76 / 247
第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期
第73話 それぞれの建国祭
しおりを挟む
「店員よ、このチョコバナナを三本くれ」
「はーい。お代は三百ヴォンドでーす」
「……おっと、銅貨が一枚もないぞ。それならば銀貨だな」
「ありがとうございまーす。お釣りと商品になりまーす」
イリーナはチョコバナナを受け取ると、後ろで待っている三人の少女に手渡すのだった。
「本当にすみません、イリーナさん……今日だけで色々奢ってもらっちゃいました」
「……フン」
「ありがとうございます」
「気にするな。今日は折角の祭りなのだ、名いっぱい楽しまなければな」
リーシャはすぐにチョコバナナに食らい付く。その隣ではカタリナもチョコバナナを齧り、サラは不満そうな表情で立ち尽くしている。
「……感謝はするけどね。ワタシは今日寮にいたかったの。五月蠅い城下町に出たくなんてなかったの。それをアナタは……」
「だって、お祭りだよ……? 楽しもうよ……?」
「それでカタリナとサラが二人でいた所を、リーシャが発見。この子に連れられて私と合流するに至ったわけだな」
イリーナは財布に小銭を入れ終え、三人の隣に立つ。
「それにしても、今日だけで軽く三千ヴォンドは奢ってもらったわよ。何者なのこの人は」
「あーイリーナさん? イリーナさんはね、イズエルトの王女様で……」
「お、おいリーシャ! やめろ!」
慌てて止めるが時既に遅し。サラは怪訝な目で、カタリナは目を丸くしてイリーナを見つめている。
「あ、すみません。チョコバナナ美味しすぎて、つい言っちゃいました」
「……はぁ。まあいい、バレてしまっては仕方ない。私はレインズグラス家の血を引く、イズエルト王国の第一王女なのだよ」
イリーナは態度を一転させ、腰に手を当て胸を張る。
「……どうして王女サマが他国の城下町をうろついているわけ」
「私はどうも絢爛な貴族の世界は肌に合わなくてな。こうして民達と同じ目線で街を歩いている方が心地良いんだ」
「あと王都にいることは滅多になくて、修行の旅に出て各地を転々としているんだよ。この間も旅先でゾンビをいっぱい倒したんですよね」
「ああその話は……城下町を歩きながら追々していこう」
カタリナは話の間、チョコバナナを片手に呆然とイリーナを見つめていたのだった。
「……そうね。人々と同じ目線に立って物事を考えようとする為政者なんて、そんなに珍しいことではないわ。寧ろ気になるのは――」
サラはそう言った後、リーシャの顔を覗き込む。
「アナタの方ね。王女サマと結構親しいようだけど、どんな関係?」
「え、えーっとぉ……」
急に疑念の目を向けられ戸惑うリーシャ。
そんな彼女を見て、イリーナは右手を握り、左手の手の平にぽんと置く。何か閃いたようだった。
「……よし。十二月、降神祭の前だ」
「え、何がですか」
「リーシャ、十二月に入ったらアルーインの街に友達を連れてくるといい」
「……何で急に?」
「君の事情に関しては、実際に目で見てもらった方が良い。少なくとも私はそう考えているぞ」
「まあ、確かにそうかもしれませんけど……でもそれって、お金……」
「だから十二月だ。この時期になったら私は一度アルーインに戻る。そして町の者に伝えて、私から金を出すように伝えておこう」
「す……凄い、太っ腹……」
「はっはっは、リーシャの為ならこれぐらいどうと言うことはない」
イリーナは誇るように高笑いをしてみせた。
「いやあルシュド、今回は実に災難だったね!?」
「うん……」
「学園の方から知らせが来るや否や、こいつ顔真っ青にして飛び出してな――俺も気が気でなくて来てみたら、何だかお祭りムードで少しばかり理解が追い付かないんだが」
「建国祭。とにかく……凄い」
「そうかー、凄いお祭りかあー」
