ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第86話 学園祭・その1

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 グレイスウィル魔法学園の一大行事、学園祭。普段は教師の教えから学んでいる受動的な学生達が、この日だけは主体的に活動することを許される。


 料理に遊技場に展示に発表、死亡事故や大怪我がなければ何でもよしの大騒ぎ。この祭りを終えて初めて、一年生は学園生活に完全に馴染んだと言えるだろう。


 ちなみに帝国建国祭とは違い、ナイトメアは常に発現しておいても良いことになっている。そっちの方がごちゃごちゃしていて面白いというのは、初代学園祭実行委員長の弁であった。





「さあさあいらっしゃいお姉様方! 手芸部出店、今年は例年通りのポシェットに加えてシュシュを販売してますよー!」

「シュシュといいますのはね、最近流行りの髪留めですわ! 黒や茶色一色のヘアゴムで纏めた所に被せれば、たちどころにオシャレ力向上!」

「そんな最注目アイテムが銅貨一枚で買えるんですから、これは買わない手はありませんよね! さあさあ、どんどん見ていってくださいよー!」



 裁縫室の手芸部販売。結局イザークは当日販売まで手芸部の手伝いをしており、現在はやってきた客相手に手を鳴らして舌を回していた。



「お兄さんこれください!」
「あっありがとうございま~す! 花柄のシュシュ一つと水色のポシェット二つ! えっとですね、しめて五百ヴォンド、銅貨五枚でございます!」
「あら……銅貨が三枚しかないわ。残りは鉄貨二十枚でもいいかしら?」
「全然構いませんよ~!」


 教室内と会計を行ったり来たりしながら笑顔を振り撒く。



 エリスとアーサーは、同じく販売に入っていたカタリナと一緒にその姿を見つめていた。



「……もういっぱしの商人だよね、あれ」
「本当に凄いよね……準備から今日まで、ずっとお世話になりっぱなしだよ」
「得意分野なのかもしれないな」
「ワンワン」


 アーサーは腕を組んでうんうんと頷いている。カヴァスも同調するように首を動かしていた。


「え、珍しい。アーサーが褒めるなんて」
「……いや、ただの推測だ。褒めてはいない」
「いやー、今のは褒めている口ぶりだったよ」


 三人が隅にまとまって立ち話をしていると、手芸部の部員がやってきてカタリナに声をかける。


「カタリナさん、もう十時半だから上がっていいよー」
「はい……ありがとうございます」



 カタリナは軽く一礼をし、脇に寄せた机の後ろにある鞄に手をかけた。



「あ、シフト終わりなんだ」
「うん、朝だけ頑張って後は自由。そっちは?」
「わたしとアーサーは午後から。だからまだまだ時間あるよ」
「だ、だったら、その……」


「一緒に学園祭回ろうぜー!!」
「ごふっ!」



 イザークが突進してきて、勢いのままアーサーの肩に手を置く。衝撃を抑え込めず、アーサーは前に若干のめった。



「ようアーサー、そしてエリスも! 接客に夢中で話しかける暇がなかったぜ!」
「そうだったの? 露骨に無視しているんだと思ってた」
「ボクがそんなことするわけないだろぉー!!」
「……はぁ」


 イザークはアーサーの背中をバシバシ叩く。商品にはたきをかけていたサイリも、しれっと彼の隣に来ていた。


「イザークもシフト上がるの?」
「カタリナと一緒に上がるぜ! んで、どっか行きたい所ある?」
「えっとね、この後武術部に行こうかなって思ってた」
「ルシュドんとこか! 決定だな、行こうぜ!」
「あ、でもその前にこれお会計してよ」


 エリスはイザークに、ラメが入った赤い布のシュシュを差し出す。


「かしこまり~! お会計はこちらになりま~す!」
「よろしくお願いしま~す」
「……あたしも準備してくるね」
「ああ」





 実践演習でお馴染み演習場。奥の倉庫に近いエリアでは魔術研究部、その前の園舎に近いエリアでは武術部の出店がそれぞれ行われている。



「おりゃおりゃおりゃー!」
「せいっ! はっ!」
「イズヤも負けていられないと盛っているぜー!」



 アルベルト、カイル、イズヤの三人は、武術部の的当てゲームで凌ぎを削っていた所だ。


 普段使いのシャツやズボンから汗が滲み出て、少しばかり観客を増やしている。その辺は流石王国騎士と言った所だろうか。



「ふん! ぬん! どおっ! 中々! しんどいぜ!」
「やるなお前ら! 特にそこの狼耳、灰色の女子! ちっとも当たんねえよ!」
「クラリア良かったな、褒められたぞ」
「やった! ぜ! 感謝する! ぜ!」




