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第121話 訓練 対空戦闘
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ブリーデヴァンガル島及びその周辺で採れる原油の全てを、当面の間、根拠地隊が独占することとなった。
そうなると、ランプ用の灯油が全て外部からの移入若しくは輸入になるため、品薄と値上がりは避けられないだろう。
「我々を恨むのはお門違い。自分たちの王様の見栄っ張りと道楽を恨んでくれ。」
根拠地隊司令官桑園少将は、そう思った。
ブリーデヴァンガル島から王都クラズヘイムの外港であるナルヴィックまでは、おおむね往復約1,100㌋、片道550㌋の距離であるから、巡航16ノットを出さずとも、油を節約して12ノットの速力で航行しても、まる2日ほどで到着すると見込まれる。
ただ、いざという時は20ノット以上の速力を出す必要があることも考慮し、今回は、航続距離は長いがディーゼル機関で船足の遅い海防艦ではなく、罐焚きで燃料の融通が利き、速力の早い駆逐艦を2ハイ連れて行くことにした。
したがって、随伴は駆逐艦葉月と櫟ということに決まった。
ミズガルズ四世即位記念日が2月1日であるから、前日までにはナルヴィックに到着するとして、1月29日にブリーデヴァンガル島を発てば良いことになる。
出雲、蛟龍、葉月、櫟の4艦は、出発に先立ち、ブリーデヴァンガル島南西油田に赴き、産出される原油を腹一杯に搭載した。
もっとも、罐が不完全燃焼気味になり、煤が酷くなることから、機関科の将兵からは嫌な顔をされた。
1月29日朝、デ・ノーアトゥーン港在泊艦船の乗組員と、根拠地隊艦艇乗組将兵たちが顔馴染みとなった料理屋、船宿の女将や女給たち、分宿先の住人などの盛大な見送りを受け、蛟龍に座乗の桑園少将が直卒する4艦は、出港のラッパも高らかに、デ・ノーアトゥーン港を出港した。
蛟龍には、属領首府海事・軍務尚書レンダール男爵と、その補佐官ハッケン准男爵も乗艦し、ナルヴィックへ同行していた。
出港後、葉月と櫟が並走して、その後ろを蛟龍、出雲の順に航行する陣形を取り、一路、ビフレスト海を東進し、ナルヴィック港を目指す。
天気は上々、雲一つない快晴である。
「対空警戒を怠るな。」
蛟龍艦長稲積大佐が、見張り員に檄を飛ばす。
万が一にも敵性ワイバーンなどの奇襲がないように、各艦は、久し振りに電探を回しており、見張り員も必死に双眼鏡にしがみ付いていた。
今回の出港は久し振りの遠距離航海となるので、稲積は、羅針盤艦橋に置かれている航海長保管の「艦橋要表」を手に取って捲り、頭に入っているその大要を確認した。
「艦橋要表」とは、個艦の速力や旋回性能といった運動力のデータを記載したもので、艦固有の運動力がまとめられていた。
「いつもながら、二ホンの軍艦は、海面を飛ぶように走って参りますな。」
いつの間にか稲積艦長の横に立っていたレンダールが、話し掛けて来た。
「艦橋要表」から頭を上げた稲積は
「いえいえ。今回は燃料節約のため、全速の三分の一ほどの速力しか出しておりません。」
と応じた。
「何と、今の速さの三倍でございますか!それでは、あの広い甲板では、人が立ってなどおられますまいに。」
レンダールが驚いて言うと
「乗組み将兵は、皆、慣れておりますので、甲板上の作業に支障はございません。」
稲積はそう言った。
しかし、実はこの頃になると、日本の空母では、発艦であっても、30ノット以上の速力を出すことは、ほとんどなくなっていたのである。
「そう言えば、桑園様はいずこにおわすのか。珍しく艦橋に姿が見えませぬが。」
「司令官は、只今、自室におられます。ご用であれば、案内させますが。」
「いえ、桑園様はいつも艦橋にいらっしゃるところ、お姿が見えませんので、お聞きした次第。お気になさらずに。」
そう言ったレンダールは、右手を上げて、稲積をやんわりと制する仕草をした。
暫く後、レンダールが前方を行く駆逐艦を眺めていると
タッカタッカタッカタッカタッカターンタータターン
対空戦闘用意のラッパが鳴り響き
「対空戦闘ーッ!」
という号令も各所で響いた。
将兵たちは、主砲、高角砲、対空機銃、噴進砲といった自分の配置に飛び込む。
「○○対空戦闘用意ヨシ。」
という各所からの報告が集まり、最終的に、全艦の「対空戦闘用意ヨシ」が確認される。
「只今の配置、3分30秒。」
艦長の傍らで、ストップウォッチを用い時間を計測していた下士官が、艦長に告げた。
「遅い。3分を切れ。このままでは、配置が終わるころには、爆弾が降って来るぞ。」
稲積は、少し語気を強め、副長の米里中佐に告げた。
今の対空戦闘配置は、様々な状況下で行われる、訓練であった。
「只今の訓練は、不十分である。各員、行動を見直せ。」
艦内放送が告げた。
こんなことがあると若い兵隊は
「ああ、今晩の甲板整列は酷いことになるぞ。」
と覚悟を決めるのであった。
甲板整列とは、夜、就寝前に兵隊たちが並ばされ、下士官や古参兵から様々な理由で制裁を受ける、はっきり言えば私的リンチに近いものであった。
特に、今日のように訓練の結果が悪かった時などは、一挙手一投足に至るまで制裁の理由とされた。
多分、殴られないのは、対空戦闘と直接関係のない、飛行機搭乗員たちだけであろう。
