13 / 13
最終話 親友と幸せになる (リヒト視点)
しおりを挟む
キノコを取りに行った先で猟師が仕掛けた罠にかかった俺は何故かグチョグチョに泣き崩れているゲオハルトを連れて屋敷に戻ってきた。
土にまみれた俺達を見てメイド長が目を剥いていたが長いお小言を貰う前にそそくさと浴室へむかう。ここのメイド長は躾の厳しい乳母のようでゲオハルトはもちろん俺にも遠慮なく振る舞ってくる。
風呂のあとひとしきりお小言をいただいた俺たちに温かい果実酒と軽食を持ってきてくれた侍従長は同情の視線をむけてくれた。王族に遠慮なく小言を言う女傑に今まで彼もやり込められてきたのだろう。
温かい果実酒の甘い香りが鼻孔をくすぐる。寝酒にはちょうどいい。
ベッドの上で楽しむことにしてグラスを小卓に載せる。
ヘッドボードに上半身を預けぼんやりとしているとゲオハルトが真面目な顔をして寄ってきた。
「姫様が私にサヨナラを言いに来てくださいました」
「は?」
「リヒト様を穴から助け出した後、私に一番の騎士だと。幸せになれと」
「そうか」
覚えていないがなんとなく覚えている気がしなくもない。
「姫として忠誠のキスを求められました」
「そうか」
「あの方と私は親友だったのに。騎士として命じられました」
「そうか」
「幸せにならないといけません」
「そうか」
「でもあの方がいない世界で幸せになれません」
極論だな。そういえばこういう奴だったか?長い間好きすぎてなぜ好きなのかわからなくなってきた気がする。もうこいつがゲオハルトであるから好きなのだ。ただの前世からの執着心なのかもしれない。
だが。
「どうすればいいのかわかりません」
執着心で片付けるにはお前の心を乱すのは私だけにしたいという思いが強すぎる。
私からも距離をつめた。吐息が甘い。果実酒のせいだ。
「じゃあ私がお前を幸せにするから何もするな」
軽くまぶたにキスを落とせば泣きすぎて腫れ上がったまぶたを何度も瞬かせる。大きな傷の入った強面の男がすると実に奇妙な仕草だがそれでも可愛く見えるのが惚れた弱みというやつなのだろう。
私はゲオハルトの顔を両手で挟んだ。髭が掌の下で潰れる。
「私もお前をどうするべきか最近考えあぐねていたんだ」
嘘がつけないように目を合わせる。
「伯母上を透かして見られるのも腹がたってな」
「そんなことは」
「あっただろう。この髪と瞳のせいだな」
「申し訳ありません」
「忘れさせてやると言ったのに主として不甲斐ないな」
「それなのですが。私はやはりフランツィスカ様の騎士でありたいです。リヒト様にお仕えはします。でも騎士としての剣を捧げるのはフランツィスカ様お一人。わがままを申しますがお許しください」
震える拳がゲオハルトの決意を表していた。無理に騎士の誓いをしいれば反発することは明白だ。
(堅物め)
「じゃあ友だちになろう」
もとから逃がすつもりはないのだ。最初の計画通り身体から落とせばいい。俺は狡猾に練った計画を踏襲すればいいだけだ。騎士がほしいわけじゃない。ほしいのはゲオハルトだ。
「友達」
「ただの友達じゃないぞ親友だ」
まだ納得のいってない表情のゲオハルトの唇をゆっくりと食む。甘い果実酒でふだんよりベタつく唇をひとしきり堪能する。
「これは友達がすることですか?」
(悪いが前世も現世も友達が他にいなかったのでお前限定ではあるな)
「親しい友同士ならすることだ」
顎を取り舌をからめるように口をふさぐ。
クフンと鼻から息が漏れる様子でゲオハルトの気分が乗ってきたことがわかる。
「心と体はつながっているからな。まず今日は体を幸せにしてやるよ。親友」
トンと肩を押せばベッドの上に転がる親友。
「幸せにしてやるよ。伯母上の願いは私がかなえよう」
とろけた瞳で俺を見上げるゲオハルトはうなずいた。
(私が前世を覚えていると言っても言わなくても変わりはないな)
「ずっと一緒だ」
閨の教師の教えの通り俺はゲオハルトを幸せにする。今日も明日もその先もずっと。
幻影?それも続けば現実だ。
土にまみれた俺達を見てメイド長が目を剥いていたが長いお小言を貰う前にそそくさと浴室へむかう。ここのメイド長は躾の厳しい乳母のようでゲオハルトはもちろん俺にも遠慮なく振る舞ってくる。
風呂のあとひとしきりお小言をいただいた俺たちに温かい果実酒と軽食を持ってきてくれた侍従長は同情の視線をむけてくれた。王族に遠慮なく小言を言う女傑に今まで彼もやり込められてきたのだろう。
温かい果実酒の甘い香りが鼻孔をくすぐる。寝酒にはちょうどいい。
ベッドの上で楽しむことにしてグラスを小卓に載せる。
ヘッドボードに上半身を預けぼんやりとしているとゲオハルトが真面目な顔をして寄ってきた。
「姫様が私にサヨナラを言いに来てくださいました」
「は?」
「リヒト様を穴から助け出した後、私に一番の騎士だと。幸せになれと」
「そうか」
覚えていないがなんとなく覚えている気がしなくもない。
「姫として忠誠のキスを求められました」
「そうか」
「あの方と私は親友だったのに。騎士として命じられました」
「そうか」
「幸せにならないといけません」
「そうか」
「でもあの方がいない世界で幸せになれません」
極論だな。そういえばこういう奴だったか?長い間好きすぎてなぜ好きなのかわからなくなってきた気がする。もうこいつがゲオハルトであるから好きなのだ。ただの前世からの執着心なのかもしれない。
だが。
「どうすればいいのかわかりません」
執着心で片付けるにはお前の心を乱すのは私だけにしたいという思いが強すぎる。
私からも距離をつめた。吐息が甘い。果実酒のせいだ。
「じゃあ私がお前を幸せにするから何もするな」
軽くまぶたにキスを落とせば泣きすぎて腫れ上がったまぶたを何度も瞬かせる。大きな傷の入った強面の男がすると実に奇妙な仕草だがそれでも可愛く見えるのが惚れた弱みというやつなのだろう。
私はゲオハルトの顔を両手で挟んだ。髭が掌の下で潰れる。
「私もお前をどうするべきか最近考えあぐねていたんだ」
嘘がつけないように目を合わせる。
「伯母上を透かして見られるのも腹がたってな」
「そんなことは」
「あっただろう。この髪と瞳のせいだな」
「申し訳ありません」
「忘れさせてやると言ったのに主として不甲斐ないな」
