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第1話 マリアンナ8才
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ここ神聖テルス=ハデス帝国は、この大陸にある全ての王国の始まりの場所。
かつて神はこの地に降り立ち、一人の農夫に知恵と力を授けた。
彼はその知恵と力を周りの人の為に使い、集団の長となった。
彼の子孫が、帝国の皇帝とそれに連なる周辺国の王族たち。
神から与えられた血統は真の王の証、帝国王族の婚姻とは神と王と民との血の契約に他ならない。
始まりの国、神聖テルス=ハデス帝国の帝都 ウォール。
帝都を流れる大河の支流から水を引き込み、高い城壁の周りを更に広い堀で囲んだワッサブルグ城。
その城の奥深く、皇族と数少ない者しか立ち入ることの許されない、秘密の花園。
花咲き乱れる花園に建てられた東屋で、仲睦まじく寄り添い頬が触れそうなほどの近い距離で語らう男女二人。
太陽をそのまま髪色にしたような明るく輝く黄金の髪に、大きなエメラルド色の瞳。
寸分の狂い無く配置された目鼻口。
その美しい造形の顔を紅潮させてにこやかに相手に話しかけて居るのは、帝国王女 オフィーリア。
王女の頬にその高い鼻が触れるのでは無いかというほどの距離に座り、焦げ茶の髪に緑かかった灰色の瞳で王女を見つめている美丈夫は、隣国、帝国と北東部の国境線を接するヘルメス公国の公子アルベルトである。
王女が二言三言と話すのを、頷きながら、目を細め時折白い歯を覗かせた笑顔を向けていた。
二人の回りには、高貴な者に侍るはずの侍女も護衛も見てとれない。
少し離れた場所には居るはずだろうが、未婚の男女間では褒められることではない。
成人を過ぎた婚約者同士であれば、昼間だしギリギリ許されるかどうか、という位には眉を潜められる振るまいである。
「お姉様、ご機嫌麗しゅう。」
そんな二人の前に、白に近い色素の薄い金髪に青い瞳をクリクリとさせた少女が、ドレスのスカートをもってちょこんと膝を折って挨拶をして入って来た。
「ま、マリアンナ!どこから湧いてきたの!」
オフィーリアは咄嗟に眉間に皺を寄せると、あからさまに嫌悪感をのせた眼差しを向けた。
「どこから湧いたなんて失礼ね。ずっと前からあの白バラのオベリスクのところに居たわ。どっちかって言えばわたくしがバラを見ている横を、腕を絡ませ体を寄せ合いながら歩いてお二人がやって来たのだわ。」
そう言って、花園の入口から東屋へと向かうアプローチ上にある白い蔓バラがこれでもかと巻き付いている大きなオベリスクを指差すと、腕を掴むふりをして、モジモジと体を捩り上目使いで目を潤ませてみせた。
「ま、ま。」
「い、いや、それは失礼した。マリアンナ様。」
オフィーリアは年下の妹に自分の物真似をされ、からかわれてるのがわかり、顔を赤らめて言葉を失い、アルベルトは急ぎ立ち上がって無礼を詫びた。
「ご一緒しても?」
「もちろんでございます。」
マリアンナが声をかけると、アルベルトは恭しく頭を下げて了承した。
「な!マリアンナ、どういうつもり?」
オフィーリアがカッとなって淑女にあるまじき強い口調でマリアンナを詰めたが、
「え?オフィー姉様こそ、なぜ侍女も護衛も近くに寄せず、アルベルト様とお二人でこんな所でこそこそ隠れて何をしておいででしたの?」
マリアンナが然も不思議だというように首を傾げて問うてきた。
「こそこそ隠れてなんていないわよ。侍女も護衛も少しあちらで控えているわ。は、花を見ながらお茶をしていただけよ。な、なによ、普通でしょ?」
「マリアンナ様、どうぞこちらへお掛けください。」
オフィーリアが目を泳がせながらそう言うと、アルベルトがオフィーリアの横の席をマリアンナに薦めてきた。
「あら、宜しいの?」
子供らしい笑顔で二人の顔を見渡しながらそう聞けば、
「ええ、もちろんよ。」
「もちろんですとも。」
二人が声を揃えて了承した。
マリアンナが席につくと、どこからともなく侍女がお茶の仕度を始め、三人の前に香り高い紅茶がサーブされ、プチフールをのせた茶菓子の皿が机の真ん中に置かれた。
王女二人が東屋の長ソファーに並んで座り、テーブルを挟んだ個席にアルベルトが座った。
王女たちの後ろに侍女が侍り、東屋の廻りに護衛騎士が二人背を向けて立った。
一応、これがあるべき姿ではある。
なぜ一応かというと、アルベルトは次姉オフィーリアの婚約者ではなく、今、執務室で女帝陛下の補佐として職務に当たっている、長姉エリザヴェータの婚約者なのだから。
本来の婚約者の長姉を労うことなく、許された者しか立ち入れない王城の奥深くにある秘密の花園で、逢瀬を重ねる不貞者二人。
マリアンナはこの二人が大嫌いであった。
それは子供ながらの潔癖さからではない。
私怨である。
今、8才のマリアンナであるが、彼女は3才の時に前世の記憶を思い出した。
いや正しくは前世ではなく、マリアンナは30才まで生きて、処刑され断頭台の露と消えた覚えがある。
その瞬間3才のある時に生き戻ったのである。
冷たい刃が首筋に辺り意識が途切れ魂が体から離れた感覚を覚えた瞬間強い力で魂を引っ張られグルグルと渦の中を回りに回って、気分が悪くて気分が悪くてしょうがないわ、とそう思って目を開けると3才の自分に戻ったのだった。
それから5年。
幼児として振る舞いつつ、なぜあんな最期を迎えなければならなかったのか、かつての自分を思い出し、気になる事柄を思い出し反芻する日々。
そうして漸く気がついたのは、先ずこの不届き者二人の存在が悪いのでは?と思うに至ったのである。
前回はオフィー姉様が一人気ままに過ごしたせいで、それ以外の王女が不幸になったのですもの、今回は責任取って頂きますわ。大体において、姉の婚約者と婚約者の妹との不貞を許すとか、頭にウジ虫一億匹は湧いてますわね。
マリアンナは美しい所作でお茶を飲みながら、人知れず心の奥底でメラメラと復讐の炎を燃やすのだった。
かつて神はこの地に降り立ち、一人の農夫に知恵と力を授けた。
彼はその知恵と力を周りの人の為に使い、集団の長となった。
彼の子孫が、帝国の皇帝とそれに連なる周辺国の王族たち。
神から与えられた血統は真の王の証、帝国王族の婚姻とは神と王と民との血の契約に他ならない。
始まりの国、神聖テルス=ハデス帝国の帝都 ウォール。
帝都を流れる大河の支流から水を引き込み、高い城壁の周りを更に広い堀で囲んだワッサブルグ城。
その城の奥深く、皇族と数少ない者しか立ち入ることの許されない、秘密の花園。
花咲き乱れる花園に建てられた東屋で、仲睦まじく寄り添い頬が触れそうなほどの近い距離で語らう男女二人。
太陽をそのまま髪色にしたような明るく輝く黄金の髪に、大きなエメラルド色の瞳。
寸分の狂い無く配置された目鼻口。
その美しい造形の顔を紅潮させてにこやかに相手に話しかけて居るのは、帝国王女 オフィーリア。
王女の頬にその高い鼻が触れるのでは無いかというほどの距離に座り、焦げ茶の髪に緑かかった灰色の瞳で王女を見つめている美丈夫は、隣国、帝国と北東部の国境線を接するヘルメス公国の公子アルベルトである。
王女が二言三言と話すのを、頷きながら、目を細め時折白い歯を覗かせた笑顔を向けていた。
二人の回りには、高貴な者に侍るはずの侍女も護衛も見てとれない。
少し離れた場所には居るはずだろうが、未婚の男女間では褒められることではない。
成人を過ぎた婚約者同士であれば、昼間だしギリギリ許されるかどうか、という位には眉を潜められる振るまいである。
「お姉様、ご機嫌麗しゅう。」
そんな二人の前に、白に近い色素の薄い金髪に青い瞳をクリクリとさせた少女が、ドレスのスカートをもってちょこんと膝を折って挨拶をして入って来た。
「ま、マリアンナ!どこから湧いてきたの!」
オフィーリアは咄嗟に眉間に皺を寄せると、あからさまに嫌悪感をのせた眼差しを向けた。
「どこから湧いたなんて失礼ね。ずっと前からあの白バラのオベリスクのところに居たわ。どっちかって言えばわたくしがバラを見ている横を、腕を絡ませ体を寄せ合いながら歩いてお二人がやって来たのだわ。」
そう言って、花園の入口から東屋へと向かうアプローチ上にある白い蔓バラがこれでもかと巻き付いている大きなオベリスクを指差すと、腕を掴むふりをして、モジモジと体を捩り上目使いで目を潤ませてみせた。
「ま、ま。」
「い、いや、それは失礼した。マリアンナ様。」
オフィーリアは年下の妹に自分の物真似をされ、からかわれてるのがわかり、顔を赤らめて言葉を失い、アルベルトは急ぎ立ち上がって無礼を詫びた。
「ご一緒しても?」
「もちろんでございます。」
マリアンナが声をかけると、アルベルトは恭しく頭を下げて了承した。
「な!マリアンナ、どういうつもり?」
オフィーリアがカッとなって淑女にあるまじき強い口調でマリアンナを詰めたが、
「え?オフィー姉様こそ、なぜ侍女も護衛も近くに寄せず、アルベルト様とお二人でこんな所でこそこそ隠れて何をしておいででしたの?」
マリアンナが然も不思議だというように首を傾げて問うてきた。
「こそこそ隠れてなんていないわよ。侍女も護衛も少しあちらで控えているわ。は、花を見ながらお茶をしていただけよ。な、なによ、普通でしょ?」
「マリアンナ様、どうぞこちらへお掛けください。」
オフィーリアが目を泳がせながらそう言うと、アルベルトがオフィーリアの横の席をマリアンナに薦めてきた。
「あら、宜しいの?」
子供らしい笑顔で二人の顔を見渡しながらそう聞けば、
「ええ、もちろんよ。」
「もちろんですとも。」
二人が声を揃えて了承した。
マリアンナが席につくと、どこからともなく侍女がお茶の仕度を始め、三人の前に香り高い紅茶がサーブされ、プチフールをのせた茶菓子の皿が机の真ん中に置かれた。
王女二人が東屋の長ソファーに並んで座り、テーブルを挟んだ個席にアルベルトが座った。
王女たちの後ろに侍女が侍り、東屋の廻りに護衛騎士が二人背を向けて立った。
一応、これがあるべき姿ではある。
なぜ一応かというと、アルベルトは次姉オフィーリアの婚約者ではなく、今、執務室で女帝陛下の補佐として職務に当たっている、長姉エリザヴェータの婚約者なのだから。
本来の婚約者の長姉を労うことなく、許された者しか立ち入れない王城の奥深くにある秘密の花園で、逢瀬を重ねる不貞者二人。
マリアンナはこの二人が大嫌いであった。
それは子供ながらの潔癖さからではない。
私怨である。
今、8才のマリアンナであるが、彼女は3才の時に前世の記憶を思い出した。
いや正しくは前世ではなく、マリアンナは30才まで生きて、処刑され断頭台の露と消えた覚えがある。
その瞬間3才のある時に生き戻ったのである。
冷たい刃が首筋に辺り意識が途切れ魂が体から離れた感覚を覚えた瞬間強い力で魂を引っ張られグルグルと渦の中を回りに回って、気分が悪くて気分が悪くてしょうがないわ、とそう思って目を開けると3才の自分に戻ったのだった。
それから5年。
幼児として振る舞いつつ、なぜあんな最期を迎えなければならなかったのか、かつての自分を思い出し、気になる事柄を思い出し反芻する日々。
そうして漸く気がついたのは、先ずこの不届き者二人の存在が悪いのでは?と思うに至ったのである。
前回はオフィー姉様が一人気ままに過ごしたせいで、それ以外の王女が不幸になったのですもの、今回は責任取って頂きますわ。大体において、姉の婚約者と婚約者の妹との不貞を許すとか、頭にウジ虫一億匹は湧いてますわね。
マリアンナは美しい所作でお茶を飲みながら、人知れず心の奥底でメラメラと復讐の炎を燃やすのだった。
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