18 / 24
18.招かれざる女 ※フローラ視点
しおりを挟む
「遠くグロリアの地よりようこそおいでくださいました。ルシフェル殿下、アイリス妃殿下」
「お心遣いに感謝いたします。両国の友好が永遠に続かんことを」
結婚式からひと月後。アイリスはルシフェル王太子とともに、諸国外遊の途についていた。新婚旅行を兼ねて、諸外国へ次代のグロリア国王夫妻をお披露目しようというわけだ。
『本当に美しいお二人。まるで太陽神と月女神のようですわ』
王太子夫妻は、どこの宮廷でも賞賛の的だった。優雅で気品に溢れる身のこなし、機知に富んだ話術。魅力あふれるふたりに、どの国の社交界も夢中になったのだった。
(なにあれ、つまんなぁい!あたしがこのパーティの主役になるはずだったのぃ)
熱烈に歓迎されるグロリア王太子夫妻を遠巻きに眺めながら、派手な装いの女がひとり壁際で苦虫を噛み潰していた。
大胆に胸元の開いた真っ赤なドレス、華やかに結い上げた金髪。派手ではあるが見事な脚線美と豊かな胸元を持つこの女が、人目を引く美女であることは確かだった。
「ね、ベティちゃん、素晴らしいパーティだよね。気に入ってくれたでしょ?」
(んもうなによ、こいつ。王家のパーティに連れてってくれるっていうから付き合ってあげたけど、遠すぎてルシフェル様のお顔も見えないじゃなぁい)
「うん、ありがと。こんな華やかな場所初めてよ。あたし、うれしいぃ♡」
本心はおくびにも出さず、笑顔を作って男の腕に腕を絡めた女は、あのフローラだった。この国では、ベティという名を騙っているらしい。
落ちぶれたロイを見捨てた後、金持ちの男たちを乗り換えながら国を渡り、今は遠い異国でこの貴族男をカモにしているのだった。
「べ、ベティちゃん、じゃあぜひ、僕の両親に…」
(ふん、こいつともそろそろね。まあまあお金はあるけどブサイクだもの)
「じゃ、あたしはパーティを楽しんでくるわ。あなたも楽しんでねぇ」
「べっ、ベティちゃんっ?」
戸惑う男を無視して、人混みをかき分け会場の中心へと進んで行く。そして大きな人垣の中心に、目的の人物を見つけて目を輝かせた。
(いたわ、ルシフェル殿下!ああ、なんて美しいの。絵姿よりも何倍もすてき……)
新婚旅行中?そんなことは関係ない。知り合うきっかけさえあればこっちもの。今までだってそうやって、狙った男を虜にしてきたのだから。
「……っ?!」
だが、フローラの計画は実行されなかった。王太子の隣に、あり得ない顔を見つけたからだ。
(あ、アイリス……?どうしてここに?なぜあたしのルシフェル様の隣にいるの?)
一見しただけでわかる上質な装い、高価で上品なアクセサリー、磨き上げられた肌。フローラの知る哀れな女とはまるで違う、自信に満ちた女の姿がそこにあった。
それに、なぜか人垣の中心にいて、あろうことかルシフェル王太子にぴったりと寄り添っている。
(まさか…まさか。ルシフェル様のお妃って……)
考えたくなかった。王太子の新妻の名はこの会場に来て知ったが、アイリスなんてよくある名前だから、気にもしていなかった。
けれど、フローラの疑念は、確信に変わらざるを得なかった。皆がアイリスに向かって妃殿下と呼びかけ、ルシフェル王太子がその手をとり、広間の中央へと進んだから。
ほう……。
楽団が優雅な音楽を奏でる。ふたりが踊り始めると、会場の方々からため息が漏れた。
しかし、花が舞い散るように踊るふたりを、フローラは見ていなかった。身体中をどす黒い感情が渦巻き、息すらできないほどだったからだ。
ゆるせない、ゆるせないわ、アイリス……!
アバンドール家から追い出されて、貧しく惨めな人生を送っているはずだったのに。よりによって、世界一の男を手に入れて、幸せそうに微笑んでいるなんて。
フローラの中に、黒い決意がみなぎった。必ず、必ずあの女から、王太子を奪ってやる……!
