す。人から贈られたものに文句を言うなんて、と苦々しく思いながらそれを見たアイリスだったが…。
「……っ?!」
言葉を失った。なぜならばそれは、アイリスが亡くなった祖母からもらった、大切な思い出の品だったのだから。
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