ルシュド、ルカ、竜賢者の三人は、第二階層の広場の一角で休憩をしていた。
地上階程ではないが、ここにもたくさんの屋台が出並び、芸術家や大道芸人で賑わっている。天井がある影響か、地上階よりも音が反響して騒がしくなっている。
「まあガラティアからグレイスウィルまでは距離があるからな。情報に時間差が発生しても仕方ない」
「でも見た感じはもう治ってそうで良かった!」
「……」
「それにお祭りを楽しめるなら結果オーライだよ……ってどうした? 何か気になることでもあるか?」
「あ……」
ルシュドが茫然と見つめていた先は路地裏。人しか通れない道だけが広がっている。
「あっちに、友達、いた……気持ち、する」
「そうなの? じゃあちょっと行ってきなよ。あたし達ここで待ってるからさ」
「うん、ありがと」
「うふふ。相変わらず元気そうでよかった」
「オマエもな」
人目のつかない路地裏で、誰かと話しているイザーク。
「どう? 学園生活は順調に行ってる?」
「んー、そうだなあ……生まれて初めての自由を、精一杯満喫しているよ。これが楽しくないわけないだろ?」
そのままイカ焼きを頬張る。塀の上に座り、足を組んで渋い表情をしながら、整備された小川の水流に視線は向けていた。
「んでアイツは? 何か言ってた?」
「……いいえ、特に何も。アタシから訊いてみたことが一回あったけど、それに対しても……」
「だろうねえ。知ってたよ。アイツにとってボクは――」
イザークが何か言いかけた瞬間、
自分達が入ってきた方向から誰かがやってきた。
「お、おおお。こんにちは、イザーク」
「んあ? ルシュドじゃねーか」
「……お友達?」
「そうだよ。じゃあ友達も来たことだし、ボクはこれでってことで」
「うん……さようなら。また会う日までね」
イザークと話していた人物――金髪に赤いロングドレス、濃い化粧に巨大な星のピアスを着けた、やけに野太い声の女性は、ルシュドが来た方向とは反対の道に向かって行った。
「……んで? 何の用だいルシュド?」
イザークは女性を見送った後、ルシュドの方に振り向く。
いつものような明るく無鉄砲な声だった。会った時にちらっと聞こえた、静かな声色ではない。
「あ……えーと、おれ、おまえ、見えた。気になった……だから、追いかけた」
「そうかそうか。んじゃああれだな。ボクと一緒に祭りを巡ろうぜ」
「えっと……おれ、姉ちゃん、賢者様、一緒」
「姉ちゃん? オマエ姉ちゃんいんのか?」
「ああ……」
「じゃあボクに紹介してよ。これも何かの縁だ!」
「……わかった。きっと、姉ちゃん、喜ぶ」
ルシュドはイザークを連れて路地裏から出る。
「……」
「……どした?」
「えっと……」
「……」
「……姉ちゃん、竜族。おれも、竜族」
「……そうなの?」
「角、爪、鱗、牙、何もない。でも……竜族」
「……」
「そっかあ」
人生を懸けるような決意をしても、それを表明された相手は風のように受け流す。よくあることだ。
「……怒らない? 怖がらない?」
「別に。ボクはそんなの気にしねえし」
「……ありがとう」
「あれだろ。ボクがいきなり会っちゃうとびっくりするから、先に教えてくれたんだろ。いいヤツじゃん、オマエ」
「……えへへ」
「……おや! 誰かと思ったらアザーリア様ではありませんか!」
「あら、わたくしのことをご存じで?」
「いやいや、リアン様にはいつもお世話になっておりますもので! それでいくつ食べます?」
「これで買える分だけお願いしますわ!」
アザーリアは会計口に一枚の金貨を置く。
「どっひゃ~! 相変わらずの大食いお嬢様だ! わかりました、ひとくちコロッケ百個、大急ぎで揚げます!」
店主はコロッケを次々と油の中に放り込んでいくのだった。
「アザーリア……絶対にヴォンド金貨の使い方間違ってるよね……」
そこにリリアンが眉を顰めながら近付いてくる。後ろにはロシェも一緒だった。
「あら、わたくしは金貨を使って等価交換をいたしましたわ! ひとくちコロッケ百個と! 金貨で敵を殴るとか、そのような間違った使い方はしていないと思いますの~!」
「いやそうじゃない。敢えて突っ込むような真似はしないがそうじゃない」
「まあ、コロッケが揚げ上がったみたいですわ! 持つの手伝ってくださいます?」
そうしてアザーリアは、リリアンとロシェにコロッケが五個ずつ入った容器を無理くり渡していく。
結局本人が持っている容器は一つだけである。そんな光景を見てしまうと、自分達が荷物持ちにされているという事実を実感してしまうものだ。
「見た目は美人、頭も良い。なのに食に関するとどうして……」
「人間なんてこんなもんだろ。どっかが良ければ必ずどっかに欠点がある」
「まるで大食いが欠点みたいな言い方よそう???」
「実際俺達は今こうして迷惑被ってるじゃねーかっ」
「まあそれはそう」
リリアンは手いっぱいにコロッケを抱えながら周囲を見回す。
「……あ、ヴィクトール君とハンス君だ」
「マジか!?」
ロシェもぐるぐると見回すと、確かに中央広場の方から二人が歩いてくるのが目に入った。
「おーい、ヴィクトール! お前らもこれ持つの手伝え……」
しかし二人は、ロシェの叫びに耳も貸さず通りすぎていった。
「……はぁ!? 無視とかマジかよあいつら!?」
「うーん……あの二人、急いでいたようだったね。何かあったのかな?」
「そういえば、ヴィクトール君の姓は確かフェルグスでしたわ。それとハンス君の姓はメティアですし」
アザーリアはコロッケを次々と口に放り込みながら近付いてくる。
「あー、ケルヴィンの大賢者家系の一つだっけ、フェルグスって。それにメティアっていうと、ウィーエルでそこそこ権力持ってる所か」
「それが何だよ?」
「あの二人は恐らく社交上の付き合いに向かったのだと思いますわ。それなら急いでも仕方ありませんことよ!」
「……うん! 俺には貴族の付き合いなんて意味わかんねーから、戻ってきたら訊こう!」
ロシェはしれっとした態度で、入れ物に入っていたコロッケを一つつまむ。
「まあ!! わたくしのひとくちコロッケが九十九個になってしまいましたわ!! 弁償してくださる!?」
「いいじゃねーか一個ぐらいよー!」
「許しませんわー!! 折角綺麗な数字で揃えましたのにー!! 行きますわよ、ルサールカぁぁぁー!!」
「グレッザ、お前もどうにかしろぉぉぉ!!」
ロシェは入れ物を抱えたまま逃走を図り、アザーリアが負けじと追いかける。
アザーリアの纏っていた透明なベールが光り輝き、彼女の背中を押していく。
一方でロシェの尻尾から出てきた鼠が、彼の走った跡に棘をばら撒いていくが、アザーリアはそれを難無く飛び越えていた。ナイトメアも駆使すると追いかけっこも騒々しくなる。
「やれやれ。彼らといると本当に賑やかだね」
「ふぉんとうにね。ふぁ、ふぁっしゅにもあげる。はふはふ」
「こりゃどうも」
リリアンもコロッケをつまみ、時折アッシュに与えながら、その後ろ姿を見送っていた。
「はーい。お代は三百ヴォンドでーす」
「……おっと、銅貨が一枚もないぞ。それならば銀貨だな」
「ありがとうございまーす。お釣りと商品になりまーす」
イリーナはチョコバナナを受け取ると、後ろで待っている三人の少女に手渡すのだった。
「本当にすみません、イリーナさん……今日だけで色々奢ってもらっちゃいました」
「……フン」
「ありがとうございます」
「気にするな。今日は折角の祭りなのだ、名いっぱい楽しまなければな」
リーシャはすぐにチョコバナナに食らい付く。その隣ではカタリナもチョコバナナを齧り、サラは不満そうな表情で立ち尽くしている。
「……感謝はするけどね。ワタシは今日寮にいたかったの。五月蠅い城下町に出たくなんてなかったの。それをアナタは……」
「だって、お祭りだよ……? 楽しもうよ……?」
「それでカタリナとサラが二人でいた所を、リーシャが発見。この子に連れられて私と合流するに至ったわけだな」
イリーナは財布に小銭を入れ終え、三人の隣に立つ。
「それにしても、今日だけで軽く三千ヴォンドは奢ってもらったわよ。何者なのこの人は」
「あーイリーナさん? イリーナさんはね、イズエルトの王女様で……」
「お、おいリーシャ! やめろ!」
慌てて止めるが時既に遅し。サラは怪訝な目で、カタリナは目を丸くしてイリーナを見つめている。
「あ、すみません。チョコバナナ美味しすぎて、つい言っちゃいました」
「……はぁ。まあいい、バレてしまっては仕方ない。私はレインズグラス家の血を引く、イズエルト王国の第一王女なのだよ」
イリーナは態度を一転させ、腰に手を当て胸を張る。
「……どうして王女サマが他国の城下町をうろついているわけ」
「私はどうも絢爛な貴族の世界は肌に合わなくてな。こうして民達と同じ目線で街を歩いている方が心地良いんだ」
「あと王都にいることは滅多になくて、修行の旅に出て各地を転々としているんだよ。この間も旅先でゾンビをいっぱい倒したんですよね」
「ああその話は……城下町を歩きながら追々していこう」
カタリナは話の間、チョコバナナを片手に呆然とイリーナを見つめていたのだった。
「……そうね。人々と同じ目線に立って物事を考えようとする為政者なんて、そんなに珍しいことではないわ。寧ろ気になるのは――」
サラはそう言った後、リーシャの顔を覗き込む。
「アナタの方ね。王女サマと結構親しいようだけど、どんな関係?」
「え、えーっとぉ……」
急に疑念の目を向けられ戸惑うリーシャ。
そんな彼女を見て、イリーナは右手を握り、左手の手の平にぽんと置く。何か閃いたようだった。
「……よし。十二月、降神祭の前だ」
「え、何がですか」
「リーシャ、十二月に入ったらアルーインの街に友達を連れてくるといい」
「……何で急に?」
「君の事情に関しては、実際に目で見てもらった方が良い。少なくとも私はそう考えているぞ」
「まあ、確かにそうかもしれませんけど……でもそれって、お金……」
「だから十二月だ。この時期になったら私は一度アルーインに戻る。そして町の者に伝えて、私から金を出すように伝えておこう」
「す……凄い、太っ腹……」
「はっはっは、リーシャの為ならこれぐらいどうと言うことはない」
イリーナは誇るように高笑いをしてみせた。
「いやあルシュド、今回は実に災難だったね!?」
「うん……」
「学園の方から知らせが来るや否や、こいつ顔真っ青にして飛び出してな――俺も気が気でなくて来てみたら、何だかお祭りムードで少しばかり理解が追い付かないんだが」
「建国祭。とにかく……凄い」
「そうかー、凄いお祭りかあー」
ルシュド、ルカ、竜賢者の三人は、第二階層の広場の一角で休憩をしていた。
地上階程ではないが、ここにもたくさんの屋台が出並び、芸術家や大道芸人で賑わっている。天井がある影響か、地上階よりも音が反響して騒がしくなっている。
「まあガラティアからグレイスウィルまでは距離があるからな。情報に時間差が発生しても仕方ない」
「でも見た感じはもう治ってそうで良かった!」
「……」
「それにお祭りを楽しめるなら結果オーライだよ……ってどうした? 何か気になることでもあるか?」
「あ……」
ルシュドが茫然と見つめていた先は路地裏。人しか通れない道だけが広がっている。
「あっちに、友達、いた……気持ち、する」
「そうなの? じゃあちょっと行ってきなよ。あたし達ここで待ってるからさ」
「うん、ありがと」
「うふふ。相変わらず元気そうでよかった」
「オマエもな」
人目のつかない路地裏で、誰かと話しているイザーク。
「どう? 学園生活は順調に行ってる?」
