158 / 163
第158話 野盗騎兵、全滅
しおりを挟む
「九五式軽戦車改の一丁上がりだ!」
朝日大尉は満足した。
これで、防御は格段に向上し、敵の機関銃弾すらプスプスと貫通する情けない装甲とはおさらばで、しかも、重量の増加は僅かであって、軽快さは全く失われていない。
前方機銃発射口や開閉式の点視孔、車体前部上面の変速機点検口扉への追加装甲も、上手に処理されている。
「御影軍曹、どうだ、ミスリル追加装甲が施された気分は?」
上機嫌の朝日大尉に尋ねられても、車長の御影には、今一つピンと来ないらしく
「はあ、まだ実感が湧いて来ないであります。」
と答えただけだった。
御影のリアクションはともかくとして、その日のうちに、5輌ある九五式軽戦車全てについて、装甲の追加を行ってもらった。
第一線での兵器の改造について
「陛下から賜った兵器に、勝手な改造を加えるのは許されない。」
などと言う者もいるが、朝日の部隊に、そのようなことを口にする者はいなかった。
あとは塗装であるが
「根室か樽前山丸の補給物資の中に、塗料があれば良いのだが。」
と、青白いミスリルの光沢を放つ装甲板を見て、朝日は思った。
とりあえず、それはブリーデヴァンガル島に帰ってからのことである。
◆◆◆◆
ミスリル鉱山奪還後、ヴィルタネン准男爵率いるミズガルズ王国軍は、ヴァナヘイム王国軍の再襲来に備え、しばらくの間は、そのまま駐屯することとなった。
朝日大尉以下の日本軍部隊は、王都クラズヘイムを経由して、ブリーデヴァンガル島へ帰還する。
ただし、馬車の数が不足しているため、歩兵と陸戦隊の徒歩部隊の輸送は、2回に分けて行うことにした。
帰還に際して、ヴィルタネンとドワーフのミスリル工房マスターであるカール・スミスから、王都やデ・ノーアトゥーンにも、ドワーフの工房は存在するため、大量のミスリル鉱石とミスリルの圧延板の輸送を委ねられた。
無論、圧延板は、戦車の追加装甲に用いられる予定である。
ミスリルを搭載した自動貨車と馬車を、戦車と軽装甲車、装甲兵車、兵員が乗った馬車が護衛する隊形を組んだが、全部合わせて50台に達する大キャラバンである。
基本は2列、ミスリル搭載車の部分のみ3列として縦隊を組んだ。
王都までは、人が小走りに走る程度の馬車の速度に合わせて、2昼夜は必要となる。
貴重な戦略物資のミスリルを輸送しているため、日本軍の車輛部隊のみで王都まで駆け抜けたいところであったが、ミスリル全てを輸送するのは車輛が足りず、馬車を使用せざるを得ないことから、時間を要することは仕方がなかった。
車列が出発した初日は何事もなく済んだが、2日目の朝、車列が宿営地を出発してすぐのことである。
街道脇の林から、胸甲を身に着けた竜騎兵が30騎ほど現れた。
朝日は、道草無用とばかりに、その場を通り過ぎようとしたが、隊長らしい騎兵が朝日の一式中戦車に近寄り、並走しながら
「我は、ミズガルズ王国騎士ヘルト・ファン・エトホーフトなり。その車列、停止されたい。」
と叫んだ。
朝日は、そのまま無視を続けたが、騎士エトホーフトを名乗ったその騎兵は、さらにしつこく停止を求め、ついにはマスケット短銃を取り出し
ドン
と頭上に向けて発砲した。
発砲した折、右手の裾から、何かの刺青がチラリと見えた。
朝日は
「何のつもりだ!」
と凄んだ。
「とにかく、停まっていただけませんか。」
エトホーフトは、車列の停止に拘る。
「停止なぞせんでも、話はできるだろう。早く済ませてくれ。」
朝日は停止に応じない。
このエトホーフトと名乗った騎士であるが、朝日には、どうにも胡散臭く感じられた。
「では、申し上げる。貴殿らは、ミスリルを輸送中とお見受けするが、ここからは、私たち騎士団が護送いたします。」
エトホーフトの言葉に
「我々の車列に合同するということかね?」
朝日が問うと
「いえ、この後は、我々がミスリルを輸送するということで、皆様はお役御免ということになります。」
エトホーフトは、シレっとして答えた。
車列の周りの騎兵は、いつの間にか4~50騎に増えている。
「誰だ、そんなことを命じた奴は?」
「誰の命令でも関係ない!さっさとミスリルを寄越せ!」
「やれるものか。こっちはミズガルズ国王の命令で動いていたんだ!」
朝日も譲らない。
すると、ついにしびれを切らしたのか、エトホーフトを名乗ったその騎兵が、スラリと抜いた頭上でサーベルを振り回すと、車列の前方に、200騎ほどの騎兵が現れた。
「おとなしくミスリルを渡せば良いものを。後悔させてやる!」
そうエトホーフト吐き捨てると、エトホーフト以下の騎兵たちは、前方の騎兵たちのところへ駆けて行き、一つの塊となった。
ラッパが鳴り、騎兵の列が前進を始める
「ほお。野盗風情が、一丁前に、本物の騎兵気取りか。」
朝日は
「カク、カク、カク、こちらアサ。半円陣を形成しミスリル搭載車輛を守れ。戦車砲斉射用意、目標前方の騎兵群。その後は機銃にて制圧せよ 終ワリ。」
と、無線で各車輌に指示を出し、自らも車輛を移動させながら射撃準備をした。
「打ち方、始め!」
無線を通じた号令で、各戦車が、戦車砲を斉射した。
ドドド―ン
ドドーン
三式中戦車の75㎜砲から九五式軽戦車の37㎜砲まで、各種口径砲が一斉に火を噴く。
3列横隊の相手は、すでに速足から駆け足に移っている。
その前面で、戦車砲弾が一斉に炸裂した。
着弾地点に差し掛かった騎兵は、馬諸共に吹き飛ばされ、前面で砲弾が炸裂した馬は、驚いて立ち上がってしまっている。
この一撃で、騎兵集団は、5~60騎が失われた。
しかし、なおも前進を続けていて、ついには襲歩に達している。
そこへ、各車の車載機関銃の掃射が襲い掛かった。
騎兵たちは、ある者はサーベル、ある者は槍を構え、突進して来るが、車載機関銃の銃弾が騎兵自身にあるいは馬に命中し、次々と打ち据えられて行く。
運良く、戦車の車列まで到達できた騎兵も、戦車砲塔の点視孔からの拳銃の射撃や、後方で待ち構えていた、歩兵の重機関銃や軽機関銃の射撃で斃されて行く。
こうして、10分も経たないうちに、エトホーフト以下の騎兵たちは、全滅した。
朝日大尉は満足した。
これで、防御は格段に向上し、敵の機関銃弾すらプスプスと貫通する情けない装甲とはおさらばで、しかも、重量の増加は僅かであって、軽快さは全く失われていない。
前方機銃発射口や開閉式の点視孔、車体前部上面の変速機点検口扉への追加装甲も、上手に処理されている。
「御影軍曹、どうだ、ミスリル追加装甲が施された気分は?」
上機嫌の朝日大尉に尋ねられても、車長の御影には、今一つピンと来ないらしく
「はあ、まだ実感が湧いて来ないであります。」
と答えただけだった。
御影のリアクションはともかくとして、その日のうちに、5輌ある九五式軽戦車全てについて、装甲の追加を行ってもらった。
第一線での兵器の改造について
「陛下から賜った兵器に、勝手な改造を加えるのは許されない。」
などと言う者もいるが、朝日の部隊に、そのようなことを口にする者はいなかった。
あとは塗装であるが
「根室か樽前山丸の補給物資の中に、塗料があれば良いのだが。」
と、青白いミスリルの光沢を放つ装甲板を見て、朝日は思った。
とりあえず、それはブリーデヴァンガル島に帰ってからのことである。
◆◆◆◆
ミスリル鉱山奪還後、ヴィルタネン准男爵率いるミズガルズ王国軍は、ヴァナヘイム王国軍の再襲来に備え、しばらくの間は、そのまま駐屯することとなった。
朝日大尉以下の日本軍部隊は、王都クラズヘイムを経由して、ブリーデヴァンガル島へ帰還する。
ただし、馬車の数が不足しているため、歩兵と陸戦隊の徒歩部隊の輸送は、2回に分けて行うことにした。
帰還に際して、ヴィルタネンとドワーフのミスリル工房マスターであるカール・スミスから、王都やデ・ノーアトゥーンにも、ドワーフの工房は存在するため、大量のミスリル鉱石とミスリルの圧延板の輸送を委ねられた。
無論、圧延板は、戦車の追加装甲に用いられる予定である。
ミスリルを搭載した自動貨車と馬車を、戦車と軽装甲車、装甲兵車、兵員が乗った馬車が護衛する隊形を組んだが、全部合わせて50台に達する大キャラバンである。