この甲板整列は、陸上部隊においても同じ名称、同じシステムで行われており、兵隊を鍛えると言えば聞こえは良いが、帝国海軍の闇であることに間違いなかった。
そうなると、ランプ用の灯油が全て外部からの移入若しくは輸入になるため、品薄と値上がりは避けられないだろう。
「我々を恨むのはお門違い。自分たちの王様の見栄っ張りと道楽を恨んでくれ。」
根拠地隊司令官桑園少将は、そう思った。
ブリーデヴァンガル島から王都クラズヘイムの外港であるナルヴィックまでは、おおむね往復約1,100㌋、片道550㌋の距離であるから、巡航16ノットを出さずとも、油を節約して12ノットの速力で航行しても、まる2日ほどで到着すると見込まれる。
ただ、いざという時は20ノット以上の速力を出す必要があることも考慮し、今回は、航続距離は長いがディーゼル機関で船足の遅い海防艦ではなく、罐焚きで燃料の融通が利き、速力の早い駆逐艦を2ハイ連れて行くことにした。
したがって、随伴は駆逐艦葉月と櫟ということに決まった。
ミズガルズ四世即位記念日が2月1日であるから、前日までにはナルヴィックに到着するとして、1月29日にブリーデヴァンガル島を発てば良いことになる。
出雲、蛟龍、葉月、櫟の4艦は、出発に先立ち、ブリーデヴァンガル島南西油田に赴き、産出される原油を腹一杯に搭載した。
もっとも、罐が不完全燃焼気味になり、煤が酷くなることから、機関科の将兵からは嫌な顔をされた。
1月29日朝、デ・ノーアトゥーン港在泊艦船の乗組員と、根拠地隊艦艇乗組将兵たちが顔馴染みとなった料理屋、船宿の女将や女給たち、分宿先の住人などの盛大な見送りを受け、蛟龍に座乗の桑園少将が直卒する4艦は、出港のラッパも高らかに、デ・ノーアトゥーン港を出港した。
蛟龍には、属領首府海事・軍務尚書レンダール男爵と、その補佐官ハッケン准男爵も乗艦し、ナルヴィックへ同行していた。
出港後、葉月と櫟が並走して、その後ろを蛟龍、出雲の順に航行する陣形を取り、一路、ビフレスト海を東進し、ナルヴィック港を目指す。
天気は上々、雲一つない快晴である。
「対空警戒を怠るな。」
蛟龍艦長稲積大佐が、見張り員に檄を飛ばす。
万が一にも敵性ワイバーンなどの奇襲がないように、各艦は、久し振りに電探を回しており、見張り員も必死に双眼鏡にしがみ付いていた。
今回の出港は久し振りの遠距離航海となるので、稲積は、羅針盤艦橋に置かれている航海長保管の「艦橋要表」を手に取って捲り、頭に入っているその大要を確認した。
「艦橋要表」とは、個艦の速力や旋回性能といった運動力のデータを記載したもので、艦固有の運動力がまとめられていた。
「いつもながら、二ホンの軍艦は、海面を飛ぶように走って参りますな。」
いつの間にか稲積艦長の横に立っていたレンダールが、話し掛けて来た。
「艦橋要表」から頭を上げた稲積は
「いえいえ。今回は燃料節約のため、全速の三分の一ほどの速力しか出しておりません。」
と応じた。
「何と、今の速さの三倍でございますか!それでは、あの広い甲板では、人が立ってなどおられますまいに。」
レンダールが驚いて言うと
「乗組み将兵は、皆、慣れておりますので、甲板上の作業に支障はございません。」
稲積はそう言った。
しかし、実はこの頃になると、日本の空母では、発艦であっても、30ノット以上の速力を出すことは、ほとんどなくなっていたのである。
「そう言えば、桑園様はいずこにおわすのか。珍しく艦橋に姿が見えませぬが。」
「司令官は、只今、自室におられます。ご用であれば、案内させますが。」
「いえ、桑園様はいつも艦橋にいらっしゃるところ、お姿が見えませんので、お聞きした次第。お気になさらずに。」
そう言ったレンダールは、右手を上げて、稲積をやんわりと制する仕草をした。
暫く後、レンダールが前方を行く駆逐艦を眺めていると
タッカタッカタッカタッカタッカターンタータターン
対空戦闘用意のラッパが鳴り響き
「対空戦闘ーッ!」
という号令も各所で響いた。
将兵たちは、主砲、高角砲、対空機銃、噴進砲といった自分の配置に飛び込む。
「○○対空戦闘用意ヨシ。」
という各所からの報告が集まり、最終的に、全艦の「対空戦闘用意ヨシ」が確認される。
「只今の配置、3分30秒。」
艦長の傍らで、ストップウォッチを用い時間を計測していた下士官が、艦長に告げた。
「遅い。3分を切れ。このままでは、配置が終わるころには、爆弾が降って来るぞ。」
稲積は、少し語気を強め、副長の米里中佐に告げた。
今の対空戦闘配置は、様々な状況下で行われる、訓練であった。
「只今の訓練は、不十分である。各員、行動を見直せ。」
艦内放送が告げた。
こんなことがあると若い兵隊は
「ああ、今晩の甲板整列は酷いことになるぞ。」
と覚悟を決めるのであった。
甲板整列とは、夜、就寝前に兵隊たちが並ばされ、下士官や古参兵から様々な理由で制裁を受ける、はっきり言えば私的リンチに近いものであった。
特に、今日のように訓練の結果が悪かった時などは、一挙手一投足に至るまで制裁の理由とされた。
多分、殴られないのは、対空戦闘と直接関係のない、飛行機搭乗員たちだけであろう。
この甲板整列は、陸上部隊においても同じ名称、同じシステムで行われており、兵隊を鍛えると言えば聞こえは良いが、帝国海軍の闇であることに間違いなかった。
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