「んー、そうだなあ……生まれて初めての自由を、精一杯満喫しているよ。これが楽しくないわけないだろ?」
そのままイカ焼きを頬張る。塀の上に座り、足を組んで渋い表情をしながら、整備された小川の水流に視線は向けていた。
「んでアイツは? 何か言ってた?」
「……いいえ、特に何も。アタシから訊いてみたことが一回あったけど、それに対しても……」
「だろうねえ。知ってたよ。アイツにとってボクは――」
イザークが何か言いかけた瞬間、
自分達が入ってきた方向から誰かがやってきた。
「お、おおお。こんにちは、イザーク」
「んあ? ルシュドじゃねーか」
「……お友達?」
「そうだよ。じゃあ友達も来たことだし、ボクはこれでってことで」
「うん……さようなら。また会う日までね」
イザークと話していた人物――金髪に赤いロングドレス、濃い化粧に巨大な星のピアスを着けた、やけに野太い声の女性は、ルシュドが来た方向とは反対の道に向かって行った。
「……んで? 何の用だいルシュド?」
イザークは女性を見送った後、ルシュドの方に振り向く。
いつものような明るく無鉄砲な声だった。会った時にちらっと聞こえた、静かな声色ではない。
「あ……えーと、おれ、おまえ、見えた。気になった……だから、追いかけた」
「そうかそうか。んじゃああれだな。ボクと一緒に祭りを巡ろうぜ」
「えっと……おれ、姉ちゃん、賢者様、一緒」
「姉ちゃん? オマエ姉ちゃんいんのか?」
「ああ……」
「じゃあボクに紹介してよ。これも何かの縁だ!」
「……わかった。きっと、姉ちゃん、喜ぶ」
ルシュドはイザークを連れて路地裏から出る。
「……」
「……どした?」
「えっと……」
「……」
「……姉ちゃん、竜族。おれも、竜族」
「……そうなの?」
「角、爪、鱗、牙、何もない。でも……竜族」
「……」
「そっかあ」
人生を懸けるような決意をしても、それを表明された相手は風のように受け流す。よくあることだ。
「……怒らない? 怖がらない?」
「別に。ボクはそんなの気にしねえし」
「……ありがとう」
「あれだろ。ボクがいきなり会っちゃうとびっくりするから、先に教えてくれたんだろ。いいヤツじゃん、オマエ」
「……えへへ」
「……おや! 誰かと思ったらアザーリア様ではありませんか!」
「あら、わたくしのことをご存じで?」
「いやいや、リアン様にはいつもお世話になっておりますもので! それでいくつ食べます?」
「これで買える分だけお願いしますわ!」
アザーリアは会計口に一枚の金貨を置く。
「どっひゃ~! 相変わらずの大食いお嬢様だ! わかりました、ひとくちコロッケ百個、大急ぎで揚げます!」
店主はコロッケを次々と油の中に放り込んでいくのだった。
「アザーリア……絶対にヴォンド金貨の使い方間違ってるよね……」
そこにリリアンが眉を顰めながら近付いてくる。後ろにはロシェも一緒だった。
「あら、わたくしは金貨を使って等価交換をいたしましたわ! ひとくちコロッケ百個と! 金貨で敵を殴るとか、そのような間違った使い方はしていないと思いますの~!」
「いやそうじゃない。敢えて突っ込むような真似はしないがそうじゃない」
「まあ、コロッケが揚げ上がったみたいですわ! 持つの手伝ってくださいます?」
そうしてアザーリアは、リリアンとロシェにコロッケが五個ずつ入った容器を無理くり渡していく。
結局本人が持っている容器は一つだけである。そんな光景を見てしまうと、自分達が荷物持ちにされているという事実を実感してしまうものだ。
「見た目は美人、頭も良い。なのに食に関するとどうして……」
「人間なんてこんなもんだろ。どっかが良ければ必ずどっかに欠点がある」
「まるで大食いが欠点みたいな言い方よそう???」
「実際俺達は今こうして迷惑被ってるじゃねーかっ」
「まあそれはそう」
リリアンは手いっぱいにコロッケを抱えながら周囲を見回す。
