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第62話 屠龍出撃
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日本軍が根拠地の設営を急いでいるころ、先の一連の戦いに大敗したはずの旧公国派、ヴァナヘイム王国、南部大陸諸国の連合側では、性懲りもなくと言うべきか、ブリーデヴァンガル属領主府への嫌がらせ的で神経を削るような攻撃を企図、実行に移してきた。
日本軍が異世界に転移して一週間、日本の暦では昭和19年12月31日、つまり大晦日に当たるその日、いよいよ乗組み将兵の半舷上陸を最初に実行するため、出雲と蛟龍はデ・ノーアトゥーン港外へ移動し将兵の半舷上陸に備え、残りの艦艇の将兵で半舷上陸する者たちは、輸送艦に分乗して、同じくデ・ノーアトゥーン港外へやって来た。
久し振りの上陸に、将兵たちが心弾ませていると、街中の鐘が喧しく鳴らされ、街の人々が慌てた様子で屋内へ避難を始めた。
「何だ何だ?」
事情が分からない日本軍将兵は、不思議そうな面持ちであったが、出雲、蛟龍ほか艦艇の通信室から
「城内通信所から連絡、空襲警報発令!」
とそれぞれ報告が艦橋へもたらされた。
元の世界であれば、空襲警報のサイレンが鳴り響いているところなのであろうが、こちらでは鐘を激しく鳴らして合図にしているようであった。
各艦とも、電探を切ってあるので、目標を探すのは目視によるほかはない。
各艦、見張り員やはかの将兵たちも一斉に上空を見上げるが、何も見えず、ただ、先だっての空襲の時と同様に、出雲の艦首方向に烽火が見えるだけだった。
おそらくは、その方向から何かが接近しているために警報が発せられたと思われたので、見張り員は特にその方向を注視した。
やがて
「180度方向に機影らしきもの2機!」
出雲の見張り員が叫んだ。
「只今の目標、高度4,000、距離20!」
測距指揮所から報告が入る。
距離は20㎞、高度4千mに敵機のようなものが二つ見えている。
将兵の半分が上陸の準備をし、しっかりと錨を降ろして停泊している現在、各艦とも、対空戦闘は不可能である。
「油断したか。」
桑園は思わず唇を嚙んだ。
「20㎞離れていて視認できるのだから、かなり大型の機体だな。いや、飛行機であるはずはないから、大型のワイバーンか何かだろう。」
彼は想像を巡らせた。
すると、城内通信所から
「情報二依レバ敵ハ大型ノ龍ト思ワレル」
という通信が入った。
「やれやれ、ワイバーンとやらの次は龍ときたもんだ。」
桑園は独り言ちた。
対策は取らねばならないが、蛟龍も直ぐには動けない今、迎撃に当たれるとすれば、ギムレー湾間近の飛行場にいる隼と二式複戦、通称「屠龍」のみである。
「ギムレー飛行場の通信所を呼び出して、大至急、戦闘機の発進を要請しろ!」
桑園は通信士に命じた。
飛行場には、蛟龍と令川丸から整備員を割いて派遣し、不時着していた7機の整備に当たらせているが、搭乗員ものんびり構えているであろうから、行けと言われて直ぐに出撃できるかどうか分からない。
それはともかく、やれることはすべきである。
「ギムレー飛行場から返信あり。隼2機と二式複戦2機は、10分で出られるそうです。」
「分かった。なるべく急いでもらえ。」
通信士の報告に、桑園が答えた。
ちなみに、この時の遣り取りから、ギムレー湾の海岸間近に設営された飛行場は
ギムレー飛行場
と呼称され、不時着した7機や彩雲のほか、蛟龍搭載機の発着にも使用されることになる。
一方、出撃を要請された飛行場では、隼2機と、二式複戦2機が、海軍の整備員によって暖機運転を始められた。
隼2機は、北海道帯広の飛行第54戦隊に所属する広尾曹長と大濱伍長の搭乗機であるが、広尾がニューギニア戦線生き残りのベテランであるのに対して、大濱は少年飛行兵出身で、広尾が若い頃に比べて6割程度の鞍数(飛行時間)しかなく、実戦にはやや覚束ない面があった。