「お心遣いに感謝いたします。両国の友好が永遠に続かんことを」
結婚式からひと月後。アイリスはルシフェル王太子とともに、諸国外遊の途についていた。新婚旅行を兼ねて、諸外国へ次代のグロリア国王夫妻をお披露目しようというわけだ。
『本当に美しいお二人。まるで太陽神と月女神のようですわ』
王太子夫妻は、どこの宮廷でも賞賛の的だった。優雅で気品に溢れる身のこなし、機知に富んだ話術。魅力あふれるふたりに、どの国の社交界も夢中になったのだった。
(なにあれ、つまんなぁい!あたしがこのパーティの主役になるはずだったのぃ)
熱烈に歓迎されるグロリア王太子夫妻を遠巻きに眺めながら、派手な装いの女がひとり壁際で苦虫を噛み潰していた。
大胆に胸元の開いた真っ赤なドレス、華やかに結い上げた金髪。派手ではあるが見事な脚線美と豊かな胸元を持つこの女が、人目を引く美女であることは確かだった。
「ね、ベティちゃん、素晴らしいパーティだよね。気に入ってくれたでしょ?」
(んもうなによ、こいつ。王家のパーティに連れてってくれるっていうから付き合ってあげたけど、遠すぎてルシフェル様のお顔も見えないじゃなぁい)
「うん、ありがと。こんな華やかな場所初めてよ。あたし、うれしいぃ♡」
本心はおくびにも出さず、笑顔を作って男の腕に腕を絡めた女は、あのフローラだった。この国では、ベティという名を騙っているらしい。
落ちぶれたロイを見捨てた後、金持ちの男たちを乗り換えながら国を渡り、今は遠い異国でこの貴族男をカモにしているのだった。
「べ、ベティちゃん、じゃあぜひ、僕の両親に…」
(ふん、こいつともそろそろね。まあまあお金はあるけどブサイクだもの)
「じゃ、あたしはパーティを楽しんでくるわ。あなたも楽しんでねぇ」
「べっ、ベティちゃんっ?」
戸惑う男を無視して、人混みをかき分け会場の中心へと進んで行く。そして大きな人垣の中心に、目的の人物を見つけて目を輝かせた。
(いたわ、ルシフェル殿下!ああ、なんて美しいの。絵姿よりも何倍もすてき……)
新婚旅行中?そんなことは関係ない。知り合うきっかけさえあればこっちもの。今までだってそうやって、狙った男を虜にしてきたのだから。
「……っ?!」
だが、フローラの計画は実行されなかった。王太子の隣に、あり得ない顔を見つけたからだ。
(あ、アイリス……?どうしてここに?なぜあたしのルシフェル様の隣にいるの?)
一見しただけでわかる上質な装い、高価で上品なアクセサリー、磨き上げられた肌。フローラの知る哀れな女とはまるで違う、自信に満ちた女の姿がそこにあった。
それに、なぜか人垣の中心にいて、あろうことかルシフェル王太子にぴったりと寄り添っている。
(まさか…まさか。ルシフェル様のお妃って……)
考えたくなかった。王太子の新妻の名はこの会場に来て知ったが、アイリスなんてよくある名前だから、気にもしていなかった。
けれど、フローラの疑念は、確信に変わらざるを得なかった。皆がアイリスに向かって妃殿下と呼びかけ、ルシフェル王太子がその手をとり、広間の中央へと進んだから。
ほう……。
楽団が優雅な音楽を奏でる。ふたりが踊り始めると、会場の方々からため息が漏れた。
しかし、花が舞い散るように踊るふたりを、フローラは見ていなかった。身体中をどす黒い感情が渦巻き、息すらできないほどだったからだ。
ゆるせない、ゆるせないわ、アイリス……!
アバンドール家から追い出されて、貧しく惨めな人生を送っているはずだったのに。よりによって、世界一の男を手に入れて、幸せそうに微笑んでいるなんて。
フローラの中に、黒い決意がみなぎった。必ず、必ずあの女から、王太子を奪ってやる……!
1,423
あなたにおすすめの小説
彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む
佐藤 美奈
恋愛
公爵家の広大な庭園。その奥まった一角に佇む白いガゼボで、私はひとり思い悩んでいた。
私の名はニーナ・フォン・ローゼンベルク。名門ローゼンベルク家の令嬢として、若き騎士アンドレ・フォン・ヴァルシュタインとの婚約がすでに決まっている。けれど、その婚約に心からの喜びを感じることができずにいた。
理由はただ一つ。彼の幼馴染であるキャンディ・フォン・リエーヌ子爵令嬢の存在。
アンドレは、彼女がすべてであるかのように振る舞い、いついかなる時も彼女の望みを最優先にする。婚約者である私の気持ちなど、まるで見えていないかのように。
そして、アンドレはようやく自分の至らなさに気づくこととなった。
失われたニーナの心を取り戻すため、彼は様々なイベントであらゆる方法を試みることを決意する。その思いは、ただ一つ、彼女の笑顔を再び見ることに他ならなかった。
幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!
佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」
突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。
アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。
アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。
二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。
「無理をするな」と言うだけで何もしなかったあなたへ。今の私は、大公家の公子に大切にされています
葵 すみれ
恋愛
「無理をするな」と言いながら、仕事も責任も全部私に押しつけてきた婚約者。
倒れた私にかけたのは、労りではなく「失望した」の一言でした。
実家からも見限られ、すべてを失った私を拾い上げてくれたのは、黙って手を差し伸べてくれた、黒髪の騎士──
実は、大公家の第三公子でした。
もう言葉だけの優しさはいりません。
私は今、本当に無理をしなくていい場所で、大切にされています。
※他サイトにも掲載しています
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
幼馴染を溺愛する婚約者を懇切丁寧に説得してみた。
ましろ
恋愛
この度、婚約が決まりました。
100%政略。一度もお会いしたことはございませんが、社交界ではチラホラと噂有りの難物でございます。
曰く、幼馴染を溺愛しているとか。
それならばそのお二人で結婚したらいいのに、とは思いますが、決まったものは仕方がありません。
さて、どうしましょうか?
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。
王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。
友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。
仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。
書きながらなので、亀更新です。
どうにか完結に持って行きたい。
ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。
婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」
佐藤 美奈
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」
アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。
「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」
アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。
気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる