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第162話 九五式軽戦車、馬と競争する
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騎兵に威嚇され、這う這うの体で逃げながらも、やくざ者の二人連れは
「王国兵の陰に隠れる意気地なしの異国兵ども、自分たちでは何も出来ないくせにいい気になるなよ!」
「悔しかったら、そのヘンテコなブチ斑の鉄の箱で追い付いてみやがれ。ウスノロ兵どもめ!」
二人のやくざ者は、少ない語彙の中から、精一杯、九五式軽戦車の片桐伍長を罵っている。
片桐は
「バカを相手にしても仕方がない。」
とは思ったが、さりとて、バカからバカにされるのも腹が立つ。
彼は、ハッチから身を沈め、37㎜主砲の照準器を覗いて二人連れに狙いを定めようとしたが、街の中で主砲を撃つ訳にも行かないと思い直し、再びハッチから上半身を乗り出して
「戦車前進、前へ!」
と、操縦手に命じた。
戦車が発進すると同時に、片桐は、もう一度、ルシアに手を振った。
ガルルルルル…
エンジン音と白い排気を盛大に振り撒き、片桐車は発進したが、例の二人連れは、どこに隠していたものか、あるいは誰かから、かっぱらったものか、2頭の馬を引っ張り出し、それぞれ跨って走り始めた。
馬は、たてがみと尻尾をなびかせ、全力で駆けてゆく。
片桐車は、その後を全力で追いかけて行く。
九五式軽戦車の最大速度は、日本軍のカタログスペックでは、時速40㎞となっているが、実際には時速45㎞程度は発揮可能で、特に、片桐が属する渡邊小隊の各車は、エンジンのガバナー(過回転防止装置)を外しており、平坦地であれば、時速60㎞以上を出すことができるようになっていた。
ミスリル鉱山でミスリルの追加装甲を施したが、重量の増加は「何㎏」の単位で収まっており、動力性能に影響はない。
二人の乗った馬は、大通りに人どおりが多いにもかかわらず平気で城門へ向かって駆けて行き、城外へ出ようとしている。
これを追いかける片桐車も速度を上げ、城門を抜けるまでの途中、小隊長車と2号車に追い付いてしまったが
「片桐伍長、何があった?」
と渡邊少尉から無線で尋ねられ
「帝国陸軍を罵った者を追尾しております。」
と答え、呆気に取られる小隊長を尻目に、2頭の馬を追って城外へと城門を抜け出た。
やくざ者と違い、片桐車は、街の中を進むときは通行人に気を遣い、速度を抑えていたが、城外へ出れば、何の気兼ねもない。
ガルルル…
キュラキュラ…
前進全速の命を受け、エンジンと履帯の音を響かせ、排気ガスを遠慮なく盛大に吹き出しながら、片桐の九五式軽戦車が、城門から練兵場へ向けて馬を追う。
街の中を遠慮気味に走ったことで、片桐車は馬から少し距離を話されていたが、城門を抜け、全力を出したことで、段々と差を詰めて行った。
駆ける馬2頭の後ろから、戦車が土煙を上げながら迫って行く。
逃げる二人のうち、ルシアと片桐に絡んだ方のやくざ者が後ろを振り返った。
彼にしてみれば、余裕を持って逃げているつもりだったのが、戦車に追い上げられていることに気が付き、急に焦り出したのか、馬に鞭を入れている。
しかし、練兵場の端まで、およそ3㎞ほど走ったところで、馬が急にペースダウンし、ゆっくりと走り出した。
よく調教された馬でも、全力で走ることができるのは、せいぜい2~3㎞くらいなので、二人連れが乗った馬は、疲労してしまったのである。
二人は、必死で鞭を入れて馬を早く走らせようとしているが、肝心の馬が疲労してしまったのでは、如何ともしようがない。
ついに馬は、2頭とも常足となり、片桐車に追い付かれてしまった。
片桐は、戦車の速度を落とさせ、間隔をギリギリに詰めて馬の後を追尾した。
追尾の間、何回かエンジンを盛大に空吹かしして、二人連れを威嚇し、追い詰めて行く。
ここで二人連れは、左右に分かれて逃走を図った。
片桐は、迷わず、自分が体落しを掛けた男の方を追う。
その男は、後ろを振り返りながら、懸命に馬に鞭を入れていたが、馬が動かないと見るや、馬から飛び降り、自分で走り始めた。
彼は、右へ左へと走る方向を変え、何とか逃げ延びようと必死に走っているが、戦車もその度に方向を変えて、追い続けている。
やがて、男は体力が尽き、その場にヘナヘナと腰から崩れ落ちると
「分かった。分かったからもう勘弁してくれ!」
と片桐に懇願した。
「いや、さっきも分かった振りをしながら、我が日本帝国陸軍と戦車を侮辱しただろう。貴様が侮辱した戦車というものがどれほどのものか、貴様の身体で理解させてやる。」
片桐が、更に戦車を前進させようとした時、湿った蹄の音を立てて3騎の騎兵が現れた。
「もうその辺でよろしかろうと存ずるが、如何。」
隊長らしい騎兵が、話し掛けて来た。
追われていたやくざ者は、ホッとしたような顔つきである。
「貴殿らは、何故、口出しをなさるのか。自分らは今、街のゴミ掃除の最中である。」
こんな奴は人間以下のゴミ、と片桐は言い切った。
「この者は、刺青からアルバラード・ファミリーの一員であると見えるが、このファミリーは、王家の遠縁に当たるグスタフソン子爵と繋がりを持つと、もっぱらの噂にて、貴殿もほどほどにするが良かろうと存ずる。」
その騎士は、口髭を撫でながら言った。