二式複戦は、「屠龍」の愛称で呼ばれ、これら2機は千葉県松戸の飛行第53戦隊に所属し、帝都防衛の任に当たっていた。
搭乗するのは、それぞれ操縦妹背牛曹長と通信坂田伍長、操縦日高軍曹と通信大樹伍長で、操縦の二人は、ビルマとラバウルで生き残り、北九州の防空戦で戦ったベテランである。
隼の暖気運転が終わり、広尾の合図で車輪止めが外された。
「いいか、余計なことは考えず、とにかく俺に付いて来い。」
無線を通じて広尾が大濱に発破を掛ける。
「あの、隼の坊やより、貴様の方が若いんじゃないか。」
妹背牛が伝声管を通じて坂田をからかった。
「いいえ、多分、自分の方が飛行時間は長いと思われるであります。」
坂田が少しムッとして答えた。
「そうか、じゃあ小便チビらんようにしとけよ。」
妹背牛はそう言うと整備員に
車輪止め払え
の合図を送り、機体を前進させ始めた。
日高も機体を前進させ始めている。
「ギムレー飛行場」は、だだっ広い草原で、隼2機はもとより、屠龍2機が同時に離陸しても、全く問題はない。
4機は、まず隼2機が陸から海に向かって滑走、離陸し、次に屠龍2機が同じように陸から海に向かって離陸した。
当初は、通報のあった敵の高度である4,000mを目指して上昇したが、デ・ノーアトゥーン上空に近付くと、目標は高度を2,000mほどに下げて街の上空を旋回しているのが目に入った。
「四式重爆は飛龍だが、あいつらも飛んでいる龍、『飛龍』だ。それで俺たちが飛龍を討つ屠龍って訳だが、何だか妙な心持ちだな。」
妹背牛が坂田に言った。
彼には、広尾たちの隼が、龍たちの正面から接近して行くのが見えた。
「まったく、B24かB29を相手にする気分だぜ。」
「自分にはよく分からんであります。」
「飛行時間は長かったんじゃなかったのか。」
「まあ、そうでありますが。」
「そう緊張せずに、任しとけ。」
「はい、お願いします、曹長殿。」
坂田と軽く会話を交わした妹背牛は、隼に続いて正面から接敵すべく、機体を左に旋回させつつ降下した。
日本軍が異世界に転移して一週間、日本の暦では昭和19年12月31日、つまり大晦日に当たるその日、いよいよ乗組み将兵の半舷上陸を最初に実行するため、出雲と蛟龍はデ・ノーアトゥーン港外へ移動し将兵の半舷上陸に備え、残りの艦艇の将兵で半舷上陸する者たちは、輸送艦に分乗して、同じくデ・ノーアトゥーン港外へやって来た。
久し振りの上陸に、将兵たちが心弾ませていると、街中の鐘が喧しく鳴らされ、街の人々が慌てた様子で屋内へ避難を始めた。
「何だ何だ?」
事情が分からない日本軍将兵は、不思議そうな面持ちであったが、出雲、蛟龍ほか艦艇の通信室から
「城内通信所から連絡、空襲警報発令!」
とそれぞれ報告が艦橋へもたらされた。
元の世界であれば、空襲警報のサイレンが鳴り響いているところなのであろうが、こちらでは鐘を激しく鳴らして合図にしているようであった。
各艦とも、電探を切ってあるので、目標を探すのは目視によるほかはない。
各艦、見張り員やはかの将兵たちも一斉に上空を見上げるが、何も見えず、ただ、先だっての空襲の時と同様に、出雲の艦首方向に烽火が見えるだけだった。
おそらくは、その方向から何かが接近しているために警報が発せられたと思われたので、見張り員は特にその方向を注視した。
やがて
「180度方向に機影らしきもの2機!」
出雲の見張り員が叫んだ。
「只今の目標、高度4,000、距離20!」
測距指揮所から報告が入る。
距離は20㎞、高度4千mに敵機のようなものが二つ見えている。
将兵の半分が上陸の準備をし、しっかりと錨を降ろして停泊している現在、各艦とも、対空戦闘は不可能である。
「油断したか。」
桑園は思わず唇を嚙んだ。
「20㎞離れていて視認できるのだから、かなり大型の機体だな。いや、飛行機であるはずはないから、大型のワイバーンか何かだろう。」
彼は想像を巡らせた。
すると、城内通信所から
「情報二依レバ敵ハ大型ノ龍ト思ワレル」
という通信が入った。
「やれやれ、ワイバーンとやらの次は龍ときたもんだ。」
桑園は独り言ちた。
対策は取らねばならないが、蛟龍も直ぐには動けない今、迎撃に当たれるとすれば、ギムレー湾間近の飛行場にいる隼と二式複戦、通称「屠龍」のみである。
「ギムレー飛行場の通信所を呼び出して、大至急、戦闘機の発進を要請しろ!」
桑園は通信士に命じた。
飛行場には、蛟龍と令川丸から整備員を割いて派遣し、不時着していた7機の整備に当たらせているが、搭乗員ものんびり構えているであろうから、行けと言われて直ぐに出撃できるかどうか分からない。
それはともかく、やれることはすべきである。
「ギムレー飛行場から返信あり。隼2機と二式複戦2機は、10分で出られるそうです。」
「分かった。なるべく急いでもらえ。」
通信士の報告に、桑園が答えた。
ちなみに、この時の遣り取りから、ギムレー湾の海岸間近に設営された飛行場は
ギムレー飛行場
と呼称され、不時着した7機や彩雲のほか、蛟龍搭載機の発着にも使用されることになる。
一方、出撃を要請された飛行場では、隼2機と、二式複戦2機が、海軍の整備員によって暖機運転を始められた。
隼2機は、北海道帯広の飛行第54戦隊に所属する広尾曹長と大濱伍長の搭乗機であるが、広尾がニューギニア戦線生き残りのベテランであるのに対して、大濱は少年飛行兵出身で、広尾が若い頃に比べて6割程度の鞍数(飛行時間)しかなく、実戦にはやや覚束ない面があった。
二式複戦は、「屠龍」の愛称で呼ばれ、これら2機は千葉県松戸の飛行第53戦隊に所属し、帝都防衛の任に当たっていた。
搭乗するのは、それぞれ操縦妹背牛曹長と通信坂田伍長、操縦日高軍曹と通信大樹伍長で、操縦の二人は、ビルマとラバウルで生き残り、北九州の防空戦で戦ったベテランである。
隼の暖気運転が終わり、広尾の合図で車輪止めが外された。
「いいか、余計なことは考えず、とにかく俺に付いて来い。」
無線を通じて広尾が大濱に発破を掛ける。
「あの、隼の坊やより、貴様の方が若いんじゃないか。」
妹背牛が伝声管を通じて坂田をからかった。
「いいえ、多分、自分の方が飛行時間は長いと思われるであります。」
坂田が少しムッとして答えた。
「そうか、じゃあ小便チビらんようにしとけよ。」
妹背牛はそう言うと整備員に
車輪止め払え
の合図を送り、機体を前進させ始めた。
日高も機体を前進させ始めている。
「ギムレー飛行場」は、だだっ広い草原で、隼2機はもとより、屠龍2機が同時に離陸しても、全く問題はない。
4機は、まず隼2機が陸から海に向かって滑走、離陸し、次に屠龍2機が同じように陸から海に向かって離陸した。
当初は、通報のあった敵の高度である4,000mを目指して上昇したが、デ・ノーアトゥーン上空に近付くと、目標は高度を2,000mほどに下げて街の上空を旋回しているのが目に入った。
「四式重爆は飛龍だが、あいつらも飛んでいる龍、『飛龍』だ。それで俺たちが飛龍を討つ屠龍って訳だが、何だか妙な心持ちだな。」
妹背牛が坂田に言った。
彼には、広尾たちの隼が、龍たちの正面から接近して行くのが見えた。
「まったく、B24かB29を相手にする気分だぜ。」
「自分にはよく分からんであります。」
「飛行時間は長かったんじゃなかったのか。」
「まあ、そうでありますが。」
「そう緊張せずに、任しとけ。」
「はい、お願いします、曹長殿。」
坂田と軽く会話を交わした妹背牛は、隼に続いて正面から接敵すべく、機体を左に旋回させつつ降下した。
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