婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ

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01.婚約者の微笑み

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 ポリーヌはバスケットを抱えて、騎士の詰所に向かっていた。
 今日は婚約者であるジェレミーに、差し入れをするためにやって来たのだ。

 騎士として貴族令嬢たちの憧れの存在でもあるジェレミーは、親同士が決めた婚約者であるポリーヌのことを、あまりよくは思っていないようだった。
 いつも最低限しか会話をしてくれない。誕生日といった特別な日にプレゼントは贈ってくれるものの、義務的に感じられた。
 領地にいた頃は年に数回しか会うことがなかったが、それなりに会話は弾んでいたはずだ。
 しかし、一年前にポリーヌが王都にやって来てから、会える機会は増えたのに、冷たくなってしまったように感じる。

 ポリーヌはジェレミーの態度を寂しく思いつつも、彼の役に立ちたくて、こうして差し入れをしようと考えたのだ。
 王宮の中庭を横切っていたポリーヌは、ふと足を止める。

「あれは……」

 中庭のベンチに、一組の男女が座っているのが見えた。
 一人は騎士服姿のジェレミーで、もう一人は長い金髪を結い上げた美しい令嬢だった。

「ジェレミーさま……?」

 ポリーヌは呆然とした。
 ジェレミーがこれまで見たこともないような微笑みを、その令嬢に向けていたのだ。
 ポリーヌは、そっとその場を離れた。
 バスケットを抱えて、とぼとぼと歩く。

「ジェレミーさま、どうして……」

 ポリーヌの目から涙が溢れた。
 婚約者の自分には決して向けることのない、柔らかな笑顔。
 思い出すだけで、胸が張り裂けそうになる。

「……私、思ったよりもジェレミーさまのことが好きだったみたい」

 ポリーヌは、初めて自分の恋心に気づいた。
 お互いに伯爵家同士、家格も釣り合うと親が決めた婚約者でしかなかったはずだ。
 それなのに、いつの間にかポリーヌは、ジェレミーに恋をしていたらしい。

「私、馬鹿だな……」

 ポリーヌは涙を拭うと、引き返していった。
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