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第141話 捕虜尋問
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翌日、B29のクルーだったハンセン中尉とハミルトン軍曹は、衛兵に引き立てられて牢を出た。
中世的な造りの牢を出て、二人は、事務室のような部屋へ連れて行かれた。
そこで二人は、まず、首飾りのようなものを渡され、首に掛けるよう指示された。
すると、今まで理解できなかった周囲の者の会話が、突然、理解できるようになり、驚いた二人は、思わず顔を見合わせた。
同時に、改めて見る周囲の人々の服装が、合衆国独立の頃の服装のように見えて、奇妙に思えた。
「さて、貴殿らはどこから来て、どこへ向かうつもりだったのか。」
窓際の机に座っていた上品そうな紳士が口を開いた。
「合衆国陸軍中尉シュタイン・ハンセン、第21爆撃集団所属。」
「同じく陸軍軍曹ジョン・ハミルトン。」
二人は、所属と官姓名を述べた。
ジュネーヴ協定によれば、戦時捕虜は、それだけを述べればよかったからである。
「貴殿らの氏名は分かったが、こちらの質問に答えてもらっていないようだ。」
その紳士は、またゆっくりと口を開いた。
「ジュネーヴ協定によれば、戦時捕虜は所属及び官姓名を述べるだけで十分であり、その他の質問に答える義務はないはずである。また、貴殿らは我々に手枷を施したままであるが、このような措置も協定に違反する。」
ハンセン中尉が、凛として答えた。
「ジュネーヴ協定、国際条約かな?」
「然り。」
「存じぬなぁ。少なくとも、わがミズガルズ王国が、そのような条約を締結した、あるいは加盟した事実は、小官の記憶にはない。」
紳士は、悠然として述べた。
「ミズガルズ王国…とはいかなる国か。私の記憶では、そのような国はこの世界に存在しないはずだ。」
ハンセンが憤然として言った。
「正確には、ミズガルズ王国ブリーデヴァンガル島属領となる。貴殿らの事は与り知らぬが、王国も属領も現に存在する。」
その紳士は、一息ついて続けた。
「小官が思うに、貴殿らは二ホン軍と同じ世界から来た御仁かな。」
「クソッ、やっぱり奴らがいたのか。」
ハンセンが毒付く様に言った。
「二ホン軍は、数か月前に、突如として我々の目の前に現れたのだが、どうやら我々とは違う世界から来たとしか思えない。」
「違う世界…異世界…。オーソン・ウェルズの小説じゃあるまいし、そんなことが現実にあるものか。」
「現実に、我々は貴殿の目の前に存在する。」
紳士は、目の前にあった資料にサッと目を通すと
「貴殿らは、二ホン軍がアメリカ又は米軍と呼んでいる軍隊の一員ではないのか。」
と訊いた。
「いかにも、我らはアメリカ合衆国軍隊の構成員で、我が国と日本は、現在、交戦状態にある。」
ハンセンは答えた。
「では、本題に入ろう。貴殿らは、過日、我がブリーデヴァンガル属領首府であるデ・ノーアトゥーンの街に爆弾を投下し、損害を与えた。具体的には、家屋203棟が倒壊又は炎上し、死者153名、負傷者203名が発生したものである。これは、我が属領首府、延いては王国に対する戦争行為であって、看過できないものである。」
厳かに紳士が語り始めると
「ちょっと待ってくれ!ジャップ…日本軍の戦闘機が攻撃して来たんだから、眼下の街が日本の街か日本軍占領地と考えるのは、当たり前じゃないか。それを責められる謂れはないぞ!」
と、ハンセンが反論した。
「それは貴殿らの一方的主張であって、我々からしてみれば、多数の死傷者を発生させられたことは、悲憤に堪えない事実である。」
その紳士は、少しばかり感情を表に出して言った。
「そもそも、無辜の民を一方的に殺戮することは、人の道を外れた行い、外道の所業であると小官は思料するものである。」
「しかし、戦争に人道も外道もないでしょう。」
ハンセンは反論した。
「然らば、我々が貴殿らをいかに処遇しようとも、外道の誹りを受けることはない、ということになろうな。」
紳士は立ち上げると、後方の窓を開けた。
窓の外からは、何か群衆が叫ぶような声が聞こえてきた。
「今、聞こえているのが何の声かお分かりかな?」
その紳士がハンセンに向かって訊いた。