「……あ、ヴィクトール君とハンス君だ」
「マジか!?」
ロシェもぐるぐると見回すと、確かに中央広場の方から二人が歩いてくるのが目に入った。
「おーい、ヴィクトール! お前らもこれ持つの手伝え……」
しかし二人は、ロシェの叫びに耳も貸さず通りすぎていった。
「……はぁ!? 無視とかマジかよあいつら!?」
「うーん……あの二人、急いでいたようだったね。何かあったのかな?」
「そういえば、ヴィクトール君の姓は確かフェルグスでしたわ。それとハンス君の姓はメティアですし」
アザーリアはコロッケを次々と口に放り込みながら近付いてくる。
「あー、ケルヴィンの大賢者家系の一つだっけ、フェルグスって。それにメティアっていうと、ウィーエルでそこそこ権力持ってる所か」
「それが何だよ?」
「あの二人は恐らく社交上の付き合いに向かったのだと思いますわ。それなら急いでも仕方ありませんことよ!」
「……うん! 俺には貴族の付き合いなんて意味わかんねーから、戻ってきたら訊こう!」
ロシェはしれっとした態度で、入れ物に入っていたコロッケを一つつまむ。
「まあ!! わたくしのひとくちコロッケが九十九個になってしまいましたわ!! 弁償してくださる!?」
「いいじゃねーか一個ぐらいよー!」
「許しませんわー!! 折角綺麗な数字で揃えましたのにー!! 行きますわよ、ルサールカぁぁぁー!!」
「グレッザ、お前もどうにかしろぉぉぉ!!」
ロシェは入れ物を抱えたまま逃走を図り、アザーリアが負けじと追いかける。
アザーリアの纏っていた透明なベールが光り輝き、彼女の背中を押していく。
一方でロシェの尻尾から出てきた鼠が、彼の走った跡に棘をばら撒いていくが、アザーリアはそれを難無く飛び越えていた。ナイトメアも駆使すると追いかけっこも騒々しくなる。
「やれやれ。彼らといると本当に賑やかだね」
「ふぉんとうにね。ふぁ、ふぁっしゅにもあげる。はふはふ」
「こりゃどうも」
リリアンもコロッケをつまみ、時折アッシュに与えながら、その後ろ姿を見送っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
Radiantmagic-煌炎の勇者-
橘/たちばな
ファンタジー
全てを創世せし神によって造られた、様々な種族が生息する世界──その名はレディアダント。
世界は神の子孫代々によって守られ、幾多の脅威に挑みし者達は人々の間では英雄として語り継がれ、勇者とも呼ばれていた。
そして勇者の一人であり、大魔導師となる者によって建国されたレイニーラ王国。民は魔法を英雄の力として崇め、王国に住む少年グライン・エアフレイドは大魔導師に憧れていた。魔法学校を卒業したグラインは王国を守る魔法戦士兵団の入団を志願し、入団テストを受ける事になる。
一つの試練から始まる物語は、やがて大きな戦いへと発展するようになる──。
※RPG感のある王道路線型の光と闇のファンタジーです。ストーリー内容、戦闘描写において流血表現、残酷表現が含まれる場合もあり。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
女男の世界
キョウキョウ
ライト文芸
仕事の帰りに通るいつもの道、いつもと同じ時間に歩いてると背後から何かの気配。気づいた時には脇腹を刺されて生涯を閉じてしまった佐藤優。
再び目を開いたとき、彼の身体は何故か若返っていた。学生時代に戻っていた。しかも、記憶にある世界とは違う、極端に男性が少なく女性が多い歪な世界。
男女比が異なる世界で違った常識、全く別の知識に四苦八苦する優。
彼は、この価値観の違うこの世界でどう生きていくだろうか。
※過去に小説家になろう等で公開していたものと同じ内容です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる