日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第151話 せしりあハ戦時捕虜トス

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 ヴァナヘイム兵の死体に向かって祈りを捧げているセシリアを横目に、東野少尉は、部下の兵たちに塹壕陣地の整備を急がせた。

 敵がすぐに丘の再奪取を試みても、取りあえず持ち堪える程度の陣地は造っておかねばならない。

「あのセシリアって嬢ちゃん、『治癒魔術師』って名乗ってましたが、何のことでしょうね。」

 狩野曹長が話し掛けて来た。

「さあ、よく分からんが、『怪我は治せるが死者は蘇らせることはできない。』って言っておったから、衛生兵のようなものじゃあないのかな。」

 東野が応じると狩野は

「はあ、そんなものでありますかね。」

と言って引き下がった。

「おい、嬢ちゃん。気持ちは分かるが、そろそろお祈りを切り上げてくれ。後続部隊が来る頃合いだ。」

 東野が呼び掛けるとセシリアは、これが最後とばかりに一際高く天を仰いだかと思うと

「ありがとうございます。お陰様で兵士の魂を見送ることができました。」

と言って、東野に一礼した。

「いや、礼には及ばん。ところで『治癒魔術師』っていうのは、魔法で怪我人を治す役割の者のことをいうのかね?」

 東野の問いに

「仰るとおりです…えーと…。」
「俺は、帝国陸軍東野少尉だ。」
「では、ヒガシノ様。戦場へ従軍する治癒魔術師の役割は、怪我人の治療です。」
「ほう、医術ではなく、魔術で怪我を治療するのかね。便利なものだな。医者要らずって訳だ。」

 東野の言葉には、多分に皮肉が込められているのを感じ取ったセシリアは

「『治癒魔術』というのは、人間の治癒力を高めて治療をするもので、怪しい術式ではありません。」

 と、少しムキになって反論した。

「人間には、自然と怪我や病気を治そうとする力が備わっていますが、私たち魔術師の術は、これを促進することに尽きるのです。ですから、自然治癒の力が絶えた死者には、施す術がないのです。」
「なるほどね。分かったような分からんような…。まあ、さっきの言葉が分かるようになる魔法があるんだから、怪我が早く治っても不思議はないってことか。」
「ご理解いただけたのなら、幸甚です。」

 東野は、魔術の深淵を理解することは到底叶わないと考え、議論するのを止めた。

「ところでセシリアさん。アンタは死者に祈りを捧げるのも、堂に入ったものだったね。」

 東野が話題を改めて尋ねると

「私たち治癒魔術師は、元々は僧侶だった者がほとんどで、私もかつては僧侶でございました。」

とセシリアは答えた。

「あー、なるほどね。それで丁寧なお祈りだったって訳だ。しかし、それなら、聖職者がさっきのように火の球を飛ばすような魔法を使うのは、ちと感心せんな。」
「申し訳ございません。本来であれば、使うべきではない魔術を、思わず使ってしまいました。僧侶としては、失格でございます。」

 重ねて詫びるセシリアに

「まあいい。今後は…。」

と東野が言い掛けた時、森の方から、エンジン音や履帯の軋む音、樹木を薙ぎ倒すメキメキという音が聞こえて来た。

「おっ、お出でなすったな。」

 森の奥から、砲塔をぐるりと後ろに回した一式中戦車が姿を現した。

 その後ろには、九七式中戦車と装甲兵車、野砲を牽引した牽引車なども続いている。

「!?」

 セシリアは、その車列を見て、腰を抜かさんばかりに驚いている。

「あの、ヒガシノ様。あれは…?」
「ああ、戦車だよ。あれで戦さをするんだ。」

 東野は、軽く応じた。

「センシャ、センシャ…。そう言えば、旅の吟遊詩人が詠っておりました。はるか東国で、鉄のセンシャがゴブリン小鬼どもを踏み拉いた、と。」 

 セシリアが思い出して言うと

「へえ、戦車はそんなに有名になっておるのかね。」

 東野は感心したように言った。

 一式中戦車を先頭とする車列は、丘の下のミスリル鉱山から見上げられないように、丘の頂上からは少し距離を取って停まっている。

「とにかく、あの戦車には俺たちの指揮官が乗っているから、アンタの措置について、判断を仰がなきゃならん。付いて来なさい。」

 東野は、セシリアに手招きをした。

 セシリアを伴って一式中戦車の朝日大尉のところへ赴いた東野は、事の顛末を報告すると、朝日は

「事の経緯は分かった。報告は伝令からも聞いているが、陣地攻略の独断専行は、やむを得ないものと考え不問とする。なお、その…あー…何だ、捕虜の取り扱いについては、貴様に一任する。王都へ連れて行くか、機を見てヴァナヘイム側へ引き渡すかは、状況次第だな。」

と東野に指示した。

「承知しました。」

 東野は敬礼して踵を返すと

「来なさい。」

そう言ってセシリアを天幕まで連れて行き

「さっきも言ったが、アンタは敵軍の一員として行動し、かつ、敵対行動を採った。よって、戦時捕虜としてしばらく拘束することになる。天幕内に留まり、勝手な行動は禁ずる。」

と言い渡した。

 セシリアは泣きそうになっている。

 それでも、言われたとおり、天幕の中に入ろうとした時、東野が

「それは預からせてもらう。」

と言って、セシリアが小脇に抱えていた鞄に手を伸ばした。

 彼女は、今までにない剣幕でこれを拒もうとしたが

「アンタが、その中身の本に書かれた呪文で魔法を使わない、という保証はないからな。それに、改めて言うが、アンタは戦時捕虜なのだ。指示には従ってもらう。」

 東野が毅然として言い渡すと、セシリアは、仕方がないという諦めの表情で鞄を渡した。

「安心せい。時が来れば、必ず還す。」

 東野は、そう言って受け取った鞄を襷掛けにした。

「まあ、嬢ちゃん。そんなに悄気なさんな。ウチの隊長は、ああ見えて苦労人の人情家なんだ。嬢ちゃんのような人間を、絶対悪いようにはしないさ。」

 悄気返っているセシリアを見かねて、見張りを命ぜられた上等兵が言った。

「ありがとう。」

 セシリアは一言だけ言って、天幕の中で膝を抱えて座り込んだ。


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