「さあ、分からん。」
ハンセンはぶっきらぼうに答えた。
「あれは、民衆の声である。デ・ノーアトゥーンを破壊し、死傷者を出した張本人、即ち貴殿らの処断を求めるために民衆が集まり、声を上げているのだ。」
紳士は、窓を閉めると自席に戻り続けた。
「ああ、念のため言っておくが、我々が扇動した訳ではないぞ。属領首府が貴殿らを捕らえたことを聞き及んだ民衆が、自発的に集まり、声を上げているのだ。」
しばらく沈黙が支配した。
「それで、貴殿は我らをどうするおつもりか?」
ハンセン中尉が沈黙を破り口を開いた。
「話を元に戻そう。貴殿らはどこから来て、どこへ向かうつもりだったのか。」
ここでハンセンは、日本本土へ向けてテニアン島を飛び立ってからのことを話した。
「なるほど、白い闇の如き霧、であるか。」
そう言うと紳士は、卓上の小箱から煙草を取り出すと、ハンセンとハミルトンに勧めた。
彼は、手枷のまま煙草を一本ずつ取って咥えた二人に火を点けてやってから、自分の煙草にも火を点け、深く吸い込んでから言った。
「我々は、元々この『シガー』という紙巻き煙草は習慣になくてね。パイプで吸っていたのであるが、二ホンの軍人から教わって、便利なものだから取り入れたのだよ。」
それから紳士は、ハンセンに元の世界の情勢を質問した。
少し用心を解いたハンセンは、戦況を中心とする元の世界の情勢について
・太平洋においては、圧倒的に優勢な米軍が硫黄島に上陸したこと、続いて沖縄を攻略後は、日本本土進攻を目指していること、自分たちの部隊が日本本土空襲に取り掛かり、各都市を爆撃予定であること
・欧州では、連合軍がドイツ本土に迫り、戦争終結は時間の問題であること
をかいつまんで説明した。
ハンセンから見て、その紳士が、説明を理解しているかどうかは分からなかったが、熱心にメモを取っていた。
「よろしい。本日の貴殿らの事情聴取はこれまでとする。」
紳士が言い、ハンセンとハミルトンは、牢に戻された。
「本当に異世界何てあったんですかね。未だに信じられませんが。」
牢に戻ってからハミルトンがハンセンに言うと
「あるんだろうさ。この不味い飯が何よりの証拠さ。」
ハンセンが、出されたスープを不味そうに啜ってから言うと
「全くそのとおりですね。」
そう言って、ハミルトンもスープを啜った。
中世的な造りの牢を出て、二人は、事務室のような部屋へ連れて行かれた。
そこで二人は、まず、首飾りのようなものを渡され、首に掛けるよう指示された。
すると、今まで理解できなかった周囲の者の会話が、突然、理解できるようになり、驚いた二人は、思わず顔を見合わせた。
同時に、改めて見る周囲の人々の服装が、合衆国独立の頃の服装のように見えて、奇妙に思えた。
「さて、貴殿らはどこから来て、どこへ向かうつもりだったのか。」
窓際の机に座っていた上品そうな紳士が口を開いた。
「合衆国陸軍中尉シュタイン・ハンセン、第21爆撃集団所属。」
「同じく陸軍軍曹ジョン・ハミルトン。」
二人は、所属と官姓名を述べた。
ジュネーヴ協定によれば、戦時捕虜は、それだけを述べればよかったからである。
「貴殿らの氏名は分かったが、こちらの質問に答えてもらっていないようだ。」
その紳士は、またゆっくりと口を開いた。
「ジュネーヴ協定によれば、戦時捕虜は所属及び官姓名を述べるだけで十分であり、その他の質問に答える義務はないはずである。また、貴殿らは我々に手枷を施したままであるが、このような措置も協定に違反する。」
ハンセン中尉が、凛として答えた。
「ジュネーヴ協定、国際条約かな?」
「然り。」
「存じぬなぁ。少なくとも、わがミズガルズ王国が、そのような条約を締結した、あるいは加盟した事実は、小官の記憶にはない。」
紳士は、悠然として述べた。
「ミズガルズ王国…とはいかなる国か。私の記憶では、そのような国はこの世界に存在しないはずだ。」
ハンセンが憤然として言った。
「正確には、ミズガルズ王国ブリーデヴァンガル島属領となる。貴殿らの事は与り知らぬが、王国も属領も現に存在する。」
その紳士は、一息ついて続けた。
「小官が思うに、貴殿らは二ホン軍と同じ世界から来た御仁かな。」
「クソッ、やっぱり奴らがいたのか。」
ハンセンが毒付く様に言った。