「それなのですが。私はやはりフランツィスカ様の騎士でありたいです。リヒト様にお仕えはします。でも騎士としての剣を捧げるのはフランツィスカ様お一人。わがままを申しますがお許しください」
震える拳がゲオハルトの決意を表していた。無理に騎士の誓いをしいれば反発することは明白だ。
(堅物め)
「じゃあ友だちになろう」
もとから逃がすつもりはないのだ。最初の計画通り身体から落とせばいい。俺は狡猾に練った計画を踏襲すればいいだけだ。騎士がほしいわけじゃない。ほしいのはゲオハルトだ。
「友達」
「ただの友達じゃないぞ親友だ」
まだ納得のいってない表情のゲオハルトの唇をゆっくりと食む。甘い果実酒でふだんよりベタつく唇をひとしきり堪能する。
「これは友達がすることですか?」
(悪いが前世も現世も友達が他にいなかったのでお前限定ではあるな)
「親しい友同士ならすることだ」
顎を取り舌をからめるように口をふさぐ。
クフンと鼻から息が漏れる様子でゲオハルトの気分が乗ってきたことがわかる。
「心と体はつながっているからな。まず今日は体を幸せにしてやるよ。親友」
トンと肩を押せばベッドの上に転がる親友。
「幸せにしてやるよ。伯母上の願いは私がかなえよう」
とろけた瞳で俺を見上げるゲオハルトはうなずいた。
(私が前世を覚えていると言っても言わなくても変わりはないな)
「ずっと一緒だ」
閨の教師の教えの通り俺はゲオハルトを幸せにする。今日も明日もその先もずっと。
幻影?それも続けば現実だ。
54
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
変異型Ωは鉄壁の貞操
田中 乃那加
BL
変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。
男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。
もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。
奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。
だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。
ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。
それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。
当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。
抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?
雪解けに愛を囁く
ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。
しかしその試験結果は歪められたものだった。
実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。
好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員)
前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。
別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。
小説家になろうでも公開中。
【完結】おじさんはΩである
藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ
門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。
何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。
今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。
治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。
惚れ薬をもらったけど使う相手がいない
おもちDX
BL
シュエは仕事帰り、自称魔女から惚れ薬を貰う。しかしシュエには恋人も、惚れさせたい相手もいなかった。魔女に脅されたので仕方なく惚れ薬を一夜の相手に使おうとしたが、誤って天敵のグラースに魔法がかかってしまった!
グラースはいつもシュエの行動に文句をつけてくる嫌味な男だ。そんな男に家まで連れて帰られ、シュエは枷で手足を拘束された。想像の斜め上の行くグラースの行動は、誰を想ったものなのか?なんとか魔法が解ける前に逃げようとするシュエだが……
いけすかない騎士 × 口の悪い遊び人の薬師
魔法のない世界で唯一の魔法(惚れ薬)を手に入れ、振り回された二人がすったもんだするお話。短編です。
拙作『惚れ薬の魔法が狼騎士にかかってしまったら』と同じ世界観ですが、読んでいなくても全く問題ありません。独立したお話です。
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ヤンデレ執着が、病んでるのに筋が通っています。むしろ、行動が振り切っているのに、純愛の爽やかさすら感じました。やっていることはナカナカのエロエロなのに!
ちょっとBLとは外れますが、番外編で前世の切キュンなお話も読みたいです。
ああいさん
感想ありがとうございます。病んでるのに筋が通っている!そうか!!そうだったか!!とただ今開眼しました。正統派ヤンデレはもっと理不尽をこうぐわっって感じかな?手錠とかそういうの小道具で地下室で蝋燭の明かりで……(語彙力!!)
前世リクエストありがとうございます。姫ちゃんの時だと性別的にTLだけども姫ちゃんは心が攻めなので精神的BLででも二人一緒に居た時はまだ性癖が生まれてない感じでやっぱりキュン?(いやもう語彙力!!)
感想いただけるとほんとうにヾ(。>﹏<。)ノ゙✧*。
がんばります!!