「はい、そこまで! 終了でーす!」
「あっ今先輩が投げたのが当たりましたね」
「それはタイムアップの後に当たったのでカウントしませーん!」
「クソが!! ちゃっかりしてやがる!!」


 武術部の部員達が的を片付けながら、命中した数を数える。


 一分した後、部員達の中から代表してルシュドがやってきた。


「えーと。アルベルトさん、二十四。カイルさん、三十五。イズヤさん、十六。皆、十五以上。だから、これです」


 ルシュドは三人にステッカーを渡す。アルベルトには銀の槍、イズヤには木の盾、そしてカイルには光沢がついた剣の物が渡された。


「武術部、手作り。武器の……なんだっけ」
「ステッカーですね。鞄にでも貼っておきましょう」
「……別にいいし! こんなのどうでもいいし!! 結果についても気にしてねーし!!!」


「三回目ということもあって観念しましたね。開き直りとも言いますが」
「葉巻の吸いすぎか且つ学生達にかまけすぎたせいだとイズヤは分析するぜ」
「うるせーそんなこと……あ!!! あそこにルシュドの友達がいるぞ!!!」
「本当、ですか?」
「ただの話題逸らしかと思いましたがどうやら本当のようですね」




 四人が首を伸ばすと、その先からはエリス達が向かってきている所だった。




「あ、おっちゃん達お久~。何? 今日暇なの?」
「非番と言え非番と。お前ら今年は何しているか気になって探りにきてやったんだぞ」
「自分達は先輩の付き合いです。本音を言うと早く仕事に戻りたいです」
「アルベルトの遊びっぷりにイズヤは辟易しているぜ」
「なんてこと言ってんだてめえら!?」


 そこにタオルを首からかけたクラリアが駆け寄ってくる。休憩に入ったようだ。


「おっクラリアじゃん。随分と汗だくだけど、どしたの」
「おっすイザーク! さっき的を担当していたんだ! それで狐のおっちゃんに褒められたから、お礼しに来た! ありがとう!」
「お、そうか。わざわざどうもな」
「照れてやがるぜコイツとイズヤは思うぜ」
「うるせえやい」


 アルベルトはそっぽを向いてから葉巻を取り出して火を点ける。その隣ではエリス達三人とルシュドが会話をしていた。


「ルシュドは今何やってたの?」
「カウント。的、球、当てる。それ、数える。難しい」
「え、数えるだけならそうでもなくない?」
「的、球、いっぱい。早い。じっと見る、難しい」
「なるほど、そういうことね」

「生徒ならともかく、騎士になると力量が段違いだ。そちらは厳しそうだな」
「そうそう。アーサー、やってみる?」
「断る。オレは武術部ではない」
「……しょんぼり」



 するとエリス達の足に、突き上げてくるような振動が伝わってきた。



「え、何の音……?」



 カタリナが戸惑っていると、今度は物体がぶつかり合う音が聞こえてくる。




 それは的当てゲームの設営の裏側から放たれていた。唯一ルシュドだけが、涼しげな顔で音の鳴った方向を見ている。


「エリス。今、時間は?」
「えっと……午前十一時ぴったりだね」
「じゃあ、始まり。部長対スケバン聖女」
「す、すけばん?」


 慌てた様子のイザークと笑顔が眩しいクラリアも駆け寄ってくる。アルベルト達はその場に留まって轟音の方を見遣っていた。


「部長とスケバン聖女のエキ何たかマッチだぜ! お前らも一緒に観に行こうぜ!」
「大丈夫なの? 結構な轟音響いてなかった?」
「予行練習の時もこんなだったから平気だぜー!」

「部長はともかくとして、スケバン聖女……一体どんな人物なんだ」
「アルベルトさん、何か知ってますか?」
「あーまあ……うん、実際に見てみた方が早いぞ。ほら行こう」
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