「二ホン軍は、数か月前に、突如として我々の目の前に現れたのだが、どうやら我々とは違う世界から来たとしか思えない。」
「違う世界…異世界…。オーソン・ウェルズの小説じゃあるまいし、そんなことが現実にあるものか。」
「現実に、我々は貴殿の目の前に存在する。」
紳士は、目の前にあった資料にサッと目を通すと
「貴殿らは、二ホン軍がアメリカ又は米軍と呼んでいる軍隊の一員ではないのか。」
と訊いた。
「いかにも、我らはアメリカ合衆国軍隊の構成員で、我が国と日本は、現在、交戦状態にある。」
ハンセンは答えた。
「では、本題に入ろう。貴殿らは、過日、我がブリーデヴァンガル属領首府であるデ・ノーアトゥーンの街に爆弾を投下し、損害を与えた。具体的には、家屋203棟が倒壊又は炎上し、死者153名、負傷者203名が発生したものである。これは、我が属領首府、延いては王国に対する戦争行為であって、看過できないものである。」
厳かに紳士が語り始めると
「ちょっと待ってくれ!ジャップ…日本軍の戦闘機が攻撃して来たんだから、眼下の街が日本の街か日本軍占領地と考えるのは、当たり前じゃないか。それを責められる謂れはないぞ!」
と、ハンセンが反論した。
「それは貴殿らの一方的主張であって、我々からしてみれば、多数の死傷者を発生させられたことは、悲憤に堪えない事実である。」
その紳士は、少しばかり感情を表に出して言った。
「そもそも、無辜の民を一方的に殺戮することは、人の道を外れた行い、外道の所業であると小官は思料するものである。」
「しかし、戦争に人道も外道もないでしょう。」
ハンセンは反論した。
「然らば、我々が貴殿らをいかに処遇しようとも、外道の誹りを受けることはない、ということになろうな。」
紳士は立ち上げると、後方の窓を開けた。
窓の外からは、何か群衆が叫ぶような声が聞こえてきた。
「今、聞こえているのが何の声かお分かりかな?」
その紳士がハンセンに向かって訊いた。
「さあ、分からん。」
ハンセンはぶっきらぼうに答えた。
「あれは、民衆の声である。デ・ノーアトゥーンを破壊し、死傷者を出した張本人、即ち貴殿らの処断を求めるために民衆が集まり、声を上げているのだ。」
紳士は、窓を閉めると自席に戻り続けた。
「ああ、念のため言っておくが、我々が扇動した訳ではないぞ。属領首府が貴殿らを捕らえたことを聞き及んだ民衆が、自発的に集まり、声を上げているのだ。」
しばらく沈黙が支配した。
「それで、貴殿は我らをどうするおつもりか?」
ハンセン中尉が沈黙を破り口を開いた。
「話を元に戻そう。貴殿らはどこから来て、どこへ向かうつもりだったのか。」
ここでハンセンは、日本本土へ向けてテニアン島を飛び立ってからのことを話した。
「なるほど、白い闇の如き霧、であるか。」
そう言うと紳士は、卓上の小箱から煙草を取り出すと、ハンセンとハミルトンに勧めた。
彼は、手枷のまま煙草を一本ずつ取って咥えた二人に火を点けてやってから、自分の煙草にも火を点け、深く吸い込んでから言った。
「我々は、元々この『シガー』という紙巻き煙草は習慣になくてね。パイプで吸っていたのであるが、二ホンの軍人から教わって、便利なものだから取り入れたのだよ。」
それから紳士は、ハンセンに元の世界の情勢を質問した。
少し用心を解いたハンセンは、戦況を中心とする元の世界の情勢について
・太平洋においては、圧倒的に優勢な米軍が硫黄島に上陸したこと、続いて沖縄を攻略後は、日本本土進攻を目指していること、自分たちの部隊が日本本土空襲に取り掛かり、各都市を爆撃予定であること
・欧州では、連合軍がドイツ本土に迫り、戦争終結は時間の問題であること
をかいつまんで説明した。
ハンセンから見て、その紳士が、説明を理解しているかどうかは分からなかったが、熱心にメモを取っていた。
「よろしい。本日の貴殿らの事情聴取はこれまでとする。」
紳士が言い、ハンセンとハミルトンは、牢に戻された。
「本当に異世界何てあったんですかね。未だに信じられませんが。」
牢に戻ってからハミルトンがハンセンに言うと
「あるんだろうさ。この不味い飯が何よりの証拠さ。」
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