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第100話 出雲ト利尻ハ出撃セリ
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グリトニル辺境伯とイザベラ姫一行は、出雲艦橋にある艦長公室へ案内された。
そこには、副長星美中佐、砲術長黒部中佐、通信長中島中佐、高射長今少佐、機関長軽川中佐、主計長北条中佐、軍医長南条中佐が待っており、そして出迎えに出た桑園少将、艦長白石大佐、航海長宮澤中佐らが加わり、艦の各部責任者が顔を揃えた。
一種軍装で正装した一同が敬礼し、これにグリトニル辺境伯が応えると、それぞれ自己紹介を行い、白布が掛けられたテーブル席に着き、淹れられたコーヒーを飲みながら、しばらくの間、それぞれの世界の話を交わした。
続いて、艦砲射撃の話の段になると、桑園と副長、砲術長、航海長、高射長以外は席を外した。
テーブルのグリトニル辺境伯の席から見え易い位置に、「セイレーンの巣」の偵察写真が貼られた移動式の黒板が設置されている。
ちなみに、この偵察行に出た艦上偵察機彩雲は、帰投した折、ギムレー飛行場で着陸滑走中に、左主脚を折損する事故を起こしていた。
黒部砲術長が立ち上がり、説明を始めた。
同じ構図の写真が10枚ほど、縮尺の大きい物と小さい物、更には要部が拡大された物が、それぞれ並べられている。
そこには、本来は天然の良港である南西油田海岸の沖合に弧を描くように浮かぶ、三つの小島が写し出されていた。
大きさが、大、中、小と別れていたので、根拠地隊は便宜的に大島、中島、小島と呼称することにしていた。
3島の周囲には、セイレーンが呼び寄せ船員を食らったと思われる船の残骸が多数見られ、また、拡大した写真で判明した人のようなものの陰の分析から、セイレーンたちの「生息」は、面積が最大である周囲3㎞ほどの大島に集中しているものと思われ、中島に若干の個体が散開しているようであった。
こうした状況から、出雲は大島を距離1万5千mから、利尻は中島を距離5千mから砲撃することとした。
出雲の45口径36㎝砲にとって1万5千mの距離は、決戦距離を2万m~3万mとしていた海軍の考えからすれば近過ぎると言えたが、開戦以来、海軍艦艇の実戦における遠距離砲撃の成績が芳しくないことから、無駄弾を防ぐ意味もあって、静止目標ではあるが、距離1万5千mとした。
利尻の45口径12㎝砲は、有効射程距離1万5千mではあるが、精密な射撃を行うには遠過ぎ、距離5千mとした。
また、艦砲の遠距離射撃において、観測機による弾着観測を行えばより正確とされていたが、観測鏡に故障が多く、観測機自体の高度が精密に割り出せないことから十分な精度が出せず、砲術関係者から効果が疑問視されており、また、実戦で観測が行われた事例は、ほとんどなかった。
したがって、今回の砲撃は、観測機を用いず、それぞれの距離から右砲戦の体勢で行われることになった。
黒部砲術長は、淡々と説明を続けたものの、グリトニル辺境伯一行は、サッパリ訳が分からないという風な顔つきであったが、イザベラ姫とアールト、アニタは、海賊船への砲撃を実際に見ているので、それが大掛かりに行われる、というように理解した様子であった。
「では、私は艦橋で出港の指揮を執ります。皆様はどうぞお寛ぎください。」
白石がそう言って席を立つと、まずグリトニルが
「我儘を言って申し訳ないが、是非、私も艦長の指揮と出港の様子を艦橋で拝見したい。」
と言って立ち上がった。
すると、彼の幕僚3人も同時に立ち上がり
「我々も、同行いたします。」
と言った。
これを見たイザベラも
「私も辺境伯にご一緒いたしますわ。」
と言って立ち上がれば、アールトとアニタも
「姫様とともに参ります。」
と言い出した。
「何だ、ゾロゾロと行列を作って来やがって。」
白石は内心そう思ったが、それはおくびにも出さず
「では、一緒に参りましょう。」
そう言って一同を羅針盤艦橋へ誘った。
「出港用意!」
白石が凛として命じると、出港ラッパが高らかに鳴った。
ガコガコガコ…
と錨鎖が引き揚げられ、やがて錨が水面上に現れると
「錨、水面を切った。」
艦首見張り員から報告が入る。
「両舷前進微速。」
「両舷、前進びそぉーく。」
白石の命令に、操舵手の応える声が伝声管から響き、テレグラフが
チリリリン
と鳴って、前進微速を指す。
やがて艦は、海面を切りながら前進を始めた。
グリトニル一行は、こうした出港の様子を興味深げに眺めていたが、邪魔になるの思ったのであろう、一切口を開かなかった。
「取り舵20度。」
「20度とりかーじ。」
「戻せ、宜候。」
「戻せ20度ヨーソロー、160度。」
艦長の操艦号令と復唱が艦橋に響く。
「速力上げぃ、第二戦速。」
「両舷前進きょうそぉーく。」
出雲は、四基のスクリューをゴウゴウと回転させ、信号ヤードの速力標も第二戦速に上げられた。
「利尻は付いているか。」
「付いています。」
白石が、航海長に利尻の所在を確認した。
利尻は、出雲の後方3千mを、親鴨に続く小鴨のように付いて来ている。
出雲は、25ノットまでの速力が出せるものの、利尻は19ノットしか出せないので、出雲は最大速力、即ち第三戦速を出すことができない。