「偉そうなご忠告痛み入る。しかし、貴殿には無関係と思われるので、ここは口出し無用に願いたい。」
片桐は、車長ハッチからその騎兵に、皮肉を込めて言い返した。
「王国兵の陰に隠れる意気地なしの異国兵ども、自分たちでは何も出来ないくせにいい気になるなよ!」
「悔しかったら、そのヘンテコなブチ斑の鉄の箱で追い付いてみやがれ。ウスノロ兵どもめ!」
二人のやくざ者は、少ない語彙の中から、精一杯、九五式軽戦車の片桐伍長を罵っている。
片桐は
「バカを相手にしても仕方がない。」
とは思ったが、さりとて、バカからバカにされるのも腹が立つ。
彼は、ハッチから身を沈め、37㎜主砲の照準器を覗いて二人連れに狙いを定めようとしたが、街の中で主砲を撃つ訳にも行かないと思い直し、再びハッチから上半身を乗り出して
「戦車前進、前へ!」
と、操縦手に命じた。
戦車が発進すると同時に、片桐は、もう一度、ルシアに手を振った。
ガルルルルル…
エンジン音と白い排気を盛大に振り撒き、片桐車は発進したが、例の二人連れは、どこに隠していたものか、あるいは誰かから、かっぱらったものか、2頭の馬を引っ張り出し、それぞれ跨って走り始めた。
馬は、たてがみと尻尾をなびかせ、全力で駆けてゆく。
片桐車は、その後を全力で追いかけて行く。
九五式軽戦車の最大速度は、日本軍のカタログスペックでは、時速40㎞となっているが、実際には時速45㎞程度は発揮可能で、特に、片桐が属する渡邊小隊の各車は、エンジンのガバナー(過回転防止装置)を外しており、平坦地であれば、時速60㎞以上を出すことができるようになっていた。
ミスリル鉱山でミスリルの追加装甲を施したが、重量の増加は「何㎏」の単位で収まっており、動力性能に影響はない。
二人の乗った馬は、大通りに人どおりが多いにもかかわらず平気で城門へ向かって駆けて行き、城外へ出ようとしている。
これを追いかける片桐車も速度を上げ、城門を抜けるまでの途中、小隊長車と2号車に追い付いてしまったが
「片桐伍長、何があった?」
と渡邊少尉から無線で尋ねられ
「帝国陸軍を罵った者を追尾しております。」
と答え、呆気に取られる小隊長を尻目に、2頭の馬を追って城外へと城門を抜け出た。
やくざ者と違い、片桐車は、街の中を進むときは通行人に気を遣い、速度を抑えていたが、城外へ出れば、何の気兼ねもない。
ガルルル…
キュラキュラ…
前進全速の命を受け、エンジンと履帯の音を響かせ、排気ガスを遠慮なく盛大に吹き出しながら、片桐の九五式軽戦車が、城門から練兵場へ向けて馬を追う。
街の中を遠慮気味に走ったことで、片桐車は馬から少し距離を話されていたが、城門を抜け、全力を出したことで、段々と差を詰めて行った。
駆ける馬2頭の後ろから、戦車が土煙を上げながら迫って行く。
逃げる二人のうち、ルシアと片桐に絡んだ方のやくざ者が後ろを振り返った。
彼にしてみれば、余裕を持って逃げているつもりだったのが、戦車に追い上げられていることに気が付き、急に焦り出したのか、馬に鞭を入れている。
しかし、練兵場の端まで、およそ3㎞ほど走ったところで、馬が急にペースダウンし、ゆっくりと走り出した。
よく調教された馬でも、全力で走ることができるのは、せいぜい2~3㎞くらいなので、二人連れが乗った馬は、疲労してしまったのである。
二人は、必死で鞭を入れて馬を早く走らせようとしているが、肝心の馬が疲労してしまったのでは、如何ともしようがない。
ついに馬は、2頭とも常足となり、片桐車に追い付かれてしまった。
片桐は、戦車の速度を落とさせ、間隔をギリギリに詰めて馬の後を追尾した。
追尾の間、何回かエンジンを盛大に空吹かしして、二人連れを威嚇し、追い詰めて行く。
ここで二人連れは、左右に分かれて逃走を図った。
片桐は、迷わず、自分が体落しを掛けた男の方を追う。
その男は、後ろを振り返りながら、懸命に馬に鞭を入れていたが、馬が動かないと見るや、馬から飛び降り、自分で走り始めた。
彼は、右へ左へと走る方向を変え、何とか逃げ延びようと必死に走っているが、戦車もその度に方向を変えて、追い続けている。
やがて、男は体力が尽き、その場にヘナヘナと腰から崩れ落ちると
「分かった。分かったからもう勘弁してくれ!」
と片桐に懇願した。
「いや、さっきも分かった振りをしながら、我が日本帝国陸軍と戦車を侮辱しただろう。貴様が侮辱した戦車というものがどれほどのものか、貴様の身体で理解させてやる。」
片桐が、更に戦車を前進させようとした時、湿った蹄の音を立てて3騎の騎兵が現れた。
「もうその辺でよろしかろうと存ずるが、如何。」
隊長らしい騎兵が、話し掛けて来た。
追われていたやくざ者は、ホッとしたような顔つきである。
「貴殿らは、何故、口出しをなさるのか。自分らは今、街のゴミ掃除の最中である。」
こんな奴は人間以下のゴミ、と片桐は言い切った。
「この者は、刺青からアルバラード・ファミリーの一員であると見えるが、このファミリーは、王家の遠縁に当たるグスタフソン子爵と繋がりを持つと、もっぱらの噂にて、貴殿もほどほどにするが良かろうと存ずる。」
その騎士は、口髭を撫でながら言った。
「偉そうなご忠告痛み入る。しかし、貴殿には無関係と思われるので、ここは口出し無用に願いたい。」
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