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第4章
同居のルール
しおりを挟む目を覚ますと、聡志は今朝も隣にはいなかった。
彼は朝が早い。仕事と本人の性質と、二重の意味で。同居を始めてからのここ数日で、朝海はそれを知った。
急いで身支度を整えて、リビングダイニングに向かう。扉を開けると、ソファに座ってテレビを観ていた聡志が、すかさず振り向いた。すでにスーツを着ている。
「おはよう」
「おはようござ、じゃなくて、おはよう……です」
「そうそう。正確に言うなら、ですは要らないよ」
くすくすと楽しそうに笑って訂正を入れる聡志に、朝海は反射的に悔しい気持ちを感じてしまう。
丁寧語は使わず、タメ口で話すこと。同居のルールのひとつとして決められたことだが、いまだに慣れなくて、つい丁寧語が口をついて出そうになる。実際に出てしまうこともしばしばだ。
「じゃ、今朝も罰ひとつね」
嬉し気に近づいてきた聡志を、逃げたい気持ちいっぱいで、けれど実際に逃げるわけもいかず、朝海は待ち構えた。向かい合った聡志は、もはや慣れきった仕草で、朝海の唇にキスを落とす。
タメ口にならなかったらキス1回。それもルールのひとつだった。というか、聡志に勝手に決められた。
しょっちゅうキスがしたいからこんなルールを作ったのではないかと思うほど、毎回「罰」を与えに来る時の聡志は嬉しそうだ──朝海も、本心から彼とのキスを嫌がっているわけではないが、状況的に負けた気がしてしまい、毎回なんだか悔しい。
「朝メシはもう食べたよ。君の分も作って、置いてあるから」
「今日も、朝から会議なんで……会議、なの?」
「そう。クリスマスと正月が近いからね、いろいろ打ち合わせがあるんだ」
ホテルにとっても、クリスマスと正月は稼ぎ時だ。客寄せのために様々な催しや企画があるそうで、社長としてはその全てを、ある程度は把握しておかなければならないという。
「毎日大変、ね」
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本当に、本心から仕事に情熱を注いでいるのだとわかる。
そういう聡志に触れるたび、朝海は自分の心が、ますます彼に惹かれていくのを感じていた。
「じゃあ、行ってくる。バタバタして悪いね」
「気にしないで。私はひとりでも大丈夫だから」
「本当に?」
「うん」
「……僕も、大丈夫だとは思うけど。念のため気をつけろよ」
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