それでも、4万トン近い巨体が白波を蹴立てて海原を疾走する様は、実に勇猛で心躍るものがあって、グリトニル一行は、唯々驚愕するばかりであった。
そこには、副長星美中佐、砲術長黒部中佐、通信長中島中佐、高射長今少佐、機関長軽川中佐、主計長北条中佐、軍医長南条中佐が待っており、そして出迎えに出た桑園少将、艦長白石大佐、航海長宮澤中佐らが加わり、艦の各部責任者が顔を揃えた。
一種軍装で正装した一同が敬礼し、これにグリトニル辺境伯が応えると、それぞれ自己紹介を行い、白布が掛けられたテーブル席に着き、淹れられたコーヒーを飲みながら、しばらくの間、それぞれの世界の話を交わした。
続いて、艦砲射撃の話の段になると、桑園と副長、砲術長、航海長、高射長以外は席を外した。
テーブルのグリトニル辺境伯の席から見え易い位置に、「セイレーンの巣」の偵察写真が貼られた移動式の黒板が設置されている。
ちなみに、この偵察行に出た艦上偵察機彩雲は、帰投した折、ギムレー飛行場で着陸滑走中に、左主脚を折損する事故を起こしていた。
黒部砲術長が立ち上がり、説明を始めた。
同じ構図の写真が10枚ほど、縮尺の大きい物と小さい物、更には要部が拡大された物が、それぞれ並べられている。
そこには、本来は天然の良港である南西油田海岸の沖合に弧を描くように浮かぶ、三つの小島が写し出されていた。
大きさが、大、中、小と別れていたので、根拠地隊は便宜的に大島、中島、小島と呼称することにしていた。
3島の周囲には、セイレーンが呼び寄せ船員を食らったと思われる船の残骸が多数見られ、また、拡大した写真で判明した人のようなものの陰の分析から、セイレーンたちの「生息」は、面積が最大である周囲3㎞ほどの大島に集中しているものと思われ、中島に若干の個体が散開しているようであった。
こうした状況から、出雲は大島を距離1万5千mから、利尻は中島を距離5千mから砲撃することとした。
出雲の45口径36㎝砲にとって1万5千mの距離は、決戦距離を2万m~3万mとしていた海軍の考えからすれば近過ぎると言えたが、開戦以来、海軍艦艇の実戦における遠距離砲撃の成績が芳しくないことから、無駄弾を防ぐ意味もあって、静止目標ではあるが、距離1万5千mとした。
利尻の45口径12㎝砲は、有効射程距離1万5千mではあるが、精密な射撃を行うには遠過ぎ、距離5千mとした。
また、艦砲の遠距離射撃において、観測機による弾着観測を行えばより正確とされていたが、観測鏡に故障が多く、観測機自体の高度が精密に割り出せないことから十分な精度が出せず、砲術関係者から効果が疑問視されており、また、実戦で観測が行われた事例は、ほとんどなかった。
したがって、今回の砲撃は、観測機を用いず、それぞれの距離から右砲戦の体勢で行われることになった。
黒部砲術長は、淡々と説明を続けたものの、グリトニル辺境伯一行は、サッパリ訳が分からないという風な顔つきであったが、イザベラ姫とアールト、アニタは、海賊船への砲撃を実際に見ているので、それが大掛かりに行われる、というように理解した様子であった。
「では、私は艦橋で出港の指揮を執ります。皆様はどうぞお寛ぎください。」
白石がそう言って席を立つと、まずグリトニルが
「我儘を言って申し訳ないが、是非、私も艦長の指揮と出港の様子を艦橋で拝見したい。」
と言って立ち上がった。
すると、彼の幕僚3人も同時に立ち上がり
「我々も、同行いたします。」
と言った。
これを見たイザベラも
「私も辺境伯にご一緒いたしますわ。」
と言って立ち上がれば、アールトとアニタも
「姫様とともに参ります。」
と言い出した。
「何だ、ゾロゾロと行列を作って来やがって。」
白石は内心そう思ったが、それはおくびにも出さず
「では、一緒に参りましょう。」
そう言って一同を羅針盤艦橋へ誘った。
「出港用意!」
白石が凛として命じると、出港ラッパが高らかに鳴った。
ガコガコガコ…
と錨鎖が引き揚げられ、やがて錨が水面上に現れると
「錨、水面を切った。」
艦首見張り員から報告が入る。
「両舷前進微速。」
「両舷、前進びそぉーく。」
白石の命令に、操舵手の応える声が伝声管から響き、テレグラフが
チリリリン
と鳴って、前進微速を指す。
やがて艦は、海面を切りながら前進を始めた。
グリトニル一行は、こうした出港の様子を興味深げに眺めていたが、邪魔になるの思ったのであろう、一切口を開かなかった。
「取り舵20度。」
「20度とりかーじ。」
「戻せ、宜候。」
「戻せ20度ヨーソロー、160度。」
艦長の操艦号令と復唱が艦橋に響く。
「速力上げぃ、第二戦速。」
「両舷前進きょうそぉーく。」
出雲は、四基のスクリューをゴウゴウと回転させ、信号ヤードの速力標も第二戦速に上げられた。
「利尻は付いているか。」
「付いています。」
白石が、航海長に利尻の所在を確認した。
利尻は、出雲の後方3千mを、親鴨に続く小鴨のように付いて来ている。
出雲は、25ノットまでの速力が出せるものの、利尻は19ノットしか出せないので、出雲は最大速力、即ち第三戦速を出すことができない。
それでも、4万トン近い巨体が白波を蹴立てて海原を疾走する様は、実に勇猛で心躍るものがあって、グリトニル一行は、唯々驚愕するばかりであった。
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