基本は2列、ミスリル搭載車の部分のみ3列として縦隊を組んだ。
王都までは、人が小走りに走る程度の馬車の速度に合わせて、2昼夜は必要となる。
貴重な戦略物資のミスリルを輸送しているため、日本軍の車輛部隊のみで王都まで駆け抜けたいところであったが、ミスリル全てを輸送するのは車輛が足りず、馬車を使用せざるを得ないことから、時間を要することは仕方がなかった。
車列が出発した初日は何事もなく済んだが、2日目の朝、車列が宿営地を出発してすぐのことである。
街道脇の林から、胸甲を身に着けた竜騎兵が30騎ほど現れた。
朝日は、道草無用とばかりに、その場を通り過ぎようとしたが、隊長らしい騎兵が朝日の一式中戦車に近寄り、並走しながら
「我は、ミズガルズ王国騎士ヘルト・ファン・エトホーフトなり。その車列、停止されたい。」
と叫んだ。
朝日は、そのまま無視を続けたが、騎士エトホーフトを名乗ったその騎兵は、さらにしつこく停止を求め、ついにはマスケット短銃を取り出し
ドン
と頭上に向けて発砲した。
発砲した折、右手の裾から、何かの刺青がチラリと見えた。
朝日は
「何のつもりだ!」
と凄んだ。
「とにかく、停まっていただけませんか。」
エトホーフトは、車列の停止に拘る。
「停止なぞせんでも、話はできるだろう。早く済ませてくれ。」
朝日は停止に応じない。
このエトホーフトと名乗った騎士であるが、朝日には、どうにも胡散臭く感じられた。
「では、申し上げる。貴殿らは、ミスリルを輸送中とお見受けするが、ここからは、私たち騎士団が護送いたします。」
エトホーフトの言葉に
「我々の車列に合同するということかね?」
朝日が問うと
「いえ、この後は、我々がミスリルを輸送するということで、皆様はお役御免ということになります。」
エトホーフトは、シレっとして答えた。
車列の周りの騎兵は、いつの間にか4~50騎に増えている。
「誰だ、そんなことを命じた奴は?」
「誰の命令でも関係ない!さっさとミスリルを寄越せ!」
「やれるものか。こっちはミズガルズ国王の命令で動いていたんだ!」
朝日も譲らない。
すると、ついにしびれを切らしたのか、エトホーフトを名乗ったその騎兵が、スラリと抜いた頭上でサーベルを振り回すと、車列の前方に、200騎ほどの騎兵が現れた。
「おとなしくミスリルを渡せば良いものを。後悔させてやる!」
そうエトホーフト吐き捨てると、エトホーフト以下の騎兵たちは、前方の騎兵たちのところへ駆けて行き、一つの塊となった。
ラッパが鳴り、騎兵の列が前進を始める
「ほお。野盗風情が、一丁前に、本物の騎兵気取りか。」
朝日は
「カク、カク、カク、こちらアサ。半円陣を形成しミスリル搭載車輛を守れ。戦車砲斉射用意、目標前方の騎兵群。その後は機銃にて制圧せよ 終ワリ。」
と、無線で各車輌に指示を出し、自らも車輛を移動させながら射撃準備をした。
「打ち方、始め!」
無線を通じた号令で、各戦車が、戦車砲を斉射した。
ドドド―ン
ドドーン
三式中戦車の75㎜砲から九五式軽戦車の37㎜砲まで、各種口径砲が一斉に火を噴く。
3列横隊の相手は、すでに速足から駆け足に移っている。
その前面で、戦車砲弾が一斉に炸裂した。
着弾地点に差し掛かった騎兵は、馬諸共に吹き飛ばされ、前面で砲弾が炸裂した馬は、驚いて立ち上がってしまっている。
この一撃で、騎兵集団は、5~60騎が失われた。
しかし、なおも前進を続けていて、ついには襲歩に達している。
そこへ、各車の車載機関銃の掃射が襲い掛かった。
騎兵たちは、ある者はサーベル、ある者は槍を構え、突進して来るが、車載機関銃の銃弾が騎兵自身にあるいは馬に命中し、次々と打ち据えられて行く。
運良く、戦車の車列まで到達できた騎兵も、戦車砲塔の点視孔からの拳銃の射撃や、後方で待ち構えていた、歩兵の重機関銃や軽機関銃の射撃で斃されて行く。
こうして、10分も経たないうちに、エトホーフト以下の騎兵たちは、全滅した。
7
あなたにおすすめの小説
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる